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第58話 修理の達人

 『魔導炉』の修理は困難を極めた。

 とにかく複雑なのだ。そして規模が大きい。

 一介の修理工が発電所の発電機を直す、と思ってもらえば、その規模が想像付くだろうか?

 でかくて重い部品はトスカさんに支えてもらって。

 魔法回路はメランさんの指示を受けて。

 そして、ライカのスキル《スキル:人間工作機械 レベル1》がなかったら、到底直しきれるものではなかった。

 もちろん俺も、スキルの全てを使って修理していった。


 その甲斐あって、3日後には『魔導炉』の修理が完了したのだった。


「できた……」


「やりましたね、シュウさん!」


「……うん、満足」


「シュウ様、これで直ったのですか?」


「ええ、直りました」


 本当は自信がない。こんな機械を修理したのは生まれて初めてだから当たり前のこと。でも、ここは空威張りでも堂々としていなければならない。


「起動してみるから、離れていてくれ」


「え? シュウさん一人でやるんですか?」


「ああ。自信はあるが、この世に100パーセントというものはない。万が一にも何かあったらまずいから、みんなは離れていてくれ」


「嫌です」


「……うん、嫌」


「シュウ様、自信がないのでしたら、試運転はこの私が引き受けます」


 ライカとメランさんには断られ、トスカさんには自分が代わりに起動するからと言われてしまった。


「わかったよ。直したみんなでやろう。……でも万が一があるから、メランさん、何か防御の魔法ってありますか?」


 最後の一線は譲れない。


「うん、ある。守りの結界、『プロテクション』」


「じゃあ、それお願いします」


 ということで、メランさんに結界の準備をしてもらいつつ、魔導炉のスイッチを俺が入れた。

 これだけは修理工としての意地で、他の誰にも譲れなかったんだ。怖かったけど。



*   *   *



「魔導炉が複数台あるなんて聞いてないぞ……」


 俺たちが修理した魔導炉は正常に稼働した。

 それを受け、別の魔導炉の修理もすることになったのだ。

 型式は同じなので、かなり楽に……とはいかず、故障箇所は別のところだったのでこっちはこっちなりに苦労させられた。

 もちろん俺とライカだけでは無理で、メランさんとトスカさんに手伝ってもらったわけだ。


「……これは凄い。今では使われなくなった古い魔法言語が刻まれている」


 とか何とか言いながら、メランさんは喜々として手伝ってくれたから、まあよしとしよう。


「これで5つ、完了っと」


「大分慣れましたね」


 魔人国に来て10日目、俺たちは5基目の魔導炉を修理し終えたところだ。

 ここまでで理解したこと。

 魔力を電力に例えるなら、この魔導炉は発電機ということになる。

 ここ魔人国の首都にはこうした魔導炉が10基ほどあり、半分の5基が停止していたという。だがこれで10基全部が稼働したわけだ。


「あとは今まで動いていた5基の点検整備をしてやれば安心だな」


「ええっ!?」


「シュウ様、それは、動いているものを止めてまでやるべきことなんですか?」


 ライカとトスカさんは不服そうだな。


「確かに『動いているんだからいいじゃないか』と思うかもしれないだろうけど、今日動いているものが明日も動いている、と考えるのは希望的観測に過ぎない。むしろ、いつ止まってしまうだろうか、と考えるべきなんだ」


「ですが……」


 この説明に、まだ不服そうな顔のトスカさん。やっぱり魔人族の人たちは、いや、きっとこの世界の人たちは、修理という行為について認識が浅いんだ。だから俺が呼ばれたということもあるんだろう。


