猛亀腐毒 一
前話の後初めて評価をいただきました。うれしや……うれしや……!
そのことも含め活動報告なるものを昨日投稿いたしましたので、よろしければそちらもご覧いただければと思います。とても大事な話(作品のこととは言っていない)について記しております。
俺たちパーティの六人は作戦上の配置に就く。といっても特に変わった配置ではなく、前後衛で分かれてミケが少し距離を取っただけだ。あとはタイミングを見計らってアルフをミケの位置まで下がらせるだけ。
ミケはレベル差トリプルスコアでタゲを維持しなくてはいけない厳しさに、きっと気負いがあるはずだ。そうに違いない。よし、ここはパーティのリーダー的存在兼幼馴染として、俺がやつの緊張をほぐしてやらねばなるまい。
「ミケ、心配すんな」
「マクス……」
その不安を俺は許容しよう。ダメで元々、失敗したって構わない、と俺はミケに向けて親指を立てる。
「お前が食われるところはバッチリ録画しといてやるからな!」
「タゲ取るのやめようかなあ……あぁダメだ。マクスの火力がみそっかす過ぎて後ろに迷惑がかかってしまう……」
「みそっかすにもちょっとは栄養あるわよ?」
タマオよ、それはどっちだ。救援か、挟撃か。確認すると心に傷を負いそうで怖いから、この話はここでおしまいにしよう。ちゃんと目的は果たしたしな。
フィールドボス「猛る毒蛙亀」と、それに対峙するアルフの方へと視線を向ければ、ちょうどあの甲羅ガエルが前脚を振り上げるところだった。
この後に来る叩きつけをアルフは斜めに下がって回避するな。いいタイミングか。
「イリス、この後な」
「ええ、分かったわ」
俺は後方で備えるイリスにそう促した。他のメンバーも戦闘の開始を察して意識を切り替えたようだ。
甲羅ガエルは、ちょろちょろと纏わりつく目障りな狼を叩き潰すべく、振り上げた前脚を打ち下ろす。鬼人の棍棒叩きつけと比べるとどうだろう? と飛んだ思考はイリスの声で引き戻された。
「アルフ! 下がって!」
「ガウ!」
アルフは甲羅ガエルの叩きつけを飛び退いて回避し、イリスの命令に即座に従った。
うーん、優秀。命令に反応する速度といい、下がりながらも敵の動きに注意を払っているところといい、流石敵だったころは俺を倒した(自爆)だけのことはある。ちなみに通常モンスターに性格的な個性なんてほぼない。
唯一の欠点は俺にデレてくれないところか。頑張って働いてくれたアルフちゃんに労いの撫でつけをしてやりたいところだが、あいにくふざけていられる状況ではない。
戻ってきて警戒レベルを増したように見えるツン狼を意識から追い遣り、俺はフィールドボス戦の開始を高々と告げた。
「さあ始めますか! ミケ! めなたんだっ!」
「気が抜けるからめなたんはやめてよ……」
ミケは複雑な表情のまま、イリスの『守りの加護』が掛かったのを確認すると、弧を描きながら甲羅ガエルの左前脚に近づいてそのまま斬りつけた。無言で。
「あ、こら! めなたんはそんな無言でスキルを発動するような熟れた戦い方はしない!」
「うるさい諸悪の根源!」
誰が諸悪の根源か。人聞きの悪い。
ミケは突っ込みながら〈騎士〉系統、〈見習い騎士〉のジョブスキル『脅威の発気』を発動し、片手剣アビリティのスキル『タウントソード』で甲羅ガエルを攻撃した。俺は澱みなく無言で繰り出されたスキルコンボに内心で歯噛みしていた。
さて、めなたんとは『脅威の発気』と『タウントソード』を連続発動するスキルコンボの愛称であり、ついでにそこから独り歩きして誕生したナニカのことを言う。
両方とも敵のヘイトを上昇させる効果を持つスキルであり、強化と攻撃で両立するため相乗効果が生まれる。簡単かつ有効なスキルコンボとして、最序盤の〈見習い騎士〉はまずこれが出来るようになろう、という風に元々かなり有名なものであった。
発端は俺がまだ斑鳩のクランに居た頃だった。あの頃は初心者応援兼人材発掘を目的として、始めたばかりのプレイヤーと一緒に遊ぶことがままあった。
