情報を集める、それも醍醐味
本日二話目です。
「うぷぷぷ……オーガに負けるなんて悔しいでちゅねー? ほぅら、私の胸で存分にお泣きー?」
「いや、だから、オーガには殺されてないってば。毟り取るぞ」
「こわっ。おさわりは禁止でーす」
街に強制的に戻された俺はログインしてきた連中と合流し、あえなく死に戻りがバレた。色々手を講じてパーティ結成を遅らせようとしたのだが無駄なあがきだった。三十分くらいなら何とかなるかと思ったのに……
バレたからにはしょうがない、別に俺じゃなくてもあれは無理だったと懇切丁寧に説明してやったのだが、まあ無駄だった。嬉々として煽ってくれやがった。理不尽に殺されたというのは一応信じてくれたのか手心は加えられていたような気はするが。
聞いていたけどそれはそれとしてくそ煽りは続ける、という様子の幼馴染を適当にあしらって、俺が死んだことから目を逸らせるべく話題を変える。
「あの金色の狼、名前もカーソルも出てなかったっていうことはNPCキャラだと思うんだよな」
「……そうね、レベル差が大きすぎて出てこなかった、とかでなければその通りだと思うわ」
「マクスが雑魚すぎて出てこなかったんじゃなければ、イベント絡みで出てきそう……か?」
「あの」
「マクスさんが羽虫風情と同じとは思いたくないですし、NPCと考えるのが自然でしょう」
「僕もNPCだと思うな。いくらマクスが結構抜けてるからって、そこを見落としてはいないだろうし」
「あのぉ……」
何だか心がチクチク痛むなぁ……どうしてだろうか。ふと感じる視線を追ってみれば、ニコニコしながらタマオが無言でこちらを見つめていた。鬱陶しい、こっち見んな。
あの金狼、俺は最初エリアボスか名前持ちモンスターかと思ったのだが、カーソルが出てこなかったことでそれらとは別だと判断した。この街で出会った「ベル」と同じく、モンスターではなくNPC。会話ができるかどうかは分からないが、ああいう類のNPCは経験上、十中八九固有のイベントを抱えている。イベントの中には「ゲーム内で一度しか発生しない」ようなものもあるわけで、死に戻り食らったのはともかくとして、いい出会いだったと言えないこともない。こういう突発的な出来事がオンラインゲームの大きな魅力の一つだと思うしな。
おそらく存在するであろうイベントが魅力的なこともあるが、個人的な事情で奴とは再会しなければならないと俺は心に決めている。そのためにやらなければいけないことは様々あるが、どこから手を付ければいいのかと聞かれると難しい。ひとまずは身内との情報共有と、現地調査、だろうか。
現時点で分かっていることを元に、俺は仲間と軽く考察をしてみることにした。
「とりあえず、オーガと俺が戦闘を開始してしばらくしてからあの狼はやってきた。これは間違いない」
「そうか、そもそもオーガってレベルいくつくらいだ、30くらいか? 最初の街からすぐの森に出るにしては殺意高くないか」
「森に入ってから結構歩いたところで出てきたんだけど、マップ見る感じはかなり浅いところなんだよなあ。俺が戦う前にパーティが一つ軽く全滅させられてたわけだし、それまでに狩った連中とはやっぱり明らかにレベルが違ったな、レベル見えなかったけど」
そう、オーガがあんなところに出てくるのは不自然なのだ。あれくらいの強さの敵が、徘徊ボス的に出現することは十分考えられるのだが、あいつは「普通のモンスター」だったのだ。適正レベルの生息地に行けばうじゃうじゃ存在するような、だ。ゲームによっては手抜きかまして、高レベル一般モンスターを低レベル帯のボスとしてまんま配置することもあるのだが、前作ですら無かったことを今作でやらかしているとは考えたくはない。
森の広さを考えれば、もっと深いところでは普通に出現するけど何故か浅いところまで出てきてしまった、というのが妥当なところか。そうだとするならば
「――金狼は、イレギュラー的に浅い場所に出現したオーガを狩りに来た?」
「ありそうですね。それだと森の守護者のような位置付けのキャラクターと考えられますか」
「そういうイレギュラーをシステム的に排除するために設定された、ただのバランサーっていうことも考えられるけどね」
「それは夢がなくない? マクスが殺されたっていうのとちょっと合わない気がするしー」
「マクスはお仕置きされても仕方ないとは思うけれど、システムだとすれば対応が遅すぎるように思うわね。森とは関係なく、たまたま通りがかったところに動くものがあったからじゃれついた、とか」
「殺意高すぎるじゃれつきだなぁ……現実的なのは守護者の線かな」
