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101話 改良型投扇興 お犬の方様、夢想、無双。

ども、坊丸です。

帰蝶様、吉乃殿、お犬の方様、お市の方様に改良型投扇興を献上しましたよ。

綺麗で可愛い的や扇子、蓋の絵に食いついてくれましたよ。やはり「かわいいは正義」か!

奇妙丸様が箱の底の妖怪戯画っぽいやつにマジでびっくりしてましたが。


-------------------


「ひゃぁ!」


奇妙丸様が、投扇興の一式をしまう箱 兼 台部分として活用する箱の底を覗き込んで、驚きの声を上げています。

うん、そこには、ガシャドクロっぽい大きな髑髏と山姥が描いてあるからね、加藤さんがなかなかの迫力かつ精密なタッチで。


「どうしました、奇妙丸様」


近くに控えていた、腰元さんが、奇妙丸様の様子を見て、奇妙丸様に声をかけています。


「は、箱の底に、怖い絵が!」


「ひゃッ!箱の底に、髑髏が!」


うん、投扇興を遊んでいて、台座部分に扇子を当てたペナルティとして、髑髏や山姥が見える仕掛けですからね。

驚いてくれてちょうどだと思うんですが…。少し刺激が強すぎましたかね?

奇妙丸様と腰元の人の様子を見て、帰蝶様や吉乃殿も、箱の底をのぞき込みます。


「坊丸様?なぜゆえに、このような悪趣味な絵を、ここに?」


あ、帰蝶様、困惑の中にすこぉしだけ怒気がこもってます?

普段、様、なんてつけないのに、怒気を込めながら様付けで呼ばれると、めっちゃ怖いんですねど…

文荷斎さんは恐縮するし、柴田の親父殿は聞いてないぞって顔してるし…

帰蝶様と柴田の親父殿が本気のお怒りモードになる前にうまく説明しなければ!


「はッ、恐れながら説明仕ります。先日、投扇興にて遊んでいただいた際に、台座の部分に扇子が当たった場合は、失敗とすると説明させていただいたかと存じます。この箱を台座にする予定ですので、箱の蓋はあえてしっかり閉めずに軽く立てかけておくだけとしていただき、扇子が蓋や台座にあたった時は、蓋が倒れて、箱の底の髑髏や山姥が見える仕掛けでございます」


「なんと、そのような意図があったのですねぇ」

おっとり甘い声でこの場の緊張感をいい感じにほぐしてくれる、吉乃殿、ありがとうございます。


「義姉様がた、蓋の裏は、墓場の絵でございますよ。墓場に、大きな髑髏、山姥ですか、なんとも怖いものですわねぇ」


あ、今の話の流れで、お市様は蓋の裏の絵をチェックしてたんですね。


「あ、それでも、蓋の絵が、山道なのですね。振り返る女性の絵の付いた的のほうが手が込んでるのも、こちらの的で遊んでほしいからですね?」


お、お犬の方様、坊丸以下制作者グループの意図がお分かりのようで何よりです。


「姉様、振り返る女性の的と山道の絵、それと怖い箱の底の絵がつながるのですか?」


「お市、これはね、山道を先に行く女性の気を引くために、扇子を使って気を引こうとしたっていう見立てなのですよ。きっと、女性の気を引くことができずに失敗してしまうと山道から転がり落ちて、山姥や髑髏の妖怪いる墓場に落ちる、とういうことなのでしょう。ね、そうでしょう、坊丸?」


うん、そこまで詳細なストーリーは考えていなかったけどね。焼酎呑んだ人たちが試作品で遊んで、酔っぱらった勢いのままでわいわい言いながら面白そうな要素を提案してきたから全部採用してみただけだから。そして、その提案を全部のっけて具現化しただけだから。


