冠するは鉄の如き深い蒼
体感三日!(挨拶)
気づけば二週間も経ってました。すんもはん……すんもはん……
モネーロ大天堂を出た俺は、まず防具屋に足を運び、注文していた装備を受け取ることにした。
「毒蛙亀の革手袋」 レア度:マジック
品質:C
分類:装備アイテム・腕
毒蛙亀の斑皮から作られた手袋。しっとりと肌に吸い付くような装着感が癖になる。
DEX+補正、一部の毒付与性能+補正
「毒蛙亀の革腰帯」 レア度:マジック
品質:C
分類:装備アイテム・腰
毒蛙亀の斑皮から作られた腰帯。適度な伸縮性を保ち、着け心地に優れる。
VIT+補正、毒耐性+補正
昨晩防具屋に頼んでおいたのは、腕と腰装備にあたる手袋と腰帯だけだった。素材持ち込みで計4,000ダール也。「毒蛙亀の斑皮」が一枚あたりの商会買取3,500ダールだったことを鑑みると、それを二枚分で総計11,000ダール。今使ってる片手半剣が800ダールだから約十四本分のお値段ということになる。うーん、お高い。
値段のことはともかく、基本的にこのジョブだと布装備しか着られないということだったから、手袋と腰帯くらいであれば革でも装備ペナルティが発生しないというのは僥倖だった。これが手甲や佩楯なんかになるとペナルティが発生するというのだから面倒な話だ。
靴装備も革で問題ないみたいなのだが、こちらは毒蛙亀素材で作っても大した性能にならないらしく作るのは止めにした。
靴と残りの部位、革だと容赦なくペナルティが付く頭胴脚については少し悩んでから、店売りの探索者装備シリーズから買うことに決めた。
探索者装備シリーズは特殊効果も何もなく、安くてちょっと丈夫な布系装備だ。靴だけは布と革の合わせになっているらしい。見た目はゴテゴテした作業着チックな感じで、カッコいいかというと微妙なところ。もっとも、薄っぺらい布一枚のシャツパンツとは比べるべくもないのだが。
ちなみに探索者装備の値段は上から400、700、500、400ダールの計2,000ダール。うーん、お安い。というかこれくらいなら昨日アルフを捕まえに行く前には買えたわけで、その時に買い揃えてたらあんな無様に死ぬことも……いや、考えるのは止そう。
防具を一新して気分よく防具屋を後にした俺は、軽やかに靴音を響かせながら、続いて武器屋へと向かった。
入口扉を押し開けると、ドアベルがガランガランと色気なく音を立てる。店内では親父が一人、パイプを吹かしながら売り物を手に取り、点検なぞしているところだった。
「ヘイ親父ぃ。剣できてる?」
「――おう、アンタ一人か? 取ってくるから、ちっと待ってろ」
親父はパイプを咥えたまま、気だるげに奥の工房に向かう。看板娘の不在のせいか、それとも疲れが残ってでもいるのか、店内の空気は遠ざかる親父の足取りそのままに、のんびりと弛緩しているように感じる。
剣を取ってくるだけにしてはたっぷり二分程時間をかけて、親父は工房から剣を携え戻ってきた。パイプが口元から無くなっているところを見るに工房に置いてきたのだろうが、ついでに奥で一服していたのではないだろうか。客を待たせといて。
「待たせたな」
「いや、シケモクすぱすぱ吸ってなかったんなら構わんよ」
「失敬な、俺ァ新品のモクしかやらねぇよ」
「……やっぱ奥で吸ってたろ」
「……ほらよ、こいつだ」
親父はバツが悪そうに目線を逸らしながら、持ってきた剣をカウンターに置いた。
俺は物申したい気持ちをとりあえず横に置いておいて、無造作に置かれた剣を取り上げ、鞘から抜き出した。
「腐毒の舶刀」 レア度:レア
品質:B-
分類:装備アイテム・武器(片手剣)
アロン魔鋼をベースに毒蛙亀の素材を用いて作られた片手剣。毒属性を内包したことにより刀身は薄っすらと紫色を帯びている。鉱木乾岩の丘の主は、如何なる獲物もその毒で以て確実に追い詰め仕留めるのだ。
STR+補正、毒付与(深度1)
「ほー、レアのB-」
「素材なりの品質だな。地金を錬金術で作ってもBには届かなかっただろうよ」
「いや十分十分。アロンにそこまで労力かけてもだし」
「ああ、要望がない限り俺もやらん」
舶刀、とあるように刀なんだろうけど、分類上は剣になってるから剣と呼んでいいだろう。その片手剣をじっくりと検分していると、親父は注文内容を復唱するように剣の性状を補足してくる。
「形状はカットラス。刃面は当然だが両刃。あまり奇を衒った構造にはしてないが、刀身は細身で、心持ち長めにしてある。護拳は結局付けはしたが……何か気になるところはあるか?」
そう問われて、俺は右手で柄を握り、取り回しを確認するべくゆっくりと振り動かしてみた。
……まあ、問題ないかな。対人戦想定してるわけじゃないから護拳はほぼ飾りみたいなもんだし。個人的には趣味じゃないというか、正直ちょっと邪魔ではあるんだが、用途的には許容範囲内だ。
