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サクラハイム物語2  作者: さき太
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気が付きたくなかった初恋

 「あー。(はるか)ちゃん。マジやばい。どうしよう。」

 そんな楠城(くすのき)浩太(こうた)のぼやきを聞いて、柏木(かしわぎ)(はるか)は呆れたように今度は何?と呟いた。

 「花月(かづき)ちゃんがマジでかわいすぎるんだけど。なんか最近、ますますどんどんかわいくなってってる気がして本当さ。マジやばい。ふとした瞬間に目が合うと。あー、もう本当ヤバいんだって。何、あの笑顔。あんな顔でこっち見られたら、マジ。本当、マジヤバいから。本当、ヤバい。マジでヤバいって。もう、俺、どうしよう。ドキドキが止まんないんだけど。」

 「じゃあ、さっさと告白すれば?」

 そうどうでも良さそうに遙が返して、浩太が、遙ちゃんと情けない声を上げた。

 「何?なんか反論あるの?浩太は花月と付き合いたいんじゃないの?」

 「そりゃ、そうだけどさ。だけど・・・。」

 「そもそも一年近く一緒に生活してて進展したことといえば、あいつのおかげでお前の勉強嫌いが直って成績があがったことくらいでしょ。あー。あと、少しは免疫ついて気軽に遊びに誘えるようにはなったか。前は勉強の邪魔して嫌われたくないとかなんとか言って、遊びにすら誘えなかったもんね。今じゃすっかり仲良しでよく二人で遊んで。浩太って花月にとって完全に友達だよね。一番の。」

 遙にそう淡々と現実を突きつけられて、浩太は、だよねと言って撃沈した。そして、どうせ俺はさ、といじけモードに入る浩太を横目に、遙は溜め息を吐いた。

 「浩太ってある意味凄いよね。そんなんなくせに、遊んでるときとか勉強してるときは全然あいつのこと気にしてないでいられるんだもんね。」

 「なんて言うか、ドキドキはするんだけど、遊んでる最中とかはどんどん楽しくなっちゃってそっちに夢中っていうか。花月ちゃんも楽しんでくれるし、一緒に楽しめるのが本当嬉しくてさ。勉強も、一緒に真剣に考えてくれるし、できると一緒に喜んでくれるし。もう、なんていうか、花月ちゃんと付き合いたいとかそういうのより、その時そうやって一緒にいられるのが幸せすぎてもうそれだけで胸がいっぱい。でも、ふとしたときに、なんていうの?その、そのさ。花月ちゃんの手が目に入るとそれ握りたくなったりとか・・・。」

 「キスしたくなったりとか?」

 「なっ。ちょっ、遙ちゃん。」

 「したくないの?」

 「いや、その。それは・・・。そりゃ、したいけど。したくなるけど。」

 自分の追撃に顔を真っ赤にしてしどろもどろになる浩太を見て、遙は、浩太って本当初心だよなと思って彼から視線を逸らした。一目惚れから始まった浩太の片想いを、最初からずっと傍で見守ってきた。いちいちうるさくてうざくてしょうがなくて、本当に苛々したこともあったけど。でも、今は普通に応援してる。花月のおかげで浩太は良い方に変わった。自分の大切な幼馴染みが恋した相手が花月で良かったと思ってる。お似合いなんじゃないとも思ってる。なのに、どうして今自分は意地悪したんだろうな。そう思って、遙はモヤモヤした。

 いつからだろう。浩太の片想いが、両想いに変わってると気付いたのは。気が付いたら、花月が浩太を見る目が変わっていた。彼女は誰といるときよりもずっと浩太といるときが一番楽しそうで、嬉しそうで。彼女が浩太に向ける視線は完全に恋している瞳になっていた。それに気が付いて、良かったじゃんって思った。お互いの気持ちに気付かないまま今まで通りの日常を仲良く過ごす二人を見て、もどかしいような切ないようななんとも言えない気持ちになった。なにしてんだか。ここまで来たんだからさっさと告白すればいいのに。そう思っていたはずなのに、何で今、背中を押してやらないで逆に二の足を踏ませるようなことを言ったんだろう。だいぶ距離は縮んだんだし、勇気出して告ってみれば?上手くいくと思うよ。そう言ってやればいいのに、それだけのことが言えなかった。言ったところで、浩太はヘタレだからどうせすぐには告白できないだろうけど。そんなことを考えて、遙は少し気が沈んだ。

 「ねぇ、浩太。そんなもたもたしてて他の誰かにとられても知らないよ。」

 そう言うと、浩太がそんなこと言われたってと突っ伏してうなり声を上げた。

 「告白してフラれて気まずくなったら嫌じゃん。同じとこに住んでるのに、顔合わせ辛くなるし。皆にも気まずい思いさせるだろうし。なにより、今まで通りができなくなるって思うと本当ムリ。今の関係が壊れるとかムリだから。花月ちゃんと遊んだり勉強したりできなくなったら、俺、生きていけない。」

 「バカじゃないの。浩太って本当ヘタレだよね。じゃあ、もういっそのことあいつのこと諦めて一生良い友達でいたら?」

 そうバカにしたように遙は呟いた。今の関係が壊れるのが嫌だ、か。そういやこいつ、前もそんなことで悩んで告白できなかったんだっけ。まぁ、その相手が女装させられてた俺で、結果的に告白できなくて良かったって話しになってたけど。俺が男だって知ってショックだったけど、ずっと友達でもいたかったから、悩む必要がなくなってホッとしたなんて言ってたっけ。でも、花月とはそれでいいのかな。友達のままで。ずっと一番の友達のままで。花月の様子を見ていれば、あいつが浩太の気持ちだけじゃなくて、自分自身の気持ちにも気が付いてないのが解る。だから浩太と目が合うと、本当に嬉しそうに笑う。目が合ったことが嬉しいみたいに、本当に幸せそうに笑う。浩太のことが好きだって自覚してたらきっと、そんなことはできないんじゃないかなって思う。浩太みたいに、恥ずかしくなって目が合わせられなくなるのが普通じゃないかと思う。だからこのまま何もしなければ、本当に何もないまま、良い友達で終わってしまうかもしれないのに。他の奴からアプローチされでもしたら、無自覚の恋なんてどっかに行って、そっちに気持ちが移ってしまうかもしれないのに。今のこの狭い人間関係からもっと広く広がって、もっと色んな奴と関わって、もっと楽しいことが増えて。そしたら、今みたいに一緒にいられるのも時間の問題で、せっかく近づいた距離が今度はまた離れていくかもしれないのに。そんなことを考えて、遙は突っ伏したままうだうだ言っている浩太を眺めて溜め息を吐いた。

 恋愛なんて面倒くさい。そう思ってきた。女なんて外面良くても腹の内は何考えてるか解らないし。そうも思ってきた。姉達の自分勝手な愚痴を聞いてきたから。姉達が、男心を弄んで楽しんできたのを見てきたから。自分自身、名前も知らないような奴から告白を受けるのもしばしばで、お前は俺の何を知ってるのとか思って苛ついて。相手のことよく知りもしないくせに好きだとかどうだとか、本当薄っぺらいと思ってきたのは、男女どちらにたいしてもか。なんで皆ほいほい恋とかするんだろう。できるんだろう。女に幻想抱くとか俺には絶対ムリ。そう思って、でも幻想じゃなくて、一緒にいたいって思える相手となら・・・。そんなことを考えて、何故か篠宮(しのみや)花月(かづき)の姿が頭によぎって、遙は、お前は浩太の相手でしょと心の中で突っ込んだ。


         ○                           ○


 「ねぇ、何してんの?」

 庭で難しい顔をして向き合っている花月と三島(みしま)健人(けんと)を見かけて、遙はそう声を掛けた。

 「あ、遙。健人が武器を使った殺陣の参考にしたいって、なんか扱える武器ないのか訊いてきてさ。でもわたしが扱えるのナイフかヨキぐらいだから、それ見せて参考になるのかなって話ししてて。」

 そんな花月の言葉に、遙はヨキ?と疑問符を浮かべ、それに答えるように健人が、片手で扱えるような小型の斧だなと呟く。普段ヨキは薪割りに使ってたんだけど、熊が出た時はナイフじゃなくてヨキだったから。さすがに熊はナイフじゃ倒せないし。と補足する花月の言葉を聞いて、遙は、いや、普通熊と戦わないからと突っ込んだ。

 「そもそもナイフ一本で猪や鹿くらいなら狩れるって時点でおかしいし。本当、花月ってそういう所現実離れしてるよね。」

 そう呆れたように呟くと花月が現実離れ?お婆ちゃんやお兄ちゃんも普通にできたよ?と首を傾げてきて、遙は溜め息を吐いた。

 「お前のお婆ちゃんやお兄ちゃんは普通じゃないから。お前の常識は一般的じゃないから。それが普通にできる奴、一般社会にまずいないからね。」

 「そうなの?一臣(かずおみ)とか普通にできそうなのに。喧嘩強いし。」

 「まず街中で熊と対峙するっていうシュチュエーションがありえないから。もし仮に遭遇したとしても戦わないし。」

 「そっか、やったことないから皆できないのか。でもやればきっと皆できるよ。あ、でも遙は男の人なのに細いし非力だからな。狩りどころか薪割りとかもできなさそうだよね。」

 「する必要も感じないけど。」

 そう返して、遙はしみじみと花月を眺めた。小柄で細いくせに、自分より重いものを軽々運ぶし、恐ろしく身軽で運動神経が良い。そんなに筋肉質には見えないのに、この細い腕も掴んでみると結構がっしりしててビックリする。華奢に見えて全然非力じゃない。女のくせに。そう思ってなんかモヤモヤする。

 「俺は肉体労働系じゃないからって言っていつも力仕事しないし、遙ってお姉ちゃんより力なさそうだよね。」

 花月に追加でそう言われて、遙は渋い顔をした。

 「さすがに管理人さんよりは力あるよ。自分がひょろいの自覚はしてるけど、普通の女子より非力そうな言い方するのやめてくれる。お前が小柄で細いくせに馬鹿力なだけで、俺、別にそこまで非力じゃないから。」

 「そうなの?遙、サクラハイムの中で一番弱そうって、わたし思ってた。」

 そう付け加えられて苛々する。そして、丁度通りかかった香坂(こうさか)(ひかる)を目にして、遙は、光も俺と似たようなもんじゃないの?と呟いた。

 「いや、光はひょろそうに見えて案外力あるぞ。」

 そう健人に言われてまたなんとも言えない気持ちになる。

 「光は案外そうでも、祐二(ゆうじ)はインドア派だし、俺とどっこいどっこいじゃないの?俺が一番ひょろいわけじゃないと思うんだけど。」

 そうふて腐れた様に呟いて、遙はなんとも言えない気分になった。一番非力に思われてるの、普段力仕事全く手伝わないからだよねと思う。でも、一臣とか耀介(ようすけ)とかあからさまにムキムキな奴もいるし、湊人(みなと)や健人もどう見ても俺より力あるし、別に俺がわざわざ手伝わなくても良いじゃん。肉体労働はそういうのが得意な奴に任せておけばさ。そう思う。

 「僕がどうかした?」

 そう光が会話に参加してきて、掻い摘まんでここまでの話しを聞いた彼が、あー演劇部にいると体力必要だし、なんだかんだで力仕事多いしねとぼやくのを眺めて、遙は、こうしみじみと眺めてみると光って意外と厚みあるなと思った。

 「光って着やせするタイプだったんだ。俺とそんな変わらないかと思ってたのに、こう見ると結構胸に厚みがあるね。って、うわっ、腕も意外と筋肉ついてるじゃん。完全文系男子なおとなしそうな見た目してるくせに、何このギャップ。光ってちょっと服装変えるだけで劇的に印象変わりそう。」

 「光はバレエやってたのも影響してるのか、細身でしなやかなダンサー系の筋肉の付き方してるよな。」

 「地元にいたときはなんだかんだで続けてたし、今もちょっとしたときに身体動かしてるしね。半分強制でやらされててどちらかというと苦痛だったのに、時々妙にやりたくなってさ。不思議だよね。柔軟は毎日続けてるし、小さい頃からの習慣って抜けないね。」

 「そういえば花月も光と同じで細身だけどしっかりしてるよな。軽やかな動きに加えパワーもあって良い筋肉の付き方してる。それは山奥で自給自足の生活してた賜か?ぱっと見か細いから、最初、片岡(かたおか)が、もっと肉つけた方がいいっすよ、そんな細いと心配になるっすとか言って太らせようとしてたのが懐かしいな。」

 「もりもり食べて良く動いてる姿見て、花月のは心配するようなタイプの細さじゃなかったっすねとか言って、太らすのすぐ断念してたっけ。本当、懐かしい。」

 「俺はいまだに、遙はもっと肉つけた方がいいっすよって言われてご飯増やされそうになるけどね。量増やされても食べきれないからやめて欲しいんだけど。」

 「うん。だから、遙のご飯、嵩は増やさずにカロリーの摂取量を増やすことにしたって。」

 「うわっ。なにそれ。同じメニューでも人に合わせて苦手なモノ食べやすくしたりしてるのは知ってたけど、あいつそんなことしてたの?知らない間に摂取カロリー増やされてたとか、俺がぶくぶくになったらどうしてくれるの、あいつ。」

 「お姉ちゃんのは逆に太ってきたの気にしてるからダイエット食にしてるって湊人言ってた。全然気にしなくても平気なのに、そういうとこ管理人さんも女の子っすよねとか言って、楽しそうにお姉ちゃんの分作ってたから、遙も太っちゃったら言えばダイエット食にしてくれると思うよ。」

 「太ったらじゃなくて、まず太りたくないから。そもそも管理人さんが太ったのは自業自得でしょ。太る太る言いながら、あの人、間食やめないんだから。勝手に摂取カロリー増やされて太らされるのと一緒にして欲しくない。太らさせられて、太ったから食事制限して欲しいって頼むの凄く癪なんだけど。」

 「まぁ、まぁ。そんなに怒らなくても。片岡君の事だから健康を考えてある程度で止めてくれるんじゃないかな?太らせるって言ってもそんなぶくぶくにはされないと思うよ。」

 そんな話をしていると、出先から帰ってきた真田(さなだ)一臣(かずおみ)が玄関の方から庭を覗いて、皆で集まって何してるんですかと声をかけてきた。

 「あ、一臣。おかえり。健人が武器使った殺陣の参考になるようななんか見たいんだって。」

 「真田は剣道とか薙刀とか、何でもいいんだが何か武器を使った習い事の経験はあるか?経験があるならちょっと形とか見せてもらえると有難いんだが。」

 「すみません、そういうのは全く。父が総合格闘技好きで子供の頃は良く付き合ってやっていたので、格闘技の技なら色々できるんですが・・・。」

 そう言葉を濁して、一臣が何か思いついたような顔をして花月を見た。

 「武器戦の動きの参考なら、アレはどうだ?リアル格ゲーごっこ。あれなら武器戦見せられるんじゃないか?お前、武器使うキャラの動きもできたよな。」

 一臣のその言葉に花月が目を輝かせて反応する。

 「あー、アレ。楽しいよね。」

 「お前、好きだったもんな、アレ。お前はゲームはからっきしで、格ゲーでいつも夏樹(なつき)にボロ負けして。あいつも負けず嫌いで絶対手抜かなかなったしな。コントローラーと必死で格闘しながらボロ負け続けて悔しがったお前が、最終的にコントローラー使わなければこれくらい簡単にできるのにとか言い出して、コントローラ放り投げて実際にキャラの技やって見せてきたんだよな。それ見て面白がった夏樹に俺も巻き込まれて、あいつがゲームで技見せてお前にやらせて、俺は対戦相手にさせられて。」

 「最初はそうやって技の練習だけしてたのが、どうせならゲームの対戦再現しようぜとか夏樹が言って、リアル格ゲーごっこやるようになったんだよね。懐かしいな。確かにアレなら健人に色々見せてあげられるね。でも良いの?一臣、喧嘩やめたんでしょ?もう喧嘩しないって言ってたのに。」

