114話 寒天て、ところてんを寒晒ししたものなんですよ?
ども、坊丸です。
本日は、練り飴を作ったり、虎哉禅師の講義を聞いたりして過ごしてます。
そして、お千ちゃんのうっかりで、虎哉禅師と一緒に冬場にところてんを食べる羽目に。
やれやれ、そんなわけで講義が終了。虎哉禅師をお見送りした後、台所に戻ります。
「お千ちゃん、お疲れさま!虎哉禅師は、冬場のところてん、美味しいって言って食べてたよ!」
「よかったぁ、本当に良かったぁ。冬場にところてん出すなんて!って感じでお滝さんやお妙さんに呆れられたり、怒られると思ってましたよ、坊丸様」
「ふぅぅん、冬場にところてんなんて、何故だろうと思って虎哉禅師のもとに運びましたが、お千の仕業でしたか」
あ、自分の後ろにいつの間にか、お妙さんが立っておられる。振り返りはしませんが、きっと恐ろしい形相になっているに違いない。
「あ、お妙姐さん、これにはいろいろ理由があってですね。ね、ね、坊丸様」
お千ちゃん、焦ってこっちをみてくるのは仕方ありませんが、巻き込まないでいただきたい。
「まぁ、今回は、虎哉禅師が美味いと言ってましたし、何やら思案したあと、そのことで坊丸様に講義の種にしていた様子ですから、叱りはしませんが、次からは気をつけなさいね」
と言って、お妙さんの気配が背中から遠ざかります。
「はぁ~い」
と、お千ちゃんと一緒になぜか答えてしまいましたよ。
「で、お千ちゃん、なんで冬場にところてんなんか持ってたんです?」
「それはですねぇ。魚屋の三郎さんと、なんというか、仲良くさせてもらっているんですけどぉ。その三郎さんがね、ところてんが大好きで一年中食べるんですよ。ほら、三郎さんて、魚屋さんなうえに、親戚に網元の人とかいるじゃないですか。だから、伊勢の方でとれる天草を乾燥させて、いつでもところてんを食べられるように保存してるんですよ。で、時々ぃ、ところてんをもらうんですよぉ」
うん、少し惚気が入ってるけど、事情は分かった。理解した。
「じゃあ、三郎さんに頼めば、冬場でもところてんって、手に入ります?」
「そうですね、頼めば、持ってきてくれると思いますよ」
よし、OK。それ、購入。
「先程、虎哉禅師と一緒にところてんを食べながら、このところてんをお菓子作りに役立てられないかなぁ、なんて思いまして。三郎さんがよかったら、ところてんを分けてもらえないか、聞いてもらってもいいですか?」
「坊丸様の頼みですしね、聞いてみますよ」
「宜しくお願いします!」
よし、ところてんゲット。あとは、この冬場の寒気に晒して、寒天に変えてみるぞと。
「ところで、坊丸様、きな粉の練り飴、胡麻の練り飴に続いて、柚子の練り飴もできましたよ!今日はずっと練り上げてたから、腕が疲れちゃいました。で、ですねぇ。頑張ったお千にこの三種類を少しくらい分けてくれてもいいかなぁ…って、思ったりしません?坊丸様?」
なんか色々言ってますが、つまりは自分で作った練り飴、試食したいんですね、お千ちゃん?
お、しかも、すでに千歳飴みたいな細長い円柱状になっている。ほぼ完成形じゃん。
それらの飴を一センチくらいの長さに割って、三種類をお千ちゃんの手に載せます。
「どうぞ、お千ちゃん。今日は、お千ちゃんのお陰できな粉、胡麻、柚子の飴ができました!ありがとう!」
「へへっ、お千、頑張りましたからね。ご褒美もらってもバチは当たりませんよね。いただきます!どれから食べようかなぁ?」
きな粉の色が生きた黄色から黄土色の飴、黒ゴマの色が生きた黒っぽい飴、柚子の皮が所々に散っている黄色味を帯びた透明感のある飴。
自分は柚子の飴から、お千ちゃんは胡麻の飴から口にいれます。
うん、柑橘系の爽やかな酸味と甘味、蜂蜜レモンの飴を思い出します。
お千ちゃんも美味しそうで何より。
そこに、すこし離れていたところで夕餉の準備をしていたお滝さん登場です。
「お、うまそうな飴だね。一つもらうよ」
と言って、きな粉の練り飴を口にしました。
「うん、きな粉の香ばしさとうまみがあって、いい感じだね。でもさ、坊丸様、所詮は飴だよ。京の都の御貴族様の手土産には弱いんじゃないかい?」
「ははっ、お滝さんもやっぱりそう思います?」
「思うねぇ。まぁ、飴の味を工夫しても、所詮は飴さぁね」
で・す・よ・ねぇ~。
ええ、作っている途中から、自分も薄々気がついていました。気が付いていましたとも。
ま、これは保険に取っておいて、三郎さんの持ってくるところてんから寒天を作った上で、何かお菓子を作りたいと思っています。
「ど、どうしましょう?坊丸様?こんなに美味しいのに、ダメ、ですかね。わたし、頑張って練ったのに」
「お千ちゃんと一緒に作ったこれはこれで美味しいから、手土産の一つとして伯父上に提案しますよ。でも、もっと美味しくて手土産になりそうなお菓子を作らないと駄目ですね。手伝ってくれます?お千ちゃん?」
「わたしにも一口食べさせてもらえるんなら、このお千、坊丸様のお手伝い、頑張っちゃいますよぉ!」
「じゃ、この後、三郎さんにところてんを柴田の屋敷に持ってくるように言ってください」
「え、さっきの冬場にところてんの話、本気だったんですね。でもところてんで日持ちして美味しいお菓子なんかできるのかなぁ?」
と小首をかしげるお千ちゃん。すこし、可愛い。
ふふふ、坊丸の寒天づくり、はっじまるよぉ~!




