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再帰のエートス  作者: 時桔梗
第一章 巡る月日、移ろわぬもの
33/47

got on

 夜闇に包まれながらも、俺の心中はいたく晴れがましかった。

 今となっては些細な気がかりくらいに考えていたのだが、いざ改めてそれを自覚し取り払われてみれば、喪失感は爽快感として俺の心を浚っていった。

 現実では梅雨模様の鬱々とした季節だが、仮想の夜風はこうも清々しく俺の背中を押してくれる。

 店から漏れ出るどんちゃん騒ぎ、道端でがなり合う血の気の多い……プレイヤー、NPCに執拗に絡んでいたのかたった今どこかに連れ去(キャト)られたプレイヤー。その全てが祭囃子のように俺の気分を盛り立てる。


「上機嫌で歩いてるとこ悪いんだが、お前どこ向かってんだ?」


 コッ、と石畳を踏み鳴らして俺は背後を振り向いた。どことなく呆れ顔のアーウィンと、その少し後を歩いてくるその他四人の姿が目に入る。

 どこ。どこへ向かうのか。後顧の憂いに囚われていた俺はすっかり忘れていた。どこへ向かうのかなんて分からない。分からないが、進むのだ。

 クランの名前を付けたのは俺だというのに、クランのリーダーは俺だというのに、その名に込められた想いを自ら否定するわけにはいかない。見果てぬ道のさらに先を目指し勇往邁進する、それが我がクランのモットー! だったような気がする。違ったかな? ニュアンスは合ってると思う。

 そんな想いを体全体で表してみたのだが、我がクランメンバー達の反応は芳しくない。なんでだろう。右足首をグルグル回しながら頭を捻ると、得心が行ったとタマオが手を上げながら声を上げる。


「……ハイ! 名状しがたい苦悩のポーズ!」

「なにをう」


 どうやらこの身の言わんとするところを誰も理解できないらしい。右手は天に真っ直ぐ伸ばし、左手は明日へ、しかし道中の困難を暗示するべく複雑に折り曲げる。左足は爪先立ちで地を示し、右足は……海がどこにあるか分からないから取り敢えずグルグル回してみる。この世界に生きる我らの在り様を表現するように絶妙なバランスで保持された微妙玄通たるポーズは傍から見てみれば――どうなってるんだろう。

 第三者的にどう見えるのか確認するべく、俺は左手でさらっとゲームメニュー内のカメラモードを立ち上げ、カシャっと自撮りしてみた。


「うわキんモっ」


 映っていたのは正気度が削れるような、夢でこんなのがスライド接近してきた日には百メートル十秒台で逃走を図るくらいの歪な精神汚染物体だった。

 静止画でこれなら右足首がぶん回っている様はどれほどキモいというのか。俺は即座に直立体勢にシフトした。あんな姿を見せられたら百年の恋も冷めようというものだ。と言っても冷めるのは俺にではなく、俺とつるんでるミケに対する恋だろうが。


「浮足立ってんなあ……この後どこで何すんのかって聞いたつもりだったんだが」


 アーウィンは額に手を当て再度問いかけてくる。ゆっくりと追いついた四人も立ち止まり、俺の反応を待っている様子。


「ちょうど街の西側に来たわけだし、南西の丘でカンカンしに行こうかと」


 俺はつるはしを振るそぶりをしながら答えを返した。鉱石素材採集、レベリング、何より気分転換。今日一日森に居た気がするし、そろそろ新しいフィールドに行ってみたいところだった。

 しかし……何かが引っ掛かる。何か見落としていることがあるような……?


「マクスさんマクスさん」


 セルディに小声で呼ばれて意識を向けると、その手は小さくつるはしを振るような動きをしていて……つるはし?


「……おぉ! 買わないとじゃん」


 つるはし持ってないことなんてすっかり頭から抜け落ちていた。丘に向かうこと自体は皆賛成だったようで、俺たちは街の西門に行く前に道具屋、ついでに防具屋に寄ることにした。






『鉱木乾岩の丘』。

 それは『モネーロの街』を取り囲むように広がるふれあい羊牧場……もとい草原を南西方向に抜けた先にあるなだらかな丘陵フィールドの名前である。その様相はあたかも武陵源かカッパドキアのごとくといった具合か。大きさは及ぶべくもないが、枯木のような奇岩が緑広がる丘に林立するというのは中々にエキセントリックな光景だ。

