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8話 街

「おっはよ~ニャ~!!」


 俺はユキミのダイビングボディアタックによって幸せな目覚めを手に入れる。

 だって、猫が起こしに来てくれるんだよ?

 しかも真っ白で絶世の美猫!

 こんな幸せってあるかい? いや、ない。


「おはようユキミちゃん!」


 優しくユキミを撫でるとゴロゴロ言いながらスリスリしてくる。

 これが、たまらないのだ。

 名残惜しいがベッドから起き上がり服を着替える。

 とりあえずはこの世界で浮かないように魔術師風のローブを着る。

 もともとのおどろおどろしいデザインではなく、紺の落ち着いたローブへと仕立て上げる。

 魔術付与エンチャントとうものがかかっているのでものすごい高級品らしい。


 顔を洗っている時に気がついた。

 昨日は風呂の時は絶対に変化していなかったが、自分の姿形が生前の姿になっている。

 哲学みたいな言葉だが、ベグラースの肉体に転生したので、当然はじめは見た目もベグラースだったのだ。

 

「ああ、それはもともとべグラースも肉体を魔法で変化させながら生きながらえさせていたからニャ。

 そこにダイゴローの魂の力が干渉して本来の姿に肉体が変化したのニャ

 まぁ、私には魂の姿が見えるからどっちでもいいニャ!」


 なるほど、わからん。 

 まぁ、見慣れた綺麗めなゴリラと呼ばれる顔が鏡に写るのは少し落ち着く。

 骸骨に皮がついたような体つきは、無駄にムキムキな元の身体に戻っている。

 べグラースは自身の身体に全く執着がなく、頭さえちゃんと動けば後は魔法で何とかするって考えだった。

 せっかく魔法で身体作り変えているのに、省エネで長持ちするところにしか焦点がいってない……

 研究系の変人だったんだな……誰にも理解されず、孤独に生きて、最期には殺された。

 行っていたことを考えれば仕方がなかったんだろうが、誰か友人なり、師匠なりがいたら違った人生を歩んでいたんではなかろうか……

 そんなことを少し思ってしまった。


 ユキミと一緒に朝食を済ませて、次の場所へと向かう準備をする。

 白いご飯に焼き魚、味噌汁と漬物。

 異世界だろうが魔法を使えばこんなものも用意できる。

 ユキミは猫の姿はしているが、厳密には神の眷属で人化もできる関係上、猫に悪い食べ物も関係なく食事することが出来る。そもそも論を言ってしまえば、栄養的な面で食事を取る必要さえ無いぐらいだ。

 

「ダイゴローのご飯は毎日お願いするニャ!」


「ユキミちゃんのためならば喜んで」


 食事を片付けながらそんな会話をする。

 魔法でささっと片付けも出来るが、なんか、儀式みたいなもので洗って水切り場に置くまでが食事っていう物なんだよね俺にとっては。


「さて、そしたらダイゴロー次の現場へ行くニャ! 今度は街ニャ!

 街に住む動物たちの危機なのニャ!」


 転送の鏡の前に立つと鏡に転送先の場所が写っている。

 草原に作られた高い防壁、結構大きな街のようだ。


「よし、それじゃぁ行こうか!」


 俺はその鏡へ向かって飛び込んでいく。

 転送時の独特の浮遊感を経て、地に足がつく。

 草原を流れる風が頬に触れる。草木、土の香、濃厚な自然の匂いがする。

 やはりここは現実世界ではないと、普段都市部に住んでいた俺には感じられる。

 