実際の性能については親父の腕と、品質を信じるしかない。見た限りでは心配は要らなそうだけど。
「今のところは大丈夫かな。使ってみて気になるところがあったらその時に言うよ」
「おう、そうしてくれ」
装備していた片手半剣をインベントリにしまい、腐毒の舶刀を装備する。
腐毒の舶刀は素材持ち込みで製作費9,000ダールだったから、素材費まで込みだとその価値は凡そ80,000ダールとなる。いやにバカ高いのは、主に「毒蛙亀の魔核」40,000ダールと「毒蛙亀の毒腺」22,000ダールのせいだ。残りは「アロン鉄鉱」とか「毒蛙亀の大腿骨」とか。属性とステータス補正が乗った魔鋼製武器を買うならこのくらいの金額は普通にかかるということになる。
結局装備一式整えるのに実際に払ったのは15,000ダール。一個6,300ダールの背甲片やら5,000ダールの肋骨やらの、俺にはあまり使い道がない素材をちょっと売るだけで十分賄うことができる金額だった。フィールドボス様様だな。
俺は工房の奥に引っ込みたそうな親父に別れを告げ、街の東門へと足を向けた。
――――――
NAME:マクス
ジョブ:からくり士
Lv.11
残ボーナス:0(44)
HP(生命):60
MP(魔力):60
WP(気力):28
STR(筋力):23(13)
VIT(活力):8
DEX(器用):34(25)
AGI(敏捷):12(6)
INT(知力):10
MND(精神):6
HP補正値:0.7
MP補正値:0.7
WP補正値:0.7
STR補正値:0.7
VIT補正値:0.7
DEX補正値:0.7
AGI補正値:0.7
INT補正値:0.7
MND補正値:0.7
メイン:腐毒の舶刀(STR+4)
サブ:なし
頭:探索者の帽子
胴:探索者の上衣
腕:毒蛙亀の革手袋(DEX+2)
腰:毒蛙亀の革腰帯(VIT+2)
脚:探索者の下衣
靴:探索者の靴
装飾品:なし
アビリティ・スキル
からくり士Lv.11
茶運人形Lv.2
解析眼Lv.2
からくり生成Lv.1
両手剣Lv.3
パワースラッシュLv.2
トライエッジLv.1
フォウメントブレードLv.1
片手剣Lv.3
クイックスラッシュLv.2
ブラインドサイドLv.1
カウンタースラッシュLv.1
武器捌き
パリィLv.2
体術
ライトステップLv.1
アクロバットムーブLv.1
感知
危機察知Lv.1
――――――
東門への道すがら、ステータスを確認してみた。
結構色々充実し始めてるような気がする。スキルが増えたり成長したりしてると強くなったような気分になるな。ステータスは相変わらず悲しくなるほどに低いままだが。俺がVITに振ってないせいもあるけど、LV.9になったミケのHPって450近くあるんだよな。格差がどんどん広がっていく……やっぱり強くなったのは気分だけだな。
とりあえず改めて自分のステータスとこれから向かう場所のことを考えてみた結果、道具屋で薬類を補充する必要はまだないと確信して、俺はそのまま森に行くことにした。
――その森はただ深く、ただ蒼く、ただただ静かで、まるで鉄のような、冷たい樹々の世界だった。
図書館で読んだ「静謐の深蒼森林を望みて」という冒険譚において、オーサーが初めて森に足を踏み入れた時の所感はこのように綴られていた。
プレイヤーの視点からは何のことはない、強いて言えばちょっと暗い森という感想しか抱かない程度の場所。身も蓋もない表現にしてしまえばチュートリアルマップ(森編)でしかないが、NPCから見ると全くそんなことはないらしい。
フィールド境界から決して外に出てこないモンスター。記録にある限り一度とてモンスターの氾濫が発生することなく、領域が拡大することもなく、ただ変わらずそこに在り続ける森。あたかも進まぬ時に守られているかの如く、外界と隔絶した世界。
果たしてどこまでが仕様で、どこからが設定なのやら。いずれにせよ、その謎を明らめるためには森の深層を目指すことになるのだろう。
マップを開いて現在位置を確認する。フィールド名は『静謐の深蒼森林』と表示されている。
ここは鬼人と遭遇したエリア。このまま東に進めばおそらくそう遠くない内に中層に足を踏み入れることとなる。
「さて――」
まずは生存優先。敵は極力、いや一切無視して先に進むことだけを考えよう。
「……行くとするか」
そして、俺は森の奥を目指して、再びモネーロの街を出発した。デスペナルティをこの身に宿して。
「下級人狼」ね。なるほどなるほど、人狼の固有種かな。素早くて隙の少ないオーガみたいな感じだ。
……ちょっと中層走破できる気がしなくなってきたぞ?
マクスくんの装備が総取っ換えです。きっと中層攻略の一助になることで、はないでしょう。もう死にましたし。
20181128追記
武器捌き抜けてた……




