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第55話 見つけたもの

 トンネルを進んでいく俺たち『遺跡調査団』。


「やあっ!」


 中に住んでいるコウモリのような魔物が、フィリップ君の『光の剣』に斬られて落ちる。


「洞窟コウモリのようですが、弱すぎますね」


「うむ。どうやら、『なりかけ』のようじゃな」


 フィリップ君とシーガーさんの会話。どうやら一部の魔物は、普通の獣が何らかの要因で魔物化してなることもあるらしい。


「うむうむ、非常に興味深いな」


 『学者』のログノフさんは、斬られて落ちた洞窟コウモリを拾い上げ、しげしげと眺めている。コウモリって、結構雑菌持っているんじゃなかったけか……。


 トンネルは延々と続いているようだ。ランタンの明かりで見てみると、なんとなく古びて見える。もしかすると、廃棄されたトンネルなのではないだろうか。

 確か日本でも、使わなくなったトンネルをワインカーヴに利用しているという話もあるし、より便利なトンネルができて、古いトンネルは閉鎖されることもあった……と思う。

 そんなトンネルがこっちの世界にやって来ている……という可能性がありそうだ。


「ログノフさん、先は長いんですから、進みましょう」


 いつまでも歩き出そうとしないログノフさんに業を煮やし、フィリップ君が声を掛けたが、


「馬鹿者! 学べる時に学ばなければ、後悔するのだ! これだから学のない若造は……」


 と、文句を言われる始末。

 5分ほどコウモリを調べていたログノフさんはようやく重い腰を上げた。


「よし、行くぞ」


 ……やっぱり態度でかいなあ。

 ようやく進み始めた俺たち。

 明かりは定期的に『魔導士』メランさんが魔法で灯してくれている。おかげで足下の瓦礫につまずくこともない……が。


「また来た。……『エアクラッシュ』」


 その明かりを目掛けて、虫系の魔物が飛んでくるのが鬱陶しい。まあ、メランさんが全部魔法で叩きつぶしてくれているのだが。

 しかし、そんな虫の魔物も、ログノフさんには研究対象なようで、ばらばらになった虫をつぶさに調べ始めるものだから、遅々として進まないのだ……。


 そんなこんなで、長い長いトンネルを延々と歩き続けること1時間。その間に退治した洞窟コウモリは2桁を超える。

 フィリップ君だけではなく、『剣士』のスラヴェナさんも後ろから飛んでくる奴を斬り落としていた。

 これはフィリップ君が斬り損ねたのではなく、通気口のような小さな横穴があって、そこから時間差的に出てくるらしい。

 そして時々、超でかいカブトムシのような魔物、『アーマービートル』が飛んでくる。こいつが地味に怖い。

 いや、恐ろしいと言えばやはり『ブラックジョウ』だろう。……30センチくらいある、台所に出る黒い虫だ。

 それが羽音を立てて飛んで向かってくる恐怖……。ガクブルだぞ。

 50匹くらいが大挙して飛びかかってきたのを、シーガーさんとメランさんが『サンダーボルト』で退治してくれた時はほんと、2人を拝んでしまった。


 で、ただ1種、『レインボーアーマービートル』という奴は綺麗だった。つまりは10センチくらいのタマムシなんだが。


「ううむ、この色はどうやって出しているのだろうか」


 ログノフさんは、虹色の金属光沢を持つその体表面に興味を持ったらしい。過去、すり潰して色素を得ようとしても得られなかったのだという。

 そりゃあ、あの手の虫の持つ色って、何て言ったかな……他色? 違うな。ええと……忘れた。とにかく、CDやアワビの貝殻、シャボン玉、それに水たまりに浮いた油膜のように、それ自体が色を持つのではなく、光の回折だか反射だか干渉だったかで特定の波長が強調されて色が付いて見える……という奴だったはず。

 甲虫類のメタリックな色や、蝶の羽、それに熱帯魚なんかがそう……らしい。

 弟がそういう昆虫が好きだったので聞きかじっていたんだが、ちゃんとは覚えていない。残念だ。


 そしてトンネルを歩き始めてさらに2時間。ちょうどトンネルの横に待避所のような大きな凹みがあったので、そこで休憩することにした。


「このままだと予備日は使わずに済みますかね?」


 シーガーさんに聞いてみる。今回は第一次調査なのでそれほど深入りはしない予定なのだ。


「そうじゃな。あと3時間進んだなら引き返すことになるじゃろ。どう長く見積もっても4時間で引き返さぬと予定超過じゃな」


「なんだとぉ!? そんな軟弱な調査団があるか! 学問の前には魔物など蹴散らしてくれるわ!」


 この発言にログノフさんが激高した。しかし沸点低いな、この学者さんは。なんだよ軟弱って。


「ログノフ殿、遺跡でどんな知識を得たとしても、それを持ち帰れなくば意味がありませんぞ」


「ぐ、ぬ……」


 さすがシーガーさん、ログノフさんを宥めることに成功してる。

 メランさんは我知らずという顔で水を飲んでるし、スラヴェナさんも離れた場所で身体を休めている。なんというか、まとまりがないな……。


「シュウさん、これ食べません?」


 ライカが俺に、何かを差し出した。これは……干し柿だ!