 「アレは喧嘩じゃなくて遊びだろ?ちゃんとお互いが怪我しないようにルールも決めたんだし、室内でやらなきゃ暴れたって片岡にも怒られないさ。」

 そんな一臣の言葉に花月がうんと嬉しそうに笑って、一臣も微笑み返した。そして花月が健人に向き直る。

 「健人。リアル格ゲーごっこ見せてあげる。ほぼ実戦だよ。凄い迫力だよ。絶対、健人もおーってなるよ。」

 はしゃいだ様子でそう言ってくる花月に、健人は楽しみにしてると返した。

 「ところで武器は何を使うんだ?」

 「とりあえず、今あるのだとラップの芯かな?こないだきれちゃって、ゴミの日まだだから雑紙入れに入ってるはず。ちょっととってくる。」

 そう言って花月が室内に消えていき、一臣がラップの芯だと多分短刀だと思いますと健人に答えた。

 「怪我するといけないんで武器使うキャラやるときは、ラップの芯とか新聞紙丸めた棒とかで武器の代用してたんですよ。ルールは簡単、一発でもノーガードで技くらったら負けです。俺はいつも格ゲーのキャラじゃなくて俺役だったので武器は使えませんが、花月は色々できるので、武器の代替品になる長さの物さえあれば複数の武器戦の参考にできると思いますよ。」

 そんな話をしていると花月がお待たせと戻ってきて、一臣は彼女と連れだって他の皆から離れた。

 「じゃあ、久しぶりに思いっきり身体を動かすか。と言っても、俺はかなりブランクあるからな。今の俺でお前のあの人間離れした動きについていけるかどうか、ちょっと不安だ。ちょっと慣しに本番前にいくつか技だしてもらっていいか?」

 「了解。」

 そんなやりとりをして軽く打ち合いをする二人を眺め、遙が呆れたように何あれと呟いた。

 「あれだけ身長差あって軽々一臣の頭の高さまで飛ぶとか。飛んでキックした後空中で一回転して着地とか。あいつ猫かなんかなの?体格差もかなりあるのに一臣のこと投げたり。絶対おかしいでしょ。前から思ってたけど、花月の身体能力の高さって異常だよね。本当、あいつの基準に合わせて俺が非力扱いされるの凄く納得いかないんだけど。」

 「さっき言われたこと気にしてるの?そういうこと気にするあたり、遙君はやっぱり男の子だね。」

 「そんなに言われるのが嫌なら少し鍛えたらどうだ?片岡じゃないが、俺も柏木は少し肉つけた方がいいと思うぞ。それに柏木は色も白いからな。ひ弱に見られたくなければ、日中少しランニングでもして多少日焼けするだけで印象が変わる気がするぞ。」

 「あぁ、日焼けはムリ。俺、普段から紫外線対策しっかりしてるから。毎日スキンケアかかしてないし。姉さん達がうるさかったせいでもう癖になってるんだよね。あんまりごつくもなりたくないし、正直今のままでいい。でも、非力扱いされるのは心外。俺、そこまで力弱くないし、運動神経だって悪くはないから。足は速いほうだし。普通の女子には絶対負けない。本当、あいつの基準がおかしいだけなのに、花月の奴、人のこと散々言いやがって。まったく、浩太はあいつのどこが良いんだろう。確かに美人だけど、それ以外になんか魅力あるの?いや、まぁ、料理は上手だし、働き者でもあるけどさ。努力家なのも認めるけど。でも、来たばっかの頃は小学生以下だったのがようやく小学校高学年くらいにはなったかなってくらいで、あいつ中身子供じゃん。素直すぎるというかなんというか、悪意がないのも解るけど本気でそう思って口に出してるって解るから、余計腹立つんだけど。」

 遙がふて腐れたようにそんなことを毒吐いていると、みんなで庭に集まってなにしてるの?と浩太の声がして、遙は声の方に視線を向けてお帰りと言った。

 「別に、たまたま集まって来ちゃっただけで何もないけど。なんか流れで今から一臣と花月がリアル格ゲーごっこするって言うから、居合わせたついでに見物。」

 「リアル格ゲーごっこ?」

 「格ゲーの対戦をリアルで再現するんだって。なんか、あいつら昔そんな遊びしてたらしいよ。」

 「へー。それちょっと楽しそう。」

 「後でお前も混ぜてもらえば?」

 「あ、準備運動が終わったみたいだよ。」

 「準備運動の時点でアレだけの動きしてたしな。実際に始まったらどんな風になるのか楽しみだ。」

 そんな会話をしていると、向き合った二人の雰囲気ががらりと変わって、その場にいた面々は息を呑んだ。さっきまで和やかな雰囲気で談笑しながら技の確認をしていたのに、今の二人は表情も別人みたいに変わってぴりぴりした空気を醸し出していた。

 「うわっ。花月ちゃんちょー綺麗。こう見ると本当、花月ちゃんって美人だよね。普段はかわいいの方が強いけど、ああいう顔してると大人っぽくなって、本当、ちょー美人。あぁいう花月ちゃんもいいな。」

 惚けた様子でそう呟く浩太にうんざりしたような視線を向けて、遙がはいはいと呟く。

 「一臣はああいう顔してると本当柄悪いよね。さすが元ヤン。迫力が半端ない。」

 「真田はタッパがあるし体格も良いから、少し凄むだけでもかなりの威圧感だな。それに負けず劣らずの威圧感を発せられる花月はかなり凄いと思う。どうしたらあんな雰囲気を作れるようになるんだ。」

 そう言って真剣に考える健人に、遙がどうでも良さそうに、熊と戦えばいいんじゃないと呟いた。

 「ねぇ、花月ちゃんの構えおかしくない?」

 「そうだな。格闘技と言うより何か舞踊でも始めそうだな。あれからどうなるんだ?」

 そんな光と健人の会話を聞いて、浩太がアレどっかで見たことある気がするなと首を傾げた。そして、二人の戦闘が始まって、あーと声を上げる。

 「アレ、WWFのユリヤだ。うわっ。花月ちゃんすげー。何アレ。完璧にユリヤの動きじゃん。あんな動き実際にできるんだ。すげー。」

 「WWF?ユリヤ?なにそれ。」

 「え?遙ちゃん知らないの?WorldWideFightersって格ゲーのユリヤ・アゼフ。表向きは世界中を興業して回ってるサーカス団に所属するロシア人のダンサーで、裏の顔はアサシンって設定のキャラクター。けっこー人気キャラだったんだけどな。あ、ゲームが流行ってたの遙ちゃんがイギリス行ってた頃か。でも、ゲーム自体、オンライン対戦で世界中のプレイヤーと対戦できて、イタリアにいる従兄弟達も嵌まってたし、日本以外でも流行ってたみたいだけど。イギリスじゃ話題にならなかった?」

 「俺、そういうゲームしないし、興味ないから。」

 「WWFか。そういえば高校生の頃に流行ってたな。キャラの名前までは知らないが、俺も誘われてやった記憶がある。これはあのゲームの再現なのか。」

 「懐かしいね。僕が通ってた高校でも凄く人気があって、ポータブルゲーム機学校に持ち込んでやってて没収される人がでるくらいだったよ。映像が綺麗でキャラクターの動きが凄くなめらかなことが評判のゲームだったよね。」

 「そうそう。絵は綺麗だし、色々動くし。各キャラに設定されたミッションクリアすると、衣装とか装飾品の素材が色々手に入って、結構自由に着せ替えできて。俺、相手が女性キャラだとついキャラに目がいっちゃってボロ負けとかよくやったんだよね。」

 「何それ。ゲーム画面の女にみとれてボロ負けするとかバカじゃないの。」

 「だって、3DCGでかなりリアルな感じの女の子がきわどい衣装着てたりしてさ。ノーマル衣装だって、胸とか揺れるし、スカート履いてるキャラだと蹴り技とかすると中が見えそうだったりとか。あんなん気にするなって言う方がムリだから。」

 「あっそ。」

 「それにしてもあの二人の動き凄いな。あれだけの攻防をしあってお互いに決定打を受けないって、どうやったらあんなことができるんだ。」

 「本当、凄い迫力。ついつい花月ちゃんの派手な動きに目が行くけど、真田君、武器での攻撃には刃に当たる部分が身体に当たらないように防御してるし、芸が細かいね。」

 「真田は舞台映えしそうだし、これで演技ができればな。残念なことにあいつ、恐ろしいほどの大根なんだよな。」

 「健人、真田君にも演技指導してたんだ。」

 「いつも立ち稽古したいとき、ヒマそうにしてる奴捕まえて相手になってもらっててな。管理人さんや柏木には断られるが、他は声かけるとだいたい付き合ってくれるから、稽古ついでにちょっとな。ついでに役者に興味持ってもらえたらと思うが、藤堂も結局役者じゃなくて舞台美術の方に興味がいったみたいだし、なんだかな。でも、まぁ、役者になりたいとまではいかなくても、する方でも観る方でも、芝居を楽しんでくれる人が増えるのは歓迎だからな。俺を通してちょっとでも演劇に興味を持ってもらえたら万々歳だ。」

 「うわっ。一臣の奴、花月の足掴んでぶん投げるとか容赦な。ってか、着地したところに追い打ちとか、本当どんだけ容赦ないの。」

 「おー。花月ちゃん、ギリギリの所で真田さんの攻撃かわして懐に武器差し込んだよ。凄い。もしかしてこれで決着?」

 そうして勝利した花月がくるりと回って観客に向かい大仰にお辞儀をし妖艶な仕草で投げキッスをした。それを見た浩太が完全に心を射貫かれて固まり、遙が、何あの色気、花月のくせに、と悔しそうに呟いた。

 「ありがとう。二人とも凄かったな。花月。対戦中の様子もそうだが、対戦後のあの流れる様な動作や視線のもっていき方、観客に対する自分の魅せ方が素晴らしかった。文化祭公演の時に急遽代役に立ってもらったときも思ったが、お前役者の素質があるんじゃないか?良かったら本格的に演技の勉強してみろよ。舞台楽しいぞ。今度、一緒に観に行くか?舞台の魅力をもっと教えてやる。」

 そんなことを言いながら健人が二人に近づいていき、二人に対してアレはどうなってるのかとか、こうしてたシーンをもう一度やって欲しいんだがとか言い出して、それを見た光が苦笑気味に小さく笑った。

 「健人、完全にスイッチが入っちゃったみたいだね。これは暫くあの二人解放してもらえないかも。」

 「あの芝居バカ、スイッチ入ると本当周り見えなくなるもんね。健人の奴、場のノリで言ったんじゃなくて、あれ、本当に花月を観劇連れてってふりまわすよ。浩太、良いの?」

 「え?良いも何も花月ちゃんが良いなら良いんじゃない?花月ちゃんのことだからきっと心から楽しんでくるだろうし。帰ってきたら絶対その話し楽しそうに話してくるんだよ。そんな花月ちゃん、想像するだけでマジかわいい。花月ちゃんの楽しそうな笑顔見れるなら、俺、幸せ。だから二人が出掛けるのちょっと楽しみかも。」

 そう言って本当に楽しみな様子で照れたように笑う浩太を見て、遙は、あっそと溜め息を吐いた。

 「浩太って、呑気っていうか心が広いっていうのか。本当、バカだよね。」

 「え?俺、なんでバカにされてんの?今のどこら辺にバカにされるとこがあったの?」

 「お前、少しは危機感持たないの?気が付いたら健人と花月が付き合ってましたとかなって、失恋しても知らないから。もう、本当に一生あいつの一番の友達でいたら。」

 そう浩太に吐き捨てて、え?何それ、どういうこと?と疑問符を浮かべる彼を横目に、遙は室内に入っていった。本当、浩太ってバカ。自分の好きな女が他の男と一緒に出掛けて楽しんでくるのを、普通に良いんじゃないとか、楽しみだとか。あいつ、やきもちとかやかないの?他の男に花月がとられるかもとか考えないの?花月と接点が持てなかった頃は、一緒に買い出し行ったり調理してた湊人や、付きっきりで勉強教えてた光のこと羨ましがってたくせに。花月と普通に一緒にいられるようになったらもうそれで満足なの?今でも花月ちゃん花月ちゃんうるさいくせに、本当にあつと付き合いたいって思ってるの?あいつのこと本気で口説く気あるの?ったく、浩太って、花月のこと身近なアイドルかなんかとでも思ってるんじゃないの。あんなに近くにいるくせに、あんなにあいつから好意向けられてるくせに。本当はあいつのこと手が届かない存在だって思って何もする前から諦めてるんじゃないの。手を伸ばせばもうすぐ届くところにあいつはいるのにさ。そんなことを考えて、遙は何で俺こんなに苛々してるんだろうと思った。浩太の恋愛に俺は関係ないじゃん。そんなことを考えて、遙は自室に戻って自分のベッドにダイブした。

 「なんか疲れた。」

 そう呟いて、枕に顔を埋める。そうすると妙にドキドキしている自分を感じて、遙は何これと思った。さっきの花月の姿が頭をよぎって、それを意識してる自分を感じて、俺のは別にそんなんじゃないと思う。これは、あいつがあんなことするから。普段子供っぽくて全く色気なんて感じさせないくせに、あんな表情で投げキッスとからしくないことするから。そのギャップでちょっとやられただけだから。別に、俺は、あいつの事なんて・・・。

 『遙。』

 自分の名前を呼ぶ花月の声が頭の中で響いた。そして笑いかけてくる花月の顔が頭に浮かんで、遙は苦しくなった。

 『遙がうちの家族になればいいって言ってくれて嬉しかった。わたしのこと考えて一生懸命になって怒ってくれてありがとう。わたし、そんな遙の気持ちが嬉しかったよ。』

 去年の暮れ、花月がサクラハイムから生家に連れ戻されそうになったあの日。別れの言葉として彼女に言われた言葉が蘇る。あの時、胸が押しつぶされそうになった。バカじゃないの、そんな顔するくらいならここにいなよ。わざわざ不幸になるために帰るなよ。いつもならすんなり出てくるそんな言葉があの時は言えなかった。出てこなかった。言いたい事は沢山あったはずなのに、あの時俺は何も言えなかった。現実問題、そんなこと言ったってどうにもならないって解ってたから。俺が何言ったって、実際に俺があいつを助けてやる事なんてできないって解ってたから。それでも、ずっとあの時までぐだぐだあいつに帰るなってここにいなよって言い続けてたのに。俺は、最後の最後では、あいつを引き留める言葉が何も出てこなかった。でも、浩太は。あの時、浩太は花月を引き留めたんだ。あいつは現実問題自分にはどうしようもできないって解ってたから、花月ともう会えなくなる現実を受け止めて、別れる心の準備をして。どうしたら花月がずっと笑ってられるだろうって、どうしたら元気でいてくれるだろうって、花月のために何か自分にできる事はないかずっと悩んで考えてた。それで、浩太は浩太にできる精一杯のエールを花月に送って、あの日を迎えた。花月が皆に型通りの挨拶して実の兄に連れられて出てこうとした時、あの時、真っ先に浩太が引き留めたんだ。やっぱダメだって、花月が花月らしく居られないような場所になんか行っちゃダメだって。花月がいるべきなのはここだって。行かないで。俺達とここにいよう。そうやって、悩み抜いて、考え抜いて、葛藤した末に浩太は真っ先に花月を引き留めた。そんなあの日のことを思い出して、遙はバカみたいと呟いた。

 「浩太が本気だってことなんて、俺が一番知ってんじゃん。花月のことあいつが誰よりも真剣に想ってるって、誰よりも俺は知ってるじゃん。告白できないのはヘタレすぎてどうしようもないだけだって、俺は解ってるじゃん。」

 そう口に出して、浩太に嫉妬している自分を感じて、遙は胸が苦しくなった。笑いかけてくる花月の姿が目に浮かぶ。胸が締め付けられて苦しくて、今し方気付いてしまったそれを否定したくなる。でも、どんなに否定しようとしても、逆に否定しようとすればするほど、彼女の姿が自分の中により濃く強く思い出されて、遙はバカみたいと呟いた。俺、いつから花月のこと好きになってたんだろ。バカみたい。本当、よりにもよって浩太の好きな奴に惚れるとかありえない。最初から浩太の好きな奴だって解ってたのに、どうして花月だったんだ。どうして他の誰かじゃなかったんだ。本当、どうして。

