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第52話 きっかけ

 俺たちは東の鉱山へやってきていた。

 ターニャちゃんが俺に肩車をせがんできたり、俺が疲れてフィリップ君に代わってもらったり、トスカさんが途中に生えていた大きな木を蹴って栗の実を大量にゲットしたり……と、賑やかな道中を続け、お昼前に鉱山前へと到着した。

 筋肉痛が治っていてよかったぜ。

 で、例のごとく外でお昼を食べるわけだ。

 今回は俺たちの他に3組の採集パーティが来ており、同じように少し早めの昼食を摂っている。


「お嬢様、こちらが私の作ったお弁当で、こちらがライカ様のお作りになったものです」


「わーい! どれもおいしそう!」


 ターニャちゃんはピクニック気分のようだ。この前のクルミ拾いといい、アウトドアが好きなのかも知れないな。


「ねえねえ、おにいちゃんはどれをつくってくれたの?」


「俺はデザートだな。お弁当の後だから、楽しみにしてくれ」


「うん!」


 というわけで、和気藹々とランチタイムだ。定番のサンドイッチ。

 今朝早くトスカさんがやって来て、ライカと一緒に作ってくれたのだ。

 『不器用で』と言っていたが、どうしてどうして、人並みくらいにはこなしていた。ただまあ、大雑把な感じがしたのは、魔人という種族の特徴なのかも知れない。

 その一方で、


「何も作れなくて済みません」


 とフィリップ君が恐縮しているが、


「なにを言ってるんだ。君が大荷物を背負ってくれているから、こうして楽しくお昼が食べられるんじゃないか」


 と言って宥めると、


「そうですね。こうして温かいお茶も飲めますし」


 とトスカさんも乗ってくれたので、フィリップ君のテンションが目に見えて上がった。

 そう、携帯コンロも運んでくれたので、お湯が沸かせたのだ。


「お嬢様、美味しいですか?」


「うん、おいひいよ」


「食べながら喋るのははしたないですよ」


「はーい」


 トスカさんとターニャちゃんって、お嬢様と侍女というより、娘と母親に近い関係のような気がするなあ……。


「美味しいですね、これ。……あ、トスカさんが作ってくれた方かな?」


 フィリップ君は知ってか知らずか、無心にサンドイッチをぱくついている。


 そんな楽しいひとときに、無粋な輩が割り込んできた。


「おいおい、ここは子供の遊び場じゃねえぞ?」


 テンプレと言えばテンプレな輩だ。こういう奴は無視するに限る。下手に相手をして絡んでこられると危険だからな。……相手が。


「おい、何とか言え!」


 うるさいな。角が立たないような言い回しはないかなあ……と俺が考えていたら、男はトスカさんに絡もうとしていた。


「おう、無視とはいい度胸だな。そんなガキんちょの世話なんかやめて、俺たちの世話をしてくれよ。いろいろとな!」


 ガハハ、と下品に笑う男。その背後では似たような雰囲気の男たちが2人、下卑た笑いを浮かべていた。


「……に」


「あん?」


「いい加減にしろっ!」


 おおう、トスカさんじゃなくてフィリップ君がキレた。


「お? 若造、姉ちゃんの前でいいとこ見せようっていうのかあ?」


 下品な笑いをした男がもう1人、こっちにやってくる。

 ターニャちゃんが少し怖がっているみたいだ。

 トスカさんに絡んだ男はというと、


「こんなもん食ってんじゃねえよ!」


 と言いながらサンドイッチの入ったバスケットを蹴り飛ばそうと……して、


「な、なんだ!? う、動けねえ!」


「埃が立つではありませんか」


 トスカさんにその足を押さえられ、引くことすらできなくなっていた。


「は、放せ! 放しやがれ!」


 この期に及んでも男は強がっている。


「放せばいいんですか?」


 そしてトスカさんは男の足をつかんだまま、後ろへと放り投げた。おおう、人間が縦に回転したよ……。


 一方、フィリップ君は、近付いてきた男の前に立ちはだかった。


「けっ、色男ぶりやがって!」


 フィリップ君は繰り出しされた男の拳を身を少しだけ捻ってかわすと、その腕を取って捻りあげ、一気に投げ飛ばした。


「げふっ!?」


 草原の上とはいえ、受け身もせずに背中から落ちた男は、衝撃で肺の中の空気を全部吐き出したため、すぐには立ち上がれないようだった。


 ……こうなったら、俺も少しはいいところを見せないとな。

 2人が手玉に取られたところを目の当たりにしてあっけにとられているもう1人の男の所に近付いていく。

 顔は笑っているが、内心はびびりまくりだ。

 そして、


「ご心配ありがとう。でも、俺たちは強いから、鉱山に入ってもやっていけますよ」


 そう言いながら、地面に突き立ててあったそいつのツルハシの柄にこっそりとスキルを使う。


(《スキル:人間工具 レベル3》)