「もう一つ言うと、この機会にログノフさんの『助手』ラザロさんにも参加してもらって、せめて整備くらいはできるようになってもらおうと思うんです」


 これは少し説得力があったようだ。


「なるほど、それならシュウ様に何もかも頼らなくてもよくなるわけですね」


 ということで、俺、ライカ、メランさん、トスカさん、そこにラザロさんも加えて、5基の魔導炉整備を開始した。


「……ここ、どうして、こうなって、いるんです、か?」


 うわあ。ラザロさんって、無口なだけじゃなくコミュ障だったのか。


「こっちの魔力の流れを、この素子を通して、増幅する。そして……」


「……向こうの、受動部に、送って、変容させて、から、もう一度、いや、何度も、増幅、するわけ、ですね?」


 だが、さすが『学者』ログノフさんの弟子。メランさんの説明をちゃんと理解しているようだ。これなら安心だな。


 そして、2基目の点検整備を始めると、


「こぉらぁ! お前ら、この儂を差し置いて何を面白そうなことをやっておるかぁ!」


 ログノフさんが大声を出しながら駆け寄ってきたのだった。

 魔人国の技術資料を読み漁っていたはずなのだが、こっちの方が面白そうと思ったか、生きた知識を吸収したいと思ったか。

 いや、単純に自分の弟子が自分にない知識を得ようとしていることに焦ったのかもしれない。

 とにかく、俺たちの周りは急に賑やかになった。

 ……けど、けっして嫌な雰囲気じゃない。むしろ賑やかで活気があって居心地がいい。


「ふむふむ、面白い。あの書物に出ていた技術がこんな形で使われているとは! やはり実際に見るとよくわかるぞ!」


 ログノフさんは興味津々で修理しているところを覗き込んでくるし、


「ええ、と……この素子を向こうの、回路に繋いで、接続箇所から、重責した魔力回路、が……ここに配線、される……これでいい、ですか?」


 ラザロさんも、おおよその原理を理解しつつ、修理方法をマスターしていってくれている。


「シュウ君、ここ、危なかった。もう少しで壊れてしまうところ。点検して正解」


「シュウ様、ご要望の部材はここに置いておきます」


「シュウさん、こっちは確認終わりました。大丈夫です」


 そしてメランさん、トスカさん、ライカらも協力してくれたので、修理は順調に進んでいく。


 そして俺たちは予定どおりに丸2日掛けて、稼働中の5基を点検した。


「うむうむ、面白かったぞ、シュウ君!」


「……勉強に、なり、ました。ありが、とう、ござい、ます」


「シュウ様、お疲れ様でした」


「……よかった。放っておいたら、あと数年以内に停止していた、と思われる」


「本当ですね。シュウさんが動いている5基の点検整備をするなんて言うから、無駄なことをしたいのかな、なんてちょっとだけ思っちゃいましたよ」


 ログノフさん、ラザロさん、トスカさん、メランさん、ライカはそれぞれの感想を口にした。


「おお、シュウ君、直ったのだな!」


 そこに魔王様がやってきた。


「いえ、俺1人の力じゃないです。ここにいるみんなが協力してくれたからこそです」


「うむ。……君と、お仲間たちには感謝してもしきれない! この首都に暮らす全員、ひいては国民全ての恩人だ!」


 今後、もし同じような故障であれば、ラザロさんが修理できるだろうし、彼に教われば、修理できる人も増えていくだろうし。

 今後のこの国のエネルギー事情は明るいんじゃないだろうか。



*   *   *



 その日、盛大な式典が行われた。

 巨大な式典場、そのひときわ高い壇上で魔王キルデベルト様が演説をぶっている。


「諸君、ついに我が国の魔力エネルギーが完全復活した!」


 ウオオオオ! と、巨大な式典場を揺るがす歓喜の声が響いた。2000人以上集まっているだろう。魔人2000人……声だけで凄い迫力だ。


「これで夜も油を燃やすことなく町に明かりを灯すことができる! 冬も、薪に頼らず暖を取れるのだ!」


 また歓声が上がる。

 ……そうか、この北の地では、油と薪は貴重品なんだ、と察することができた。電力の代わりに魔力が、この国を支えているわけだな。

 そんなことを考えていたら。


「え、え!?」


 トスカさんに腕を捕まれた俺とライカは、あらがう暇もなく壇上に引きずり上げられた。


「しかも、その最大の立役者は、何とヒューマンの技術者なのだ! 紹介しよう、シュウ・ゼンダ殿と、ライカ・マイヤー殿だ!!」


 耳をつんざかんばかりの歓声と拍手が巻き起こった。


「さあシュウ様、ライカ様、手を振ってあげてください」


 耳元でトスカさんに囁かれた俺とライカは、言われるままに手を振った。

 そしてまた、歓声が上がる……。


 続いてメランさんとログノフさんも壇上で紹介され、同じように拍手と歓声が贈られたのである。 



*   *   *



 その夜は盛大なパーティだった。

 豪華な宴席が設けられ、その場でも魔王キルデベルト様は俺たちを壇上に呼んだ。


「『修理の達人』シュウ・ゼンダ殿、ライカ・マイヤー嬢、メラン魔導士殿、ログノフ学士に感謝を」


 続いて、

「ラザロ、トスカ、よくやってくれた」


 魔人の2人にも褒詞が与えられた。


 そして、


「かんぱーい!!」


 グラスが掲げられた。

あ、ライカは俺の忠告でフルーツジュースだ。こんな場で酔いつぶれたらまずいからな。

 後は立食パーティだ。


「シュウ君、ご苦労だったのう」


 シーガーさんに声を掛けられた。


「君は、種族間の関係まで修理してくれたよ。まさしく『修理の達人』じゃ」


「やめてくださいよ、照れますよ」


「そんなことないですよ。シュウさん、あなたは勇者にもできないことを成し遂げたんです。つくづく、力とはなんなのかを考えさせられますよ」


 フィリップ君にまで言われて、穴があったら入りたいというかなんというか。

 そして、ウィリデさんがやって来て。


「シュウ君、君はたいした男だな。これならライカを安心して任せられる」


「はい……」


 その言葉を聞いた俺は、いよいよ覚悟を決める時が近付いたことを感じたのであった。



*   *   *



 その晩の寝床の中、悶々として寝付かれない……。

 俺はどうすべきなんだろう。ライカに気持ちを告げるべきか、告げざるべきか。

 ライカの幸せとはなんなんだろう。

 結局その夜はほとんど眠れず、明け方になって少しだけうとうととしたら、もう朝だった……。

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