当然戦い方、立ち回りとかスキル回しとかを教えることもあって、〈見習い騎士〉には必ず『脅威の発気』と『タウントソード』を一緒に使おうね、と相手は変われど何度も何度も口にしていた。
ある時、これは明確に覚えているのだが、戦闘中にスキル名をフルで指示するのは長いよな、なんて話をきゃりぃのヤツとしていた時のこと。きゃりぃが「じゃあ略して「めなたん」って呼ぼう!」と言い出して、俺もそれに賛同してしまった。そこからの事態の進展は早かった。
まず序盤のフィールドで有名クランのプレイヤーが初心者に向かって、「めなたんだ!」「めなたんを使え!」なんて指示を出す様はすぐに口さがない連中の話題に上った。『脅威の発気』と『タウントソード』の略だというのは周知され、やがて頻繁に使われるようになった。
ここまではよかったが、ここからめなたんは独り歩きを始めた。
初心者の〈騎士〉ジョブの愛称へと変わり、転じてPS足りない〈騎士〉ジョブを揶揄する蔑称に変わり、そして何故か擬人化されて魔法少女になった。騎士なのに。
魔法少女めなたんの誕生であった。
改めて思い返しても意味が分からない。集合的無意識の生んだ魔物か何かか。いや魔法少女モノか。
魔法少女めなたんのキャラ付けが割とアレだったこともあって、一時期〈騎士〉系統の女性キャラへのセクハラが増えた。そして発端となったペルソナータは、「盾職よりヘイト集めるの上手いんだから〈騎士〉は要らないよね」なんて言われて〈騎士〉が全然入ってくれなくなった。
だからな、つまり諸悪の根源は(悪)名高いクランを作ったあのゲソなんだよ。俺はそう断言できる。リーダーのあの頭のせいでペルソナータは一時期「女(騎士)の敵」なんて言われていたのだ。歩く十八禁、許すべからず。
いや、めなたんのことは今はどうでもいい。フィールドボス戦中だ。
前衛は俺とミケとアルフ。左右の前脚で分かれ、ミケはアルフと共に左脚側、俺は後衛らと共に右脚側。
猛る毒蛙亀がここまで見せた攻撃行動は、前脚薙ぎ払い、前脚叩きつけ、上体を起こしてのボディプレス、飛び跳ね、舌伸ばし、くらいか。
アルフの立ち回りでアルフをターゲットにした攻撃がこれくらいだから、実際には現時点でも未見の行動があるはずだ。特に後脚と、頭部至近は注意が要る。名に毒を冠しておきながら今のところそれらしきものを見せていないのも気になるな。HP減少か怒り辺りがトリガーになっていて解禁される感じだろうか。
「――ッ! 『錬鉄の構え』!」
甲羅ガエルはミケに正対するように体の向きを変え、その舌を勢いよく撃ち出した。
ミケは「体を鉄のように重くし身構えることで、十五秒間移動速度が大きく減少する代わりに防御力を上昇させる」効果のスキル、ざっくりと言えばSA付与と防御上昇の〈見習い騎士〉習得スキル『錬鉄の構え』を発動した。
ミケが前に構えた革の円盾に甲羅ガエルの舌がぶつかり、すぐさま引き戻される。作戦通りとはいえ、一瞬引っこ抜かれて食われるんじゃないかという不安が俺の頭をよぎったが、どうやら杞憂で終わったらしい。
引っ張られ張り詰めた甲羅ガエルの舌を、少し時間を置いてからアルフが爪で攻撃すると、甲羅ガエルは軽く怯んだ様子を見せ、何も得ぬままその舌を引っ込めた。
ミケとアルフの役割はタンクとサブタンクだ。基本的にはミケが甲羅ガエルのヘイトを受け持ち、アルフがそのフォローやサポートを行う。
捕食攻撃は危険な行動だが、絶対に食らってはいけないかどうかまでは判断がつかなかった。そのため、戦闘序盤の内に防ぐことが可能かどうかを確かめる、というのが目的の一つとして作戦に組み込まれていた。
もしも『錬鉄の構え』を発動してなお捕食されるようであれば、俺がそれをばっちり動画に収めてあとでネタにする……ではなく、死ぬか吐き出されるかしてミケが戦闘に復帰するまでの間、アルフにもう一度頑張ってもらう段取りだった。
結果は上々。『錬鉄の構え』で捕食を防げただけでなく、甲羅ガエルの動きをしばらく抑え込むことができた。スキルのCTが四十秒だったかあるから常に正面に立ってタゲを取るのは危険だろうが、それでも正面に立って何とかできるというのはミケにとっても、そして逆側で甲羅ガエルのHPを削る俺たちにとっても非常にありがたい話だった。