 『遙ちゃんは優しいから。』

 『遙は優しいから。』

 そう言う浩太と花月の顔が頭の中で重なって、遙は、そっか、花月って浩太に似てるんだと思った。脳天気で明るくて、いつも元気いっぱいで。人を色眼鏡で見ない。ありのままを受け止めて、ありのままを受け入れて。素直じゃない俺のことをいつだって信じてくれた。浩太だけはずっとどんなときも俺の味方でいてくれた。ずっと変わらず傍にいてくれた。浩太は俺の支えだった。サクラハイムに来るまでずっと、浩太さえいれば良いと思ってた。自分の傍には浩太だけいれば良いって。それくらい自分にとって特別で大切な幼馴染みに花月は似てる。あぁそうか、俺と浩太の間に花月が入るのも悪くないって、そう思った時点で、花月も俺にとって一緒にいて居心地が良い安心できる存在だったんだ。失いたくない存在になってたんだ。そう思って遙は、本当、バカみたいと呟いた。二人とも失いたくないなんてさ。二人とも大切なんて。二人のことを想うなら、二人の恋を応援すればいいだけなのに、それができないなんて。本当、恋なんてしたくなかった。恋なんてしなければ。どうして俺の初じめてはこうなったんだ。そう思って遙は泣きたくなった。

暫くベットで突っ伏したまま、遙は自分の心を落ち着けた。恋愛なんて面倒くさい。したくない。ずっとそう思ってきたのに。俺はこういうのはいらないのに。バカみたい。本当、バカみたい。本当、こういうのはらしくない。俺はこういうのはいらない。面倒くさい。

 喉が渇いて、何か飲もうと下に降りて、食堂で台本を眺めながら難しい顔をしている光を目にして、遙は珍しいなと思った。健人が台本とにらめっこして難しい顔をしているのはいつものことだけど、光がこういう顔をしてるのは珍しい。健人と違って光はいつもさらっとしてて、台本を読んでるときに声を掛けられると、あぁこれはねと楽しそうに舞台の話しをしているイメージで、こんなに真剣に思い悩んでいる姿は見たことがない。そんなことを考えて、遙はどうかしたのと光に声を掛けた。

 「あぁ、遙君。いや、ちょっと役作りで悩んでて。」

 そう困ったように笑う光を見て、役作りか、そういえば去年の冬頃引退公演の役がどうたらこうたら健人と光揉めてたっけと思いながら、遙は彼の手の中の台本を眺め、ロミジュリやるんだと呟いた。

 「光は何の役やるの?」

 「僕はジュリエットだよ。僕らの代、色々あって女性部員がいないからね。公演は九月だからまだ先だけど、どうも役が上手く掴めなくて困ってるんだ。」

そう言って光は台本に視線を落として溜め息をつく。

 「色々試してはいるんだけど、今のところこれだっていうのがなくて。男が女性を演じる違和感を抑えるために、勝ち気で男勝りな女性のイメージでやろうかと初めは思ってたんだけど、それだとやっぱり男勝りというより男になっちゃって。じゃあ、いっそのこと淑やかな女性像に変えてみようかと思ったんだけど、それもなかなか上手くいかなくて。全然役が自分の中に入ってこないんだ。ジュリエットのイメージが固まらないと細かいところが先に進めないから、早くどうにかしたいと思うんだけど。そうやって気が焦るのもいけないのかな。僕の中で役がしっかり固まるまで待ってくれるとは皆言ってくれてるんだけど。色々試しながら意見もらったり、練習付き合ってもらってるのに、僕自身もだけど皆がピンとくるようなジュリエットが全然できあがらなくて。なんか申し訳なくてさ。最近は時間があるときはずっと台本見ながらどうしたら良いか考えてるんだよね。」

 そうやって悩みを吐き出して、光が篠宮さんは凄いなと呟くのを聞いて、遙は顔を顰めた。

 「なんで急に篠宮(しのみや)結子(ゆうこ)が出てくるの?」

 「いや、遙君は最初からあの人が男だって見破ってたけど、僕なんかはすっかり騙されてたからさ。本名は宮守(みやもり)(あまね)さんだったっけ。花月ちゃんのお迎えが来た時、女装を解いた姿で付き添いで来てたじゃない。あれを見たときは驚いたな。僕より背も高いし体格も良くて、声もずっと低くて。なのに、彼が女装してここで一緒に暮らしていたときは、あの人が男だなんて全然気が付かなかった。自分を女に見せるにはどうすれば良いのかあの人は熟知してたんだよね。きっと女性にしてはちょっと低めの声にしてたのも、自分の女装姿にはあの声が合ってるってわざとそうしてたんだと思う。それでいて自然な発声、立ち振る舞い。あくまで自然に、淑やかな大人の女性を演じきるあの演技力。本当、凄いと思うよ。」

 そうかつてサクラハイムの五号室に女性のフリをして入居していた男性を称賛する光を見て、遙は面白くなさそうにふーんと言った。

 「つまり何?光は役が解らないんじゃなくて、どうやったら自分が女らしく振る舞えるのか解らないから悩んでるって事?」

 「うーん。そうなるのかな?ずっと役のことばっか考えてたけど、よく考えてみるとそういうことなのかもしれないね。女性らしさの表現力に自信が持てないから、役が入ってこないのかも。」

 「じゃあ、光も実際に女装して女として暫く過ごしてみたら?篠宮結子みたいに、完全に女になりきってさ。」

 何故か苛々して、適当にそんな言葉を投げかけて、それを聞いた光にそうかと目から鱗が落ちたような顔をして言われて、遙はたじろいだ。

 「そうだね。解らないなら、実際になりきって生活してみるってありかもしれない。ありがとう、遙君。僕、ちょっと挑戦してみるよ。」

 そうスッキリした顔の光に本気の調子でお礼を言われ、遙は焦った。そして女装生活に向けて何を用意しなきゃいけないだろうと光が真剣にスマートフォンで調べ始め、遙はうわっ本気でやろうとしはじめちゃったどうしようと思って動揺した。そして、暫くそんな彼の様子をどうしようと悩みながら眺め、色々考えて、葛藤し、

 「あー。もう、解ったよ。俺が言い出しちゃったことだし、協力してあげる。素人がいきなり独学でやったってオカマができあがるだけだから。服の選び方から化粧の仕方、動作とか色々俺が教えてあげるよ。それでいいでしょ。」

 何かを諦めたように投げやりにそう言った。

 「サクラハイムに逃げてきてから女装させられてないけど、俺、女装歴はかなり長いから。実家にいたころはこれだけでかくなってもずっとさせられてたし。男だってバレると色々面倒なことになるから、バレないようにするのに必死で。だから女のフリするのは得意。篠宮結子にだって負けない自信あるよ。皆あいつのこと美人って言ってたけど、俺が女装した方があいつよりよっぽど美人だし。」

 そう言って、俺が手をかすからには妥協は許さないからと告げると、光にありがとうと微笑まれて、遙はなんとも言えない気持ちになった。

 「女装生活始める前に、まずは肌作りね。むだ毛処理は徹底的に。剃った後のケアはしっかりすること。光は元々髭濃くないけど、女は髭生えないから生えてる痕すらNGだから。できれば髭は剃るんじゃなくて毛抜きで抜いて。開いた毛穴はちゃんとケアすること。男の肌は元々女のより硬いから余計硬くするようなことは絶対しないこと。普段から日焼け止めしっかり塗って、こまめに塗り直して紫外線対策して。あと、保湿は絶対だから。洗顔したらすぐ保湿。お風呂で洗顔するなら出る直前ね。」

 「え?あ。ごめん。そんなに一気に言われてもよく解らないから、メモしてもいい?保湿って言われてもどうしたら良いの?日焼け止めこまめに塗り直しって、どれくらいの頻度でするものなのかな?」

 そう焦ったように光に色々訊き返されて、遙は溜め息を吐いた。

 「じゃあ、後で実際に使いながらやり方教えてあげる。とりあえず俺の化粧品かしてあげるけど、今度一緒に必要な物揃えに買い物に行こう。付き合ってあげるから。あー。光、免許持ってたよね?買い物行くときレンタカー借りて俺の実家にも寄ってよ。女装セット、一から揃えるの大変でしょ。俺が使ってたので使えそうな物は全部あげるから。俺、いらないし。」

 気怠げにそう言って、光にありがとうと微笑まれて、遙は視線を外に向けた。庭に続くガラス戸の向こうに健人達の姿を見て、あいつらまだやってたんだと呟く。

 「スイッチ入った健人に花月ちゃんの組み合わせはどんどんのってくだけだから、しかたないんじゃない?」

 そう返されて、遙はガラス戸の向こうで楽しそうにしている花月に視線を向けた。本当、何がそんなに楽しいんだか。健人のアレは完全にガチの稽古なのに、あいつは遊んでもらってるって思ってるんだもんな。他の奴みたいに付き合ってやってるんじゃなくて、本気で一緒に楽しんでる。バカみたい。そんなことを考えて、浩太も一緒になってやってるし、あれにずっと付き合うとかあいつらバカでしょと悪態を吐いて、遙は視線を逸らした。

 「浩太君は、さっき遙君に言われたこと気にしてるんだよ。花月ちゃんが楽しいならそれが一番だけど、でも、三島さんと花月ちゃんがって、それは嫌だけど、でも、えーと、あー、わけ解んないからとりあえず俺も混ざって一緒にやってくるって、あの中に入っていってたから。」

 そう光に返されて遙は、なにそれ、と、溜め息を吐いた。

 「意味分かんないんだけど。本当、浩太ってバカみたい。あそこに混ざってなんになるの。あいつがすべきなのは一緒に遊んだり勉強したりするんじゃなくて、告白することでしょ。スケボーとかジャグリングばっかしてないで、たまにはちょっと違う所に花月をデートに誘ったりとかさ。友達の先に行きたいなら本当、他の誰かにとたれたくないなら本当にさ、さっさと告白すればいいのに。花月だって絶対、浩太に告白されて嫌なわけないんだから。」

 そうぼやいて少し胸が苦しくなる。そうすると、告白するのって勇気がいるからねと光の声が聞こえて、遙は視線を彼に向けた。

 「それを言って相手にどう思われるのかとか、拒絶されるんじゃないかとか、今まで築いてきた関係が全部崩れるんじゃないかとか。告白って、凄く怖い物だよ。相手の存在が自分にとって大きければ大きいほど、その相手を失うことを怖れて二の足を踏む。その一歩を踏み出すのは、凄い勇気を絞り出すか、何か勢いがないと、なかなかに難しいことだと僕は思うよ。」

 「それって経験論?」

 「まぁ、そんなところかな。」

 「ふーん。」

 そんなやりとりをして沈黙が流れる。

 「そういえば、遙君。何か飲みに降りてきたんじゃないの?なにか淹れようか。僕も喉渇いちゃった。」

 そう言われて、じゃあ紅茶と答える。そして、キッチンに向かう光の背中を目で追って、遙は口を開いた。

 「ねぇ、光。実際さ、健人って花月に気があったりするのかな?」

 「どうだろうね。あまりそういう話し健人としないし。花月ちゃんのこと気に入ってるのは確かだろうけど、恋愛感情があるかどうかは。健人って、恋愛に淡泊っていうか。小学生の頃に演劇にド嵌まりしてからずっと、それ以外にあまり興味がない感じだからさ。高校時代は離れてたから、僕が知らないだけかもしれないけど、基本女の子の方が寄ってくるし、健人が自分から女の子にどうこうって今まで見たことないから、基準にすべきものが解らないんだよね。」

 「あいつ、見た目と声は無駄に良いもんね。顔立ちが整ってるだけじゃなくて、スタイル良くて背もそこそこ高いし。確かに女が寄ってきそう。」

 「健人は子供の頃からモテモテだったよ。頭も運動神経も良くて、児童会長してたくらいだし。僕も良く女の子から健人についてきかれたり、健人宛の手紙とかプレゼントを、渡しておいてって渡されたりしてたな。」

 「そういうのって本当面倒臭いよね。そもそも、そういう女子ってたいして本人と親しいわけでもなければ、よく知らないくせにキャーキャー言ってるだけでたいして相手のこと知ってるわけでもないし。本当、うざい。」

 そう吐き捨てる遙を見て、光は辛辣だねと苦笑した。

 「俺もけっこうそういうの多いから、そういう女のうざさなら実感して理解できる。よく知りもしないのに、好きとか簡単に言ってきて、本当に軽い。さっきの光の言葉を返せば、それって実際はどうでも良いと思ってるからホイホイ告白とかできるんでしょ。そういうの本当いらない。そもそも恋愛なんて面倒くさいだけじゃん。みんないちいちそんなもんに振り回されてさ。いったい何が楽しいの?」

 そう言って遙は大きな溜め息を吐いた。

 「俺、父さんの仕事の関係で三年間イギリス行ってたんだけど。戻ってきたの中三の二学期って凄く微妙な時期だったし、中三の少しの間だけ浩太と同じ公立通ってたんだ。ずっと公立だった浩太と違って、俺は私立幼稚園から私立小学校上がってって感じで、公立の奴と全然面識無くてさ。まぁ、小学生の頃放課後や休日に浩太に誘われて一緒に遊んだことある連中もいたけど、別に個人的に仲良かったわけじゃないし。俺、小学生の時はチビで常に女装させられてたせいで、浩太の友達はみんな俺のこと女だと思ってたし。でかくなって声も低くなった俺の事なんて解る奴なんて誰もいなくて。まぁ、久しぶりに会ったとき浩太にもかなり驚かれたし、それは仕方ないと思うけど。でも、俺の名前すら覚えてなかったような奴が、その頃のこと持ちだして近づいてこようとしたりとか、そういうのが本当にうざかった。俺が戻ってくるまで全然俺のことなんか興味なかったくせに、浩太のこともあれこれ巻き込んで。小さい頃遊んだことない奴もそんなに変わらない。中学の時は俺もあんまりそういうの慣れてなかったから、簡単に女の手に引っかかってさ。勉強教えてとか言われて見てやってたら、だんだん変な方向になってってとか。まぁ、最初だけでも本当に勉強してるやつは良い方か。最初から全然勉強と関係ないことばっか話されてとかもざらだったし。おかげで俺の受験勉強邪魔されたし。本当、女ってうざい。自分の都合ばっかで全然人のこと考えないで。女全般そうって訳じゃないんだろうけど、でも、とりあえず恋愛関わると面倒くさいって思う。」

 そう言って、遙は目を伏せた。

 「俺さ、正直恋愛とかよく解んないんだ。姉さん達が人の前で普通に着替えるわ、下着姿で彷徨くわ。俺のこと女装させるのに、自分達の着替えと一緒に脱がしてきて着せ替え人形にしながら服選びとかしてくるし。抱きついてきたりなんだりもしょっちゅうだったし。そういうのが恥ずかしいとかそういう時期もあったけど、俺がそういう反応するのを、あいつら凄くからかってきて。からかわれて遊ばれて、本当悔しくて、腹が立って。だからそんな時期なんてすぐに終わった。今更ちょっとやそっと女のなんか見たって、抱きつかれようがなんだろうがしたってなんとも思わないというか。ドキドキとかしたことがない。むしろくっつかれたりすると、何してんのって思うし。誘ってるようなことされると本当に苛つく。告白されても、あっそとしか思ったことないし。俺のことよく知らないくせにとか思っちゃって。そういうのそのまま口に出して、酷いとか言われて泣かれて。そういうのも本当、面倒臭いとか思って。浩太が花月ちゃん花月ちゃん言ってるのも、ことあるごとに遙ちゃんどうしようとか言ってくるのも、本当にうるさいとか面倒臭いとか思って、そんな風になる気持ちなんて全然理解できなくて。全然理解できなかったはずなのに。こうやってすぐ近くでずっと浩太の恋愛模様見てたら、そういうのも悪くないのかなって。うざいとか面倒くさいだけじゃないのかなって。なんか、今までの俺の恋愛に対する嫌悪感って言うかそういうのがなくなってきた気がする。浩太はうるさいし、本当面倒くさいけど、でも、浩太の恋は良いなって思う。」

 そう言って、遙はガラス戸の向こうの浩太を眺めた。

 「浩太、花月と出会って本当に変わった。どこの誰かも解らない奴に一目惚れしたってきいたときは呆れたし、浩太の自分勝手な片想いに苛ついた時もあったけど。でも、今は本当に良い影響受けてるなって思う。花月にちょっと何か言われるだけで浮かれちゃって何アレって思うこともあるけど、浩太が惚れた相手が花月で良かったなって思う。そう、浩太の相手は花月じゃなきゃダメなんだ。俺は、浩太の恋を応援してるから。花月の相手は浩太以外は認めないから。だから、もし健人が花月に気があったとしても、花月に手を出すのは許さないから。まぁ、花月の方が健人に惚れてっていうならしかたないとは思うけど。でも、皆、浩太が花月のこと最初から好きだって知ってるんだから、浩太がちゃんとフラれるまで、他の誰かが浩太より先に手出すなんて認めない。そんなことしたら、そいつのこと俺は絶対許さない。」

