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再帰のエートス  作者: 時桔梗
第一章 巡る月日、移ろわぬもの
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青年は既に、死地を駆ける

やっとゲーム内のお話です。

 それはもう大層な勢いで地上に射出された俺は、全身でこの広い大地を感じ取ることになった。突然現れたと思えばズザーッ、とヘッドスライディングかました変態を世間は冷たく受け入れてくれた。

 地面にある模様を至近距離で観察しながらこれはアラベスク模様とでも言えばいいんだろうか、基本瑠璃色っぽいんだけど角度変えると緑がかって薄ぼんやり光ってるような、不思議ー、なんて呑気に分析していた俺は背中にちくちくと刺さるような視線を感じた。まるで地面に興奮するような倒錯した性癖を持っているような変態を見ているかのごとく刺々しい視線である。

 俺は異常なことなど何もないのだと言わんばかりにごくごく自然に立ち上がると、どうやら周囲より一段上がっているらしいこの外縁部が円周様の広い石段から、伸びている道に向かって歩き始めた。ワタクシ怪しい人間ではございません。違います、厨二ヘッドスライダーってなんですか、厨二チックな頭とヘッドスライディングをかけたんですかちょっと上手いですね。

 自然に場を切り抜けた俺は、何かの儀式にでも使うのかといった趣のオルケストラから降りた途端足を速めて無事脱出に成功した。




「――街の中央はそろそろかな。塔もだいぶ近づいてきたし」


 俺は石畳で舗装された道を時おり独り言を漏らしつつ歩いていた。

 道に出てすぐメニューの中にあったマップを開いてみたところ、チャンネル表示と現在地であろう辺りを除いてほぼ白紙で街の名前も分からない状態だったため思わず眉をひそめた。マッピングしなきゃいけないのはいいがこのままじゃ中央がどこか分からん、と考えたところで近くにぽつんと立っていたキャラクター、青の祭服らしきものを着ていた男に話を聞いてみると


「天の御使い様、お待ちしておりました。ここ『モネーロの街』は御使い様を歓迎いたします」


 などというだいたいのゲームで最初の街に入ってすぐのところにいるキャラのような定番のセリフをいただいた。ようなもなにもその通りではあるが、天の御使いとは旅人ではないのかなんて思いつつ間違いなくNPCだなと判断した俺はとりあえず街の中央がどこかと質問すると、ここから見える白い塔に向かってこの道を進めとのことだったので男に一礼して歩き始めた。


 最初と比べると真っすぐ細長く伸びたマップを見る。いつの間にか『モネーロの街』という表示が出ているが、街の名前を聞くことで出たのだろうか。前作同様、重要NPCでなくても普通に会話が可能なくらいのAIは積まれているはずだから新しい街で名前が出ないようならその辺のNPCに聞けばよさそうだな。さすがに特定NPCから情報を手に入れないといけない類の情報に街の名前が含まれてるとは思いたくない。

 一本道が終わると、広がった視界は緑にあふれた。露店やら走り回る子どもやらで活気に満ちた様子に、目的地の公園に着いたのだろうと辺りを見渡して噴水を探してみると、どうやら似たような服装のキャラが集まっている場所にあるらしい。俺は小走りになって待ち合わせ場所に向かった。


 そこそこのプレイヤーらしきキャラが集まってる中に、ひときわ長身でゴツい野郎キャラがいるのが見えた。すっげー目立つなと眺めていると、野郎の頭上に涙型を逆さにしたようなカーソルと名前らしき表示が出現した。「ミケ」という表示とゴツめのキャラメイクと、何より俺と目が合うと手をひらひら振ってきた様子に確信した俺は、「ミケ」に近づいて話しかけた。