「よし、変化があるまでは予定通りで! 後衛は後脚、アルフは攻撃にシフトさせていい!」
「うし、了解! 『神秘への馴化』、『氷気の小槍』、『氷気の小弾』!」
「アルフ! 『攻勢指令』! 物理職に『攻めの加護』を掛けるわ!」
「強化をいただいてから『チャージアロー』を撃ちますね」
「みんな頑張ってー。回復は任せてね」
俺は甲羅ガエルの右脚側で様子を窺っていた他の連中に指示を飛ばし、俺たちは一斉に行動を開始した。
各員ジョブレベル6、アビリティレベル3で新たにスキルを習得したお陰で、火力も手数も増えてはいる。しかし、フィールドボスが故にレベル差関係なく見えている甲羅ガエルのHPの減りは芳しくない。適性レベルの半分にも満たないパーティレベルだから仕方ないは仕方ないんだが……順調に行って三十分コースかな。
タマオは呑気に構えているが、パーティの状態にはしっかり気を配っているはずだから心配はいらないだろう。初見で且つボスだから、暇で前に出てきてやられても困るし。勿論範囲攻撃やランダム攻撃がない敵なら「サボんな殴れ」って言ってやるのではあるのだが……
ミケが真正面寄りに立ち位置を変えた途端、甲羅ガエルは軽く体を沈み込ませる予備動作をした。
「退避!」
「飛び跳ね来るよ!」
俺とミケが同時に叫び、即座に全員が甲羅ガエルから距離を取る。
甲羅ガエルはその巨体を軽々と宙に舞わせ、退避したミケとアルフへと飛び掛かった。優に二メートルを超すジャンプはいっそ滑稽なくらいだが、その着地の衝撃は冗談では済まない。
辛くも甲羅ガエルの下敷きは免れたミケだったが、甲羅ガエルの着地時の振動でバランスを崩しそうになっている。
そしてこの飛び跳ねは一度では終わらない。二度目は右脚側、すなわち俺と後衛陣の方へと方向を変えて跳び、最後の三度目で一番高く跳びあがると、俺たちが退避した先のすぐそばに、轟音と共に落下した。
「うっはー、五回死ねそう」
「コケかけてんじゃねえか。もうちょっと下がっとけよ」
「直撃しなくてもダメージがあるのかどうか確認しとこうかと思ってな。大したダメージじゃないが近いと食らうみたいだなあ」
「半分減ってて『大したダメージじゃない』じゃないわよ馬鹿……『治癒の光よ』」
「ほら仕事ができて暇じゃなくなっただろ?」
回復魔法を俺に掛けながらタマオはジト目で睨んできた。暇そうにしてた癖にいざ仕事ができれば不満そうにするとは、面倒臭い性格してやがる。
「ほらほら、じゃれてないで。飛び跳ねの後は隙が――」
ゴゴゴゴゴゴ……
イリスの声で攻撃チャンスを思い出し、殴ろうと剣を構えたところで、地鳴りのような重低音が響き渡った。音が来る方を見てみれば、甲羅ガエルの鳴嚢がこれ見よがしに膨れ上がっている。
「……鳴き声?」
「みたい、ですね」
アルフが頑張っていた時には見られなかった行動だが、確かに蛙と言えば傍迷惑に鳴きやがるよな。ゲーム的には意味のない威嚇行動に当たる――って、オイ。
「攻撃弱体二十秒かかってんじゃねえか。しかも鳴く度に上書きされてやがるし」
攻撃チャンスにきっかり弱体入れてくるなんて、このカエル鬱陶しいことこの上ねえ……
魔法少女めなたん とは
1〇歳の魔法少女(と言いながら剣と盾を持ちぶかぶかの全身鎧を身に纏った)「めなたん」(夜乃 愛那:よるの めな)と、ライバルキャラの「めいたん」(有賀 芽愛:あるち めい)が繰り広げるハートフルヘイトコントロールリ〇カルマジカルホーリーナイトなカンノウ作。
二人は時に衝突し、時に協力しながら悪の親玉デイピエスに挑む――
というお話。
え? 最後どうなったか?
二人仲良く触手に負けたよ(R-18)
設定は匿名集団によって細々と練られていたのが、とある大手サークルが気合い入れて薄いブックを作ったらやべーくらいに盛り上がってしまった。最盛期は某イベント全出展のうち一割をめなたんが占めていたとかいないとか。
めなたんとめいたんの特徴を一言で言い表すならば、(ヘイト値に)敏感。




