我が眼は万物遍くを洞見し、而して真理を穿ち殺人ビームを放つ……予定、はない
ネルケェーーーー!!!(断末魔)
「見よ、我が魔眼を! 『解析眼』!」
合流してからの、特に女性陣からの無言ジト目攻撃に耐えられなくなった俺は、新たに手に入れたスキルを披露することで何とか空気を変えてやろうと目論んだ。両の頬骨を片手で掴むようにして軽くポーズを取り、スキルを発動! どうだ、ちゃんと発動した感覚はあるが目に見えるような変化は起きたか? 無ければ落ちて不貞寝するぞ。
「確かに、解析眼が発動しているような感じがしますね。右眼に歯車模様がいくつか浮かんでいます」
……結果から言えば効果は上々だった。特にセルディは真っ先に近付いてきて、興味深そうに俺の眼を覗き込んできた。自分の顎に手を当てながら納得顔でそう呟いたセルディの様子を見て、可哀想な子に向けるような目を俺に向けていた他の連中もこぞって俺の右眼を覗き見てくる。
ほっと安堵しつつも、まじかー俺の外見厨二レベルがさらに上がってしまったかー。次は目からビームだなーなんて呑気に考えていた俺は、はてそういえば、このスキル名いつかどこかで聞いたことあるぞ? と記憶の片隅に引っかかるものを覚え
「前作では生産職系の汎用スキルでしたね。ジョブ毎に微妙に効果は違うようでしたが、低レベルで入手できるということに変わりはないみたいですね」
その言葉で寝起きにバケツで冷や水をぶっかけられたように記憶が覚醒した。そういえばこの高校生……当時は中学生だったか、セルディが使っていてすっげー羨ましかったのを今思い出した。考えてみれば当時は気にしてなかったが、生産職汎用ってことはあのハゲ鍛冶師も使えたってことになるのか。いつかどっかで再び出会うようなことがあればあの頭思いっきり張り倒してやらねばならんか……
生産職、というところに若干釈然としない感じはあるが、「お揃いですね」と素直に嬉しそうなセルディの様子を見て別に生産職でも良いじゃんなと心穏やかな気分になった。それにそもそも、現状このジョブって――
「ネタジョブ、から生産職に進化したな。おめでとう! とっとと戦闘職になれや」
「ありがとう、ありがとう。見てろよ視線だけで敵を殺せるようになってやるからな」
アーウィンはからくり士はどこ行ったと呆れ顔になったが、今のところやれることって粗茶の生産だけなんだよこのジョブ。眼に夢くらい見させてくれ。
その後一度道具屋に立ち寄ってから、俺たちは武器屋に戻ってきた。
道具屋は主には俺のHPポーションの補給のためだったのだが、森では毒蛇が出るぞということで全員解毒ポーションの確保はしておいた。ちょっとレベルが上がればタマオが毒を消せるようになるだろうし、120ダールと割高な解毒ポーションは最低限各自二個ほどを購入。
その時ミケが「Lv.3 HPポーション」を買おうか迷っていたので、何の気なしに今いくらHPがあるのか聞いてみれば、俺の五倍近くあって思わず涙が出そうになった。ついでにSTRも俺より高かったから出かけた涙が引っ込んだ。
武器屋には先客が数組いたようで、俺は時間つぶしがてら吹けば飛ぶように儚い自らのレゾンデートルをどう確立すべきかという論題について漠然と考えを巡らせていた。客を手際よく捌きながら、時折ちらちらと俺たちの方を窺う様子の看板娘が何だかほほえましい。
やはり眼からビームを出すしかないという結論に至った辺りで、客を捌き終えたトルテがこちらに駆け寄ってきた。
「お客さんたち早かったですね! 手入れはあとちょっとかかりそうなんですが大丈夫ですか?」
「大丈夫大丈夫。親父さんは剣のことで何か言ってた?」
「やっぱり完全に元通りっていうわけにはいかないみたいです。すぐ折れてしまうわけではないみたいですが、早めに新しいものに変えることを考えておいてほしい、って言ってました」
システム的には耐久の最大値が減ったような感じなんだろうか。数値として見えないのは仕方ないとしてもどうにか損耗具合を確認できればいいんだけどな。
元に戻らないということで申し訳なさそうな表情を見せるトルテに、気にするなと伝えようとしたのだが
「大丈夫よトルテちゃん! オーガの攻撃を剣で受けるなんて馬鹿なことした馬鹿の自業自得なんだから!」
タマオに先を越された上に馬鹿な罵倒を受けた。抗議してやろうかとも思ったが言ってることはほぼ間違ってないし、トルテが困惑しつつも笑顔になったから今回だけは甘んじて受け入れてやろう。
タマオがトルテに話しかけたことをきっかけに瞬時に形成された煌びやかな女子会カルテットを横目に、男組は鉄臭く武器の話をする。アーウィンは木の杖を使っているから鉄だけではないのだが。
