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再帰のエートス  作者: 時桔梗
第一章 巡る月日、移ろわぬもの
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モネーロ大天堂

大変遅くなりもうした……



さて話は変わりますがここで三話前のあとがきを見てみましょう。作者は見なかったことにしました。

二話をじわと読めばすなわち四話となりつまりそういうこと。

「言いたいことは色々あるんだが……」


 愚痴などを滔々懇々と呪きそうになりながらも、恨みつらみの熱は松葉を燃やす程には高くなかった。

 そうは言っても何となく気力を削がれたのは確かであるから、特段会話に生産性を求める質ではない俺であるが、せめて実のある話で溜飲を下げたい気分になり、掲示板を流し見て気になったことを通話の中に投げ掛けることにした。


「その、絹羽ってケッちゃん本人?」

「本人だな」


 祥平のやつはあっけらかんと言い放つ。あんまりきっぱりと言い切るものだから、さてはこいつもアンチか、とつい眉を顰めてしまった。

 音声通話だからこちらが見えているはずもないのだが、祥平は黙りこくる俺の様子に何かまずいとでも思ったらしい。


「事情を知ってるだけだ。コテハン連中は情報操作と、まあ火消だな。最初のスレ見ればそれなりに分かりやすいが、オススメはしない」

「絶対見ねえけど……火消ってどうせあれだろ、消すためにまず火を熾す類の、マッチにポンプなやつだろ」


 そもそも匿名掲示板で火消なんてやろうとするならば、対岸にドデカい爆発でも起こすとか、野次馬がより興味を持つような事件が必要だ。火消とは言うが、本当に火が消えるのは自然に鎮火したときだけなのだ。


「そんなでもねえよ。なあ?」

「はい。懸命に油を注いでいましたから」

「全焼して消えただけだろそれ!」

「ちなみに創吾さんはフランスで薩摩芋農家をしていることになってます」


 意味が分からん。と言うかそんな話に見覚えがないし、アンチ共も設定忘れてるんじゃないだろうか。


「まあ、いいか。『イシェドの樹』が更新されてるってことはケッちゃんも本腰入れてプレイするってことだろうし、早めに会ってフレンドになっておくべきかな」

「何か手土産がないとお前でも門前払い食らいそうじゃないか?」

「ええ? 俺とケッちゃんはズブズブの懇ろよ? 余裕で顔パスだろう」

「表現がとても気になりますが……ランさんは何もなしにかかずらってくる人がとにかくお嫌いな方ですから」

「ううむ……そう言われると確かに」


 少年アバターの癖に結構な合理主義者なのだあの人は。情報と礼儀を耳を揃えて持っていけば誰であろうが丁寧に応対してくれるのだが、片方でも欠けていると表情から暖かみが消え、両方ならば言わずもがなだ。


「なら昨日のフィールドボスの情報は?」

「今日お会いできるならそれでもいいのかもしれませんが、そもそも斑鳩さんや神月さんらから既に情報が行っているのでは」

「Oh...」


 物好きが動画をアップしてるみたいだし、その点でも情報としては弱くなってしまうか。

 完全新規の情報じゃなければいけないという訳でもあるまいが、改まって挨拶しに行こうというのであればインパクトのあるものがやはり相応しい。そうすると……


「丁度いいのはあの無駄にデカイ狼くらいなもんか」

「そうですね。触り心地が素晴らしかったですし」

「いる? その情報」

「いります。絶対に」

「ああそう……」


 突然熱を帯びた千歳の言葉に俺は少し引き気味になる。今の今まで考えたこともなかったのだが、ケッちゃんはもしかしてそういった情報を欲しがっていたのだろうか。素材の用途の考察にでも必要なのかな。今後の参考に頭の片隅に留めておくべきか。


「金狼の話題はざっと探した感じ、出てはなさそうだったな。森の狼がレベルの割りに強いって話ならいくつか見かけたが」

「アルフも最初からやけに動きがいい気がするし、そのことと関係あるのかね」

「アルフも触り心地がいいんですよね」

「関係ある? それ」

「あります。絶対に」


 千歳は再び力強く訴える。毛皮の触り心地と強さに相関関係なんて……いやゲーム的には案外成り立っているようにも思える。高レベルモンスターの素材は往々にして強度と柔軟性を兼ね備えているものなのだ。全部が全部というわけではないから、あながち間違いではないという程度の話ではあるのだが。

 ――しかし、発言の中身はともかく、千歳の語り口調がどうにも理性的じゃないような気がする。


「……千歳って動物好きだったっけ?」


 千歳に聞いたところで、どうせ当たり障りのない答えしか返ってこないだろうと思いつつも問うてみると、予想外に歯切れが悪く、上擦った声が耳に届いた。


「あくまで、人並みにですが。大好きとか、それほどでは、決して。それに私が一番好きなのは梟ですから、狼なんてそんな――ちょっと抱きしめるともふもふで、温かいくらいで、そんな」