イリスが何だか刺々しいような気がするのは置いとくとして、セルディが言うように「金狼は森を守護しているNPC」と考えておくべきか。森に関係していないとするならば、現時点では調べることはできても関わりを持つことが難しそうだしな。
……そもそもベータテスト組やらはとっくに情報掴んでるなんてことはなかろうか。そんなことを口にしたところ
「そうだとしてもやることは変わらんだろ。それにベータテストって言っても固有のイベントやらクエストはなかったらしいからな。ちょっと今作に慣れてるくらいの違いしかねぇよ」
というアーウィンの男前な回答が返ってきた。さすが元効率厨、ベータ組の情報もちゃんと仕入れて来ているようだ。
発生するイベントが早い者勝ちじゃない可能性だってあるわけだしな。優先的に調べようとは思うが、そのためにゲームプレイを犠牲にしてたら本末転倒だ。一人でできることは一人でやればいいわけで、六人集まったならパーティでしかできないことをやりたいところだ。というわけで
「狼のことは暇な時に調べよう。さあ、君たちのひっくいレベルを上げるためにも狩りに行くぞー」
「うるせぇデスペナ野郎。ジョブ変えてからぬかせ」
今日イチ辛辣な言葉をいただいた。だからジョブは変えないってば。
「ところで、狩りしてきたなら装備の耐久大丈夫なの?」
「あっ」
街の外に向かおうと歩き出してから少しして、イリスが思い出したように口にした内容に、一度気にしていたはずの事をすっかり忘れていたことに気づいた。
オーガと戦う前にも結構酷使していた上に、棍棒の強打を『パリィ』してしまったのだ。手入れしとかないと下手すりゃ折れてしまう、ということで、目的地を武器屋に変更した。手入れなら鍛冶プレイヤーでも別にいいんだが知り合いにいないんだよな。
カラン、とドアベルの音が響き、俺たちは武器屋にお邪魔した。夜にこの剣を購入したあの店だ。ぱたぱたと駆け寄ってくる看板娘が嬉しそうな表情をしているのだが、生憎武器を買いに来たわけじゃないんだよな。
「いらっしゃいませ、今朝ぶりですね! 剣以外にも何かお買い求めになりますか?」
「いや、残念ながら武器を買いに来たわけじゃなくてさ」
夜に来た時も思ったんだけど、敬語にあまり慣れてない感じがするというか、こう頑張って店員やってます! みたいな健気な雰囲気があるんだよなこの子。何も買わないのが申し訳なくなるというか、客の前でも普通に落ち込みそうだけど、そんな顔させちゃ(奥にいるオヤジがキレそうで)いけない気がするような。もしも狙ってやってるとしたら相当商売上手だと思う。
俺は腰に佩いていた剣を外して、看板娘に差し出す。彼女は一瞬悲しそうな顔をして――あ、これは誤解されてるか?
「手入れを、お願いしに来たんだけど」
「――! て、手入れですかっ。よかったです、返品かと思って私……あ、すみません。父に見せてきますね!」
看板娘はホッと安心したような顔になって俺から剣を受け取ると、慌ただしく奥の工房へと走っていった。いやぁ危なかった、と俺もホッと息をついた。確かに返品に来たと思われてもおかしくないようなタイミングだったか。ゲーム内のキャラクターといえど、子供の悲しそうな顔は見たくないもんな。
「……ロリコン」
「ちっげえわ人聞きの悪い」
タマオが俺にじっとりとした視線を向けて外聞の悪いことを言ってきたが、しっかりと否定しておいた。子供は好きだがそういうことではない。他のメンバーも半目になって俺を見てきやがったが、これは一度腰を据えて誤解を解かなければならないか……と俺は決意を固めた。
「おう、この剣の持ち主はアンタか」
ロリコン疑惑を晴らすための弁解の内容を考えていると、突然野太い声が背後から響いてきた。何事かと振り向いて見てみると、工房にいた親父がすぐそばに立って俺をじろりと睨んでいた。突然視界に入ってきた熊のような大男に、俺は一瞬びくりとしたのを誤魔化すように親父を睨み返すと、流れ始めた不穏な空気を振り払うように看板娘が慌て気味に声をかけてきた。
「ご、ごめんなさい! 父はお客さんに聞きたいことがあるみたいで……おとーさん! お客さんが怖がるからもうちょっと愛想よくしてっていつも言ってるでしょ!」
「う、すまねぇ、トルテ……すまん、お客さん。俺ァどうも接客が苦手みたいでな。こんな風によく叱られちまうんだ」
トルテ、と呼ばれた看板娘に叱られた親父さんは、バツが悪そうに俺に謝ってきた。職人なんて大体そんなイメージだし、俺は全然気にしていない。いきなりでちょっと驚きはしたが、それだけだ。別に怖がってはいない。
「いやいいよ、気にしないで。それで、聞きたいことって?」
「あ、ああ。この剣なんだがな、今日うちで買っていったモンに間違いないな?」
