130話 和製メープルシロップ、遥かに遠し
ども、坊丸です。
菜の花の回りを飛ぶ蜂から、養蜂とか製油とか色々考えたんですが、すぐには結果がでないと言うありさま。
世の中、そんなもんですか。そうですか。そうですよね。
季節や時間経過をすっ飛ばして、いきなり最高の結果がでるのは、「なろう小説」だけですもんね。
某小野で不由美な先生の某「十二くらいの国の記」なんか、もうこれでもかってくらいに二段三段不幸になりますからね。それに比べたら、すぐに結果が出ないなんて、不幸のうちに入りませんよね。
そんなわけで、何も収穫がなかったかと言うと、そんなわけでもなく、文荷斎さんの意外とスパルタ式の乗馬の練習で、馬に乗れるようになりました。やった。
なんていうか、吉田次兵衛さんって教え方優しかったんだと思う次第でしたよ。
いや、だって、馬に乗れるようにならないと帰宅できない雰囲気だったからね。
養蜂は福島さんの巣箱の完成と巣別れの時期待ちだし、菜の花からの製油は加藤さんの圧搾機の完成と菜の花の種の成熟待ちだから、すぐさま何か出来ることは無し。
仕方がないので、イタヤカエデって何処に生えてるのか政秀寺の虎哉禅師に聞きに行くことにしました。
文荷斎さんと一緒に騎馬で。当然、一人で馬に乗ってますよ。文荷斎さんが伴走して、乗馬について御指導頂けます。
いやぁ~、自分で馬に乗って移動出来るのって素晴らしいですね。でも、尻と内腿が痛いっす。
懐にはパンケーキを二枚ほどお土産に持ってきたけど、つぶれてないかしら。
そんな不安を抱えつつ、政秀寺到着。文荷斎さんの隣に馬に乗って自分が現れたので、寺男の人が少し驚いた顔をしてました。フッフッフ。男子三日会わざれば、刮目して見よってやつですな。
ただし、山門のところに馬を二匹分繋ぐ準備をするために一度、奥の方に戻ってしまったので、少し待つはめになりましたが。
無事、馬を繋ぐと、虎哉禅師に面会です。
「おや、坊丸殿、中村殿。10日ほどすれば、柴田殿の屋敷にて講義の予定もあるに、わざわざおこしとは。本日は如何なる用向きか?」
「博学なる虎哉禅師に、教えを請いたく参上仕りました。あ、こちら、伯父上からいただいた砂糖とうどん粉、玉子で作った菓子にござります。ご賞味いただくよう土産として持参いたしました」
「おやおや、砂糖を使った菓子ですと。これは貴重なものを。これ、誰かあるか?坊丸様より土産をいただいたのだ」
虎哉禅師が、庫裡の方に声をかけると、以前に沢彦漬けの一件の時に会った宗尋さんがやってきました。
「おう、宗尋殿。こちらが土産の菓子じゃ。一枚は沢彦禅師をはじめ皆にも賞味いただくとして、一枚はそのまま坊丸殿と一緒に食したい。挽き茶とともに適当に切って出してくれるか」
「かしこまりました」
見たこともない菓子を見て、宗尋さんが一瞬困ったような顔になりましたが、すぐに表情を消し、パンケーキを抱えて退出。
文荷斎さんは自分も相伴できると聞いて、隣で少しうれしそうな雰囲気を出しております。
「で、教えを請いたいとは何事であるかな?」
「はっ、禅師は『イタヤカエデ』なる楓の仲間をご存知でしょうか?尾張や美濃には生えておりますでしょうか?」
「イタヤカエデですか、名前は存じております。甲斐の快川禅師のもとで一時ご一緒した大有康甫殿から聞き及びましたな。大有禅師が申しておったことでは、冬場に幹に傷をつけると樹液が凍って甘いつららができるとか。面白い話だと思い、甲斐の山にも無いのか聞いてみましたが、大有禅師のご実家のある出羽の国でしか見たことがないと申しておりましたな。大有禅師からイタヤカエデの特徴をお聞きしましたが、甲斐、南信濃、美濃、それに尾張ではそれらしい樹木は見ませんでしたな」
お、やっぱりイタヤカエデからは甘い樹液が取れるのか。でも、出羽の国でしか見てないってことは、山形以北にしか生えないのかも。てことは、イタヤカエデ産のメープルシロップはなかなか手に入らなそうだな…。
尾張から出羽まで勢力拡大するには、武田家や上杉家を倒すか配下にするかしないと無理だしね…。信長伯父さんには本能寺の変を回避して、秀吉並みに天下統一してもらわないとな、メイプルシロップのために。
「そうですか、イタヤカエデは尾張近辺には無し、と。次になんですが、蜂蜜を取るのに蜂を巣ごと育てるのは可能だと思いますか?」
「蜂蜜のために蜂の巣ごと育てるですと!坊丸殿は面白いことを考えられる。蜂は初夏の頃、新しい巣を求めて分かれていくことがあるのは、知っております。その分かれる蜂たちをうまく誘導してねらった場所に巣を作らせることができれば、可能やも知れませぬ。ただ、蜜蜂は一度使われたことのある巣を好んで使うと聞いたことがありますので、まっさらな場所、今まで来たことがないところに来させるのは至難の業では?」
「そうですか…」
なんか、虎哉禅師に至難の業とか言われると、もう無理な気がしてきた。
やっぱり無理なのかなぁ、養蜂。
「恐れながら。虎哉禅師と坊丸様のお話しを聞くに、蜂を住まわせる巣箱が新しいと蜂が来ないという様子。ならば、蜜蜂の巣が取れた時にでる欠片でも仕込んでおけばよいのでは?」
お、文荷斎さん、面白い意見を言うねぇ。
石田村や周囲で蜜蜂の巣が取れた時は、巣の一部でももらって、福島さんが作ってくれるはずの巣箱に蜂の巣の欠片入れておいたり、蜜蝋を塗り込んだりしてみようか。
いろんな花の蜜が取りやすい環境と蜜蝋を使っての似非中古物件化を試して、養蜂成功の可能性を上げていこう。
「失礼します。虎哉禅師、坊丸様、中村様。坊丸様よりいただいた菓子と挽き茶をお持ちいたしました」
お、ちょうど一服したかったところだよ。流石のタイミングだね、宗尋さん。
大有康甫は、伊達晴宗の弟さん。伊達輝宗の叔父さん、伊達政宗の大叔父さん。
伊達五山の一つ、東昌寺住職。虎哉宗乙と親交があり、虎哉禅師が政宗の師父になるきっかけになった人。