「目印力が高すぎて助かるな、ミケ。それで、他の連中は」

「こういう時は目立つキャラもいいね、いつも目立つのはちょっと困るけど。アーウィンはそこに、他はまだみたいだね。キャラメイクに時間かけてるのかも」


 そこにとミケが指した先に、やたらモブ感あふれる男キャラが。あ、「アーウィン」って出てる。


「よっ、外見厨二から変えなかったのかマクス。ミケも目立つがお前も結構なもんだぞ」

「髪色なんてかわいいモンだろ、変えられるし。デカマッチョの存在感はずっとだ」


 俺は現実と同じ身長にしたというのにミケは現実からさらに伸ばして筋骨隆々にしていた。顔もそれなりに弄って濃いめの顔になっている。こっちをじっと見るな。圧がつええ、圧が。

 とりあえず来てない女性陣を待つ間、合流するまでに気づいたことやら話してみることにした。


「フレンド登録はー、あいつら来てからでいいか。ミケとアーウィンはメニュー内のマップ見たか?」

「俺は見た。街の名前も出してあるぞ」

「あ、僕まだ見てないや。ちょっと開いてみるね」


 アーウィンは事前に情報仕入れてるだろうし当然と言えば当然か。ミケは右手を空中で走らせると、マップを見てか渋い顔をした。


「全然表示されてないね……自分が歩いたところだけしか表示されないのかな。僕は街の名前も出てないけど何か条件あるの?」

「んー、モネーロ」

「?」


 街の名前を伝えても何も変わらないらしい。断片だけじゃダメってことかな、明確に情報として認識しないといけないか、それともNPCから得ないといけないのか。


「この街の名前はモネーロ」

「あ、表示された」

「アーウィン、事前情報はどうだった?」

「NPCから聞くか、街の地図を買うとかで出るらしいな。地図は使うとマップに地図情報が反映されるらしい。プレイヤーからの情報でもいいっていうのは見てないから、もしかしたら正式版からかもしれねえな」

「なるほどなー。プレイヤーからの情報でも有効なら、物にはよるが情報屋みたいなのも出てくるかもな」


 情報が形として価値を持つなら、何でもかんでも情報が公開されるなんてことにはならなそうだ。誰でもすぐ分かるようなものならともかく、「特定の条件を満たさないと出現しない」ようなものはあまり出回らないかもしれない。個人的にはその方が楽しみがあって好みだが。


 さて、次はオープニングの話でもしようかなと思ったタイミングで、二人の女性キャラがこちらに歩いてくるのが見えた。意識を向けると、「タマオ」と「セルディ」という表示が出た。二人はミケを見て、俺を見て――笑いやがった、どういうことだ。


「お待たせー! でかいのだけじゃ確信持てなかったから助かったよ、ちゅーにくん!」

「厨二じゃねえわ。イカすファッションだわ」

「マクスさん、相変わらず……相変わらずですね?」

「見慣れてて安心するだろう。おい笑いをこらえるな。いっそ笑え」


 こいつら人の見た目をおちょくりやがって、おちょくるなら隣のデカマッチョだろうがよぉ……リアル知ってるんだからもっと突っ込むべきだろ体積三割増ししてんだぞ。それにアーウィンなんてもはやNPCと見紛うモブ感じゃねえか。カーソル出るから間違えたりはしないが。

 二人の見た目も笑ってやろうと思ったが、無難に無難で何も面白くない。タマオは赤茶髪のハイポニーで、セルディは金髪のぱっつんロングだ。金髪にツッコミを入れてやりたい気がしないでもないが、現実で絶対やれないだろうからそれは野暮ってものだ。怖いわけじゃない、決して。

 これで残るはイリスだけになったわけだが、こういう時は早めに待ってるようなタイプだから最後になるのは意外に感じる。他のメンバーが遅れるのは何も感じないが、イリスが遅れると何かあったのか少し心配になる程度には人として評価している。いやミケとセルディはちょっと気にするかな、あとは知らない。