 声に出さなくても発動できるのだ。ちなみにレベル3は手刀での切断。


「怪我はしたくないでしょう?」


 切る速度はゆっくりだが、ツルハシの柄は細いので数秒で切れる。


「……ね?」


「あ、ああ……わ、わかった」


 真っ二つに切断されたツルハシの柄を見て、残った男は真っ青になっている。


「もう関わり合いにならないでください」


 それだけ言って俺は身を翻し、みんなの元に戻った。ああ、怖かった……。

 倒れていた男たちは、なんとか起き上がると、こそこそと逃げるように立ち去っていった。


「おにいちゃん、かっこよかった!」


 ターニャちゃんが褒めてくれた。はは、内心はガクブルしてたけどな。


「シュウ様、とどめの一言、お見事です」


 トスカさんにそう言われると照れてしまうな。


「シュウさん、大人の対応、さすがですね」


 フィリップ君にまで言われてしまった。


「いやいや、トスカさんとフィリップ君が後ろにいてくれなきゃ、俺なんて無力なものさ」


「そんな照れ隠し仰らなくてもよろしいんですよ」


「そうです。シュウさんは、やる時はやる人です。『怪我はしたくないでしょう?』……あのセリフ、ドスが利いてましたよ」


 ……もうやめて。穴があったら入りたい……あ、これから入るのか。



*   *   *



 魔宝石の採集は、そりゃもう簡単でした。

 フィリップ君が岩盤を崩し、トスカさんが岩を砕いて魔宝石を取り出してくれましたよ。

 俺はそれを見てただけ。ターニャちゃんは大喜びで綺麗な欠片を拾い集めていたなあ。


 そして強者のオーラでも出ているのか、襲ってくる魔物もまったくいなかったのであっさりと必要量プラスアルファを確保して帰路に着いた俺たちだった。


「フィリップ君、トスカさん、今日はありがとう」


 俺は帰りもターニャちゃんを肩車だ。


「シュウさん、気にしないでくださいよ。僕も楽しかったですし」


「いえいえ、お嬢様のお世話をしていただいて、こちらこそありがとうございます」


「おにいちゃん、きょうはたのしかったー」


「そうか、よかったね。俺も楽しかったよ、ターニャちゃん」


「うん! あのね、かえったら、きょうみつけたほうせきでゆびわとかぺんだんととか、つくってくれる?」


 ターニャちゃんも女の子だもんな。


「俺でよければ、作ってあげるよ」


 修理ばかりじゃなく、1から作るのもいいよな。


「わーい、たのしみだなー」


 はしゃぐターニャちゃん。あまり暴れると、よろけるんですが。あ、そんなに脚で首を締め付けないでほしい……く、苦しい。


 ……まあとにかく、帰り道も何ごともなく、夕焼けの中を俺たちは無事ハーオスの町に帰り着いた。



*   *   *



「今日はお疲れ様でした、シュウ様、フィリップ様」


「おにいちゃん、またね!」


「こちらこそ、お世話になりました。……ターニャちゃん、気をつけてね」


 マイヤー工房前で解散だ。

 ターニャちゃんとトスカさんは手を繋いで帰っていった。


 そしてフィリップ君はというと、


「シュウさん、今日はありがとうございました。……いろいろありましたが、少しわかってきましたよ」


 と、何か吹っ切れたような顔をしている。


「ヒューマンだとか魔人だとか、関係ないですね。ヒューマンにも悪い奴、嫌な奴はいるし、魔人にも……その、素敵な人がいます」


 確かに、今日絡んできた奴らは感じ悪かったものなあ。

 そして、トスカさん……は、フィリップ君のことをどう思っているんだろう。応援してやりたいけど……こればかりはなあ。


「『賢者様』が、こちらに通え、と言った意味が少しずつわかってきましたし」


 何もしてないけど、それで役に立てたなら何よりだ。


「それじゃ、シュウさん、ライカさん、また明日!」


「気をつけてな」


 勇者様には無用の心配かもしれないけど。


「はい!」


 フィリップ君は手を振って、夕闇の中去っていった。ちくせう、絵になるなあ。


「ふふ、シュウさん、お疲れ様でした。そして、お帰りなさい」


 そんな俺に、ライカが声を掛けてくれた。ああ、帰りを待っていてくれる人がいるというのはいいものだなあ。


「うん、ただいま」


 そう答えた俺はライカと共に、暖かな光が点る工房へと入っていったのだった。

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