海を走る列車に乗って
どうして一緒にいるのかわからないくらい一緒にいた。
隣の座席でむくれている透の顔を、振り向かなくても想像できてしまう。そんな自分に呆れて、あかりは彼の反対側にすねた顔を向けた。
二人とも仕事でくたくたに疲れて、でも懲りずに一緒に晩ご飯を食べに行った先で喧嘩した。まだ腹は立っているけど、なんであんなに怒ったのかはもう思い出せない。
地下鉄のつり革がけだるげに揺れている。せっかくの金曜日、調子のいいラジオでも聞いてうたたねでもしようと思うのに、目を閉じても全然眠気は訪れない。
あかりと透は会えば喧嘩している。数えるのも面倒になるほど子どもの頃からの繰り返しだ。
いいよ、もう。明日こそさよならしてやる。目を閉じて決別宣言をするものの、電車の不規則な揺れにまだ身を任せていた、そんなとき。
「そろそろ帰ろうよ」
小さな男の子の声が聞こえて、あかりは目を開いた。
向かいの席に、床に足がつかないくらいの背丈の男の子が座っていた。
そして彼の後ろ、窓の向こうに海が広がっていた。光が反射してきらきら輝く、青い海だった。
あかりは驚くより前に、目を擦ろうとした手を下ろした。
「透」
夢には違いないけれど、反射的に彼の名前を呼んでいた。
いつか二人で列車に乗って、海を見に行った。今だったら旅行ともいえない距離だったけれど、幼い自分たちには大冒険だった。
手をつないだわけでもなく、びっくりするようなものをみつけたわけでもなく、やっぱり喧嘩をして、それだけだった気がする。
でもふと目を開いたとき、電車の窓の向こうに海が見えて、それだけのことなのにうれしかったのを覚えている。
トンネルの中に不意に海が現れるみたいに、喧嘩ばかりの思い出の中に突然愛着が降りてくる。
「やだ。まだ一緒にいる」
さっきまで顔も見たくないと思っていたのに、そんなことを口にしていた。
小さな透は覚えのあるむくれた顔をして、文句らしいことを言ったらしかった。どちらもトンネルに入ったせいで、あかりは見えなかったし、聞こえなかったふりをした。
気が付けば閉じていた目を開けば、いつもの終電近くの地下鉄の中だった。
海などどこにも見えないし、夢うつつの心地よさもどこかに飛んでしまった。
「そろそろ降りるぞ」
あかりが眠りかけていると思ったのか、隣の席で透が不機嫌に言う。
どうして夢を見るのかは知らないけれど、あかりは性懲りもなく夢を見る。
「今度海に連れて行ってやるから」
たぶん魔法が使える幼馴染と、今も一緒に列車に乗っている。