 視界の端に結構な勢いで走っているキャラが映ったがすぐに意識から外して、誰かに連絡でも行ってないかと聞いてみた。


「イリスが遅いなんて珍しいな。誰か何か聞いてる?」

「私はなんにも。でもキャラメイクしようかなって夕方言ってたわよ」

「あれ、そうなのか。さすがに置いていくのもなあ。まあもう少し待ってみてから来ないようなら――」

「ごめんなさい!! キャラクター作成に思ったより時間がかかってしまって、待った、わよね?」


 俺とタマオの会話を遮るように、かなり()()()()()()()女性キャラが息を切らせながら話しかけてきた。結構切羽詰まってる様子だが、全く見覚えがないそのキャラに、俺は普通に人違いだろうと伝えようと意識を向け……表れた「イリス」の文字に


「うぷゅふっ」


 予想外の奇襲に俺は一切耐えることなどできずに笑いをこぼした。他のメンバーも驚いた顔を隠し切れていないようだ。笑ってからやべっ、と思ったが後の祭りだった。少し赤くなった顔が彼女にしては珍しくはっきりと怒りをたたえている。


()()、それどういうこと?」

「違う違うマクスね、落ち着いて。いや違う別にすっげー()()()なとか思って笑ったわけじゃなくて、ほら盛ったっていったらミケも大概じゃん? あいつは縦にも横にもドーンだよ、まじウケる。でもそういうわけじゃなくてさ、なんというかイリスが遅れてくるのって珍しくてちょっと心配してたんだよ。そこにこれまた珍しく焦った様子で申し訳なさそうにしてるのがちょっとほほえましかったというか、イリスもそんな風になるんだなってそういう笑いで別にめっちゃ盛ってることを笑ったとかじゃないんだほんとに」


 信じてくれ! と俺はイリスに訴えた。ミケはべしべしと背中を叩いてくるが、今はミケに構ってる余裕はない。どうにかイリスの怒りを宥めてなかったことにしてやろうという気持ちでいっぱいだった。ここで謝ればイリスのキャラメイクで笑ってしまったと認めてしまうことになる。それはイリスのためにも避けねばと俺は必死だった。

 イリスは冷静さを取り戻したのか、一つ息を吐くと俺にニコッとした笑顔を向けて問いかけてきた。


「マクス、(イリス)のアバター、どう思う?」


 これは笑ってしまった分も真面目に答えなければならない、と俺はしっかりとイリスを観察した。

 第一に目鼻立ちが整っている。現実の栞は大人っぽい雰囲気とは裏腹に結構かわいらしい顔つきをしているのだ。それがイリスの場合まさに理知的な美人といった趣がある。髪は毛先がふわっとウェーブした、見事なみどりの黒髪である。そして第二に、スタイルがいい。マクスのアバターは俺の現実の身長と数値上は同じなのだが、イリスはそれよりこぶし一つ分程度低いくらいか。百六十五センチくらいあるんじゃなかろうかという身長に、出るところは出ているが細身のシルエットでかなり魅力的なスタイルをしていると思う。栞は百五十センチくらいのちんちくりんだからかなりギャップがある。

 これらを考慮した結果イリスに伝えるべきベストアンサーは


「背伸びが過ぎるのでは? お嬢ちゃん」


 音すら凍るほど空気が冷えた。周囲の野良キャラも何事かとこちらを窺っているようだ。

 ダメだとわかっていても俺は自分に嘘がつけない男だった。隙が少なく人間できてる(イリス)を煽る激レアな機会を見逃せるはずもなかった。だからこそ、その代償にどれだけ怒られようが甘んじて受け入れようと覚悟を決めた。

 妙にやり切った顔をした俺に、能面のような顔をしたイリスは息がかかるほどの距離まで近寄ってくると、恥ずかしさと怒りを爆発させるかのように叫んだ。


「こ、のっ――馬鹿そうごーーーっっ!!!」


 だから実名(リアネ)はやめてーっ!?