そう口に出して遙は胸が締め付けられた。そう、花月の相手は浩太以外認めない。他の誰も認めない。例え俺自身だって俺は認めない。どんなに花月のことを好きになってたとしても、浩太を出し抜くような事したら、俺は俺を許さない。もし浩太がフラれるようなことがあったとしても、俺だけは絶対に花月には手を出さない。出しちゃいけない。そんなことしたら浩太のこと傷つける。浩太と今まで通り友達でいられなくなる。

 「健人なら、知るかそんなもんって言いそうだけどね。好意を寄せたのがどちらの方が早いとか遅いとかそんなことは関係ないだろ。自分より先に好意を寄せていたからって、そいつに気を遣わなきゃならん意味が解らない。とか言いそう。」

キッチンからカップを持って戻ってきた光がそう言って、遙の前に紅茶の入ったカップを置き席に着いた。

 「健人が花月ちゃんのことどう思ってるかは、実際の所は解らないけど。健人が花月ちゃんを好きになっても僕は驚かないし、もしそうなら、遙君が浩太君を応援するように、僕は健人を応援するよ。」

 静かにそう言う光に見つめられて、遙は苦しくなった。

 「自分の好きなことを一緒になって心から楽しんでくれるって嬉しいよね。僕も、つい花月ちゃん相手だと話しに熱が入って、色々訊かれて促されるままに色々話したり自分の役の芝居見せたりしてたら、気付いたら健人みたいになってたってこともあるくらいで。文化祭公演の時は、そのおかげで花月ちゃんが僕の役を完璧に覚えてて、僕の代役勤めてくれて助かったし、その経験をまた心から楽しんで喜んでくれて嬉しかった。花月ちゃんはいつだって、何にでも一生懸命で要求に全力で応えてくれるし、つい求めるクオリティーがどんどん上がって遊びなんてレベルじゃない稽古になっちゃうこともあるのに。それにしっかり付いてきて、心からそれを楽しんでくれて。いつだって、楽しかったって笑ってくれて。健人はきっと、一人で没頭してやってたときよりずっと、今の方が何倍も楽しいと思うよ。花月ちゃんといるとつい、その時間に夢中になってしまう気持ちは、僕もよく解る。あの子は裏表がなくて本当に素直だから。あの子の嬉しいや楽しいは本当に心に真っ直ぐ入って来て、こっちもそれに釣られちゃうから。健人、花月ちゃんのことはとても気に入ってて、自分から良く構ってるし、気にも掛けてる。健人があんな風に接する女の子は花月ちゃんがはじめてなんじゃないかな。だから、健人が花月ちゃんのこと好きになっても僕は驚かないし、もしそうなったら僕は健人を応援する。だから、遙君には悪いけど、僕は浩太君に譲歩はできないよ。」

 そう言いながらガラス戸の向こうに視線を向ける光を見て、遙は、そうと呟いて自分もガラス戸の向こうに視線を向けた。

 「僕も、前付き合ってた彼女とよくああやって一緒に過ごしてたんだ。まぁ僕の場合、彼女も元々演劇好きの演劇経験者だったんだけどね。僕は中学で一回演劇やめてて、高校生の時は演劇部には所属してなくて。彼女は僕らが通ってた高校の演劇部のレベルが低すぎて、こんなとこで演劇したくないって退部しちゃって、自分の思うような演劇ができる場所がなくて、演劇がしたくてしたくてしょうがない気持ちをもてあましてて。たまたま観劇に行ったときに同じ公演観てて、鉢合わせて捕まっちゃって。最初は彼女に半強制的に付き合わされて、二人だけの、本当に小規模な演劇部の活動をしてる感じだった。でも、二人で稽古して、ちょっとした芝居なんかしたりして、観劇に行って沢山話して。凄く楽しかった。彼女とそうやって過ごしたから、演じることが楽しいって思い出せて、やっぱ僕は演劇が好きだなって実感できた。また演じたいって思えるようになった。また舞台に立つことに前向きになることができた。色々あって別れちゃったけど、彼女と過ごせた時間は本当に幸せで、今でも僕を支えるかけがえのない大切な想い出なんだ。だからかな、花月ちゃんと一緒にいる健人見てるとなんか微笑ましいというか。あんな時間をずっと続けて欲しいなって思う。健人を応援するって言っても見守る程度で、別に浩太君の邪魔しようとかそういうのではないから、安心して。でも、まぁ、そもそもが健人はこうって決めたら一直線だから、外野がどうこう言ったって実際に好きになったら止まらないんじゃないかな。好きだって認識した瞬間に告白したりして。」

 そう言って苦笑気味に笑う光に視線を戻し、遙は、本当にそうなる前に浩太の奴さっさと告白しないかなと呟き、紅茶を一口飲んだ。

 「誰かに横取りされて嘆く浩太とか見たくないし。想像しただけでうるさそうで、面倒くさいんだけど。」

 「どうだろうね。案外そういうときは静かかもよ。ショックで嘆くパワーもなくなるんじゃないかな。」

 「静かな浩太とか想像もつかない。っていうか、凄い不気味なんだけど。ねぇ、話し変わるんだけどさ。光ってその元カノにまだ未練があるの?」

 そう訊くと、光は一瞬驚いたような顔をして、困ったように笑った。

 「どうだろう?未練がないと言えば嘘になるかな。嫌いになって別れた訳じゃないし。当時の僕にとっては本当に特別でかけがえのない人だったから。でも、僕が彼女を酷く傷つけて、それで、別れることになったから。今、彼女がどうしてるのか知らないけど、でも、今でも僕のこと気に病んでないと良いなって思う。あの時僕を見捨てたって自分のこと責めてないといいなって思う。凄く優しい人だったから。」

 そう言って思い悩むように視線を落とす光を見て、遙はふーんと言った。

 「そいつの今が気になるなら連絡してみればいいのに。」

 「いや。別れた彼女に連絡するってなかなかできないよ。相手はもう僕となんかと話したくないって思ってるかもしれないし。急に連絡したら驚かせるだろうし、今更何ってなるだろうしさ。怒って拒絶してくれるなら良いんだけどね。話したらまた傷つけてしまうかもしれないって考えたら、怖くて連絡なんてとても。うん。未練がないと言えば嘘になる。でも、彼女はもう僕の過去だから。また彼女ととは思っていないし。このままお互いの今を知らないままが良いんじゃないかなって思う。」

 「なんか複雑だね。」

 「そう、複雑なんだよ。」

 そう答える光を見て、遙はやっぱ恋愛って面倒くさいと思った。付き合うまでも、付き合った後も色々ある。うまくいってもその先もずっとそれが続くとも限らない。どんなに仲が良くても、いつかは終わるときが来るかもしれない。そう思うと凄く複雑な思いがした。

 「浩太と花月もいつかそんな風になるのかな?」

 そんな遙のぼやきを聞いて光は疑問符を浮かべた。

 「あいつらあんなに仲良いのに、浩太の片想いが実っても実らなくても、いつかそうやって離ればなれになって、お互いのこと知らない方が良いって思うようになるのかなって思ってさ。恋愛って面倒臭いね。」

 そう本音を漏らして、遙は視線を落とし紅茶を口に運んだ。仲良く過ごす浩太と花月の姿を頭に描いてなんとも言えない気持ちになる。いつか離ればなれになってお互いのことを知らない方が良いと思うようになる。そんな関係にはなって欲しくない。例え離れるときが来ても、二人にはずっと笑い合える仲でいて欲しい。それは俺のわがままで、恋愛においてはそんなわがまま通用しないんだろうな。だから、浩太は二の足踏むんだよな。ずっと花月と笑い合っていたいから。でもきっと、花月が他の奴と付き合うことになっても浩太は今みたいに心から一緒に花月と笑い合うことはできなくなる。そう思うから俺は。二人にはずっと今のままでいて欲しいから俺は。俺は恋愛なんていらない、友達のままでいい。ずっと友達のままが良い。花月は浩太以外の誰かとは絶対付き合って欲しくない。そう思ってモヤモヤする。

 「付き合ったらそのままずっと仲良くいられる人達もいるだろうし、別れても友だち付き合い続ける人達もいるから、皆が皆僕みたいになるわけじゃないけど。でも、やっぱ、難しいよね、恋愛って。友だち付き合いとも違うし。恋なんてしたくないとか、しなければとか、そう思ってしまう人の気持ちも凄く解るよ。僕は実際そう思ってたこともあるし。実は今も少しだけ、恋をすることが怖い。でも、恋愛は悪い物じゃないって思えるのは、僕にとって彼女といた時間がとても大切でかけがえのない物だったからだと思う。辛い想い出でもあるし、苦い記憶でもあるけど、それでも。それがあるからこその今の自分だって思えるから。あの時間があったからこそ立ち直れたことも、乗り越えられたことも、あの別れを経験したからこそ踏み出せた一歩もある。別れたからって、上手くいかなかったからって、全部が台無しになるわけじゃないんだよ。彼女と過ごしたあの時間は確実に僕の中に息づいてる。だから僕はもう恋はしたくないとは思わない。まだ違う誰かと想い合うことができたなら、その時は、なんて期待してしまう自分もいるんだ。なんか、こういう話しをするのはちょっと恥ずかしいね。」

 そう語る光の声が耳の中を通り過ぎて、遙は遠くの方を見た。俺もいつか光みたいにこう言えるようになるのかな。未来の自分は、この葛藤や息苦しさがあったからこそ今の自分がいるんだって言えるようになるのかな。恋愛は悪くないって言えるようになるのかな。浩太の恋が実るとき、それは俺が失恋するときだけど、それでも今まで通りちゃんと二人の傍にいれるのかな。自分の気持ちを隠したまま、ちゃんと二人とずっと友達でいられるのかな。解らない、解らないけど、でも今は凄く苦しい。俺、本当バカみたい。


         ○                           ○


 「遙ちゃん。今年の夏休みどうする?今年も一緒にイタリアのばーちゃん所行く?一緒に行くなら遙ちゃんの分も飛行機の座席とっておくって。」

 七月に入ってすぐのある日、浩太にそう訊かれて遙は、どうしようかなと呟いた。

 「今年も一緒に行こうかな。ここに残っててもヒマだし。姉さん達の襲撃に遭うのも嫌だし。お前とイタリア行った方が楽だし楽しいし。」

 「じゃあ、遙ちゃんも行くって母さんに伝えとくね。」

 「よろしく。てかさ、夏休みの前に、お前期末テスト大丈夫なの?」

 そう訊くと、ちゃんとテスト勉強してるから大丈夫、と返ってきて、遙はそりゃそうだよね、毎日勉強してんだしと思って視線を逸らした。浩太は一年前の浩太とは違う。普段から勉強しているし、ちゃんとテスト前にはテストに備えた勉強もしてる。嫌々じゃなく、本当に楽しそうに。解らなくてふて腐れたり、いじけモードに入っている事もあるけど、前みたいに逃げたりせずに、花月や光に訊きながら解るまでちゃんと勉強してる。そして解るようになると大はしゃぎして、花月と喜び合って。見ていて微笑ましくて、とても苦しい。

 「俺、中間は進学クラスの総合三位だったんだ。期末は総合一位目指そうと思って香坂さんに苦手科目に重点置いたテスト対策立ててもらったんだよね。一位とかとれたら格好良くない?絶対、花月ちゃん一緒に喜んでくれるし。それ想像するだけでマジでモチベーションがん上がりなんだけど。」

 そうやって楽しそうに話す浩太を見ながら、テストの結果が返ってきたときの二人を想像して遙はモヤモヤした。浩太よかったね。凄いね。そう言って、浩太と一緒に自分のことのように喜んでいる花月の姿が目に浮かぶように想像できる。一通り一緒にはしゃいだ後、本当に嬉しそうに照れたような顔をして笑う浩太の姿も。本当、お似合いじゃん。そう思って苦しくなる。そんな二人を目にして俺は、普通にいつも通り、へー浩太やるじゃん、バカ校とはいえ進学クラスは普通の高校くらいの偏差値あるのにとか、二人に混じって言えるんだろうか。想像だけでこんなに苦しくなるのに、実際にそれを目の前にして、俺はそこに入っていけるんだろうか。そう考えて辛くなった。

 「せっかくなら、イタリア行くの花月も誘ったら?お前のばーちゃん家ムダに広いし部屋余ってるじゃん。去年の夏休みは、あれだけ花月と遊びに行くって意気込んでたのに、結局、夏祭りも花火大会もここの皆で一緒にでかけて、全然花月と良い雰囲気になれなかったでしょ。イタリアなら普段一緒にいる皆とも離れてお前の領分で花月と過ごせるし、今年こそはなんかそういう雰囲気になれるように頑張れば。」

 そう言うと浩太の顔が一気に赤くなってあわあわし始めて、遙はあーこりゃダメだと思った。

 「まぁ、イタリアにはお前の従兄弟達もいるし。あいつらさすがイタリア人だから、花月は連れてかない方がいいかもね。お前もすぐかわいいとか言うし、女の子に優しくするのは当たり前でしょって誰彼構わず女に優しくしてるけど。肝心の本命相手にアタックできないお前と違って、あいつらはガンガン愛情表現しまくり、ボディータッチ当たり前だからね。花月みたいによく食べて良く動く天真爛漫なタイプ好きそうだし、花月も男のあしらい方なんて知らないからあいつらのノリに流されて、気が付いたら従兄弟のどっちかにとられてたとかあるかもしれないしね。」

 そう言うと、赤くしていた顔を今度は青くして、それすげーリアルに想像できてちょっとしゃれになんないんだけどと浩太がしぼんだ。いや、でもあいつらもっと肉感的なのがタイプだしとか、日本の女性は綺麗だけどうんたらかんたら言ってたしとか、ぶつぶつ言っている浩太に、あいつ意外と胸あるけどねとか、その日本人女性像にあいつは当てはまらないけどねとか適当に返していたら、浩太が顔を上げ、花月ちゃんとちゃんと付き合えるまでは花月ちゃんのこと絶対イタリアには連れてかないと断言して、遙はあっそと溜め息を吐いた。

 「イタリアはともかく、少しここの皆と離れて一緒に過ごすっていうのは頑張ったら?お前だっていつまでも花月とこのままでいたいわけじゃないでしょ。少しぐらい頑張んないと、本当いつまで経っても友達止まりだよ。」

 「うー。そりゃそうだけど。でも、そんなこと言われてもさ。」

 「何?浩太はやっぱ花月とこのままで良いの?友達の先にいかないままでいいの?」

 「そんなわけないじゃん。そりゃ、花月ちゃんと付き合いたいよ。付き合えたらなって思うよ。でも、ここまで一緒にいるとさ。同じ屋根に下で一緒に生活してんだよ?上手くいかなくて気まずくなったらどうしようもないじゃん。どんな顔して毎日過ごせば良いのか解らないじゃん。」

 「なに最初から上手く行かない方で考えてんの。バカじゃないの。」

 「バカって。遙ちゃん、酷い。そりゃ、遙ちゃんみたいに普段からモテるなら自分に自信持てるかもしれないけど、俺はモテないから。俺のモテ期小学生で終わってるから。」

 「何それ。本当、バカじゃない。普段モテるとかモテないとか関係ないでしょ。肝心なのは本命を振り向かせられるかどうかでさ。そいつにさえ好きになってもらえるなら、その他大勢にどう思われたってどうでも良いじゃん。その他大勢にモテたところで意味ないじゃん。その他にモテたって肝心の相手が振り向いてくれるとは限んないんだし、そもそも見た目で寄ってくるような奴等にモテたって自信になんてならない。逆に、俺の中身なんてどうでも良いんでしょって虚しくなるだけだから。」

 浩太は俺と違って普段モテなくても本命に好意寄せられてるくせに、なに言ってんのバカ。そう言いたくなったがそれは呑み込んで、遙は溜め息を吐いた。

 「とりあえずさ、俺達の地元の花火大会に誘うくらいすれば?」

 そう言うと浩太が一瞬驚いたような顔をして、地元の花火か懐かしいねと、目を細め何か思い出に浸るように呟いて、遙は疑問符を浮かべた。

 「小六の時さ、二人で観に行ったよね。」

 「毎年うちとお前の家族皆で一緒に行ってたのに、あの時はお前が今年は二人で行こうって誘ってきて、結局、変なとこ入り込んで迷子になってまともに観れなかったんだよね。」