「そういえばこの店「鍛冶屋」じゃなく「武器屋」なだけあって木製武器も扱ってるみたいだが、どっから仕入れてきてるんだ?」
「親父さんが副業で木工もやってるとか……そんな感じじゃなさそうだね。娘さんがいるわけだし、奥さんが木工師なんじゃないかな」
「それはありそうだな。その娘さんに聞けばすぐに分かるんだろうが……」
そう言って二人はトルテの方を見る。娘さんはわやくちゃにされてるので今はとても手が離せなさそうだった。疑問解消を諦めた二人は剣を吟味していた俺の方に向き直り、アーウィンが別の疑問をこちらにぶつけてきた。
「さっきから何やってんだマクス。剣の違いが分かるアピールか?」
「言い方。棘がきついわ。実際に違いがあるからこうやって色々見てんの」
賢しら顔で酒の違いを語っちゃう二十歳なりたて大学生みたいな風に俺のことを見ないでいただきたい。絶対よく分かってないからなあれ。
俺が今やってることは言うなればテニスラケットの個体差を見極めるようなもので、ぶっちゃけ厳選するなら実際に振ってみないと分からない部分も……待て白い目でこっちを見るなアーウィン。
「やっぱイキり大学生では」
「違うやめて! チャリで来たの? って聞いたら『これチャリじゃなくてロードバイクだから』ってクロスバイクを自慢してくるような大学生なんかと一緒にしないで!」
「ロードバイクとクロスバイク? って何が違うの、マクス?」
「たぶんスポーツカーとSUVの違いみたいなもんじゃねーかな。たぶんだけど」
どっちが上というよりも用途がそもそも違うというか。
俺もハンドルとタイヤくらいでしか区別付かないけど、バイト代全て自転車に注ぎ込むイキってない友人はどっちも使い分けて乗るって言ってたな。大学の駐輪場に止めてある誰かのロードレーサーを見るたびに盗まれないよう監視するべきか悩むような、若干挙動不審な自転車オタクだが、そいつが別物だって言うんならちゃんと別物なんだろう。
剣の話に戻れば、俺が探しているのはしっくりと馴染む重量配分の片手半剣だ。片手剣アビリティも無事手に入ったわけだし今後片手でも両手でも剣を振ることになると思うのだが、オーガ戦で軽く試してみた感じ片手で振るにはちょっと取り回しが重い。恐らくベースが両手剣だからなのだろうが、先端に近い部分にしっかりと重量を置くような威力重視の作りになっているのだ。
刃先の方をもう少し軽めにしてある剣があれば丁度いいんだけどな、と一つ一つ手に取りながら唸っていると、親父さんが剣を抱えてこちらに近づいてきた。
「なんだァ? 折角手入れしたのにもう新しいのに乗り換えんのか?」
「あれ、もう終わったんだ。今すぐじゃないんだけどもうちょい操作性がいいのはないかなって」
「操作性……? あぁ、振りが重いのか。今置いてあるのはアンタが使ってるやつよりむしろ重いのばかりだからなあ」
親父さんから剣を受け取って確認する。おお、新品みたいに綺麗になってる。さすが本職いい仕事するなあ、言われても耐久値減ってるなんて分からないわ。
「要望通りの剣が欲しいなら注文承るが、どうする?」
剣を腰の鞘に納めて、親父の提案に少し思案する。頼みたい気持ちもあるんだが、せっかくなら素材持ち込みで質と性能に優れたものが欲しい。ちょうど素材アイテムの識別もできるようになったことだし、鉱石系の素材を集めてから考えてみてもいいかな。
「それじゃあ、いい感じの素材手に入ったらお願いするわ」
「おお、そうしろそうしろ。アンタ商会には行ったか? あそこはランクが低いうちだと質のいい素材はほぼ買えないからな。いいものを手に入れるなら自分で採りに行ったほうが早い」
「なるほど。ちなみにどの辺で集められる?」
「この街の周辺なら南西にある『鉱木乾岩の丘』だろうな」
「そっちの方ね、分かった。それじゃありがとう親父さん、手入れ助かったよ」
採掘に行くなら南西、と。今のところ東にしか出てないから丁度いいきっかけになるかな。
親父さんに感謝を告げて、ぞろぞろと武器屋を後にする。女子会を切り上げさせるのに時間を取られるかと思ったが、丁度別の客が来店してきたことでトルテが接客に抜けたので、すぐに女子会解散となったのは正直助かった。剣の手入れで予定外に時間がかかったが、これでようやくリベンジ……もとい本格的な冒険が始められるぞ!
東門の前に着くと、俺たちは準備に不足はないことを確認してフィールドに出る。来るたびにプレイヤーが増えている草原を尻目に、俺はさっきぶりに、他の連中は初めての、森へと歩みを進めるのだった。
参考資料
マクスLv.5のHP:35
ミケLv.2のHP:171
悲しいなぁ……




