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再帰のエートス  作者: 時桔梗
第一章 巡る月日、移ろわぬもの
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森の〇〇さん

 一口で飲み下した後のカップを即サルヴァ、だったかな? に戻して人形にはとっととご退場いただいた。主目的はスキル経験値稼ぎであって中身は処分したかったんだけどなあ……まあいいか、スキル経験値が稼げるならそれで。

 茶運人形よりは活発に動いていたゴブリンをソロで仕留めたわけだが、何かのレベルが上がったりスキルやアビリティを入手したといったことはなかった。経験値の量としてはパーティ組むよりも多いはずだし、火力が低いということを除けば効率的に稼げるはずだから、気にせずこのまま頑張ろう。


 剣は抜いたままで森の中をさくさく歩く。死角が多くて光もあまり入ってこないせいで敵の奇襲を防げる自信が全くないわけだが、自信がないからこそあんまり気を張りすぎても意味がないな、と結局は開き直って進んでみている。ちょっと現在地を確認しようと思い立ってメニューを開きマップを展開してみると


「マップはー、っと……あぁ、やっぱり全然表示されてないか。帰り道に迷わなくて済むだけでも十分と思っとくべきかな」


 街中と変わらずマップがみたけりゃ自分で埋めろの忠敬プレイを強いてくるこの感じ。この森の名前さえも分からないし今作は手探りプレイをガンガン推してくるなあ――っとハロー! ゴブ公!


「ちぇいさー!」


 視界に入ってきた小鬼人(ゴブリン)の首を刈り取らんと飛び掛かる(パワースラッシュ)。スキルは積極的に使っていくぞ。

 効率だけを見るなら『パワースラッシュ』は隙が大きくDPS(秒間ダメ)に貢献するようなスキルではないのだが、単発高威力スキルというのは役割的にもロマン的にもひじょーに重要なのだ。隙がでかいというのは今の俺の状況とは噛み合わない部分が多いが、それはそれ。

 単調に斬って斬ってたまに突いてと仕留めると、変わらず僅かな(ダール)に「ボロ布」とシケたドロップアイテムが出てきた。それを回収しようと腰を屈める瞬間、突然俺の足元から清らかなスレイベルのような音と共に舞い上がる光のエフェクトが出現して


 《ジョブレベルが上昇しました》

 《戦闘経験によりアビリティ「武器捌き」を取得しました》

 《戦闘経験によりスキル「パリィ」を取得しました》


「おっ、ほほーう……よーしよし君はいい(ゴブ)だったよ」


 情報ログに並んだ文面を見て、俺は自然と顔がにやけるのを感じた。

 ステータス画面を開いて確認してみると、そこには3になったジョブレベルに加えて、手に入れたばかりの「武器捌き」と「パリィ」の文字が確かに存在していた。武器捌きのアビリティはレベルの表示がなく両手剣とは分かれて出てきたことから、あくまで汎用的な武器の扱いに関するスキルが放り込まれるカテゴリっていうものでしかないのかな。例えば片手で剣を使っても『パリィ』は発動できるといったような感じで。片手持ちでSTRは足りるのかという疑問はここでは置いておきたい。

『パリィ』は再使用時間(クールタイム)なしの自動発動(パッシブ)スキルで、効果は「いなし成否判定時のDEX値による判定拡大強化及びSTR値加算補正、いなし成功時の武器耐久減少値減算補正」というものだ。やれることは特に変わらないのだが、どちらの効果も地味ながら非常にありがたい。PS(プレイヤースキル)依存ではあるが、生存能力と継戦能力が上がったと言えば強さが伝わりやすいんじゃなかろうか。


 浮かれ気分で次に進もうとした俺は、首筋にチクリと針を刺されたような感覚がした直後えも言われぬ不快感を覚えて一発で我に返った。


「ッこのタイミングで来るかクソッタレ! ああもう、一発で毒ってるしぃ!」


 治りかけの車酔いに似た感覚に襲われながら、咄嗟に振り払った襲撃者を見失わないように焦点を合わせる。

 森の毒蛇(フォレストバイパー)なんてそのまんまな名前の蛇が、こちらに向けて頭をもたげていた。見事な迷彩柄に上からの奇襲と、気を張っていたところで初撃を回避できたかは怪しかったとしても、見事に気が緩んだ瞬間を突かれたのはカッコ悪くて恥ずかしくなる。近くに誰もいないのは不幸中の幸いだったな、このクソ蛇を処断してやれば証拠は何にも残らない。