謝罪の返事に安堵の表情を見せた親父さんは、本来の用件について聞かれ、気を取り直したのか真剣な表情で俺に確認を取ってきた。さすがにちょっと使い方が荒かったか、と俺は反省の意を込めつつ返答した。
「そうだけど結構荒っぽく使ったからなあ……やっぱ傷んでる?」
「傷んでる、っつーか」
親父さんは手に持った抜き身の剣を検分しながら、眉を顰める。何事かと興味津々に寄ってきた身内を努めてスルーしつつ、途中で切った親父の言葉の続きを待つ。
「毀れは、ないわけではないが綺麗なものだ。剣の腕は確かなんだろう」
「そりゃ、どうも。それで本題は?」
「……グリップにいくらかの亀裂と、剣身に凹みと歪みがある。これだといつ折れてもおかしくないな」
「あー、ぎりぎりかぁ……だったらどの道足りなかったかなあ」
俺は頭に手をやり髪を掻いた。やっぱり真っ向ではないとはいえ剣で受けたのは失敗だったかあ。戦闘中に折れたら有効打を通せなくなって負けだったろうし、狼には助けられたか……いや認めんぞ、あれは横取りだ。
「手入れはできんこともないが、少し時間がかかるな。それに変形が残っている辺り強度上どうしても不安は残る。鍛った俺が言うのも何だが、アンタの腕ならもう少し出来のいいものを使った方がいいんじゃないか」
「もう少しいいやつ、ねぇ」
そう声に出して武器屋の商品メニューを眺めてみると、親父さんの言う出来のよさそうな片手半剣は安くても1500ダール……今いくら持ってるんだ俺、とインベントリの所持金欄を見てみると340ダールという表示が出ていた。全然足りないわ、というか手入れ代出せるのかこれ。
「ちなみに手入れはおいくら?」
「基本は50ダールなんだが、これは手間賃割り増しで150ダールだな。時間は三十分くらいかかる」
「うーん、懐が痛む……とりあえず手入れお願い。いいやつ買いたいけど金全然足りなかったわ」
手入れの依頼をして、俺の所持金は190ダールに減った。これはレベル上げというか金策しないといけないかなあ。狩りで両立できるからやることは変わらないだろうけど。
承った、と親父さんは黙って控えていたトルテに剣を渡すと、トルテは剣を両手で抱えて工房の方へと歩いて向かった。親父さんはまだ聞きたいことがあるらしく、真剣な表情を崩さないまま俺に疑問を投げかけてきた。
「ちなみに、あの剣にあれだけの負荷がかかったのは何が原因だ。場合によっては色々気にしなきゃならんことが出てくる」
剣の状態から様々なことを推察するれっきとした職人に対して、下手な嘘は通用しない気がする。いや嘘つく意味はあまりないんだが、オーガの攻撃をパリっちゃいました! なんて言ったらさすがに怒らないかな……まあいいか、その時はその時で謝れば。そんなことを考えながら、俺は質問に答える。過失を和らげるためにちょっと味付けをしたのは許してほしい。
「東の森で狩りしてたらオーガが出て来てさ、躱しきれなくて剣で受け流そうとしちゃったんだよな」
「オーガか……なるほど、折れていてもおかしくはないが上手くやったのだろうな。だがオーガの住処まで行ったのか? 森のかなり深くらしいが、あの剣では心許ないだろう」
「それが迷い込んだのか何なのかゴブリンなんかが出るくらい浅いところに居てさ、いやあ焦った」
焦った焦ったと笑いながら答えたのだが、それを聞いた親父さんは目を細め、睨みつけるように俺を見つめてきた。怒っている、というよりも緊張しているといった感じだろうか。口を吐いた言葉はそれを示すかのように硬かった。
「そいつは、仕留めたのか」
「仕留めた、俺じゃないけどな。金色の毛した狼に横取りされて……あ、そうだ親父さん何か知らない? あの狼、森の守護者的な奴かなと思ったんだけど」
仕留めた、と聞いて緊張が解けたのか親父さんの表情は柔らかくなったが、続く俺の質問にその顔は唖然としたようなものに変わった。……おや? 知らないことを聞かれた時の反応には見えないが、これはアタリを引いたか?
「金の、狼……いや、あれは御伽噺か与太話の類だろう。しかしそれが事実だとするならばなぜ生き残れて……そうか、天教会の連中が言う「天の御使い」なのか。なら、まさか本当に……?」
顎に手を当ててブツブツ呟きながら考え込む親父さんを見て、それはもう満面の笑みを俺は浮かべていた。後ろの身内も大体似たような顔をしている。どんな情報かは聞いてみないことには分からないが、さっきの今で調査の進展が期待できる雰囲気に嬉しさのあまり小躍りしてしまいそうだ。
さあさあチャキチャキ情報を吐け親父ぃ!
鍛冶師のメイン収入の一つが武器の手入れです。当然金を取ります。




