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海を走る列車に乗って

作者: 真木
掲載日:2021/01/05

 どうして一緒にいるのかわからないくらい一緒にいた。

 隣の座席でむくれている透(とおる)の顔を、振り向かなくても想像できてしまう。そんな自分に呆れて、あかりは彼の反対側にすねた顔を向けた。

 二人とも仕事でくたくたに疲れて、でも懲りずに一緒に晩ご飯を食べに行った先で喧嘩した。まだ腹は立っているけど、なんであんなに怒ったのかはもう思い出せない。

 地下鉄のつり革がけだるげに揺れている。せっかくの金曜日、調子のいいラジオでも聞いてうたたねでもしようと思うのに、目を閉じても全然眠気は訪れない。

 あかりと透は会えば喧嘩している。数えるのも面倒になるほど子どもの頃からの繰り返しだ。

 いいよ、もう。明日こそさよならしてやる。目を閉じて決別宣言をするものの、電車の不規則な揺れにまだ身を任せていた、そんなとき。

「そろそろ帰ろうよ」

 小さな男の子の声が聞こえて、あかりは目を開いた。

 向かいの席に、床に足がつかないくらいの背丈の男の子が座っていた。

 そして彼の後ろ、窓の向こうに海が広がっていた。光が反射してきらきら輝く、青い海だった。

 あかりは驚くより前に、目を擦ろうとした手を下ろした。

「透」

 夢には違いないけれど、反射的に彼の名前を呼んでいた。

 いつか二人で列車に乗って、海を見に行った。今だったら旅行ともいえない距離だったけれど、幼い自分たちには大冒険だった。

 手をつないだわけでもなく、びっくりするようなものをみつけたわけでもなく、やっぱり喧嘩をして、それだけだった気がする。

 でもふと目を開いたとき、電車の窓の向こうに海が見えて、それだけのことなのにうれしかったのを覚えている。

 トンネルの中に不意に海が現れるみたいに、喧嘩ばかりの思い出の中に突然愛着が降りてくる。

「やだ。まだ一緒にいる」

 さっきまで顔も見たくないと思っていたのに、そんなことを口にしていた。

 小さな透は覚えのあるむくれた顔をして、文句らしいことを言ったらしかった。どちらもトンネルに入ったせいで、あかりは見えなかったし、聞こえなかったふりをした。

 気が付けば閉じていた目を開けば、いつもの終電近くの地下鉄の中だった。

 海などどこにも見えないし、夢うつつの心地よさもどこかに飛んでしまった。

「そろそろ降りるぞ」

 あかりが眠りかけていると思ったのか、隣の席で透が不機嫌に言う。

 どうして夢を見るのかは知らないけれど、あかりは性懲りもなく夢を見る。

「今度海に連れて行ってやるから」

 たぶん魔法が使える幼馴染と、今も一緒に列車に乗っている。

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