 食らった毒のデバフマークには残りが55秒という表記と、HPには4ポイントの減少がある。毒では死ななそうだが、四つしかないHPポーションを使うことになるのは確実だ。プラスに考えるならば、もう毒になってることだし咬まれることを気にせずにぶん殴ることができるということだな。長さは一メートルかそこらしかないから巻き付かれることもさほど気にしなくてもいいだろう。

 俺は剣先を蛇に突き付けるように掲げ、恥ずかしいやら腹立たしいやらで頭に上った熱を吐き出すように蛇を挑発した。


「おら、来いや糸クズ。安財布にしてやんよ」

「――シャァッ!」


 その挑発に乗ったのかどうかは定かではないが、直後に蛇は大きく口を開けながら俺の顔目掛けて飛び掛かってきた。


「跳んじゃ長所が丸潰れ、ってな!」


 正面から殴りかかってくる暗殺者がいるか! とツッコミを入れるように俺は野球のバッターが如きダウン気味のフルスイングで、蛇の頭に剣の腹を叩きつけた。

 サード方向にライナーでぶっ飛んだ蛇はべちり、と樹にキャッチされるとそのまま地面に自然落下し動きを止めてしまった。よく見てみれば蛇の頭上に幾つかの小さな星マークが旋回しているのが分かる。剣の腹による一撃が頭部への打撃判定になって、蛇を気絶状態に追い込んだらしい。

 これは好機! と左手の剣を逆手に持ち替え蛇に近づく。俺は剣先を地に向け、右手を柄に添え蛇の鉛直首上に構えた。


「先に首を狙ってきたのはお前だからな、悪く思うなよお……?」


 そもそも散々首ばっかり狙ってたのはお前じゃねえか、と誰かから突っ込まれたとしても気にしない。人様の首に噛みつきやがった罪人ならぬ罪()に向けて、断頭台のごとく真っ直ぐ刃を突き落とした。

 体の大きさに比例してかHPはそれなりに低かったらしく、一度、二度と剣先を突き刺した時に蛇の体は光となって消えていった。

 後に残ったのは「森毒蛇の皮」が二つ。


「毒さえなければ雑魚だっ――と、やば忘れてた。回復しないと」


 アイテムを回収して何気なくHPを見てみれば残りが10ポイント、三割ほどまで減ったHPバーが緑から黄色に変わっていた。

 慌ててインベントリを開いて「Lv.1 HPポーション」を一つ取り出し、親指で栓を押し開けぐいと呷る。相変わらずこの手の回復アイテムは序盤のものだろうがトンデモ性能だよな、なんて考えてる間にもHPが最大まで回復していた。若干秒残った毒で少しHPを削られたけどしょうがない、気を抜いた戒めのようなものだと思っておこう。





 俺は当てもなく彷徨いながら、時に出てきたモンスターを狩ったり、時に生えてる草を引っこ抜いたりと調子よく進んでいた。

 道中森の野狐(フォレストフォックス)森の雄鹿(フォレストスタッグ)と遭遇したが、野生動物の癖に野性が足りてないような単純な動きをするせいでカモでしかなかった。森の兎(フォレストラビット)は未発覚で奇襲を入れないとすぐ逃げるのでちょっと面倒だった。まあそれくらいはいいのだが、問題は他にあった。


 褐色の体毛の森の兎(フォレストラビット)と異なり、()()()()()()()()()()()()()を見つけたときは、迷い羊(ストレイシープ)みたいなノンアクティブモンスターかなと思って何の気なしに近づこうとしたのだが、こちらと目が合っても逃げる気配を一切見せないその様子に俺は猛烈な違和感を覚えた。黄色のカーソルの下に表示された名前を確認しようかと視線を白兎の目から離した瞬間、俺は反射的に全力で上体を反らせていた。

