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再帰のエートス  作者: 時桔梗
第一章 巡る月日、移ろわぬもの
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まつろわぬモノ

みじかめです。

 見た目が小鬼人(ゴブリン)だからと侮ることなんてできない。俺が遭遇した鬼人(オーガ)と同じくHPバーが見えないことから格上であろうということは勿論、三頭の豚頭鬼(オーク)相手に体勢を崩すことなく捌き切ったミケが、不意を突かれたとは言え一撃で吹き飛ばされそうになるほどの力を見せつけられたのだ。油断どころか下手打てば全滅の可能性だってある。


 狂化感染(ルナティック):小鬼人(ゴブリン)は着地の姿勢のまま不気味なほど静かに佇んでいる。武器は持たず、通常のゴブリンが腰巻を着けている辺りでは黒い靄がしきりに揺らめいている。

 それにしても狂化と言うには静かすぎる。漆黒に染まった両目は奈落の闇のようで、何を見ているのか、感情すらも読み取ることができない。ゴブリンが変質したものだと思っていたんだが、どうも違うような感じがする。中身が丸ごと入れ替わってしまったような……むしろ、何かがゴブリンの姿を模しているだけのような。


 出方を窺う俺たちを気にも留めていないかのように黒ゴブリンは徐々に体を反らせ始め、顔を持ち上げていく。その顔が完全に天を仰いだ時、黒ゴブリンの全身に力が込められた。間違いなく何かを仕掛けてくると俺たちが警戒を高めたその時、戒めから解き放たれたことに歓喜するかのように、()()は自らの存在の確立を高らかに謳い上げた。


「ギ……ィィィイイイアアアアアアアアア!!!!!!」


 天に捧げる呪詛の産声、それはまさしく赤子の産声のごとく己の誕生を誇るようで。

 今この瞬間、狂化感染(ルナティック):小鬼人(ゴブリン)という異物は何者の祝福を受けることもなく、この世界に現出した。




「う……るさっ……!」


 黒板を爪で引っ掻いた音をとんでもなくデカくしたような絶叫を耳にして、俺は動くことができなかった。生理的に強烈な不快さがあったこともあるが、単純に「恐怖」のデバフを食らったせいでシステム的に硬直させられていた。

 あと二秒、一秒――デバフが消える寸前、黒ゴブリンは猛烈な勢いでミケの方へ飛び出してきた。


「グ――ァ、重ッ……!」


 ドン! と大砲の発射音のような派手な衝突音が響き渡る。寸でのところでミケが咄嗟に構えた盾は間に合ったが、受け流す余裕はなかったらしく拳を真正面で受けて後ろに弾き飛ばされてしまった。

 盾で受けたにも係わらずミケのHPバーは三割ほど減少。転倒は免れたが完全に体勢を崩されている。黒ゴブリンはそこへさらに追撃をかまそうと前傾になり腰を落とした。流石にこのまま畳みかけられるのはまずい!


「こっち向いとけ! 『トライエッジ』!!」


 ディレイ無しの高速三連斬り、袈裟懸けを起点に三角を描くように黒ゴブリンを側方から斬りつける。オーク戦で両手剣アビがレベルアップしたことにより取得した新スキルは早速役に立ってくれたらしい。黒ゴブリンは即座に標的を切り替えて俺の腹目掛けて拳を奔らせてきた。かなり速い、だが大振りだ。リーチの差もあるし対応できないことはない。


「タマオ! イリス!」

「分かってる! 『治癒の光よ(ヒールライト)』」

「『守りの加護(プロテクション)』……ごめんなさい! 遅くなったわ!」


 俺は黒ゴブリンの拳の間合いから逃れるように頻りに足を動かし牽制気味に攻撃を加えながら、支援組の名前を叫んだ。タマオはミケに回復を、イリスは俺とミケに防御上昇を掛けて態勢を整える。視界の端に表示されているパーティ情報をちらりと見て、ミケのHPが全快したことを確認する。

 一瞬意識が逸れたか、視線を戻すと目の前に黒ゴブリンの姿。完全に間合いを詰められ、まずい! と咄嗟に横へと全力で身を投げ出した。急いで受け身を取って立ち上がってみれば、俺の胴があった位置に拳を真っ直ぐ突き出している奴の様子が見えた。あっぶねえ……というかちょっと速くならなかったか? 気のせいだろうか。


「ごめんマクス! 代わる!」

「あいよ、よろしく!」


 前線に戻ってきたミケにタゲを受け渡すべく、俺は黒ゴブリンへの攻撃を控えて回避に専念する。こちらに向かいながら『脅威の発気(メナシング・オーラ)』を発動していたミケが黒ゴブリンの背中を一発、二発と斬りつけると、そいつはすぐに俺から背後の闖入者へとタゲを切り替え、振り向きざまに拳を叩きつけた。

 再び拳と盾は衝突する。しかし今回は角度をつけて受け流したらしく、ミケは若干軸を揺らされながらも堪えきった。それでもHPは若干減らされたみたいだが、回復とタゲのバトンタッチが上手く行けばこのまま何とかなるか?