 立ち並ぶ岩は乾岩であり鉱木。このフィールドが採掘地というのはすなわち、この岩々の中に鉱石素材が隠されているということに他ならない。

 環境は草原とも森とも異なっているが、それは当然生息するモンスターにおいても同様であり……


 ぷるんっ。


 そんな擬音が聞こえるほどぷるぷるした半透明の物体が俺の足元に飛び出してきて、俺は肩に担いだつるはしをそのぷるぷるに向かって振り下ろした。

「プウズ」という名の水饅頭スライムは刺突に弱いのか、四度目のつるはしアタックによってぷるんっ、とアイテムを残して消滅した。

 ドロップした「プウズスターチ」を回収してから、俺は一度周囲を見渡し、改めて次の岩へと足を勧めた。


 アクティブは小鬼人(ゴブリン)豚頭鬼(オーク)、プウズ。ノンアクティブは時折空をくるくるふわふわ漂っている、双葉の実生に似た「シーリン」。この辺りが丘で頻繁に見かけるモンスターだろうか。斑鳩(ゲソ)の言を信じるのであればイカれた白兎(カルバノグ・キラー)も出てくるようだし、どうも犬っぽいシルエットを遠くに度々見かけるし、あまり油断はできない。


「マクス、大丈夫みたい」

「そか、助かる」


 索敵を終えたフォレストウルフの従魔(ディーナー)、アルフを撫でくりながらイリスは周囲の安全を伝えてくる。アルフちゃんはどうも俺に対して反抗期なようで、先ほどのようにプウズが俺に襲い掛かってこようと何も警告してはくれない。

 イリスがアルフちゃんに与えた命令は「危険なモンスターがいたら教えて」であるから、プウズくらいスルーするのは確かにおかしくはないのだが、イリスやセルディの近くに湧いたプウズはちゃんと吠えて教えてるのだから、やっぱり俺にだけ当たりが強いと思う。


「じゃ、頑張って掘りますか」

「はい、たくさん掘りましょう」


 俺たちは今、三人ずつ二組に分かれて丘の探索を進めていた。

 俺、イリス、セルディの組。

 ミケ、タマオ、アーウィンの組。

 つるはし担いで岩柱を掘る役は俺とセルディとミケの三人だ。『解析眼(アナリシス・アイ)』を覚えている俺と、覚えたセルディは分かれた方がいいんじゃないかという意見もあったが、戦闘のバランス、途中でミケが堀ったものをいちいち識別する面倒さ、あと最後の些細なお楽しみを諸々考慮した結果現在の振り分けになった。


 俺とセルディは直径三メートルほどあろうかという二本の岩柱にそれぞれ分かれてつるはしを振り始めた。カーンカーンと至る所から響く音にさらに二人分の音が加えられる。

 WPが三割近くに減るまで無心にカンカン掘ってから、地面に毀れた石の中でアイテム化したものをまとめて回収して、少しの休憩を挟む。

 休憩がてら俺のインベントリで仮保管されている鉱石アイテムを見てみれば、これまで五本の岩柱を掘り尽くした結果がずらりと並んで表示されていた。


「石ころ」 レア度:ノーマル

 分類:素材アイテム

 ただの石ころに過ぎない。価値はないが何かの役に立つことがあるかもしれない。


「鉄鉱石」 レア度:ノーマル

 分類:素材アイテム

 普通の鉄鉱石。鉄の原料として広く用いられる。


「黄鉄鉱」 レア度:ノーマル

 分類:素材アイテム

 金に近い色をした鉱物。貴金属的な価値はない。製鉄には適さず、用途は少ない。

 鉄で叩くと火花を出す。


「アロン鉄鉱」 レア度:ノーマル

 分類:素材アイテム

 魔力を帯びて変質した鉄鉱石。魔鉄の原料となる。通常の炉で製錬するとただの鉄となる。




 通常素材はこのくらいか。石ころは投げて遊べるけど基本ゴミだから後でまとめて捨てておこうかな。

 品質はまちまちだが、鉄鉱石とアロン鉄鉱のB品質は幾つか拾えているからまずまずの収穫と言っていいと思う。特にアロン鉄鉱は序盤の強い味方、「アロン魔鋼」製装備の材料になる良素材であるから、是非とも高品質を必要分集めておきたい。

 俺の剣とミケの装備全般と、セルディの弓もかな。魔法職組は魔鉄でもペナルティのせいで微妙だから保留。


 インベントリを確認している間にWPが最大近くまで回復していた。よし、そろそろまた掘りますかと俺が休憩を終えようとした丁度その時。


「あ、「採掘」アビリティ取れました」


 セルディが珍しく声を漏らしたと思えば、続けてそんな報告をしてくれた。


「マジ? スキル何だった?」

「パッシブの「採掘効率上昇」で、効果は採掘時WP消費軽減と採掘時間短縮です。アビリティにもスキルにもレベルがあるみたいです」

「なーるほど。生産職の方が取得しやすいとかあるのかね?」

「どうなのでしょうか。それなら〈からくり士〉もすぐに取得できるのではないでしょうか」

「まだだ、まだ生産職と確定したわけではない……」

「ふふ、そうですね」


 意味ありげに笑うセルディから逃げるように、俺はゴットンゴットンと採掘をする。

「採掘」アビリティは正直欲しい。スキル名通り間違いなく採掘効率に露骨に影響するアビリティだと思う。アビリティにもレベルがあるということは、アビリティレベルが上がると違うスキルも手に入るんだろう。パッと思いつくのは品質上昇とかレア率上昇とか辺りか。

