110話 信長、上洛の準備 表
ども、坊丸です。
新年の儀に清須城に呼ばれたせいで、重臣の方々や連枝衆から冷たい視線や嫌味を浴びせられる羽目になったり、奇妙丸様の退席のお供をする羽目になったり、色々あった坊丸です。
ま、自分の立場的に、信長伯父さんの上洛も岩倉城攻めも直接には関係なさそうので、今年は農業改革の続きで石田村でなにか名産作れないかなぁ。
あの天使級10589号のやつに教えてもらった通り、桶狭間の戦いは自分の年齢で数えで6歳、満で5歳のころだから、桶狭間、来年、永禄3年のはず。なので、今年中に雨の中でも対応できるよう火縄銃の改良できないかなぁ…。
なんて、考えていたこともありました。
新年の儀の数日後、清須城から帰ってきた柴田の親父殿に呼ばれたので、柴田の親父殿の私室に行きました。
「坊丸にございます。親父殿がお呼びと聞きましたので、まかり越しました」
「おう、坊丸。入れ」
その言葉を受けて、親父殿の正面に着座しました。
こんな風に呼ばれるなんて、何かやったかなぁ?新年の儀で問題行動があったなら、もう怒られてるはずだし…。
「本日、信長様よりご下命があった。上洛について詳細を命じる場に、坊丸、お前を連れてくるように、とのことだ」
「え?柴田の親父殿は、岩倉城攻めの大将格ですよね。上洛には参加しないはずでは?」
「そうだ。そのことは、信長様に確認した。つまり、今回は坊丸、預かりの身のお主を参加させるのに、その預かり親である儂が連れて来い、と言うことじゃろう」
「ご下命ですから、行かねばならない、のですよね」
なんだろう、このそこはかとない不安感。嫌な予感しかしねぇんですが。
「断ることは、できまいな。それに、『助けていただいた命、信長様のために使う』のであろう?」
すこし、ニヤッとした感じで微笑みながらそう言う、柴田の親父殿。
むぐぅ。
新年の儀で忠誠を誓うときに使った言葉を、こんなところで引き合いに出すなんて、大人ってずるい。
ぐうの音も出ないとはこのことだ。
って、むぐぅ、って唸ってしまいましたから、実際にはぐうの音、出てますが。
「それは、自分が言った新年の儀の忠誠の言葉、ですよね」
「そうだ。それに、奇妙丸様に『未来永劫、忠誠を誓う』のだろう?」
そんなにニヤニヤしながら、顎髭をさすらなくて良いですよ、柴田の親父殿。
自分の口から出た言葉は、戻らないですからね。
わかりました。あきらめますよ。はぁ~。
「わかりました。伯父上のご下命ですので、上洛の詳細を命じる場に参上いたします。でも、柴田の親父殿が岩倉城攻めに参加するのであれば、それがしだけ、上洛のお供ってことはないですよね?」
「それは、無いであろうな。それ故に、何か無理難題でも吹っ掛けられるのでは、と危惧して居るところじゃ」
坊丸は、いままでも無理難題と思われる課題を信長様に課されるたびに、予想以上の成果をだしてしまっておるからな…、と心の中で柴田勝家は思っていたが、坊丸の前ではあえて言わなないことにした。
「ちなみに、親父殿、それがしの新年の儀の忠誠の言葉、ダメなかんじでしたか?」
「ふっ、そんなことを気にしていたか。信長様への言葉は、ほぼ合格じゃと思うぞ。奇妙丸様に『未来永劫』などと言ったときは、大袈裟すぎて少し滑稽な感じもしたがな。く、くく」
柴田の親父殿、思い出し笑いはやめてください。自分でも、帰宅後に思い出して恥ずかしくなったんだから。
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そして、数日後。
小姓の岩室長門殿に先導されて、柴田の親父殿と一緒に清須城の大広間にまたやってきました。
数日前に新年の儀で呼ばれた時と違い、今回は大広間にそれほど人数はいません。
上洛のお供として名前が挙がった、丹羽長秀殿、林秀貞殿、佐久間盛次殿、金森長近殿、蜂屋頼隆殿などが既に着座しています。
自分たちよりも後に入ってきたのは、信長伯父さんの乳兄弟の池田恒興殿と太田牛一殿くらいです。
あ、文官の村井貞勝殿は先に座ってましたね、たしか。
我々が、大広間に入っていったときは、先に着座している一同から、なんでこの二人が来たのか?というような視線を受けました。
受けましたが、新年の儀で受けた連枝衆や佐久間信盛殿からの視線や嫌味ほどではないので、気にしません。柴田の親父殿は少し居心地が悪そうですが。
そうこうするうちに、信長伯父さんが、上座に入場&着座。
「一同、大儀。早速だが、上洛についての仔細につき命じるため、関連する者を本日呼び集めた」
上座に座ると、すぐに用件を切り出す信長伯父さん。そのせっかちさ、う~ん、いつもの織田信長風味。
「さて、今回の上洛だが、表の目的は、将軍様への寄進とご機嫌伺だ。それと可能であれば、今、畿内を実際に支配している三好長慶殿に会えれば、と思っている。ついては、佐久間盛次、村井貞勝の両名には、幕府の奉公衆や奉行、三好家のものどもなどに連絡をとって、寄進や面会の手配をいたせ。金森長近、蜂屋頼隆は美濃や近江にある伝手を使い、京までの道中につき手配をいたせ。良いな」
「「ははぁっ」」
名前を呼ばれた面々が、平伏しています。
なんだろう、この内容なら、自分、呼ばれなくても良かった感じだよね。
でも、信長伯父さんが、さっき、『表の目的は』って言ったのが引っかかる。ものすごく引っかかる。
だって、今回の上洛は表の目的以外に、裏の目的があるってことでしょ?




