116話 琥珀糖完成です、よ。
ども、坊丸です。
麦芽水飴入り寒天ととある事情により柚子柚子しい麦芽水飴入り寒天を作りました。
主にお千ちゃんの労働力によって。
特に柚子柚子しい麦芽水飴入り寒天は、完全にお千ちゃんのドジッ娘力によって作り上げられた逸品です。まだ食べてないので、味はわかりませんが。
干し網の中に、水飴入り寒天が入った漆塗りの一合枡数個を入れて、一月の夜の冷気に一晩当てます。
流石に、今回は自分達に与えられた部屋からすぐの目の届くところに干しました。
弟たち二人があれはなんだと聞いてきますが、伯父上からご下命に関連する大切なものだと説明。
甘いお菓子だななんて言ったら、信長伯父さんに検分してもらったり、山科卿に献上したりする前になくなってしまいますからね。
翌朝、起きてすぐ、いつもの柴田の親父殿の鍛錬前に干し網の中を確認です。
漆塗りの枡のそこで、水飴入り寒天が固まっています。指で押すとプルンとした弾力で、思わず何度もツンツンしたくなる感じ。
しかし、そのまま放置して、誰かに食べられてしまっては大変なので、柴田の親父殿との鍛錬中はこれが大事なものだとわかっているお滝さんに預けることにしました。
で、朝の鍛錬と朝餉が終わったら、次兵衛さんの手習いをブッチぎって、台所に直行です。
「お、坊丸様、寒天はそこだよ。まだ洗い物があるから、先にやっといておくれよ。お千、こっちはいいから坊丸様の手伝いをしな」
「は~い」
お滝さんの隣で一緒に洗い物をしていたお千ちゃんが、手をふきながら、こっちに向かってきました。
「坊丸様、今日は何をするんですか?」
「まずは、枡から寒天を出さないとね」
皿の上で、竹串を使って寒天を枡から一個外してみせると、お千ちゃんも同じように寒天を出してくれます。全部で六個。柚子入りと柚子なしが半々です。
二人でやると、あっという間ですね。
皿の上に出した、水飴入り寒天を手に乗せてお千ちゃんがいろいろな角度から見ていますよ。
「へぇ、綺麗。ところてんよりもなんか透明で綺麗ですね、坊丸様」
「そうだねぇ。そのために、数日ところてんを寒さに晒して干してたからね」
すると、後ろからお滝さんの声が。
「へぇ、そうだったのかい。確かに、ところてんに比べると、濁りが少ないね。水飴だけの方はほんのり茶色だし、柚子入りの方はほんのり黄色にところどころに柚子皮が浮いてるように見えるのが綺麗だね」
「柚子皮入りも綺麗ですよね、お滝さん」
って、自分のミスで柚子皮入りができたのに、まるで自分が工夫したからできたかのようにいうのはやめましょうね、お千ちゃん。
「しかし、正直のところ、ところてんを作る時に甘味も入れて固めちまえばいいじゃないかと思ってたよ。わざわざ二度手間みたいなことするもんだ、ってね。これだけ透明で綺麗にできるなら手間をかける意味があるってもんだぁね」
「それだけじゃないんですよ、お滝さん。手に持って、香りを嗅いでみてください」
自分の言葉を受けて、手に取ってみるお滝さん。お千ちゃんは手に持った水飴入り寒天に鼻を近づけます。
「あ、海藻臭くない」
「本当だね、水飴のすこし香ばしいような甘い香りと柚子のさわやかな香りしかしないね。ところてんと違って、海藻らしい匂いがないのが不思議だね」
ね、すごいでしょ。原理は知らんけど。
枡から外した寒天たちは、三人で小さいサイコロ状にしてみたり、平行四辺形ぽくしたり、手でちぎってみたりしました。
琥珀糖ってランダムな形っぽいイメージがあったので、手でちぎっていたんですが、お千ちゃんとお滝さんには不評でした。なので、二人の意見を採用して、サイコロ状と平行四辺形ぽいやつもつくってみました。
「うまいねぇ」「甘くてプルンとしてて、最高ですよ坊丸様」
お滝さんとお千ちゃんには各々の味一個ずつを食べてもらいましたが、めっちゃ好評。
よし、京の都でもいける。きっと行ける。
「で、この寒天の菓子はなんていうんだい?」
「琥珀糖、ですかね…」
「ですかねぇ…、って坊丸様が作ったんだろ」
「琥珀糖、良い名前です、坊丸様」
二人が名前にも賛意を示してくれたんで、予定通りネーミングは『琥珀糖』でお願いします。
麦芽水飴の焦げ茶色がうっすら移った寒天は琥珀って感じだしね。
そして、自分のあずかり知らぬところで、柚子入りの方は二人が『柚子琥珀』って名前が決定してました。
柚子入り琥珀糖、略して『柚子琥珀』だそうです。じゃ、柚子入りの方は、それを採用でいいです。
「よかったね、坊丸様。これで織田の殿様のご下命を果たしたね。あとは、清州のお城に持っていくだけだ」
いや~、ありがとうございます、お滝さん。お千ちゃんも手伝ってくれてありがとう。
でも、まだ実は完成じゃないんですよ。
この状態から、すこし乾燥させて、外はシャリっと中はムニュっとさせて完成ですからね。
二~三日乾燥させたら完成です。
あとは、信長伯父さんに見てもらって、合格が出ること期待です。ま、大丈夫でしょううけどね。
で、乾燥に二日、伯父上に連絡を入れて面会の都合がつくのに三日。
そんなこんなで意外と日数がかかってしまい、締め切りぎりぎりの日数に。
柴田の親父殿と清須城に登城して信長伯父さんに三種の練り飴と二種の琥珀糖をプレゼンしました。
ま、結論から言うと、二種の琥珀糖のみ採用。
信長伯父さんが予想よりもいいものが出来たのでお褒めに預かりました。
ご褒美何が良いって感じで信長伯父さんに希望を聞かれたので、「砂糖!」って即答しました。
上洛するんだし、火薬をたくさん手に入れるために南蛮貿易の手配するって話ですからね、
砂糖も手に入れられるんじゃないでしょうか?
ちなみに、「砂糖!」って即答したら、信長伯父さんに苦笑いされました。
上洛しても手に入れられるかわからないから確約できないって言われたけど、その時は尾張に戻った後に違うお願いを一つ聞いてくれるみたいです。
砂糖が一番だけど、手に入らなかった時の希望も考えとかなきゃね。