 早くアビリティを覚えたいが、今取得してセルディに生産職仲間認定されるのは避けたいという気持ちのせめぎ合いの結果。


「……採掘ポイント枯れたか」


 岩柱に打ち付けたつるはしが一際高い音を鳴らして弾き返された。これで俺は六本目の採掘が終わったわけだが、セルディの方はやっぱりまだ残ってるか。

 採掘作業にもどうやらプレイヤーのテクニックによる影響があるらしい、というのは前作の頃に言われていて、目の前でセルディの採掘作業を見ていたらそれは嫌が応にも実感させられるものであった。セルディが言うには、つるはしを打ち付けるたびに採掘ポイントの見た目が若干変化したりつるはしから伝わる手応えが変化したりするから、それに合わせて叩き方を調整する……らしいのだが、心の底から意味が分からなかった。基本的にその時出せる百パーセントを弱点に叩き込むことしか考えられない脳筋戦闘職が、一撃毎に打点と力加減を調整して殴るような小器用な真似が出来るはずなど無かったのだ。

 多分その辺の、プレイヤーの採掘テクニックもアビリティ取得速度に関係してるんじゃないかなと思う。そうであれば俺の取得はまだまだかかりそうだし、生産職認定は回避できそうか。


「あら、マクスはもう終わり?」

「ああ、多分やり方が雑なせいなんだろうな。奥が深いというか、こだわろうにもどうしたものやらってなあ」


 アルフと共に周囲に気を配るイリスと一言会話を交わし、俺はすぐそばにあった座るに具合のよさそうな岩に腰掛け一息ついた。

 作業的に『茶運人形(ティーマトン)』を発動して茶という色水を一気に飲み干し、人形を帰還させる。トグルスキルの『解析眼』をオフにしてぼーっとセルディの採掘作業を眺めてみる。

 現実の千歳の大和撫子っぷりからは想像もつかないような泥臭い作業だが、セルディは中々どうして様になっているように見える。様になってるもなにも一振り一振りに意図が籠っているという事実があるわけで、それはまごうことなき職人の御業か。

 やっぱり見てても分からんな、とぼんやり考えていた時、突然俺の目の前の地面が小さくボコッと盛り上がった。


「……モグラ?」

「ぐ」


 盛り上がったと思ったのは「丘モグラ(ヒルモール)」なるモンスターの頭だったらしい。モグラは一瞬俺の方を見て一鳴きすると、キョロキョロと周囲を窺い始めた。

 モグラの頭上のカーソルはこちらを認識した後も黄色のまま。畜生白兎のようなイレギュラーなタイプでもなさそうだし、こいつもノンアクティブみたいだな。


「ガァウッ!!」


 突然、モグラ観察をしていた俺に向かってアルフが強く吼えた。敵意、警戒心、そんな感じのものを剥き出しにしてこちらを睨むアルフ。

()()()()()()()()()()()()教えて」という命令を受けているアルフがノンアクティブのモグラを警戒しているということもないだろう。どこからどうみてもただの、ちょっとデカいだけのモグラだし。

 それならやはり俺が近くにいるのが我慢できなくなったのか、しょうがない犬畜生だ、などと思考しため息を吐いたタイミング。


 ぐらり、と不意に体が揺れた。

 すわ地震か!? そんなことまで今作は再現してんのかと暢気に感心していた俺は、次に強烈な重力感が体に襲い掛かったのを知覚し――


「お?」


 一瞬視界がぶれたかと思えば、今俺の目に映っているのは()()に聳える岩柱の群れ、こちらを見上げるイリスとセルディ。

 そして、天地逆さの体勢になってようやく()()()()()()()()()()のだと把握した俺が、先ほどまで座っていた場所に見たものは。


 《パーティメンバーが、フィールド『鉱木乾岩の丘』にてフィールドボス「猛る毒蛙亀(クレイオ・ドトードス)」に遭遇しました》


 狼の遠吠えが夜の丘に溶け行く中、俺たちは今作初のフィールドボスと遭遇した。

フィールドボス。当該フィールドにおいて同時に一体のみ存在し、強力かつ特異な性質を持つボス属性のモンスターです。


それはそれとして過去の話を見直したら頭を抱えるようなことが書いてあったのですが、修正せずに済みそうなので二つだけ。

スケイルメイルは分類上は革系鎧、プレートメイルは当然金属鎧。よし!

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