 「そうだっけ?」

 「そうだよ。なんかお前そわそわしてて、ふらふらどっか行きまくって。仕方ないからはぐれないように手を繋いで誘導してやったのに、お前がここは人が多いからとか何とか言って引っ張ってきて、気が付いたら完全に人混み離れて林の中入り込んでて。とりあえず戻らなきゃって、歩いて来た道を戻ってたつもりが、全然元の場所に出れなくて迷子。最終的に出たとこが何故か会場とは全然別方向の神社の裏手でさ。少しは花火観れたけど、木は邪魔だしいつも観てたみたいな迫力は全然無くて。文句言ってやろうと思ったけど、冒険みたいで楽しかったねとか脳天気に笑ってるお前見たら、俺も怒る気失せちゃってさ。二人でくだらない話しして笑い合って、迷子になったとか恥ずかしいから皆には内緒にしとこうとか話し合って。でも結局、帰ったら、浴衣が結構汚れてほつれてたりしてて、花火観に行ったはずなのに二人で何してきたのって怒られたんだよ。」

 「そうだったっけ?遙ちゃんに手を引かれてたのは覚えてるけど、俺が引っ張ってったんだっけ?俺、遙ちゃんに引っ張られてただ付いてってた気がしてた。なんか細かいとこ全然覚えてないや。なんていうか、あの時遙ちゃんに、三年間イギリス行くことになったから一緒に遊べなくなるって言われた衝撃が大きすぎて、そのことばっか覚えてる。俺、地元の花火観に行ったのはあれが最後かもな。あれから花火大会の日は、遙ちゃんがいないんだなって凄く実感して、寂しくなっちゃってさ。」

 「何それ、バカじゃないの。でも本当、あの時浩太凄い顔してたもんね。まるで俺が死んじゃうみたいなさ。たった三年離れるってだけの話しなのに、なんて顔してんのって思ったもん。でも、ちょっと嬉しかったかな。俺は浩太以外まともに友達いなかったけど、浩太は他にも友達沢山いたのに、俺と暫く会えなくなるってだけであんな寂しがってくれて。」

 「そりゃ、寂しいに決まってるじゃん。俺達、自分達が物心つく前からずっと一緒にいたんだよ。学校は別々だったし、別々に過ごすことは多かったけど。でも、遙ちゃんがいない毎日なんてあの頃の俺には想像もつかなかったし。まぁ、あの頃は遙ちゃんのこと女の子だと思い込んでて、女の子として意識してて、そのうちこのままずっと同じように一緒にはいられなくなるんだろうなとは思ってたけど。今考えると悩む必要が無かったことで、本当に色々悩んではいたけど。でも、会えなくなるなんて想像もしたことなかった。どんなに関係が変わったってずっと、遙ちゃんは家族みたいに一緒にいるんだと思ってた。」

 そう言う浩太を見て、遙は胸が暖かくなって、お前って本当バカだよねと言って笑った。

 「え?なんで今俺バカにされたの?遙ちゃん酷い。」

 「良いじゃん、お前本当にバカなんだからバカって言ったって。お前の脳天気でバカなとこ、俺は嫌いじゃないよ。というか、むしろ好き。浩太はずっとそのままバカでいなよ。」

 「なんか、凄い言われようしてる気がするんだけど。」

 「褒めてんだから喜べば?」

 「いや、それ確実に褒めてないよね。」

 そう言い返してくる浩太を見て、遙は声を立てて笑った。それを見た浩太が諦めたように、まぁ、なんか遙ちゃん楽しそうだからいいや、と呟くのを聞いて目を細める。

 「地元の花火大会。本当に花月のこと誘いなよ。小さい頃は毎年行ってたんだし、あそこなら誰にも邪魔されず浩太の独擅場でいけるでしょ。少しは頑張れ。というか、少しも頑張らずにうだうだ言われるのマジでうざいから。うだうだ言うなら少しは行動しな。俺も応援してあげるから。」

 「地元の花火に誘うって言っても、うちの花火終わるの九時過ぎじゃん。ここ、俺達の地元からちょっと離れてるから帰ってくるの深夜になっちゃうし、花月ちゃん基本夜更かしできないから、電車で寝落ちとかしちゃったら大変じゃん。」

 「そんなの実家に泊まってくれば良いでしょ。」

 「え?俺ん家に花月ちゃん泊めるの?うち、遙ちゃん家やばーちゃん家と違ってゲストルームとかないよ。俺の部屋なんて論外だし、面識ないのに玲薇(れいら)の部屋で花月ちゃん寝かせてって言うのもおかしいし。そもそもなんて言えばいいのか解らないし。」

 「じゃあ、姉さん達に言っといて花月はうちに泊まらせれば?あいつらのことだから、ついでに絶対嬉々として花月のこと花火デート用に仕上げてくれるよ。」

 そう言うと浩太が顔を赤くして、デートって、と言葉を詰まらすのを見て、遙はまた溜め息を吐いた。

 「全く、そんなんでどうするの。デートって言葉だけでそんな反応しちゃってさ、本当バカじゃない。そもそも一緒に生活してて毎日のように一緒に遊んでるんだから、遊びに出掛けて実家泊めるのなんて普段の生活とたいして変わらないでしょ。」

 「いやいや変わるよ。ここでの生活と実家に連れてって泊めるんじゃ大違いだから。実家に泊めないとしても、遙ちゃんのお姉ちゃん達に仕上げられた花月ちゃんと二人っきりとか、俺、ドキドキしすぎで死んじゃうから。絶対、かわいい。っていうか、絶対凄く綺麗だし。想像しただけで、俺、マジやばい。二人きりとかムリだって。普段着ならともかく。普段通りならともかくさ。完全俺の領域でそんな花月ちゃんと一緒なんて。俺、マジでムリ。本当、ムリ。本当、俺何するか解らないから。俺の部屋とか絶対入れないよ。入れないけど。でもなんかの流れで俺の部屋に花月ちゃんがとか考えただけでもうさ。マジ、死にそう。ってか、部屋に来ないとしてもさ、ドキドキしすぎて訳わかんなくなって勢いあまって告白とかしちゃったらどうするの。俺、どうしたら良いの。」

 「すればいいじゃん。っていうか、そのための行動しなって俺ずっと言ってるんだけど。」

 「ムリだよ。」

 「なにそれ。まったく。じゃあ、俺も一緒に行ってあげるから。それならどう?もちろん俺は浩太ん家泊まるけど。」

 「あ、それなら大丈夫かも。遙ちゃんが一緒なら俺、少しは落ち着いてられる気がする。」

 「まったく。本当、お前ってさ。まぁ、それでいいならならそれでいこう。」

呆れかえってそう言うと、浩太が心底ホッとした様に笑って、ありがとうと言ってきて、遙は小さく苦笑した。

 そしてあっという間に時が過ぎ、テストが終わって、夏休みを迎えて、今年も浩太と一緒にイタリアに行って。そんなこんなしているうちに気が付けば、八月も半ばを越えていて、遙は時間が経つの早いなと思った。浩太と話してたときはまだだいぶ先って思ってたのに、もう花火大会当日かよと思って変な感じがする。

 花月を連れて、浩太と三人で地元に戻り、遙は何で俺ここにいるんだろうと思った。花火を楽しみに仲良く話しながらはしゃぐ二人を見ていると、別に俺付いてくる必要なかったんじゃないなんて思う。そして、時折話しを振られて、二人の輪の中に入れられて、なんとなく胸が締め付けられる。三人でまず遙の実家に行き、柏木家次女三女の双子に出迎えられた。久しぶり、元気にしてた?から始まり。テンション高く、相変わらず小さいだのかわいいだのなんだのと言いながら、花月を抱きしめたり、頭を撫でたりしている姉たちを見てうんざりする。

 「浩太君、この前合ったときも思ったけど、去年より大きくなったよね。」

 一通り花月を愛で終わった姉たちの矛先が変わる。

 「そう?身体測定の時、身長伸びたは伸びたけど、一㎝しか伸びてなくて残念だったんだけど。春からちょっと伸びたかな?」

 「うーん。背が高くなったというより逞しくなった感じ?」

 「あー。解る。去年はまだまだ男の子って感じだったけど、男の人って感じになってきたよね。」

 「あー。そうそう。それだ。身体付きや顔つきが大人になったなって感じ。もう高校二年生だもんね。いつまでも男の子じゃないわよね。」

 「こうやって見ると浩太君って小柄なわりに良い身体付きしてるよね。もしかして腹筋とか割れてたりするの?ちょっと脱いでお姉さんに見せてみない?」

 「え?ちょっと、それは・・・。」

 「せっかくなら浩太君も浴衣着て、男の色気とか出してみる?今の浩太君なら結構良い感じに仕上げられそう。」

 「なっ?え?男の色気?え?」

 「浴衣も良いけど、浩太君なら甚平の方が良くない?」

 「えー。絶対浴衣でしょ。」

 「甚平の方が浩太君の少年らしさをより魅力的に引き出せると思うけど。」

 「せっかく大人っぽくなったんだし、少年らしさより大人の男性の方に寄せたほうが魅力的だって。」

 「そんなのこの先いくらでもできるでしょ。少年から大人の男性に移り変わる今だからこそ、少年にピントを当てつつそこにちょっと大人テイストを加えるのがいいんでしょ。」

 「それもそうね。でも、その微妙な年頃だからこそ、大人の男に寄せて仕上げることでたまに覗く少年が光るんじゃない?」

 「あー。そう言われるとそれも捨て難い気がしてきたわ。もう、こうなったら、実際に浩太君に色々着せて考えましょう。」

 「そうね。それが良いわ。」

 そう本人を置き去りにして話を進める遙の姉達を見て、浩太は、俺荷物置きに自分家行ってくると捕まる前にその場を逃げ出した。じゃあまた後でねと去って行く浩太を見送って、花月が行っちゃったと呟く。

 「あー。逃げられちゃった。」

 「せっかく格好良く仕上げてあげようと思ったのに。」

 そう口々に残念がる姉たちを横目に遙は溜め息を吐いた。

 「浩太君は大人っぽくなったけど、遙ちゃんは全然変わらないわね。」

 「相変わらずの美少年。女装して浴衣着て、花月ちゃんと姉妹コーデしない?」

 「絶対しない。そもそも女装道具、光にあげちゃったからできないから。」

 「あんな道具に頼らなくても、わたし達の実力なら色々工夫して、遙ちゃんのこと完璧に女の子に仕上げてあげるわ。」

 「そういうの本当にいらないから。本当いいかげんにして。」

 「あら、小さい頃は喜んでやってたのに連れないわ。」

 「かわいくしてあげると凄く喜んで、自分からこれが良いとか言っちゃって凄くかわいかったのに。」

 「それ、いつの話しだよ。幼稚園とかそんくらいの頃の話しでしょ。それ、まだ俺に性意識がなくて、男が女の格好するのがおかしいとかそういう認識がなかっただけだから。」

 「あら、そう?嫌だ嫌だ言いながら、遙ちゃん案外楽しんでると思ってたのに。ねー。」

 「そうよね。絶対、遙ちゃん楽しんでたわ。遙ちゃんナルシストで自分の女装姿好きだし。ねー。」

 そうやって顔を見合わせる姉たちに無性に腹が立って、遙はふざけるなと怒鳴っていた。

 「本当、いいかげんにしてよ。俺は男だし、女の格好なんてしたくないんだよ。人で遊ぶのも本当にいいかげんにして。いくらひょろくても俺も男なんだよ。いいかげん男扱いしろよ。俺だっていつまでも子供じゃない。」

 そう怒鳴り散らして、遙は俺はいったい何に怒ってるんだろう思った。今までいいかげんにしろとか、ふざけるなとか散々言ってきたけど、こんな風に姉達に怒鳴ったことはなかった。どうせ言っても聞かないから。抵抗するだけムダだから。それもあるけど、本当は姉の言う通り少しだけ女装を楽しんでる自分がいて、それをさせられることを受け入れている自分がいた。ただ、それを認めるのが嫌だった。認めて嬉々として着せ替え人形にされるのはもっと嫌だった。女扱いは嫌だ。男扱いされたい、男として認めて欲しい。その上でなら、少しくらい姉たちの趣味に付き合っても構わなかった。合う洋服をあれこれ考えるのは楽しい。そこにある洋服の中から選ぶことも、自分で考えてデザインすることも。自分自身に似合う物を探すのも同じ。それが男の格好でも女の格好でも自分に似合うならどんな格好だって本当は構わない。でも、それでも俺は。どんな格好してたって俺は、俺なんだ。男なんだ。女の格好してるからって女扱いされるのも、女のフリするのも、色々変な目で見られるのもまっぴらだ。俺は俺のままでいたいだけなんだ。

 「花月、部屋に案内する。行こう。」

 そう言って、花月の荷物を手に取り反対の手で彼女の手首を掴んで引っ張って、自分に怒鳴られてきょとんとしている姉たちを置いて遙はゲストルームへ向かった。何故か浩太が大人の男になってきたと言われていたことが頭を過ぎって苦しくなる。浩太なんてチビなのに、中身は本当子供のままなのに。どうしてあいつは男扱いされて、俺はいつまでもこんな扱いなんだよ。そんな悪態が頭の中を駆け巡ってどうしようもない気持ちになった。握る花月の手首の細い感触がやたらと意識に入ってくる。手を引いて、簡単に引っ張れてしまう彼女の存在が、普段よりやたらと軽く小さく感じて苦しくなる。そして浩太の姿が頭に浮かんでどうしようもない気持ちになる。なんで浩太なんだ。浩太ばっかり。浩太のくせに。脳天気で明るくて、お調子者でいつも沢山の友達に囲まれて、なんだかんだでいつも皆の中心にいて。浩太はいつだって俺が持ってない物全部持ってた。なのに。いつだって浩太は、遙ちゃん遊ぼうって言って、自分に笑いかけて手を差し伸べてきて。浩太がいたから俺は。でも、浩太がいるから俺は。浩太が羨ましい。いつだって好きなことばっかやって嫌なものは投げ出して逃げ出したってどうにでもなって。いつだって笑って許されるあの性格が。器用さが。太陽みたいなあの明るさが。羨ましい。ズルい。浩太ばっかり。なんで浩太なんだ。浩太なんか。

 ゲストルームのドアを開け、遙は荷物を下ろしてそこに視線を落とした。俺はいったい何にこんなに苛ついてるんだろう。凄く胸が苦しい。何で今、こんなに浩太と自分を比べてどうしようもなくなってるんだろう。別に浩太みたいになりたいわけじゃないのに、なんでこんなにもあいつが羨ましくて、妬ましくてどうしようもなくなってるんだろう。バカじゃないの。

 「遙?」

 戸惑ったように自分を呼ぶ花月の声が聞こえて、遙は彼女に目を向けた。不安そうに自分を見上げる彼女と目が合って。握ったままの彼女の手首が酷く華奢に感じて。彼女に非力扱いされたときのことが頭に過ぎって。遙は何故かカッとなって発作的に彼女を壁に押しつけていた。

 「俺はそんなに非力じゃない。俺だって、ちゃんと男なんだ。」

 そう口にした自分の声がやたらと遠くに聞こえた。壁に押しつけた彼女の存在がやたらと近い。彼女の顔がいつもよりずっと近くにあって、その唇が、目に入って・・・。

 「大丈夫?」

 そう言う花月の声が耳に入って、遙はハッとした。少し視線を上げ目があった彼女が心配そうに自分を見つめていて、遙はごめんと言って彼女を離した。俺、何してんだろ。今なにしようとしたんだろ。本当、バカじゃないの。バカでしょ。こんなこと許されない。そう思って自己嫌悪にうちひしがれる。

 「本当、ごめん。なんか俺、凄く苛々して。」

 なんとかそう言葉にして、遙は花月から視線を逸らし背中を向けた。彼女にどんな顔を向ければ良いか解らなかった。

 「ちょっとビックリしたけど、大丈夫だよ。」

 脳天気な花月の声が背中から聞こえる。

 「本当にごめん。俺。お前に酷いこと。だいぶ強く握っちゃったけど、手首痛くなってない?」

 そう言う自分の声が泣きそうになっているのを感じて、遙はなんとも言えない気持ちになった。

 「少し赤くなってるけど平気。気にしなくても大丈夫だよ。わたし、遙に酷いことされたって思ってない。遙、前も女装させてわたしと姉妹コーデ?させようとする陽葵(ひまり)陽愛(ひより)と喧嘩してたもんね。女装嫌だって、させられたくないからあまり実家帰りたくないとか、陽葵達がサクラハイム来るときはわたしに代わりに相手してって言ったりしてたし。嫌だって言ってることまた言われたからついカッとなっちゃったんでしょ。なんか、カってなると、壁とか殴っちゃうもんなんだって。一臣なんて、気が付いたら家の中メチャクチャにしてたって言ってたよ。遙、壁バンってしてたけど、わたしには当たらなかったし。大丈夫だよ。わたし全然気にしてないよ。だから遙も気にしなくて平気だよ。」