なんというか、お犬の方様の空想力というか、妄想力というか、すげぇ。

とりあえず、お犬の方様の意見に乗っかっておこう、そうしよう。


「はっ、さすがは、お犬の方様、ご慧眼でございます。それがしの考えたことすべてを説明するまえに、ご推察為されるとは、敬服の至り」


お犬の方様を立てるようにそういうと、お犬の方様はご満悦の様子でほほほ、と左手で口元を隠しながら笑っておられます。

そして、そのようなものかと、他の女性陣もご納得いただいた様子。

よし、帰蝶様もお怒りではなくなったぞ。やれやれ、だぜ。


「もちろん、かような絵は不要というのであれば、墨で塗りつぶしていただいたり、職人に頼んで漆を塗っていただくのも宜しいかと存じます」


「まぁ、そのような物語が込められているならば、わざわざ、黒く塗りつぶす必要もないでしょう。このまま用いることといたしましょう」


「義姉様、さっそく一勝負いたしましょう」


うん、四人の美姫がわいわい言いながら、投扇興で遊んでいるのを、ただ眺める時間ですね。

基本、ご自身の扇子を用いるので、微妙に大きさや重心のくせに差があるので、公平じゃないような気がしますが、四人が楽しいならそれでよし。


「そういえば、坊丸?扇子と的の位置や倒れ方で点をつける、珍しき倒れ方は高得点にするといっていた気がしますが、それはどうしました?」


ちっ、お市様、そんな余計なことを覚えていやがったのですか?

こちとら、投扇興にだけ時間と労力を使っていたわけではないので、そこまでは出来ていなんですよ…

ここは、笑顔でごまかして切り抜けるぜ!


「はっ、こたびの献上品の試作に注力するあまり、そこまで手が回らず…。此度、完成品を献上してしまいますので、いずれが珍しき倒れ方かも知るすべがございません。もしよろしければ、帰蝶様以下、皆様に楽しんでいただきながら、いずれが珍しき倒れ方かを調べていただき、点数も決めていただければ、と思います」


「坊丸が言っていた、扇子の上に的が乗って倒れている様子に『浮舟』などの名前を付ける、ということですか?」


「はっ、お犬の方様のおっしゃる通りでございます」

先日あった時は印象薄かったけど、今日は、お犬の方様が冴えてる感じですね。

少し大げさな感じに感服した様子を出しながら平伏して見せます。


「でも、どのような名前が良いでしょうかね?」


「恐れながら、それがしから宜しいでしょうか?」


その様子を見ていた、文荷斎さんが声を上げます。


「中村殿でしたね、何か良き考えでも?」


「先ほどの坊丸様が試しにつけた名前から思い浮かんだのですが、源氏物語の各帖の名前からとるのはいかがでしょう?蓋が倒れるのは、風が強く吹く野分、扇子が的と台の間を橋渡しするのは夢の浮橋といった様に、ですな。ちょうど良き名がなければ、百人一首などからとればよろしいかと」


そう言って、一同を見渡して提案する文荷斎さん。


「それは、面白いかもしれませんね。それにしても、中村殿は源氏物語も読まれるのですか?」


お、今度はお市様が答えてくれます。


「はっ、以前は坊丸様の父君、信行様の右筆などを務めておりましたので、古今の文章にはすこしばかり通じております」


「そうでしたか、信行兄上に仕えておられたことがおありでしたか。それで、坊丸とも縁があるのですね」


「はっ、お市様。今は信長様にお仕えしておりますが、それがしは、信行様、坊丸様の二代に渡りご縁がございます」


「母上、奇妙も投扇興で遊びとうございます!坊兄ぃも一緒に!」


ここで、奇妙丸様がそろそろ、遊ばせろと主張。そして、すこし一緒に遊ぶはめになりました。

当然、接待モードですので、僅差で敗れる形をとりましたよ、えぇ。



帰り道では、親父殿と文荷斎さんが、本日の感想、というか、誰が綺麗だったかについて語り合ってました。

当然、柴田の親父殿はお市様が一番綺麗だったというわけですが。そして、文荷斎さんがお市様と直接会話していたのを少しねたんでいましたよ。

ちなみに、文荷斎さんは、お犬の方様推しでした。自分の文化的な面を評価してくれたのがうれしかったみたい。文荷斎って名前だけに。

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