「ああ、そう……」


 つまり大好きなんだね。とは流石に言えず、されど何を口にしたものかも分からず、俺は曖昧に相槌を打ってお茶を濁した。


「まあともかく、狼の情報を渡すとしてももう少し調べてからかな。目撃情報だけじゃ心許ないし、せめてクエストでも発生してくれたら分かりやすくていいんだが」


 頭の中で今日やることを考えつつ、俺は誰にともなくそんなことを呟いた。




「さて、二人はもうインできんの?」

「いや俺は午後からだな。昼メシ食ってすぐ来られるか微妙だから、遅くなると思っててくれ」

「私も、し――り合いと外で会う予定がありまして、すみません。午後を過ぎると思います」


 そろそろエートスにインするかと誘ってみれば、祥平も千歳も今からは無理ということらしい。それならそれで一人のうちにやっておきたいこともあるから全く問題ないのだが、都合四人に用事があると言われてしまうと、軽く疎外感のようなものを感じてしまう。


「そっか。栞もどうせ昼過ぎまで寝てるよなあ」

「栞さんなら今日はもう――」

「寝てるだろうな! ぐっすりとな!」

「そ、そうですね。もう床に就いていて、まだ寝てるはずです」


 ……どことなく違和感のあるやり取りだが、追及してもいいことがない予感がある。栞はいつも通りぐっすりと寝ているということでいいだろう。


「だよな。まあ仕方ないか……それじゃ俺は先にインしてるから、またあとでな」


 これが何から始まった通話だったのか終ぞ聞くこともなく、俺は通話から一人抜け出した。

 ヘッドセットを外して、一つ小さく息を吐く。


「……こう、はぶにされてるような」


 休日に予定も何もないのが俺と栞くらいということなんだろうけど、悉く袖にされると一人取り残されたようなもの悲しさがある。別に俺だけ除け者にして集まってるわけでもなし、各々用事があることに不満を覚えるなんてお門違いの筋違いだ。

 現実で置いて行かれたような気分になったのなら、ゲームで先んずればいいだけのことだ。それで問題なく釣り合いが取れる。


 感覚同調(リンケージ)し、ロビーで手早くリージアを弄んでからエートスにログインする。

 リージアのやつは「私はアロエではありません!」なんて意味不明なことを叫んでいたから、小っさいお脳にバグでも湧いたんじゃないかと思う。自己修復ついでに昔のかわいげを取り戻してはくれないものだろうかと切に思う。




 さて、マクスとして降り立ったのは『モネーロの街』中央の公園広場のそばだ。昨晩鍛冶屋に立ち寄り防具屋に立ち寄り、それから大聖堂の図書館に向かう途中で今日は止めておこうとなった結果、この辺りでログアウトしていたのだった。

 街行く人は見た感じプレイヤーの割合が高く、NPCはあまり活動していない時間帯らしい。

 公園広場を抜けて、大聖堂へと向かう。遠目からも目立つ建築物だと思っていたが、近づいてみればよりその威容に圧倒される。

 建物の東側と西側にはそれぞれ一本ずつ見上げるほどに高く聳える塔があるのだが、建物自体がまず巨大だ。目算で正確な高さが分かるわけでもないが、大聖堂自体が三、四十メートル、塔に至っては百メートルを優に超えているだろう。

 外観は複雑で華美な装飾が全面に施されていて、しかし不思議と重苦しさは感じない。規則的に居並ぶ尖頭のアーチが骨組みのようになっていて、建物全体を上へ上へと押し上げようとしているようにも見える。高く鋭く立ち昇るような在り様であるのに、塔の天辺は平らかになっているのが何とも異様に思えて、目についてしまう。

 大きさと雰囲気に飲まれてしばし呆けてしまったが、改めていざ大聖堂に入ろうと気合を入れてはみたのだが、正面の入り口らしき、門扉と見紛う大扉はしっかりと閉じられてしまっているらしい。

 ひょっとしてこの時間はまだ入れないのだろうかと少し不安になったが、ベルと初めて会った時は、そういえば正面よりも東側から入っていったようなと思い出した。

 歩をそちらに進めてみれば、なるほど正面入り口よりは小さいものの、勝手口というには憚られる大きさの通用口がそこにはあった。若干の緊張を自覚しつつ、俺は大聖堂の中へと足を踏み入れた。


「天つ御光(みひかり)のあえかなる時に、ようこそいらっしゃいました。此度は如何なさいましたか?」


 扉を越え、外界と空気が変わったように感じた途端、抑揚の少ない声が耳に届く。

 用件を尋ねてきた主は白い外套を纏った修道女であった。受付のようなものかと思い、ふと視線を落としてみれば、修道女の左腰元にはこれ見よがしにぶら下がる佩剣が。柄と細さからしてレイピアだろうか。

 つまりあれだ、受付じゃなくて門番か。目的を告げずに入ろうとしたら背中から一突きされそうな気がしてならない。


「どうも。図書館に行きたいんだけど、どちらに行ったらいいかな」

「図書館でしたら向かって奥の回廊を真っ直ぐ進んでいただき、突き当り左の階段を上った先にございます」


 軽く身構えたが、どうやら奥に進んでも問題はないらしい。念のため修道女へと気を払いながら、大聖堂内に足を運んでみたものの何事も起きることなく、俺は一度だけ深く息を吐いた。

(前書きに続き)なおこの次でも怪しいとかなんとか。


モネーロ大天堂のざっくりとしたイメージはケルン大聖堂です。ざっくりとなのでざっくりですが、ベースはゴシックです。

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