 タゲの受け渡し、と頭に浮かんだ瞬間、俺は微かに違和感を覚えた。

 そうだ、今のタゲ交換。やけに早くなかったか? スキルの効果があるにしても攻撃二発でヘイト値越えられるのか。まあ黒ゴブリンのHPは見えないわけで正確なところは分からないんだけど。もしかしたら会心打(クリティカル)が入ってたのかもしれないな。

 僅かに引っ掛かるものはあったがそれを振り払うべく、ミケと交互にタゲを渡し合うように黒ゴブリンに攻撃を与え続ける。どちらかがミスっても即カバーできるよう安全重視で立ち回っていると


「前衛! そろそろ大丈夫か!?」

「オッケー! 援護射撃頼むよ!」


 戦況が安定するのを待っていた後衛が、待ちかねたように攻撃の準備をする。前衛の俺たちは射線の確保と標的の位置調整を阿吽の呼吸で終わらせる。ミケ、黒ゴブリン、俺を結ぶラインが後衛の射線と斜めに交差するように位置取った。飛んでくる攻撃に合わせられるようミケが奥側でタゲを取り、俺が手前側で補助に回る。

 一旦ミケが持っているタゲを首への『クイックスラッシュ』で奪い取った。振り返って踏み込みながらフック気味に打ち込んできた黒ゴブリンの一撃は、斬即後退で俺との距離が開いていたことで思いっきり空振る。


「今!」


 俺の合図とともに後衛より矢と氷弾は放たれた。ミケに攻撃を加えられ、再び振り返ろうとした黒ゴブリンにそれらは命中し――俺は()()()()と確信した。


 ミケへと向くはずだった黒ゴブリンの体は、その旋回を途中で止めた。違和感、引っ掛かり……ああくそっ、気のせいじゃなかった。

 黒ゴブリンは大きく前傾し、その膝を深く沈み込ませる。その体が相対するのは俺でも、ミケでもなく。

 まずい、まずい、行かせるわけにはいかない。ミケは飛び退いたばかり、間に合わない。俺は、奴が動き出す前には際どいか。ならば――


「ミケ! 頼んだ(ケア)ァ!!」

「っ!」


 黒い影は地面を蹴り抜き弾かれるように飛び出す。後衛を狩るべく急襲する黒ゴブリンの侵攻ラインへと最速最短で距離を詰め、俺は()()()()()()()()()()()渾身の『パワースラッシュ』で以って、黒ゴブリンを迎え撃った。





 これは……死んだかな?


 突貫する黒ゴブリンに対してタゲを奪うのにダメージが足りるのか、単純に剣を振って間に合うか分からない状況だったため、俺が選択したのは今できる最速最大の攻撃手段だった。それは『パワースラッシュ』の発動前に、振り出しの一瞬だけ初速を上昇させる『クイックスラッシュ』を挟むというコストパフォーマンスと使い勝手が悪い手段であったのだが、お陰で押し込まれながらも攻撃は何とか間に合わせられた。


 『パワースラッシュ』の発動後硬直は二秒にも満たない程度。短いとは言えないが決して長くもない時間。黒ゴブリンのタゲを奪うことはできたが、怯みもノックバックも取れなかったことで奴は普通に動くことができる。

 俺に正対した黒ゴブリンが右腕を後ろに引く様子がやけにスローモーションに感じられる。深く踏み込みながら斬りつけたことで黒ゴブリンの顔がよく見える位置まで俺の頭は下がっているのだが、奴の表情には全く感情が表れていない。諸々鑑みても非生物的というか機械的というか。生物が狂うというにはおかしな感じが拭えない。単純に普通と違うってだけのことなんだろうか。


 さて、俺をぶん殴る準備はできましたかね? その答えを告げるように奴の右腕に力が込められたのがはっきりと見て取れた。今はまだ蘇生手段はないし、死に戻ったら街から全力でここまで走って来れば戦闘に合流できるかなぁ、なんて暢気に後の事を思案する。

 ここに至ってなお、体の硬直は解けていない。こりゃ無理だ、と腕は動かないから心の中でお手上げをした。


 そしてついに、黒ゴブリンの必倒必殺の右ストレートは、無情にも呆気なく俺の頭を撃ち抜いたのだった。







 耳元で鳴るドン! という鈍い打撃音と、頭に受けた強い衝撃。


「……おや?」


 一瞬の視界暗転の後に見えた景色は、変わらず()()()のものだった。体はもう動くか……おっと、何かふらつくぞ。


「ギリギリ、間に合ったみたいだね、マクス。回復貰っておきなよ」


 聞こえた声に視線を正面にやってみれば、盾を大きく前方に突き出したミケがそこには居た。回復? と自分のHPを確認して――うわぁ真っ赤。2しかないじゃん……お? つまりこれは


「『治癒の光よ(ヒールライト)』……びっくりしたぁ、死んだかと思ったわ。さすがマクス、無駄にしぶといわね!」


 淡い光に包まれてみるみるHPが回復していく、と同時に体のふらつきも解消された。

 なるほど、つまりこれは、あまり期待せずに言ってみたお願いが叶えられたと、そういうことか。


「ミケかっこいい! イケメーン!」

「珍しく嫌味がない!? まあそれはともかく。態勢立て直したなら続き、やるよ!」


 普段はおちょくる時にしか言わないことを、今は感謝感動の素直な気持ちで口にしていた。

 まあ死んでもちょっと大変になるくらいだったと思うけどそれはそれ。拾ったノーデスは大事に、奴さんをぶっ倒すとしましょうか。

戦闘は次回に続きます。

後衛の攻撃頻度が少ないような感じですが、普通に味方の攻撃も当たるので思考停止でぴゅんぴゅんできないのです。

ダメージは敵に対してよりも少ないので盾の装備が充実してくると、もろともに巻き込まれるなんてこともあります。

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