「うん、ありがとう」


 水と食料は支給されているが、それ以外を持ってきてはいけないということはない。だから持ってきたのか、さすがライカ。

 自然の甘味が少し疲れた身体に浸みるな……。


「皆さんもいかがですか?」


「あ、干し柿ですね! いただきます」


 ライカは調査団の人たちにも勧めて回り、フィリップ君が真っ先に飛びついた。


「ああ、美味しい」


 その様子を見て、


「儂も貰おうかの」


 シーガーさんも手を出し、続いてスラヴェナさん、メランさんが。


「あ、美味しい」


「うん、美味」


 持ってきた食料は乾パンで味気なかったから、甘い干し柿が受けたようだ。


「美味しいです~」


 ローゼさんも1つ食べて、顔をほころばせていた。

 食べていないのはログノフさんとラザロさんだが、


「お二人も、いかがですか?」


 ライカはそんな2人にも勧めていた。


「儂はいらん。食いたければラザロ、お前だけ食っとれ」


 やっぱり協調性のない人だな。で、ラザロさんはおずおずと手を出し口に運ぶと、やっぱりその甘さに顔をほころばせていた。


 さて、休憩も終え、また1時間ほど魔物を倒しながら進んでいくと、いきなり開けた場所に出た。


「おお!」


「ここは……?」


 うーん、スクラップ置き場だな。

 廃棄された自転車の残骸が山と積まれたホールだった。女神様、どうしてこんなもの……いや、向こうの世界で廃棄されたからこそ、こっちに持ってきたのか。


「な、なんじゃ、ここは!?」


「いったいこれは何だ?」


 わからなくて当然だろうなあ……。

 だが、ログノフさんは廃棄された自転車の山に文字どおり飛びついて、いろいろ調べ始めている。

 危険がないと決まったわけでもないのに、ある意味さすがだな。


「何だ、この車輪は!? この材質はいったい……ん、鎖だと? それにこの歯が付いた円盤はいったい……」


 うーん、これが何か教えてあげた方がいいのかなあ……。


「古代の馬車の部品か? それにしてもこの形は……」


 時間も惜しいし、ライカが俺の方をちらちら見てるし、ここは口出しさせてもらおう。


「これは自転車ですね。個人用の乗り物ですよ」


 すると案の定、ログノフさんは激高した。


「なにぃ!? 小僧、なんでお前なんかにそんなことがわかる?」


「わかるも何も、知っているから、としか……」


「知ってるだと?」


 ここでシーガーさんが助け船を出してくれる。


「ログノフ殿、シュウ君は『女神様の使徒』じゃからな」


「ぐむ……だが、絶対に間違わないという保証はないだろう! 乗り物だというなら乗って見せてみろ!」


 うーん……廃棄自転車だし、乗れるのあるかなあ……あ、そうか、なければ組み立て直せばいいんだ。

 自転車の修理はかなりこなしたから得意だ。幸い、車載工具が付いたままの廃棄自転車もあったので、なんとかなるだろう。


「こいつのタイヤを外して、こっちに付け替えて……。サドルはこいつでいいかな……」


 状態のよさそうな自転車を選び出し、駄目になっている部品を探してきて取り替えるわけだ。

 廃棄自転車の総数は100台を超えているだろう。これだけあればなんとかなる。

 前輪、ブレーキパッド、チェーン、サドルをましな状態のものと交換し、携帯用の空気入れで抜けていたタイヤの空気を入れる。後輪が少し歪んでいたので、ライカのスキルで歪みを直してもらった。

 およそ1時間でなんとか1台、形にすることが出来た。


「できました。これが自転車ですよ」


 古パーツででっち上げた自転車を見せると、


「おお、さすがシュウ君じゃな」


「シュウさん、凄いですね! こんな遺物まで直せるんですか!」


「ん、お見事」


 シーガーさんやフィリップ君、メランさんらは感心してくれたのだが、


「ふ、ふん、組立の技術は認めてやろう。だが、それが乗り物だと? どうやって乗るのだ? 立たないではないか!」


 と、ログノフさんはこれが乗り物だと信じてくれなかった。

 まあそこは、『百聞は一見にしかず』だ。


「乗って見せますよ。いいですか?」


 俺はそう言って自転車にまたがると、おもむろにペダルを踏み込んだ。


「お、おおお!?」


「は、走った?」


「な、何で倒れないの?」


 油が切れているのでかなりキーキー鳴るが、ちゃんと乗れる。


「す、凄いです、シュウさん!」


「ん、シュウ君、凄い」


 俺はホールの中を一回りして戻ってきた。


「どうです? 乗り物だとわかってもらえましたか?」


「う、うむ……」


 事実を目の当たりにしては、さすがのログノフさんも文句の付けようがなかったようだ。

 と、そこへ、


「シュウ君、あたしにも乗れるかな?」


 と、スラヴェナさんが乗りたいと言ってきた。


「乗ってみます?」


 と自転車を譲り渡すと、


「なにこれ! 楽しい!!」


 と言って、一発で乗り回してしまった。さすが獣人、運動神経半端ない。



*   *   *



 それからというもの、全員が代わる代わる乗りたいと言い出し、大変だった。

 最後にはログノフさんまでが、


「……シュウ君、私にも乗せてくれんかね?」


 と言い出す始末。

 結局、全員が自転車に乗ってみたわけだが、驚いたことにほぼ全員が、10分ほどで乗りこなしていたのだ。

 この世界の人たち、運動神経よすぎだろう……俺なんて小学校の時、まる1日かかったっていうのに。ちょっと羨ましいぞ。

 だが、ローゼさんだけは、


「きゃああ~! た、倒れますぅ~~!」


 と、なかなか乗りこなせないでいた。


 一方、みんなが代わる代わる乗り始めたところで俺は、ライカに手伝ってもらって、大急ぎで自転車を再生している。

 というのは、帰りは自転車を使えば、何倍も早く帰れるだろうから。

 シーガーさんにも、


「もし組めるなら、自転車に乗って戻れば早いので、あと1時間はここにいられるのだが」


 と言われたし。

 納得した俺は、まず部品を集めている。100台分もあるんだから、なんとかならないかな……?

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