102話 石田村、収穫の秋
ども、坊丸です。
早合、焼酎、投扇興と盛りだくさんな日を先日過ごした坊丸です。
文荷斎さんとの約束も果たせたし、やらかしちまったかんじでもなかったし、めでたしめでたしでしたよ。だいぶ疲れたけど。
で、数日、通常運転をした後、本日は石田村に柴田の親父殿、文荷斎さん、そして加藤さん・福島さんと来ています。
あと、なんでか知らないんですが、玄久さんも。玄久さん、あんた農業改革手伝ってないでしょ?
それはともあれ、今回の石田村訪問の主な目的は、千歯扱きの納入と米の収穫量のチェックですね。
そんなこんなで、みんなで石田村到着。
柴田の親父殿を先頭に名主の仁左衛門さんの屋敷のところに行くと、仁左衛門さん以外にも村のまとめ役の人たちが出迎えてくれました。
柴田の親父殿が訪問することを先ぶれしていただいたおかげです。そして、意外と領民に愛されてる領主、柴田勝家ってかんじですね。
「柴田様、本日は石田村にご足労いただきありがとうございます」
仁左衛門さんが、そう言うと一斉に頭を下げる村の顔役の面々。
「仁左衛門以下一同のもの、出迎えごくろう。本来なら、作柄の確認、年貢については代官の仕事ではあるが、今回は、坊丸の農業改革に協力してくれた石田村の様子も見たかったため、儂自らが訪問させてもらった。
去年の作柄年貢の様子については、中村殿にも知らせてあるゆえ、ともに確認させていただく」
ほぉ、やっぱり、こういうところを見ると、柴田の親父殿、領主様仕事しっかりしてるんですね。
あ、玄久さんが少しニヤニヤして柴田の親父殿の方を見ているから、たぶん同じようなことを考えてるんだろうな、と思われます。
「さっそく、作柄を見せてもらおう、田んぼの方に案内を頼む」
「はっ、では、私がご案内を」
と、仁左衛門さんが案内に立ちます。
さて、どうしようかな?柴田の親父殿と文荷斎さんについていったほうが良いのかな?
少し迷っていると、それに気づいた柴田の親父殿が、仕事の割り振りを指示してくれました。
「儂と文荷斎、坊丸は、作柄や田畑の検地じゃ。
加藤、福島両名は、千歯扱きを頼む。
玄久!おぬしはどうする?
義父の豆腐屋で出たおからがどんな肥料に化けたか見たかったのだろう?誰か人をつけるか?」
「権六殿、せっかくだから、俺も権六殿と一緒に回るぞ。肥料を多く入れた農地の様子をみてみたい」
「玄久も槍働き以外のこともすこしは考えるようになったか、重畳、重畳」
そう言って、ガハハと豪傑のように笑う親父殿。
文荷斎さんは二人の気やすい関係に少しびっくりしてますが、これが通常運転ですから、大丈夫ですよ?
寄騎と寄親の関係だけど、幼なじみで義理とはいえ姻戚関係だからね、この二人。
「では、田畑の方へ参ります。柴田様、よろしくお願いいたします」
そういって、仁左衛門さんが先導してくれて、田畑を見て回ります。
「この区画は、与左衛門のところの田んぼで、手前は今までの通りの方法で育ててあります。あの畔の向こうは、干鰯を入れたところ、さらに奥はおからや酒粕をもとにして作った肥料を使ったところでございます」
「やはり、肥料を入れたほうが、作柄が良いな。あの一角はもう刈入れしたのか」
「はい、あの一角は五日前に刈り入れが済んでおります。
肥料に関しては、おからや酒粕と落ち葉を混ぜて寝かせたものが一番いいようです。
干鰯もいいですが、どちらが勝るとはわかりかねます」
「文荷斎、どんな肥料を入れたところが良かったわかるように、後で収穫量と肥料の種類などを帳面につけてまとめておいてくれるか?」
「承ってございます」
うん、どれがいいかじゃなくて、全部少しづつ足せばいいじゃないかな。
干鰯は動物性たんぱく質だから、窒素とリン多そうだし。
酒粕やおからを用いた発酵たい肥は遅効性肥料で土壌改良も期待できるし。
ん?発酵たい肥が良いってことは、石田村の土はまだまだ改良が必要ってことなのか…
そんなことを考えながら、他の田んぼも見て回っていきますが、途中から玄久さんはだいぶつまらなそうにしています。
「玄久殿は、検地の類は苦手のようですね。なんだか、つまらなそうに見えまする」
「ん?坊丸様、そう見えるか。
まぁ、そうだな、いずれは領地持ちにはなりたいが、こういったことも自分の目で見てまわっている権六殿は素直に偉いと思うな。
代官に任せきりの領主など掃いて捨てるほどいるからな。
それに、自分が領地持ちになったときに同じことができるか…、そう思うと、ちょっとな」
ん、玄久さんも、槍働き以外のことも、意外と考えてるのね。
まぁ、領地持ちになるには、まずは、槍働きが必要なんだろうけども。
「そう言えば、玄久さんは今日はなんでこちらに?焼酎の試飲ですか?」
「はっはっは、坊丸様も言うねぇ。まぁ、そちらが半分、おからの肥料のことが半分てところかな。義父殿が継続的にあまったおからを買ってもらえそうか、心配しておってな」
「そうですか、おからを使ったたい肥なら継続的に必要だと思いますよ。余ったもので、田畑の力になるたい肥ができれば収穫量も上がるし、余ったものを売った人たちは収入が増えますからね」
「そう、それよ、おからは工夫すりゃあ、美味くもなるが、そこまで手をかけてられねぇってやつが多いから、捨てることになるしな。
それがいくばくかの金子に化けるんならありがたいことだ。
義父には今後も売れるって報告していいかな?」
「えぇ、そのとおり話していただいてよろしいですよ。
そのうち、石田村以外にも売れるようになるかもしれませんし。で、たい肥見に行きます?」
おからや酒粕に枯れ葉と茸のたい肥、自分の自信作なんですからね。ぜひ見てほしい。
「いや、おからが継続的に売れることがわかれば十分だよ、坊丸様。俺はたい肥や肥料、土のことはわからんからな、はっはっは」
って、なんだよ!見てくれないのかよ!たい肥、だれもほめてくれないんだよね、地味すぎて。
そんな感じで、玄久さんと雑談しながら、柴田の親父殿達の後を歩いていたら、柴田の親父殿から、お前の作った肥料の評価をしてるんだからもうちょっと真面目に見て回れ、と怒られました。
いやはや、ごめんなさい。