 やはり身体的特徴をあげつらってからかうのはしてはいけないことだね。気にしてる人はとても傷ついてしまうこともあるからね。今回はさすがに超えちゃいけないラインを超えたかなと結構反省した。

 あれから結構目立ったので場所を移したのだが、俺は女性陣トリオに囲まれてくどくどお説教を食らった。正座でそれを謹聴しながら、俺は過呼吸になるんじゃねえかってくらい引き笑いしていたアーウィンも説教食らうべきではと不満を抱えていた。それが表に出ていたのか余計に怒られた。街中でPKできるならきっと()られてたと思う。九死に一生を得た気分だった。


 もろもろあったがとにかく全員合流できたところでフレンド登録をして、これからどうするかを話し合った結果、店の場所や品ぞろえを確認してから街の外に出てみようということになった。

 とりあえずマップ上街の東側に伸びるメインストリートらしき道を進むと、ちらほらと店らしき建物が目に入ってきた。そのうち看板に武器が書かれた店を見つけると、俺たちは全員仲良く店に入った。


「いらっしゃいませー! 武器がご入用ですか?」


 無愛想なオヤジが店番をしてるかと思えばいい意味で期待を裏切られた。あ、奥の工房らしきとこにオヤジいるわ。愛想よく出迎えてくれた看板娘に店の目録を見せてと伝えると、笑顔ではい! と答えてカウンターの上に目録が書いてある紙を置いた。それをのぞき込むと、視界に武器屋メニューのウィンドウが出現した。


「うーん、無難に片手剣でいくか? ただ盾持ちは役割と性に合わないしミケともろ被りするしなあ。そうなると鈍器類、いやでも捌けない武器はちょい怖いしなあ。両手剣……いっそ双剣か」

「悩んでるなあマクス。結局ジョブ何にしたんだ、〈戦士(ファイター)〉か?」


 メニューを見つつ店内をうろついて武器をどうするか悩んでいた俺に、アーウィンが話しかけてきた。ほぼ固定砲台のアーウィンは両手杖一択だろうし選ぶの困らなくていいなあ。ともあれ、聞かれたことに答えよう。


「〈からくり士〉だ。おーるらうんだーだぞ」

「えっ」

「えっ?」


 俺が〈からくり士〉、と言った瞬間看板娘が信じられないものを聞いたように声をあげた。俺は珍しいジョブなのかなくらいの気楽な気持ちで聞き返した。本当に、気楽な気持ちで。


「〈からくり士〉ってそんなに珍しいの?」

「珍しいというか……とにかく戦闘に向かない、と聞いたことはあります。戦闘にというか、そもそも何ができるんでしょうか? たまに公園で芸をしてる方たちの中にも見かけませんし。もしかしたら何か物を作ることに向いてるとか? でも私は聞いたことがないですね」


 その言葉を聞いて俺を含め全員が絶句した。いつの間にか集まってきていたらしい。


「なぁ、マクス。ちょっとステータス開いてみろ」

「すてえたす。……開いた」


 俺はステータス画面を開いた。ステータス画面を公開状態にして、ウィンドウを全員に見えるようにする。それを覗き込んだ俺を除く五人が自分のステータスを確認して、俺のステータスをもう一回見て、さっきの看板娘と同じような顔になった。

 誰もが言葉を失った中で、全員のステータス画面を通し見たイリスが淡々と事実を告げた。


「全ステータス補正七割。他のメンバーの一番低い補正値が六割だから、大体それに近いわね。なるほど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、まさしくオールラウンダーね。ほんとに何ができるの? あなた」


 全てのステータスが、ななわり。



 ……



 リージア(クソAI)ァ!!謀りやがったなあ!!!

せいねんはステに.7をかける

上手いぞたいとる(自画自賛)

何事も他人任せはよくないということですね。人じゃなくAIでしたが。

きっとステと引き換えにめちゃつよスキルとかあって、俺TUEEEするんやろなぁ……

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