謝肉祭
冷たい石の壁、ひび割れた水差し、襤褸切れのようなシーツ。
鉄格子に閉ざされ、人間未満と判断された俺にとって、これが世界の全てだ。
だが、この閉ざされた世界とも、もうじき別れを告げるだろう。
酔狂な看守がわざわざ教えに来た。お前の命はあと五日しかない。と
そして今日がその五日目だ。あぁ、ほらもう足音が聞こえてきた。
いつもの看守二人以外の足音も聞こえる。三人…いや四人だ。
だとすれば残りは司祭と役人だろう。
「出ろ、五十三番。神への懺悔は済ませたか?まだなら此処に司祭様がおられるから今のうちに懺悔しておけ。」
言われなくとも分かっている。
「神よ。どうか私の懺悔をお聞き届けください。私は…。」
「あの、困ります。時間が押しているんですから、早く処刑して下さらないと。」
血も涙もない役人によって、俺の懺悔は無理矢理中断させられた。
「……そうだな。おい、こっちだ五十三番。ぼさっとしてないでさっさと出てこい。」
どうやら誰もこの役人に逆らえないらしい。俺にとってはもう関係の無いことだが。
俺は窓のない粗末な馬車に揺られ、町の広場に放り出された。
周りをぐるりと民衆に囲まれた広場には、今まで何人もの命を吸ってきた断頭台があった。
所々に錆が浮いていながらも、磨かれた刃がぬらりと光る。
俺は誰かの血を吸って赤く変色した台に身を横たえた。
後ろから死刑執行人の重くて鈍い足音が聞こえてきた。
民衆たちの感情が爆発する。
殺せ 殺せ 殺せ 殺せ
誰かが石を投げ始めたと思ったら、四方八方から石が飛び交い始めた。
執行人がロープを切るため、斧を振り上げたのを横目に見ながら俺は目を閉じた。
神様。これが報いだというのならば、俺の犯した罪は許されたのでしょうか。
薄れゆく意識の中、人々の歓声が耳にこだました。
かくして一人の囚人が露と消え、祭りの幕は開かれた。
今日から謝肉祭だ。