 自分が何をしようとしたのか全然解ってない様子でそんな風に自分をフォローしてくる花月の言葉に、遙はなんとも言えない気持ちになって、苦しくなった。

 「それにしても、遙って案外力強いんだね。ぐいぐい引っ張るから、ちょっと待ってって止めようとしたのに、全然びくともしなかったや。」

 そしていつもの調子でそう続ける花月の声を耳にして、遙は呆れたような気持ちになった。本当、脳天気。って言うか警戒心なさ過ぎ。今俺が何しようとしたと思ってんの。俺、今お前に・・・。そんなことを考えてまた苦しくなる。俺のアレは、花月が言っているようなそんなんじゃない。そんなんじゃ。結局、さっきの苛々は浩太に対する嫉妬心ってことだと思う。それで衝動的にあんなこと。本当、バカじゃないの俺。そんなことを考えて自分が嫌になる。

 「大丈夫だよ、遙。遙はちゃんと男の人だよ。ちゃんと、男の人だよ。」

 そんな花月の真剣な声音が耳に入って、遙は彼女を振り返った。声の通り真剣な顔でこっちを見ている彼女が目に入って、なんだか可笑しくなる。

 「急に何言ってんの?しかも、二回も繰り返す意味がわからないんだけど。」

 「え?それ気にしてるんじゃないの?」

 「別に。っていうか、そもそもお前が人のこと女より非力扱いしたくせに。何がちゃんと男だよ。」

 「ごめん。だって、遙が重労働してるとこ見たことなかったし。湊人に女性陣に働かせてないでお前もちょっとは手伝うっすよとか言われても、いつもあーだこーだ言ってやらないから、力弱くてできないのかなって。」

 「そんなわけないでしょ。他に人手いるのにわざわざ俺もやる必要ないでしょって思ってるだけで、別にできないわけじゃないから。それに、誰も手伝う奴いないときくらいちゃんと管理人さんの荷運び手伝ってるし。お前の場合は馬鹿力だから手伝う必要がないと思ってやらないだけだからね。」

 「そうだったんだ。あ、でも、今のでちゃんと遙も力強いんだなって解ったから、もう非力扱いしないから。」

 「ありがと。でも、馬鹿力のお前に力強いって言われると凄く怪力っぽく聞こえるからやめて。それ聞いた奴にお前を基準にして考えられても困るし。」

 「わたし、そんなに腕の力はないよ?」

 「何言ってんの。下手すると自分の体重の二倍近くありそうな物持ち上げて運べる奴が、腕の力ないとかありえないし。」

 「そんなことないよ。わたしそんなに力ないよ。前、皆と腕相撲して遊んだときお姉ちゃん以外には勝てなかったもん。それに荷運びはコツだからそこまで力いらないんだよ?」

 「なにそれ。そもそも皆って誰がいたの。俺、そんなことしてたの知らないんだけど。」

 「遙、浩太とイタリア行ってたから。光達や一臣も合宿でいなかったし、あの時いたの、お姉ちゃんと、湊人と、祐二、耀介、わたし。」

 「あー。去年の夏休みの話しか、それ。」

 「うん。晩ご飯の時だったかな?なんかテレビで腕相撲大会しててなんか凄く盛り上がってて。わたしあの頃腕相撲って知らなかったからアレ何って、わたしもやってみたいって言ったら、皆が付き合ってくれて。楽しかったよ。因みに湊人が優勝して、耀介が片岡さんって案外強いっすねって言ってた。湊人と耀介の対戦、中々決着付かなくて凄かったんだよ。お姉ちゃんは全員に瞬殺されて最下位で。わたしは、湊人と耀介には普通に負けて、祐二の時は踏ん張ったけどダメで、四位。湊人に、祐二くらいなら普通にいけるかと思ったけど意外とダメだったっすねって言われて、耀介が連戦した最後っていうのもあるんじゃないっすかって。だから、わたしの腕相撲の実力は、祐二とどっこいどっこいってことなのかな。サクラハイムの皆全員でやったら誰が優勝するんだろ?」

 「普通に考えて一臣じゃない?あーでも、ムキムキ度でいったら耀介も結構なものだし。耀介倒したなら意外と湊人って可能性もあるかも。健人もいい線いきそうだよね。あと、ダークホースが光。最下位は確実に管理人さんでしょ。」

 「浩太は?」

 「浩太は優勝争いの候補には入らないんじゃない?」

 「そうかな?浩太も結構力あるよ。一臣とそんな変わらないんじゃないかなって思うもん。」

 「何言ってるの。確かにあいつ運動神経だけはいいし、チビの割にがっしりしてるけど、一臣と同列にするのはちょっと言いすぎでしょ。精々俺と祐二に勝てるくらいだと思うけど。」

 「言いすぎかな?確かに一臣大きいしムキムキだけど。でも、浩太も凄いんだよ。わたしが転びそうになった時、普通に支えてくれたもん。浩太って皆といると小さく見えるけど、支えてくれたとき、ずっと大きくて逞しくて。なんか凄く頼もしい感じがして、安心感があったよ。」

 そう言ってはにかむように目を細める花月を見て、遙はモヤモヤして、あっそと呟いた。浩太のこと考えてこんな顔して。もう本当、こいつ浩太にべた惚れじゃん。最初から解ってたけど、俺の入る余地なんてどこにもない。そんなことを考えて、遙はよく解らない喪失感に胸が締め付けられた。

 「あのさ、遙。ちょっと思ったんだけど、遙もちょっと逞しくなった?さっき、陽葵達が浩太に言ってたけど、遙もちゃんと大人の男の人になっていってるんじゃないかな?」

 「なにそれ。あいつらに言われたこと俺が気にしてると思って慰めてるつもり?」

 「そうじゃなくて、なんとなく。本当にそう思ったから。」

 そんないつも通りの花月の調子に毒気が抜かれて、遙は小さく笑った。

 「まぁ、実際春に比べたら多少筋肉付いたんじゃない?お前が俺のこと非力扱いしてきてムカついたから、あれから多少筋肉つけようかなってちょっと鍛えてるし。」

 「そうなんだ。じゃあ、そのうち遙もムキムキに・・・。」

 「ならない。そこまではするつもりないから。俺はひょろいって言われるのが嫌なだけで、マッチョにはなりたくないから。」

 「そっか、マッチョは嫌なのか。男の人って皆マッチョになりたいのかと思ってた。」

 「なにそれ。そんなわけないでしょ。バカじゃないの。」

 そんなやりとりをして、なんだか可笑しくなって遙は笑った。本当、花月といるときは、浩太といるときと変わらない。こんな言い方しても、怒らず気に病まず、そのまま当たり前にここにいてくれるって安心感があって、このやりとりにホッとする。本当、バカみたい。浩太に嫉妬して、苛ついて、対抗心なのかなんなのかよく解らないけど、衝動に駆られて花月を抑え付けて。あのまま変なことしてたら、俺は全部無くすところだった。浩太も花月も、俺の大切なもの全て俺は無くすとこだった。

 「花月ってさ、浩太に似てるよね。」

 そう言うと花月がきょとんとして首を傾げ見上げてくる。

 「脳天気で、元気で明るくて。バカなところが本当そっくり。頭の善し悪しじゃなくて、バカな部分が本当そっくり。俺が浩太のここが好きって所全部さ、お前も持ってるから。だから俺、お前の事好きだよ。」

 花月の目を真っ直ぐ見つめてそう告げる。そして、

 「俺は、浩太と同じくらいお前の事が好き。だから、お前の事も親友扱いしてあげる。」

 そう言って笑う。そうすると花月が本当に心底嬉しそうに笑って、ありがとうと返してきて、遙は胸が詰まるような感覚と共に何かが吹っ切れた様な気がした。これでいい。これがいい。これが俺が出した答え。好きな気持ちは抑えない。でも今は、絶対に花月は俺のものにならないから。だから、自分がこの恋をちゃんと諦められるか、花月の気が変わって俺に振り向くその時まで、いつも通り素直じゃない言葉で本音を伝えながら、これからもずっと二人の傍にいる。一番近くでずっと、大切な二人を見守っていく。

 「遙ちゃんが男の子だわ。」

 「遙ちゃんが青春してるわ。」

 そんな姉たちのこそこそ声が聞こえて、遙はうんざりした気持ちでドアの方を見た。開いたままのドアの影からこちらを覗いている姉たちの姿が見えて苛々する。そして見つかったのに気が付いてニヤニヤしながら部屋に入ってくる姉達の姿にまた腹が立つ。

 「花月ちゃん、荷物置いたならちょっとこっちに来て。少し髪の毛カットして整えてあげる。なんならちょっと髪型変えちゃう?まだ時間あるし。今日はどんな髪型にしようか?アップも良いけど、横に流してちょっとウェーブ入れてみるのもいいかも。花月ちゃんいつもストレートだし、雰囲気変えてみる?あー、もう。迷っちゃう。」

 そんなことを言いながら姉の一人が花月を連れて行く。

 「ヒマちゃんが花月ちゃんの髪の毛カットしてる間に、わたしが遙ちゃんのことおもいっきり男前にしてあげるわね。」

 残った姉にいたずらっぽく笑いながらそう言われて、遙ははぁ?と声を上げた。

 「遙ちゃんも男の子だもんね。たまには男らしく仕上げてあげなくちゃね。」

 「なにそれ。意味が解んないんだけど。どうせ浩太も私服でいくんだから、俺もこのままでいいし。別にそういうのいらないから。」

 「そんなこと言わないで。ちゃんと花月ちゃんの浴衣姿に似合うように仕上げてあげるから。浩太君出し抜いてぐいぐい行ってこい。恋は戦争よ。争奪戦よ。遙ちゃんにはお姉ちゃん達が付いてるわ。お姉ちゃん、全力で応援しちゃう。」

 「はぁ?なにそれ。本当、意味分かんないんだけど。別にそんなんじゃないし。」

 「もう。本当、遙ちゃんって素直じゃないんだから。なんだかんだ言って女装するの自分も楽しんでたくせに、急に男の子主張激しくなって全力拒否したと思ったら、ねぇ。花月ちゃんに非力扱いされるのが嫌で鍛え始めちゃうとか、ねぇ。あんな男の顔しちゃって。遙ちゃん、本当かわいい。」

 「うるさい。本当、そんなんじゃないから。」

 「またまた~。さっき告白してたくせに。」

 「告白なんかしてない。」

 「そうよね。相手に伝わらない告白は告白じゃないわよね。あの素直じゃない告白がまた。お姉ちゃんニヤニヤが止まらない。遙ちゃん、かわいすぎるわ。美香(みか)お姉ちゃんやお母さんにも見せたかったわ。動画に撮っておけば良かった。」

 ニヤニヤ顔でそう言ってくる姉に心底苛ついてくる。そして、そのままあーだこーだ言い返しながらも結局姉のなすがままに遙はなった。色々からかってくる姉の言葉を聞き流しながら、少しその言葉を意識している自分がいて嫌になる。こうやって周りからとやかく言われるのは嫌だ。俺には俺のペースがあるし、やり方もある。でも、なんだかんだ言ってもこうやってあいつに合わせて仕上げられるのは嫌じゃない。嫌じゃないけど、喜べない。喜びたくもない。喜んだら調子に乗せるだけだし。そんなことを考えてモヤモヤする。

 自分の支度ができて、花月の支度ができるのをリビングで待ちながら、遙は今のうちにこれ脱いで元の私服着とこうかななんて考えていた。あいつに合わせてこんな格好させられたの浩太にどう言い訳すればいいの、なんて考えて、何で俺が言い訳しなきゃいけないの、意味分かんないしと心の中で毒づいてみる。浮かれてる自分がいて嫌だ。それと同じくらい浩太に後ろめたくなってる自分もいて嫌だ。この葛藤はいつになったら終わりがくるんだろう。そう思って辛くなる。

 「おまたせ。」

 そう言う花月の声が聞こえて、遙は声の方を振り向いた。

 「姉さん達にしては支度早かったじゃん。もっと時間かかるかと思ってた。」

 そう言いながら立ち上がり、彼女に笑いかける。

 「さすが花月。和装よく似合うね。髪の毛、ゆるめに編み込んで横に流したんだ。浴衣と髪型は普段より大人っぽい感じにしたのに、化粧はよく未成年のタレントなんかがしてるようなナチュラルスッピンメイクなんだね。普段も似たようなもんだけど、使ってる色のせいかな?今日のメイクの方が普段より少し幼く見える。格好と合わせると綺麗系の女子高生って感じ?まぁ、年相応はお前の中身と合わないから丁度良いんじゃない。少しは子供っぽさが残ってる方がさ。うん。花月っぽい。」

 そう言うと、ありがとうと笑い返してきた花月が、遙も浴衣よく似合ってるね、普段より体格良く見えてかっこいいと言ってきて、遙はちょっと照れくさくなってそっぽを向いた。

 「花火には時間早いけど、浩太ん家行こう。俺も荷物置きたいし。花火はまだでも出店はやってるから、出店回って早めに場所取りして待ってても良いんじゃない?せっかく来たのに場所取り出遅れてまともに花火観れないのも嫌でしょ。」

 そんなことを言って、花月を玄関に向かうように促す。そしてリビングのドアを開けて、廊下にニヤニヤして立っている姉達を見て溜め息を吐く。普段なら絶対、遙ちゃん遙ちゃん、見て見て花月ちゃんかわいいでしょ、綺麗でしょ、今日はこんなイメージで、ここをこうして、これがあーでとか、仕上がった花月を連れて自慢しに来る姉達が来ないと思ったら、花月一人を差し向けてこんなところで傍観して。そんなことを考えて苛々する。

 「やっぱ、二人並ぶとお似合いだわ。」

 「本当、素敵。遙ちゃんが女装は嫌だって言うから姉妹コーデは諦めて、カップルコーデに変更したけど。これはこれでいいわ。本当お似合いだわ。二人とも本当に美人なんだもん。そのままポスターにでもして飾りたいわ。」

 「遙ちゃん、女の子の格好もよく似合うけど、こういう男らしいのも似合うようになったのね。これからはそっち方面も色々試そうかしら。遙ちゃんに試す服装の幅が広がって、お姉ちゃんわくわくしちゃう。」

 「本当、花月ちゃんと合わせて色々って考えるだけでわくわくしちゃうわ。遙ちゃん、元々大人っぽくて背も高いから、線の細さをカバーしてあげると本当に男前。中性的って言うか、どちらかというと女顔のその顔も、メイクで男らしさを+してあげたし、浴衣で色気も三割増し。遙ちゃんの魅力で会場中の女の子のハートを鷲掴み間違いないわ。花月ちゃんもそう思わうでしょ?」

 「え?色気三割増し?会場中の女の子のハートを鷲掴み?」

 「会場中の女の子が、遙ちゃんの姿に見惚れてドキドキしちゃうってことよ。花月ちゃんも男らしい遙ちゃんの姿にドキドキしちゃうでしょ?」

 そう話しを振られて、なんと答えれば良いのか解らないのか戸惑う花月の手を引き、そいつらの言うことは無視していいからと、遙は姉達を押しのけて玄関に向かった。背中から、何か色々言っている姉達の声が聞こえてくるが全部無視して外に出る。扉が閉まりきる直前、遙ちゃんファイトと声が聞こえて、遙は苛々した。

 「遙、何か頑張るの?」

 「頑張らない。」

 「今、ファイトって。」

 「あいつらの言うことは本当、全部無視していいから。って言うか、あいつらが言ってたこと他で話さないでよ。俺が迷惑するから。今夜も帰ったら色々言われるかもしれないけど、あいつらの言うことは右から左にして気にしなくていいから。」

