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におい

 同窓会ってほどじゃないが、久しぶりに大学時代のサークル仲間で集まった。会場はその方が気楽だってことで、女友達の自宅になった。

 その娘の自宅はちょっと広くて、大学時代からちょくちょく皆で集まって飲んでいたんだよ。

 しばらく飲んで、昔話やら今の職場はどうだとか他愛もない話で盛り上がったところで、珍客がやって来た。犬だ。かなりの小型犬。俺はそれに少しばかり驚いた。いや、この家で飼っている犬だってのは知っていたのだけど、この犬はやたらに警戒心が強くって、俺らが来ても滅多に近付いてこないんだよ。

 唯一、この犬が寄っていくのは、篠崎って女友達だけだったのだけど、今日は来ていない。

 その犬は鼻をふんふんと鳴らしながら、辺りをうろつき、何か見つけたかのような顔をすると崎森って男に寄っていった。

 それで俺はまた驚いた。

 崎森はちょっと乱暴な奴で、犬に好かれるって柄じゃないからだ。

 ただ、そういう悪そうな雰囲気に惹かれるのか、女にはモテる。確か、篠崎と付き合っていたはずだ。別れたなんて話は聞かないから、きっと今でも付き合っているのだろう。

 「なんだ? 篠崎の匂いでもするのかね?」

 それで俺はそう言ってみた。

 が、それに崎森は妙な表情を浮かべるのだった。

 「におい?」

 そして、俺にそう訊いてくる。

 「なんだ、知らないのか? その犬、篠崎にだけはよく懐いていたんだぜ。だから、篠崎の匂いのするお前に寄っていったんじゃないのかな?」

 それに崎森は「そうなんだ」と返す。

 ――そうなんだ?

 奴の様子は明らかにおかしかった。

 「洗っても、洗っても洗っても洗っても、あいつの臭いが離れないんだよ。俺は気の所為だと思おうとした。でも、こうして犬が寄って来るのなら、やっぱり臭いは残っているのかもしれない」

 そんな様子の崎森に構わず、犬はふんふんと鼻を鳴らして足のニオイをかいでいる。

 「やめろ」と、崎森は言った。

 「俺に近付くなぁぁぁぁ!」

 そして、犬を蹴飛ばすと、そのまま逃げるように外に駆けていってしまった。可哀そうに、犬は「キャイン!」と悲鳴を上げた。

 「なんだぁ?」

 と、それを見て俺らは互いに顔を見合わせて異口同音にそう言った。

 

 それから直ぐだった。

 崎森が殺人罪で逮捕された。

 詳しい経緯は不明だが、どうやらあいつは、同棲していた篠崎を殺してしまっていたらしい。

 ところが、奇妙な点が一つ。

 発見された篠崎の遺体は、どう考えても欠損していて、どんなに探してもその欠損部位は見つからなかったそうなのだ。

 

 もしかしたら、崎森は篠崎を食ってしまっていたのかもしれない。

 それで、俺はそう思った。

 だから、あいつの身体には篠崎のにおいが染みついていたんだ。

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