 ()()()()()()()()()()、俺の首があったであろう位置を弾丸と見紛う勢いで突き抜けていった白兎に対して、俺は少しの時間放心してしまった。後方から届いた音で我に返ると、このままじゃこっちが狩られるという危機感に押されていつの間にかカーソルが赤に変わっていた白兎を見据え戦闘態勢に入った。


 ――結論から言えばダメージを受けることなく勝ちを拾えた。射線上に剣を置いておくだけで勝手にダメージを重ねてくれたので、初めを除けばある意味楽な戦いだった。

 刎ね回る白兎(カルバノグ・キラー)なんて名前から殺意に溢れたウサ公は「白兎の刎頸牙」なるアイテムを残して砕け散ったのだが、物騒さが極まってて変な笑いが出てしまった。イリスは兎好きだろうし、レア出現っぽさはあるけど何とか紹介してあげたいところだ。きっと喜んでくれることだろう。




 ほぼ猟師プレイでジョブレベルは5まで上がったところで、MPも自然回復していたことだしキリがいいということで休憩に入っていた。じっとしていると小さく聞こえてくる人の声が、葉擦れと混ざりあって耳に心地いい。俺はゆっくりと粗茶で一服しながら18まで増えていたボーナスポイントをどう割り振るか考えていた。 

 未だに何ができるジョブなのかよく分からない現状、手堅いのはSTR、DEX、AGI、時点でVITといったところだろうか。殴りと『パリィ』と初期ステータスを鑑みた時のSTRとDEX、『パリィ』で凌げなさそうな時の回避を考えたAGI、とりあえずHPやらWPやらも伸びるから何となく安心感をもたらしてくれるVIT。

 突き詰めれば状況や仮想敵から導き出した各ステータス値から妥協と最適化を図ることになるのだろうが、情報が出揃ってるようなゲームでもなければそんなことやってられるわけもないので好みで決めてしまおうと思う。

 そうなるとSTRとDEXは確定として後はAGIに振り分けるかどうかという話になってくる。汚い振り分け方をしなければ今のボーナスポイントで補正値込み11ないし12のステータス値を上げられるはずだ。

 ……よし、深く考えずにいこう。AGIをキリよく2上げれば残り15ポイント、今はSTRを多めに増やしたいし9か10か……9で、残り6ポイントをDEX、これでいいかな。


――――――

NAME:マクス

ジョブ:からくり士

Lv.5

残ボーナス:0(18)

HP(生命):35

MP(魔力):43

WP(気力):17

STR(筋力):16(9)

VIT(活力):6

DEX(器用):19(6)

AGI(敏捷):10(3)

INT(知力):10

MND(精神):6


HP補正値:0.7

MP補正値:0.7

WP補正値:0.7

STR補正値:0.7

VIT補正値:0.7

DEX補正値:0.7

AGI補正値:0.7

INT補正値:0.7

MND補正値:0.7


メイン:片手半剣(バスタードソード)

サブ:なし

頭:なし

胴:布の服

腕:なし

腰:なし

脚:布のズボン

靴:革の靴

装飾品:なし


アビリティ・スキル

からくり士Lv.5

  茶運人形(ティーマトン)Lv.1

両手剣Lv.2

  パワースラッシュLv.2

武器捌き

  パリィLv.1


――――――


 少しずつステータスも上がってきて割と順調に行ってるんじゃないか? と思えてきた。たとえ最初はあまり気にならなかった補正値なるステータスが、これからどんどん響いてくるんだろうなという実感がじくじく湧いてきていたとしても、だ。


 空のカップを人形に返して、俺はサービス開始から振るいっぱなしの相棒(バスタードソード)を注意深く眺めてみた。

 見た目にもメニュー内の武器の詳細にも表れていないんだが、「武器耐久値」というステータスが存在することは経験上からも『パリィ』の説明文からも確実なんだよな。見て分からないのは隠し(マスク)データということじゃなくて、俺がそれを「見極める目」を持っていないということなんだろうけど……