 「え?あ、うん。解った。」

 そんな会話をして、本当に全く解っていない様子の花月を見て、遙は本当にこいつってと思った。まぁ、こういうことでからかわれたりしてドギマギしたり、友達同士でそう言う話ししたりって経験自体ないだろうしな。なんか管理人さんが遠回しにそういうこと教えようとして、少女漫画とか恋愛小説とか読ませたり、恋愛物のドラマとか映画とか観せたりしてたけど、そういうのと実際って違うし。そういうのは自分と関わりのないどこか遠い話しっていうか、自分がその立場になる自覚とかもないのかも。本当、俺より四つも年上のくせに中身は小学生以下。今時の小学生の方がよっぽど花月よりませてる。そんなことを考えてため息が出てくる。

 「そういえば、それ、一臣が作ったやつ?」

 話題をを逸らそうと、遙は花月が付けている髪飾りに目をやってそう言った。

 「うん。誕生日プレゼントにくれたやつ。」

 「前にワンピ着てたときもそれ付けてたよね。どっちに合わせても違和感ないね。」

 「うん。和装にも洋装にも合わせられるように作ったんだって。」

 「さすが一臣。いつも思うけど、あいつのあのゴツい手でこんな繊細な物が作れるのが不思議でしょうがないんだけど。俺も手先器用だって自信あるけど、あいつには負ける気がする。」

 「これは生地を切って接着剤で付けるだけだから一回コツ掴んじゃえばそんなに難しくないって言ってたよ。」

 「へー。これってそんな風にできてるんだ。っていうか、花月これわざわざ持ってきてたの?来るとき付けてなかったよね。」

 「陽葵から髪の毛切らせてって言われてたから鞄に入れて持ってきた。バイト中はつけてられないから普段はつけないんだけど、せっかく一臣が作ってくれたし、お出かけの時はつけるようにしてるんだ。」

 そんな花月の言葉を聞いて、遙は投げやりに、お前って本当もらったモノ大事にするよねと呟いた。自分があげた物を大切に使われるのは嬉しい。でも、他の男からもらった物を大切に扱われるのはなんかモヤモヤする。そんなことを考えて、クリスマスに一臣が作ってプレゼントした防寒具一式を着用した花月を見て、花月ちゃんかわいい、ちょー似合ってるとテンションを上げていた浩太を思い出して、遙はあいつはそういうの気にならないのかなと思った。そして、気にならないからあいつ焦らないのかと思って呆れたような気持ちになった。浩太に、もしかしたらとか、他の奴にとられるかもなんて焦りがあるわけないよね。そんなことを考えていると浩太の家が見えてきて、門前に立っている浩太を見付けて、遙は声を掛けた。

 「何?浩太ずっと外で待ってたの?」

 「いやー。なんか落ち着かなくて。」

 「落ち着かなくてって何?まったく。こんな暑い中ずっと外に立ってるとかバカじゃないの。」

 そんないつも通りのやりとりをする。

 「お待たせ、浩太。暑い中ずっと待たせてごめんね。」

 そう申し訳なさそうに言う花月に見惚れてぼーっとする浩太を横目に、遙は溜め息を吐いた。

 「こいつは勝手に外に立ってただけだから、別に謝る必要ないから。中入るよ。荷物置きたいし。」

 そう言って浩太をつつく。

 「え?あ、うん。中にどうぞ。」

 ハッとした浩太がしどろもどろにそう言う。

 「花月ちゃん、去年の浴衣も凄くかわいかったけど、それもよく似合ってるね。大人っぽくて凄く綺麗。その髪飾り、真田さんからもらってお花見の時つけてたやつだよね。やっぱそう言う和風の髪飾りって浴衣に良く映えるね。真田さんにも見せてあげたら喜ぶんじゃない?」

 「うん。陽葵にも一人でできる髪型のセットの仕方何個か教えてもらったし、サクラハイムの皆でお祭り行くときも自分で結ってつけようと思ってるんだ。」

 「皆で行くときは違う髪型にするの?教えてもらったなら今度から色々できるね。花月ちゃん、髪の毛綺麗だから何もアレンジしなくても充分素敵だけど、いつもと違う花月ちゃんが見れるの、俺楽しみかも。」

 「ありがとう。浩太が楽しみにしてるなら、やっぱ自分じゃできませんでしたってならないように、ちゃんと練習しておくね。」

 そう和気藹々と話す二人を見て遙は、そういう誑し文句がすらすら言えるならさっさと告白しなよと心の中で浩太に突っ込んだ。そして、笑顔を向けられてまた固まる浩太をつつく。

 「もう、俺勝手に中入って荷物置いてくるから、二人はここで待ってたら?どうせすぐ出るでしょ。」

 そう声を掛けて二人を置いて中に入る。浩太の家族に挨拶をして、浩太の部屋に向かって荷物を置いて。遙は窓から門前の二人を眺めた。何あの顔。何話してるんだか知らないけど、二人して顔緩んじゃってさ。どう考えても俺お邪魔虫じゃん。このままバックくれてやろうかな。そんなことを考えて、さすがに出だしは一緒に行かないとダメかと思って溜め息を吐き、二人の元に戻る。そして三人で会場に向かい歩き出した。

 「遙ちゃんも浴衣着たんだね。さすが遙ちゃん、浴衣姿も似合ってる。なんかお姉さん達が言ってた男の色気ってやつが滲んでてカッコイイ。花月ちゃんとおそろいだし、なんか俺だけ浮いちゃいそう。俺も浴衣着とけば良かったかな。」

浩太が呑気にそう話しかけてきて遙はちょっとうんざりした気分になった。

 「まったく、お前が逃げるから俺が着させられたんでしょ。逃げなきゃお前も花月とおそろいで浴衣着せてもらえたのに。花月はお前ん家知らないのに一人で置いてく訳にはいかないし、お前が逃げたせいで俺逃げられなかったんだからね。バカ。」

 「う。それは、ごめん。だって、お姉さん達のあの勢い怖いし。本当に脱がされそうだったし。」

 「別に脱がされたって良いじゃん。真っ裸にされるわけでもあるまいし。少しベタベタ触られるくらい大したことないでしょ。」

 「大したことあるよ。」

 「浩太のせいで迷惑したんだから、今日は全部浩太の奢りね。」

 「え?マジで?いや、屋台の物なんてたかがしれてるから別に良いけどさ。」

 「バカ。」

 「え?なんで俺今バカにされたの?バカにされるようなとこあった?」

 「そういう所が本当バカ。良かったね、お前の友達に悪い奴いなくて。お前普通にカモられて、たかられて使いっ走りとかさせられそう。っていうか、実は学校でさせられてんじゃないの?」

 「させられてないよ。俺、嫌なものは嫌だってちゃんと言えるからね。まぁ、この見た目だし、絡まれることはあるけど。変な奴とは付き合わないし。」

 「浩太の見た目って何かあるの?」

 「ぱっと見ヤンキー。しかもチビ。」

 「それって絡まれやすいの?」

 「耀介が目つきの悪さで喧嘩売られやすいのと一緒。見た目の印象って結構重要だから。浩太、地毛が金髪なのに、ツーブロックでオールバックにしてるから余計粋がってるように見えるんだよ。中学の時は普通にスポーツ刈りだったんだし、戻したら?それならお前の高校なら大して目立たないでしょ。せめてオールバックやめて下ろすとか。」

 「いいの、これで。俺、気に入ってるし。ツーブロオールバック格好良くない?」

 「はいはい。」

 「それに学校で目立たなくても、この髪の毛、世間じゃすげー目立つしどうせ色眼鏡で見られるんだから。それ気にしてお洒落諦めるとかバカみたいじゃん。開き直って好きにする方が楽しいし。」

 「浩太の髪の毛、キラキラしてて綺麗だよね。なのに世間じゃダメなの?」

 「染めてる奴多いし、明るい茶髪くらいならまだいいけど、浩太派手な金髪だからね。純日本人は大抵地毛黒髪だし、日本人は右に倣え体質だから受け入れがたいんだよ。浩太がもう少し母親似の顔してたら違ったかもしれないけど、完全日本人顔で金髪ってなかなか日本社会じゃ受け入れられないんだよ。特に、学校社会じゃ。」

 「そうそう、マジ意味分かんない。小中学校の時なんて、地毛の申告書ちゃんと出してるのに黒にしてこいとか言われたからね。マジ理不尽。特に中学の時が最悪で、教師からそんな髪の色してるからダメなんだとか訳のわからないいちゃもん付けられたり、変な目で見られたりさ。部活ではまともに練習参加させてもらえないとか、バカみたいな事が色々。それで俺、嫌になって部活辞めたからね。辞めるときも辞めた後も色々言われたけど、なんで嫌なとこにムリしていなきゃいけないのって感じだったし、やりたいなら別に部活じゃなくてもできるしって。どうして嫌いな奴の言うこと聞かなきゃいけないのとかも思ったし。やめて正解だったよ。友達と好きにやってる方が楽しかったし、学外の人達は俺の髪色なんて気にしなくて、自由にできたから。」

 「へー。そうなんだ。学校って変なの。髪の色なんてそんなのどうでも良いのに。」

 「だよね。本当どうでも良いよね。今思うと本当バカみたいなんだけど、あの頃、理不尽に努力が足りないだとか、我慢が足りないだとか色々言われ続けたから、そう言う言葉が嫌になっちゃってたんだよね。一生懸命に打ち込むことがばからしいというか、努力したってどうせなんかいちゃもん付けられるだけでしょみたいな。ふて腐れてたのかな、俺。それで、投げ出して逃げちゃったらあまりにも気が楽で、楽しくてさ。ちょっとでも嫌な気持ちになると逃げ出す癖が付いちゃってた。今でも逃げ出すのは悪いことじゃないって、理不尽に耐える必要は無いって思ってる。でも今は、努力も必要だし、何かに一生懸命打ち込めるって凄いなって思ってる。やりたいことに一生懸命になるのって楽しいし、評価してもらったり、喜んでもらえるのって凄く嬉しいって実感してる。おかげで今が本当一番楽しい。全部、サクラハイムの皆のおかげだよ。」

 「そこは花月のおかげじゃないの?お前が努力するようになったの花月の影響でしょ?」

 「それはそうだけど。遙ちゃんが怒ってくれなきゃ、結局、遙ちゃんに言われたとおり俺、なにもする前から逃げてふて腐れて終わりになってただろうし。香坂さんが勉強教えてくれたり、真田さんが差し入れしてくれたりとか。他の皆も色々気に掛けてくれてさ。そういうの全部含めての今だから。俺、本当サクラハイムに入って良かった。俺のこと誘ってくれてありがとう、遙ちゃん。」

 そう浩太に笑顔を向けられて、遙は別にお礼言われるようなことじゃないしとそっぽを向いた。

 話をしながら歩いているといつの間にか会場に着いていて、三人はそのまま談笑しながら出店を回って歩いた。ヨーヨー釣りの出店を見付けて去年取れなかったリベンジと花月が意気込んで、浩太と二人で水槽の脇にしゃがみ込む姿を見て、遙は子供じゃないんだからと小さく溜め息を吐く。そして、真剣な顔で水槽を覗く花月の姿に、本当子供じゃないんだからと思って少し頬が緩む。結局、今年も一個もとれずにこよりが切れて落ち込んでいる花月に、俺が取ってあげる、どれが良い?と浩太が声を掛け、出店のおじさんにお金を払ってこよりを受け取った。花月が指したヨーヨーを釣りあげて笑顔で差し出す浩太と、それを嬉しそうに笑顔で受け取る花月の姿が微笑ましく思う。次はどれがいい?とか、アレが浩太っぽいとか、楽しそうに話しながらヨーヨー釣りに勤しむ二人を眺め、本当お似合いじゃんなんて思う。俺、そろそろバックれようかな。浩太にメッセージ入れとけば良いし。そんなことを考えて二人から離れようと思ったその時、二人が振り向いて笑顔でヨーヨーを差し出してきて、遙はなにそれと言って笑った。

 「遙のぶん。」

 「花月ちゃんがこれが遙ちゃんっぽいって。」

 「本当、意味わかんないんだけど。俺、別にいらないし。」

 「え?いらないの?せっかく浩太が三人分取ってくれたのに。残念。」

 「はいはい。しかたがないから俺も一つもらっといてあげる。それでいいんでしょ?」

そんなことを言って受け取ると花月が本当に嬉しそうに笑って、本当に意味が解らないと思う。

 「花月が赤なのはまだ解るけど。浩太って青っぽいか?黄色とか緑の方が合ってない?そして、何で俺は黒なの。」

 「なんとなく。」

 「黒カッコイイじゃん。遙ちゃんっぽいよ。」

 「なにそれ。本当、意味わかんない。」

 そんなやりとりが楽しくて、嬉しくて、遙はバカじゃないのと心の中で毒づいた。二人で良い雰囲気になってたんだから、そのまま二人の世界に入っちゃえば良いのに。なんでちゃんと俺のこと忘れないんだろ。こうして絶対俺のことも輪に入れてくるんだろ。バカみたい。本当、バカ。そんなことを思ってなんとも言えない気持ちになる。

 そしてまた、出店を回って、食べ物を買って。観覧する場所取りに向かう。

 「なんかあっちに人が集まってるけど、あっちじゃないの?」

 人の流れと違う方に向かっているのを疑問に思った花月が声を上げる。

 「あっちの方は有料席だから、こっちこっち。」

 「有料席?花火見るのにお金必要なの?」

 「ここの花火規模が結構大きいから、そういう席があるんだよ。サクラハイムの近所の花火はそういうのないよね。有料席、確かに近くで大迫力で見れるんだけどさ。特に手筒花火とか。でも、近すぎて花火の残骸とか落ちてくるから、ちょっと離れたとこの少し高台になってる所が一番だよ。」

 「あと、花火の時だけ屋上解放する場所とかもあって、何カ所か地元人があつまる観覧場所があるんだよ。」

 「屋上は打ち上げは良いけど、手筒とか仕掛け花火が見えないんだよね。」

 「でも、そういうとこの方が人少なくて広くスペース取れるけどね。座れるし。姉さん達が立ちっぱなし嫌だとか言って、家族で行ってた時は川原か、屋上で決まりだったんだよね。」

 「そうそう。そのうえ手筒とか仕掛けの時間になると次の打ち上げまで待つのが嫌で途中で帰っちゃうんだよね。クライマックスのスターマインが凄いのに、大抵最初の打ち上げちょろっと見て帰る感じ。こうやって思い出してみると、家族で行ってた時は花火見るより出店で遊ぶ方がメインだった気がするな。」

 「それで、小六の時、浩太が今年は二人で行ってちゃんと見ようって言ってきたんだよね。それで親に言って、もう六年生だし二人で行かせても良いかって許可が出て。浩太が迷子になったせいで結局ちゃんと見れなかったけど。」

 「う。それはごめん。」

 「でも、今年はちゃんと見れるね。楽しみだね。」

 そんな会話をして笑い合い、高台について場所取りをして。出店で買った食べ物を食べる。そんな三人の時間を過ごして、遙はもうお腹いっぱいと二人から離れた。

 「遙ちゃんどこ行くの?」

 「花火、もうすぐ始まっちゃうよ?」

 なんでバレるかな。って言うか、浩太空気読めよ。俺がせっかく二人きりにしてあげようとしてるのにさ。本当、バカじゃないの。そんな悪態が頭を巡る。

 「ゴミ捨ててくる。ついでにトイレ。」

 そう二人に告げて遙はその場を離れた。

 実際にゴミを捨てに行き、花火の開始時間が迫り観覧会場に流れる人波を眺めながら、遙は一つ溜め息を吐いた。どうせあいつ人の気遣い解らなそうだから、もうちょっと背中押しといてやるか。そんなことを考えてスマートフォンを取り出す。

 『そっちには戻らないで適当なところで時間潰して帰るから花火二人で楽しみなよ。帰り際にどっか寄り道して告白しちゃえば?頑張れ!浩太。』

 そうメッセージを送る。既読マークが付いたのを確認して、これ見てあいつあっちでどんな反応してんだろうななんて考えて、遙はその場を後にした。

 時間を潰さないと。さすがに花火始まる前に浩太ん家に一人で戻るわけにもいかないよね。そんなことを考えて、ぶらぶら歩く。人波に逆らい、人混みを離れ、そして気が付けば自然と昔浩太と花火大会の日に迷い込んだ神社に来ていた。あの頃は随分遠く感じたけど、案外近かったな。そんなことを思って不思議な気分になる。そして遙は、昔浩太と二人並んで座った場所に腰を下ろした。

