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再帰のエートス  作者: 時桔梗
第一章 巡る月日、移ろわぬもの
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始まりのために終わるモノ

書き貯めしようと思った矢先好きなバンドが復活したので初投稿です。

 煌々と輝いていた日々が、凄烈に駆け抜けた日々が、残響となって久しい。その愛おしい残響も間もなくしじまに溶け込んでしまうのだろう。

 かつて並び立った数多の(ツワモノ)どもは今も、自らが歩むべき道を踏み締め邁進しているのだろうか。その姿は目に映らないと分かっていても、彼方繋がる空へとつい目は向かう。

 この場所に来るのもこれが最後か、と寂寥の想いが滲み言葉となる。この身に感じる視線からは同じ想いがひしひしと伝わってくるようだ。

 結局最後までこんなとこに残っているのだから、本当にどうしようもない連中だ。自分以外に四人も共に……


「すまんすまん、遅くなった。何とか間に合ったか」


 ……五人も共に残るとは、奇縁ここに極まりては合縁と至り、といった塩梅であろうか。心底しょうがないやつらだが、居てくれてありがたいと思わないこともない。

 俺はひとつ息を吐くと、周りの様子に意識を向ける。遅れてきた男と、静かな雰囲気の女の会話が耳に届く。


「ところで、来たはいいんだが我らがホームはどこに消えたんだ」

「あれが」


 女は言葉を切ると、こちらを指差し拳を握り、上に向けてぽん、と開いた。それを見た男は頬をひきつらせると物言いたげな顔でこちらをねめつけてきた。しばし、目線が絡む。

 ……広がる空は青く澄みわたり心地よい風をこの身に届けて――


「ヘイ、ヘイミスタクレイジー。何か言い訳があるのなら聞くだけ聞いてやらんこともないぞ」

「――せっかく気持ちよく浸ってたのに、遅れてきたかと思えば随分な言いぐさだなミスタ社畜」


 そこな社畜様のいちゃもんに――正直なところ時間つぶしがてらの軽い物思いではあったのだが――強引に現実に引き戻された俺、蒔納(まきな) 創吾(そうご)は文句を返してさしあげる。一般社畜であるところの男、白水(しろうず) 祥平(しょうへい)は、俺が言い返すことなど百も承知であったとばかりに薄くほほ笑む。と同時に祥平の肩越しに焦げ目のついた女が、俺を恨みがましく見つめながらゴングを打ち鳴らす素振りをしているのが見えた。

 なんであいつ焦げてるんだ? 面白いな。鼻で笑っといてやろう。


「俺が愛情込めて手間暇かけて、やっとこさ完成させた自慢の家を跡形もなく消し飛ばして、その跡地で味わう風はそんなに気持ちよかったか」


 などとのたまうこの男、俺を一体何だと思ってるのか。人でなしか何かか。誰が好き好んで愛着のあるホームを木っ端微塵に爆発四散させるというのか。


 当然理由はある。この不幸な事故には経緯がちゃんと存在しているのだ。本来ならば()()きれいなままの家で残り少ないひと時を過ごしているはずだったのだから。話をすれば長くなってしまうが敢えて短くまとめるとするならば、そこの焦げおんなが悪い。

 とは言え、俺が建築段階でこっそり仕込んでいた爆弾にヤれと命令を下したのもまた事実。なかなか楽し気に家を建てていた二十九歳男性会社員の姿が脳裏によぎり、やってしまったものはしょうがないがせめて問われたことには真摯に回答せねばなるまい、と黙考から戻るや目を見て答えを返した。


「チョーー、気持ちい」


 怨敵もろとも吹っ飛ばすのはただただ爽快だった。


「知ってた。汝落ち武者の刑に処す」


 スコココン、と無慈悲な判決を乗せた矢が三度の軽い衝撃を伴って俺の額に突き刺さった。目を開けた時にはもう弓を構えていたからね。何言っても俺の頭が矢で飾られる運命は変わらなかっただろう。

 視界の左上、十個の体力ゲージが一個だけになっているのを確認すると正面に目を戻し……二度見した。連射だけかと思ったらダメージ上昇まで付与されてやがったあの弓。無傷じゃなかったら死刑じゃねえか。

 祥平は落ち武者の瀕死化粧に満足したのか、はたまた仕事のストレスでもまとめて吐き出したのかすっきりとした表情で俺に話しかけてきた。


「そもそも爆弾埋めてたのは知ってたし、もしやるなら今日だろうなとも思ってはいたが……せめて俺がインするまで待っててくれよ。せっかくなら見たかったわ」


 まあそこの、と漏らしつつ、祥平は自らの後ろを指し示し


「焦げてるあほが何ぞやらかしたんだとは思うが、何があったんだ? ()()が始まるまであと三十分はあるわけだし、暇つぶしに教えてくれよ」


 爆弾ばれてたらしい。あっれー? ばれないように慎重に仕込んだはずなのになあ。


 ともあれ、何があったか、か。

 そこのミスウェルダン、鹿波(かなみ) 珠鳳(しほ)がやってくれやがったことを語るならば、時は本日夕方まで遡らねばならない。

 それはここ、サンドボックスVRゲーム『クラフトライン』の身内用マルチサーバーにインするよりもさらに前、大学が終わって帰ろうとした矢先の出来事であった。

20180921 本文修正

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