 一度『モネーロの街』に戻って武器屋に見せに行くのもいいかなあ。ポーション無くなるまで狩るつもりだったけど思った以上に順調に進んだし、そろそろ誰かログインしてきそうな気もするんだよな。


 んー、と軽く唸ってみて、ここらで一度戻ろうという結論に達した。マップを開いてみればそこそこの距離歩き回っていたらしく、戻るだけでもちょっとした時間になりそうだったのだ。

 少しでもマップの埋まってない道を通って帰ろうかと踵を返した俺の耳に、先ほどよりもはっきりと人の声が飛び込んできた。女性パーティなのかキャイキャイと楽しそうに喋っている様子が気になって、俺は折角だしどんな集団か一目見てから帰ろうという野次馬根性でついついそちらへ進路を変更してしまった。

 歩き始めてすぐに、突然そのパーティの方から大声の悲鳴が一つ森へと響き渡った。俺は蛇でも出たのかな? と気にせず近づいて行ったのだが、次に聞こえてきた鈍い衝突音で蛇にしては様子がおかしいと気づいた。

 今のは恐らく盾にぶつかった音、そこまでの力を持ったモンスターと俺は遭遇していない。女性の悲鳴と力強い攻撃、そして森に居そうなモンスター……ピーンときたぞ、オークだな! 全年齢対象の作品で出てくるのは安全なオークだから、そんなに怖がらなくてもいいと思うんだけどなー。

 姿が判別できるくらいに近寄ってみれば、そこにはこちらに背を向けて杖を抱えたプレイヤーが一人と、そのプレイヤーより遥かに巨大な怪物(オーク)一体が対峙している場面があった。あれ、一人? と疑問に思って周囲を眺め回していたら、何か硬いものが砕け肉がひしゃげるような音と共に、俺の足元にまでプレイヤーだったものが転がってきた。開いたままでこちらに向いていた目が俺に助けを求めているように感じて、聞こえないだろうが、つい言葉をかけてしまう。


「悪い、蘇生アイテムはさすがに持ってないんだわ」


 HPバーを全損した死体は当然何の反応も示さず、ものの数秒で光の粒子となって空気に溶けるように消えていった。

 さて、と俺は佇む怪物に視線を飛ばす。面識なんてないプレイヤーがモンスターに殺されようが特に感慨など湧かないし、それが身内だったならむしろ指差して笑ってやるくらいなものである。あるのだが、それとは別で何となく敵を討ってやらねばならぬという使命感に駆られてしまうのは何故なのだろうか。

 俺は腰に佩いた剣を立て、真っ直ぐ引き抜く。もはや俺と怪物との間に阻むものはなく、その全貌を見澄ます。

 二メートルを優に超える身長に口元から伸びる鋭い牙、全身が厚い筋肉で覆われ、短い脚と異様に長く発達した腕。肌の色は浅黒い黄色で、肩先まで伸びたボサボサの黒い頭髪と、額には角らしき突起がある。腰には毛皮のようなものを巻き付け、俺の体と同じようなサイズの棍棒を右手に握りしめている。


 俺は八双のように剣を構えると、心の中で汗を垂らしていた。なーんか違う、と。

 怪物は俺を見据えると肩を怒らせながら咆哮をあげる。せっかく掃除したのにまだゴミが残っていたかと腹を立てるように。


 現れた赤いカーソル、下に見えるのは「鬼人(オーガ)」の文字。



 オー()だと思って来てみたらオー()でした。名前が似てるから大体一緒だろうって? ハハハ。


 轟、と唸りを上げて襲い来る棍棒を全力ダイブで回避。目の前を電車が通り過ぎたように一瞬体が引っ張られる感覚があった。

 オーケー、ここまで来れば肚が据わったわ。男見せてやんよぉ……




 ――おれは にげだした!


 ――しかし まわりこまれ、ずに後ろから棍棒が降ってくるような気配を感じて俺は再びの全力ダイブうおおお危ねえ!!! 


……逃げられませんか、そうですか……

今更ですがゲーム内で表示されるような数値は算用数字を使います違うところで使っていたら叱ってくださいごめんなさい許して。

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