「実際に見ると、凄い迫力だね……」


 目の前にそびえ立つ石レンガで構成された防壁、外敵から街を守っているその頼もしい壁は見上げるほどの大きさで、左右どちらも果てが見えない。


「大きな街だな……でも、なんか違和感が……」


「そうニャ、こんなに大きな、人が集まる街なのに瘴気が濃すぎるニャ。急ぐニャダイゴロー!」


 瘴気と聞いて俺も嫌な予感を憶え走り出す。

 壁に沿って走ればいずれ門に出る。


 瘴気、魔物などが生息する地域に発生する汚れた魔力。

 人間や動物にとっては有害で長時間瘴気に曝されていると衰弱してしまう。

 魔力によって抵抗することが出来るので短時間なら問題がない。

 生命体が長時間瘴気に当てられると、最終的には魔物化してしまう。

 死体なども危険だ、ゾンビとなって動き出してしまう。

 普通街なかにこんな瘴気が出るはずがない、人々が活動する場には魔力が自然と満たされて瘴気は少しづつ普通の魔力へと変わっていく。

 それが、べグラースとしての知識で知る瘴気と言うものだ。


「門が見えたニャ!!」


 強化した身体、さらに元の身体になったことで身体能力が飛躍的に上がっている。

 あっという間に門の前まで到着する。


「こんなに大きい街なのに門が開きっぱなしで誰もいない、入ろう!」


 俺はすぐに門から街の内部へと侵入する。

 中世ヨーロッパのような町並みを想像していたら、どちらかと言えば江戸時代みたいな長屋が立ち並んでいて少し驚いた。


「ダイゴロー魔物ニャ!」


 ユキミが肩から指、腕指す方向に異形の人影が動いている。

 子鬼のような見た目、ゴブリンと呼ばれる魔物だ。

 魔物化してない静かに暮らしているゴブリンもいるのだが、あの禍々しい痣と真っ赤に光る目は魔物化している証。


「瘴気が濃くて魔法は威力が落ちていくんだよね確か、ならば……」


 俺は自分の拳に魔力を秘める。

 キィーーーーンという甲高い音共に拳に魔力が集中する。

 これで殴りつければ!

 強化した身体能力で一足でゴブリン達の戦闘にいるやつにその拳を思いっきり振り抜く。


「バカバカダイゴローそんな魔力込めすぎにゃ!!」


 ユキミがなにか言ってるが、動き出した俺はもう止まらないのだ。


 ゴッ。


 拳にゴブリンを殴った感触が伝わると同時に、秘めた魔力が解き放たれる。


「バカーーーーーーーー!!」


 目の前が真っ白になる。凄まじい閃光が周囲を照らし出す。

 なんだか世界がスローモーションに見える。

 頭の上にいるユキミが大急ぎで周囲に魔法陣を空中に張り巡らせている。


「ダイゴロー! 飯で釣られたけど憶えておくニャ!」


 メッチャ焦っている。そして周囲に魔法陣を描き終えると俺の背後に隠れる。


「少し、これで懲りるニャ!!」


 同時に時が動き出す。

 閃光が全方位に爆散し、ゴブリンたちも、そして俺も吹き飛ばされる……


「ぬわぁぁぁぁぁ!!」


 ものすごい衝撃を受けて吹き飛ぶ、周囲の魔法陣もビリビリと震えている。

 幾つかの魔法陣は砕け散っていた。

 そして、周囲の道や建物も……粉々に……


 その閃光がようやく落ち着くと……もともとひどかった町並みは更に酷いことになっていた。

 細かな傷だらけの身体が回復していく。

 耳がキーンとなっているのも落ち着いてくる。

 装備による自己治癒だ。


「そろそろ聞こえるようになったかニャ馬鹿ダイゴロー」


 お怒りのユキミさんが俺の前にシュタッと着地する。


「自分が何したかわかってるのニャ?」


「ええと、やり過ぎた?」


「やり過ぎどころじゃないニャ!! この街を消し飛ばす気だったのかニャ!?

 時間停止に絶対魔法障壁多数、私はもう第一権限を遥かに超える力を使わされたニャ!!

 べグラースでもこんな威力はおかしいニャ!! ダイゴローは何物なのニャ!!」


「いや、なんか魔物だから思いっきり殴ろうかなって……」


「今の馬鹿ゴローのやろうとしていたのは、ゴブリン一匹倒すのに核兵器を持ち出したようなもんニャ!

 もう私はしばらく魔法は行使できないニャ!

 魔法制御もとんでもなく制限されるニャ!!

 魔王級の敵でも第一権限なんて越えないのに! なんで馬鹿ゴローの尻拭いで超えるのニャ!

 この馬鹿ゴロー! 私の力が戻るまで魔法禁止ニャ!!」


「え? 治療とかにも?」


「当たり前ニャ!! 今馬鹿ゴローが私の制御無しで魔法したら患者さんの中に太陽でも作るニャ!!」


「そ、そんな……」


「そんなもこんなも無いニャ! 周囲に人や動物、獣人がいなかったから良かったようなものの、これで誰かに被害がかかってきたらアラセス様の力で馬鹿ゴローは灰になってるのニャ!!」


「す、すみません……」


「まったく、いきなり何の準備もなく敵に飛び込むだけでも大問題なのに、考えなしに全力の魔力をぶっ放すなんて、馬鹿なの阿呆なの!?」


 ユキミさんは怒り心頭でしばらくお説教タイムになってしまった。

 そして困ったことにユキミさんがアラセス様に、第一権限を回復してもらうまで魔法使用を禁止されてしまった……第一権限が何かはよくわからないけども……


 二つ目の功徳は前途多難だ……



「自業自得ニャ!!」



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