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109話 永禄二年 新年の儀 中座

ども、坊丸です。

清須城で新年の挨拶に参加中です。


とりあえず、柴田の親父殿とともに信長伯父さんと奇妙丸様に挨拶をしました。

謀反人織田信行の息子である自分こと、津田坊丸が織田家嫡男のお披露目で忠誠を誓う姿を見せるためのパフォーマンスということで呼ばれたんじゃないかなぁと思います。


柴田の親父殿のついでに呼ばれたので、比較的早めに挨拶を済ませることができました。

後は、織田家家臣団の皆さんの挨拶の様子を座って見ていれば、OKのはず。


重臣クラスの最後は、林秀貞殿でした。

その後に、中堅クラスの丹羽長秀殿が呼ばれるんだろうなと思っていたら、なんと連枝衆筆頭、一族の長老格である織田敏秀が呼ばれました。


あ、重臣の後は連枝衆なんだ。

ん?待てよ?連枝衆筆頭の織田敏秀殿よりも、自分のほうが先に挨拶しちまったけど、いいのか?

いつの時代も、こういう順番て、ものすごく大事なんだと思うんだけど。


でも、自分がこの順番で呼んでほしいって言ったわけじゃないからね。

信長伯父さんの指示のもと、小姓の長谷川橋介殿が柴田の親父殿と一緒に呼んだんだからね。

何となく、信広伯父さんや信包叔父さんあたりから強い視線を感じるけど、怖くてそちら側を見ることはできません。ハハ。


席次の時もそうだったんだけど、挨拶の順番でも悪目立ちしまくって、まさに針の筵ですよ…。ほんと、勘弁してくださいよぉ、信長伯父さん…。


連枝衆の方々が、挨拶した後に自分の席に着座する前、こっちをチラッと見てくるのが、本当につらい。

早く、連枝衆による新年の挨拶が終わってくれ…。


連枝衆の最後に呼ばれた織田信成殿が挨拶を終え着座したので、連枝衆の方々がわざわざこっちを見てくるのが終わっただけでも、ホッとしましたよ。


その後は、中堅の部将クラスの方々。丹羽長秀殿から、順次呼ばれて行きます。


最初は、この人は「信長○野望」で名前見たことあるぞ、とか興味を持ってみていられましたが、だんだん知らない人が増えてきて、飽きてきちゃいました。


あ、部将クラスの方々の最後、木下秀吉って名前が呼ばれましたよ。やっぱり、あの猿顔で愛想よさげな人は後の豊臣秀吉で間違いないようです。

奇妙丸様に真面目な挨拶をした後、猿のモノマネ入れてたしね。印象に残る人だなぁ。


「皆の者、奇妙丸がだいぶ疲れてきた様子。本来なら、全員が奇妙丸に挨拶を行ってもらいたいところではあるが、奇妙丸への挨拶は、本日は此処まで、とする。母衣衆、馬廻衆、同朋衆など残りのものは、後日、別に機会を設ける故、許せ」


すこしざわつく家臣団。

しかし、重臣筆頭の佐久間盛重殿が大声で「承りましてございます」と言って、平伏したことで、家臣団のざわつく声は消えました。


さすが、重臣筆頭、こういうやり取りは阿吽の呼吸ですね。

奇妙丸様もすこしお疲れの様子。幼子が、長い時間、おじさんたちの挨拶を受けつづるんですからね、そりゃあ、大変だと思うよ。


「では、奇妙、挨拶を受けるのはここまでじゃ。下がるが良い」

「はい、ちちうえ」


信長伯父さんが、奇妙丸様に奥に下がるように言い渡しました。まぁ、半分は、家臣団へ向けて言ってる感じもありますが。

奇妙丸様が答えると、続けて口を開く信長伯父さん。


「佐脇、奇妙丸を奥向きに案内(あない)致せ。坊丸、奇妙の供をせい」


え、えぇっ。いきなり信長伯父さんから名前呼ばれたんだけど。奇妙丸様のお供をしろって、そんなの聞いてないよ。


そうか、それでか。奇妙丸様を中座させる時に、そのお供として自分を使うことで、主従を明示できるしね。何重にもパフォーマンスを仕組んでいたから新年の儀に呼んだのか!


でも、いきなりすぎて、こんな時どうすれば問題ないのかとか、礼儀作法とか知らないよ!どうする、どうする、俺!


そんなことを考えていると「はっ、承りました」と答えると、奇妙丸様の側に立つ佐脇良之殿。

と、とりあえず、返事はしないとね。


「は、はい」


すこし上ずった声になりながら返事をしたのはいいけど、どうすればいいか迷っていたら、柴田の親父殿が座った位置を少しだけ変更して、自分の前に信長伯父さんや奇妙丸様の座る上座への道をあけてくれました。

柴田の親父殿が、いけ、と無言で行っている気がします。い、行くんですね。


それでも、ちょっと躊躇していると、信長伯父さんの視線を感じました。

で、信長伯父さんの方を見ると、信長伯父さんがこちらを見た後、奇妙丸様の方に顎をしゃくりました。


あぁ、これは、命令通りにしないとヤバいやつの気配がします。

そう感じたので、急いで立ち上がって奇妙丸様の側に向かいます。


自分が奇妙丸様の側に到着すると、奇妙丸様も立ち上がりました。

「では、奇妙丸様、ご案内致します」

「うん」

そういうやり取りの後、佐脇殿の先導で、奇妙丸、最後に自分の順で上座の袖の方に歩いていきます。

大相撲の横綱土俵入りで露払い、横綱、太刀持ちみたいな感じでしょうか?

もちろん、横綱は奇妙丸様、露払いが佐脇殿で、太刀持ちが自分のイメージですよ。


大広間から出ると奇妙丸様が、ふぅ、とため息を一つ。

無事にお披露目を終えた安堵のため息でしょうか?


「はぁ、疲れたぁ」と奇妙丸様。

「奇妙丸様、まだ広間の側でございますれば、今しばらく、お静かに」と注意する佐脇殿。


「はぁい。でも、坊にぃに手をつないでもらうのは良いでしょう?」


一瞬、考える様子の佐脇殿でしたが、すこし微笑みながら答えます。

「小姓衆や小物以外は広間におりますれば、それくらいは良いでしょう。坊丸殿、奇妙丸様のお手をとってさしあげろ」


「承りました」と答え、奇妙丸様の左手をとり、手をつないで歩き出します。

つないだ手を見た後、奇妙丸様はこちらをいい笑顔で見上げてきます。

その様子を見たら、ほっこりして、自分も思わず笑顔になってしまいました。


少し歩くと、奥向きのところまで来ました。

佐脇殿が、奥向きの女中衆に声をかけ、奇妙丸様を案内してきたことを伝えます。

帰蝶様や吉乃殿についている女中衆が来たのを確認したところで、佐脇殿は奇妙丸様に頭を下げました。


「奇妙丸様、では、それがしは、これで広間のほうに戻らせていただきます。坊丸殿、柴田様がお帰りになられる際には、奥向きに知らせるように手配しておく。それまでは、奇妙丸様のお相手をするように」

「承りました」

「やった、坊にぃと遊べるんだね」


今日はたっぷり時間ありそうですからね、奇妙丸様とゆっくり遊ぶのがお仕事なんでしょう。

しかし、信長伯父さん、こういう役割や演出をするなら、軽くでいいから知らせてほしいよなぁ、全く。

毎度のように織田信長の思惑に振り回される津田坊丸君です。

信長の思惑に気付いているところもあれば、読み間違ってるところもある。

信長の家臣の大変さを感じ取っていただければ。

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