 花火が始まった音が聞こえ、遙は空を仰いだ。思ったより会場から近かったけど、やっぱ木が邪魔で良く見えないななんて感想が浮かんでくる。今頃二人はちゃんと楽しんでるかな。浩太はちゃんとうまくやってるかな。俺がこんなに協力してやってるんだから、ちゃんとしなかったら許さないから。花火を眺めながらそんなことを考えて胸が締め付けられる。バカみたい。本当、バカみたい。何で俺、こんなに寂しいんだろ。そんなことを考えて、浩太と花月の笑顔を頭に描いて、バカみたいと実際に呟いた。

 「遙、いた。」

 そんな花月の声が聞こえて、遙はハッとして声の方を見た。

 「やっぱりここだった。ここ以外思いつかなかったから、ここじゃなかったらどうしようかと思ってたんだけど。良かった。」

 浩太がそう言ってホッとした様に笑う。

 「なんでここにいるの?バカじゃない。」

 呑気に笑いながら自分の元にやってくる二人の姿を見て、遙は思わずそう口にしていた。

 「やっぱ、遙ちゃんも一緒じゃないとさ。今日は三人で来てるんだし。」

 「何それ、意味分かんない。本当、バカじゃないの。」

 「遙、ゴミ捨てに行って戻ってこないんだもん。迷子になっちゃったの?」

 「迷子になんかなるわけないでしょ。やっぱ立ち見嫌でこっち来ただけ。浩太にメッセージ送っといたし。お前等までこっちに来たら皆ちゃんと花火見れないじゃん。花火見にわざわざ来たくせに、バカじゃないの。」

 「うーん。でも、やっぱ遙もいないと寂しいよ。楽しくても、終わった後に遙も一緒に見たかったねって残念な気持ちになっちゃうと思うんだ。だから一緒に、ね。」

 「そうだよ、遙ちゃん。俺も急にあんなこと言われたって、遙ちゃんのこと気になっちゃうし。どうにもできないし。」

 「バカ。このバカ。」

 「なんで今二回バカって言われたの?遙ちゃん酷い。」

 「浩太がバカなんだからしょうがないでしょ。このバカ。アホ。俺もう知らないから。あーあ。せっかっくきたのに、またちゃんと花火観れないで終わってさ。もうお前と花火行かないから。俺はもうついてこないから。」

 「え?今回は遙がはぐれたからだよね?なんで浩太が怒られるの?」

 「いいの。全部浩太が悪いんだから。」

 「そんなこと言わないでさ。来年また三人でリベンジしよ。ちゃんと三人で花火見ようよ。その方が絶対に楽しいよ。」

 そう浩太に笑顔を向けられて、遙は笑ってバカと呟いた。

 「来年は俺達受験生。夏休みに遊んでるヒマなんてないでしょ。」

 「え?受験生って全く遊ぶ暇もなく勉強しなきゃいけないもんなの?」

 「どこの大学受ける気か知らないけど、いくら成績上がったとはいえ、浩太元々バカなんだから。通ってるのバカ高だし。それなりのとこ行くつもりなら死にもの狂いで勉強しないとじゃない?」

 「え?マジで。それはキツいんだけど。あ、でもほらたまには遊んで気分転換しないと。根詰めすぎるのも良くないって香坂さんも言ってたよ。」

 「じゃあ、お前は遊べば?俺は留学する予定で、受験シーズンが日本とズレてて来年の夏休みは遊んでられないから。リベンジするなら二人でどうぞ。おれは来ないっていうか来れないから。」

 「遙、留学するの?」

 「俺、そんなの聞いてないよ。じゃあ、受かったらサクラハイム出てくの?」

 「高校入る前に言った。それに前からデザインの勉強本格的にしたいって言ってるでしょ。イタリアの学校で前から目星つけてるから。受かれば一年のほとんどはサクラハイムにいないことになるけど、長期休暇の時は帰ってくるつもりだし、部屋は借りたままにしておくつもり。親にもそれで了解取ってる。」

 「そっか、遙イタリアに行っちゃうのか。寂しくなるね。でも、長期休暇に帰ってくるなら、再来年は三人でリベンジできるね。」

 「そっか、そうだよ。来年がダメなら、再来年。三人でリベンジしよう。」

 そう二人に笑いかけられて、遙はまったくと呆れたように呟いた。本当、脳天気。似たもの同士。離れてバラバラになるかもって不安とか、関係が変わるかもって不安とか、そういうのこいつらにはないんだろうな。そう思うと羨ましいような、微笑ましいような、変な気持ちが湧き出てくる。

 「花月は今年受験するの?高認試験これからでも、合格見込みで受験は可能だよね?」

 「今年はしないよ。今年は高認試験だけ。別に焦る必要も無いし。光にも、猛スピードで勉強進めてきたから、あれもこれも一気にじゃなくて、試験に関しては一つずつ地道にクリアしていこうって言われたから。」

 「そっか。そういえば花月、去年の春は文字の読み書きもできなかったんだもんね。あれからまだ一年ちょっとしか経ってないのに今は高認試験合格を目指してるとか、言われてみればかなりのハイペースだよね。それに大学受験まではさすがの花月にも負担が大きすぎるか。」

 「懐かしいな。今は普通に一緒に高校の勉強してるけど、花月ちゃん、去年の今頃はまだ中学生の勉強してたんだもんね。とういか、今じゃ花月ちゃんの方が断然勉強できるし。俺が花月ちゃんに勉強教えてた時期があるとか本当信じられない。」

 「光が教えてくれて、浩太と一緒に勉強して。わたし、凄く楽しかったからどんどん先に勉強進められたんだよ。今も一緒に勉強できて楽しい。浩太すぐ、こんなんわかんないとか言いながらふて腐れて、暫くするとリベンジしに来て、ねぇここってどうなってるのとか言ってくるのとか、見てて面白い。解るようになると、目キラキラさせて、俺にもできたって喜んで。わたしもいつも嬉しくなる。浩太と勉強するの凄く楽しい。」

 「良かったね、浩太。お前と勉強するの楽しいって。」

 「なんかそれ、俺と勉強するのが楽しいって言うより俺の挙動を面白がられてる気がするんだけど。それって喜んで良いの?」

 「良いんじゃない?花月が楽しんでるんだから。花月にとって勉強も遊びの一つでしょ。楽しければ良いんだよ、きっと。ね。花月?」

 「うん。」

 「うー。花月ちゃんがそれが楽しいなら良いけどさ。なんか複雑。でも、ま、いいか。実際そうだし。俺たぶんずっとそうだし。俺も花月ちゃんと勉強するの楽しいし。花月ちゃんとなら、大学受験も乗り越えられる気がする。」

 「大学受験。わたしが高認試験受かったら、来年は一緒に受験生だね。頑張ろうね。」

 「うん。頑張ろう。」

 「頑張ろうはいいんだけどさ。来年は光も社会人一年目だし、就職しないで院に進むとしてもきっと今より忙しくなるよね。今ほど勉強みてる余裕なくなると思うんだけど、光頼みで勉強ずっとしてきたのに大丈夫?」

 「う。そうか、香坂さん今年で大学卒業しちゃうんだ。来年は余裕なくなっちゃうんだ。香坂さんに頼れないとか俺、厳しいかも・・・。」

 「大丈夫だよ浩太。わたしも解らないとこ教えるし、お互い解らなかったら一緒に考えよう。光にみてもらえる時間が今より少なくなってもちゃんとできるよ。一緒に頑張ろう。」

 「そうだね。香坂さんがいないと全く勉強できないわけじゃないし、俺ももっとちゃんと自分で考える力つけないとダメだよね。ありがとう、花月ちゃん。俺、頑張る。」

 「はいはい、頑張れ。どう受験勉強一緒にするなら、同じ大学目指せばいいんじゃない?その方がお互い励みになってモチベーションも上がるんじゃないの?」

 「浩太と一緒の大学。それ楽しいかも。浩太、一緒に勉強頑張って、一緒の大学行こうね。」

 「うん。」

 「ところで花月、どこの大学行きたいとかあるの?」

 「市ヶ谷学園。光と健人が行ってるとこ。」

 「え?市ヶ谷学園?それはちょっと、俺には厳しすぎ・・・。」

 「ねぇ、花月。なんで市学受けたいの?」

 「文化祭、凄く楽しかった。市ヶ谷学園入って、ストリートパフォーマンス研究会入りたい。」

 「あ、そ。そんな理由。花月らしいと言えば花月らしいけど、それで偏差値六十八の大学狙うとか凄いね。しかもあいつらが所属してる演劇部じゃなくて、ストリートパフォーマンス研究会に入りたいんだ。」

 「うん。演劇部も楽しかったけど、ストリートパフォーマンス研究会が凄かった。浩太が一緒になってジャグリングしてて、凄く上手で。わたしもあんな風にできたらなって、挑戦したけどできなかったの悔しくて。でも、凄くわくわくして。楽しくて。見てるだけでも凄く楽しかったけど、やっぱりあそこにわたしも混ざりたいって、あんな風にわくわくして楽しい気持ちを皆に届けられるようになりたいなって。だから、絶対、市ヶ谷学園に入ってストリートパフォーマンス研究会に入りたい。文化祭の後、浩太も同じ事言ってた。あれからずっと浩太も一緒にジャグリングの練習してるし。一緒に入れたら絶対楽しいよ。凄く、凄く、楽しいよ。だから一緒に市ヶ谷学園行こう。」

 そう花月にキラキラした目を向けられて、浩太は言葉に詰まった。

 「あーあ。これは浩太、本当に死にもの狂いで勉強しなきゃだね。頑張れ。」

 「うー。が、頑張る。もう本当、こうなったら必死こいて頑張る。とりあえず、サクラハイム帰ったら香坂さんに泣きついてくる。」

 そう浩太がやけくそになって叫んで、遙は声を立てて笑った。

 「どうせここじゃ花火よく見れないし、そろそろ帰ろうか。リベンジは再来年でいいんでしょ?」

 そう言って遙は二人を帰路に促した。

 談笑して帰り道を歩きながら、遙はバカみたいと心の中で呟いた。こんな時間がいつまで続くんだろう。いつまで続けられるんだろう。浩太も花月も本当ガキなんだから。本当、バカ。大バカ。でも、二人にはずっとこのままでいて欲しいな。そんなことを考えてなんとも言えない気持ちになる。

 自分の家に花月を送り届けて、遙は浩太と彼の家に向かった。

 「あーあ。お前がヘタレ過ぎて自分で全然行動起こせないから、俺がせっかくチャンス作ってあげたのに。バカ。もう、本当、二度と手かしてあげないからね。」

 「う。ごめんなさい。でも、アレはないって。三人できたのに遙ちゃんが途中で抜けるとかないから。花月ちゃんがそれ気にしないわけないじゃん。俺にそこを上手くごまかすとかできるわけないじゃん。なんか、花月ちゃんのこと騙してるみたいだし。本当、ムリ。」

 「バカ。そんなこと言って。本当いつ告白すんの?お前、このままじゃ本当にずっと友達止まりだよ。俺もう知らないから、後は自分でどうにかしなよ。俺だっていつまでもお前の傍にいるわけじゃないし、いつまでも面倒は見てやれないから。」

 「だから、ごめんって。そんなに怒らないでよ。」

 「別に怒ってない。」

 「じゃあ、機嫌直してよ。」

 「機嫌も悪くない。お前のヘタレ具合に呆れてるだけ。」

 「もう、遙ちゃん。最近なんか遙ちゃん前にも増して俺に酷い。」

 「気のせいじゃない?」

 「気のせいじゃない。絶対気のせいじゃない。俺、なんかした?」

 「別に。強いて言うならお前がヘタレすぎて苛々するだけ。」

 「そんなー。」

 そう浩太が情けない声あげて、遙は小さく笑った。

 「花月にも言ったんだけどさ。」

 どうしてそんなことを言おうと思ったのか解らない。でも、何故かそんな言葉が口をついて出ていた。

 「俺、花月のこと好きだから。」

 それを聞いて心底驚いたような顔で唖然とする浩太の姿に笑いがこみ上げてくる。

 「え?ちょっと待って、遙ちゃん。花月ちゃんのことが好きって。それって。っていうか、花月ちゃんにも言ったって、それ・・・。」

 「言ったよ。花月のことが好きだって。浩太と同じくらいにね。だからあいつのことも親友扱いしてあげるってさ。」

 「もう、なにそれ。今、遙ちゃんがいつの間にか花月ちゃんに告白してたのかと思って、本当ビックリしたんだけど。で、浩太には悪いけど付き合うことになったからとか言われるのかと思って、マジで焦ったんだけど。」

 「バーカ。そんなわけないでしょ。それなら、なんでお前に告白しろなんて言うんだよ。バカ。しかもそんな本気で焦っちゃって。本当バカじゃないの。」

 「いや。遙ちゃんが花月ちゃんに告白してたって思ったらさ、そりゃ焦るでしょ。いつの間にってなるでしょ。」

 「なにそれ。それだけ?本当に俺が告白してたとしてもそれで済んじゃうの?俺に腹立てたりしないの?俺はお前の気持ち知ってるのにさ。」

 「いやだって、俺にどうこう言う権利ないし。先超されたからって別に。そりゃ、ビックリするだろうけど。ショックは受けるかもしれないけど。でも、それで遙ちゃんに怒るとかおかしくない?」

 「まったく、浩太ってさ。本当バカ。でも、そういうとこがお前の良いとこだよね。」

 そう言って遙は遠くの方を見た。

 「普段絶対こんなこと言わないけどさ。俺、浩太のことも花月のことも本当に好きだよ。二人とも大切だから。二人が仲良くしてくれたら良いなって思ってる。このままいられたら良いなって。でも、ずっと一緒なんてムリでしょ。だけど二人が俺にとって特別っていうのはきっと、ずっと変わらないから。だから、どんなに離れたって俺は、お前等の味方ではいてあげる。お前等本当子供だし、面倒見てやらないと危なっかしいし。世話やけるし。」

 「遙ちゃん。それ、ほぼいつも通り。全く普段と変わらないから。」

 「そう?」

 「そうだよ。遙ちゃんはいつだってそうじゃん。小さい頃からさ。浩太のことは好きだから友達でいてあげるとか、仕方ないから面倒見てあげるとか、俺がいないとお前どうしょうもないしとか。俺、そんなことばっか言われてたよ、昔から。そこに花月ちゃんが入っただけでしょ。それ。」

 そう言われて声を立てて笑う。

 「もう、遙ちゃん。何がそんなに可笑しいの?俺、何か変なこと言った?」

 「別に。なんか色々ごしゃごしゃ考えてたんだけど、こんな今の俺もいつも通りなのかって思ったら可笑しくてさ。」

 そんなことを言いながら一通り笑い終えて、遙は浩太に向き直った。

 「浩太。俺、お前の相手は花月以外認めないから。花月のことちゃんと捕まえられなかったらお前一生一人でいなよ。」

 「え?なにそれ。」

 「それくらいの意気込みでぶつかってきなってこと。このままであいつのこと逃したら、この先のお前の恋愛、俺が全部邪魔するから。本当に生涯独身、彼女いない歴=年齢で過ごさせてやるから。」

 「うわっ、なにそれ怖いんだけど。どういう脅しそれ?」

 「それが嫌なら頑張りな。」

 「え?ちょっと、冗談だよね?それ、冗談だよね?」

 「さぁね。案外本気かもよ。」

 「え?嘘。嘘って言って。ねぇ、遙ちゃん。」

 必死にそう言ってくる浩太が可笑しくて、嘘とは言ってやらず遙は笑って逃げた。これくらいの意地悪くらい許されるよね。両想いの癖に。人前であんなにいちゃついてたくせに、全然前に進まないんだから。これで逃したら本当に許さないから。

 「花月の相手はお前以外認めないから。だから、他の男にとられたら絶対に許さないから。」

 そう呟いて、え?何か言った?と訊き返してくる浩太に、別にと答える。そう、浩太以外の男は認めない。浩太以外の奴と花月が付き合ったら、自分の気持ちの持っていき場所が解らない。だから、浩太には頑張ってもらわないと。浩太が彼氏なら諦められるから。ちゃんと良かったねって言えるから。浩太との恋ならちゃんと応援できるから。だから。本当にさっさと告白してくっついちゃえよ、バカ。そんなことを考えて、まだ、ねぇ遙ちゃんさっきの本当冗談だよね?と訊いてくる浩太を尻目に、遙は家の中に入っていった。


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