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5話 スパコン ユキミ

 自分の考えを実行するためにはやらなければいけないことがある。

 それは、自ら狂気へと足を踏み出すような行為を乗り越えないといけない。


「ユキミ、今から魔法を使うからコントロールよろしくね」


「わかったけど、何をするニャ? なんか顔色が悪いニャ?」


「……俺の中のべグラースの記憶に干渉して、遺伝子情報のデータバンクを構成する。

 たぶん、この村で発生する門脈シャントは遺伝性の問題が有ると思う。

 だから、シャント郡と非シャント郡の遺伝子情報を読み取って原因遺伝子を特定して、魔法による遺伝子治療をするつもりだ」


「ユキミにはダイゴローの世界の情報もあるニャ、言っていることはわかる。

 でも、ダイゴローはいいの? あの『実験』を丁寧に体感するってことになるニャ」


 俺は覚悟はしていたが具体的に言葉に出して言われ、思わずグッと握りこぶしに力を込める。


「記憶の中の子たちは……もう、救えない……

 でも、このまま記憶の中にいるだけじゃ、だめだ。

 今後の治療に、せめて活かしてあげないと。救える物を増やしてあげて……それで、報いるわけじゃないけど……でも、少しでも……」


 最後の方は言葉にはできなかった。

 記憶の片隅を思い出すだけでも胸が張り裂けそうになり喉が詰まって大粒の涙があふれる。

 それでもユキミはわかってくれた。


「君は……泣き虫だニャあ……」


 暖かい気配が俺の肩を抱き寄せてくれたような気がした。

 俺はボロボロと涙をこぼしながらその温かさに一時甘える。


「ありがとうユキミ、さぁ、皆を連れてきてくれる前にやろう。

 基本的には処置じゃなくて探査だから頭痛とかは……ないといいなぁ……」


「なんとかフォローしてみるにゃ!」


「ありがとう。それじゃ。ダイブする!」


 俺は自分の中で封印している記憶へと深く潜り込む。

 様々な『実験』がまるで自分の手で行っているように蘇る。

 これもべグラースの魔法による記録なのだ。

 奥歯が割れそうになる非道な実験、それでも目をそらさずにすべての情報を調べる。

 べグラースでも知らない現在の知識を組み合わせて情報を得る!

 ベグラースの『実験』、その被害者の健康データ、遺伝子情報、状態変化とそれらの変化など事細かに情報をデータとして蓄積させていく。

 『実験』内容を深く深く理解させるようなその作業、被験者たちの悲鳴や怨嗟の声がオレの心を容赦なく斬りつけてくる。

 自分が行ったことではない、でも、そこからデータを貰うのにこの苦痛をごまかすのは間違っているような気がした。


【君が意図的に感情を魔法で抑えないのはわかっているニャ。

 でも、ダイゴローの心が壊れそうだったらこっちから干渉するニャ!】


 ユキミの優しい言葉がオレの心に染み込んでくる。

 大丈夫、もう何年も孤独に耐えて生きてきた俺の心は、そんなにヤワじゃない!

 なんだか、悲しい理由だが。俺は動物が全てだったんだ! 

 その動物たちのためなら、耐えられる!!

 師匠も言っていた、涙をながすことは何の問題もない、ただ涙を流し終えたら次の一歩を前に出せと!


 膨大な数の『実験』べグラースの興味が深くなればなるほどその『実験』は狂気じみていく……

 それでも、そこから学んでいかないと俺の知識だと真の獣人の診察には使えない!

 ララはたまたまいろんな偶然とユキミのお陰で上手く行っただけだ!

 次は救えないかもしれない、俺の実力不足で、それは嫌だ!!

 その思いで必死にあらゆるデータを蓄積していく、病気と各種データの関連、遺伝子情報、髪の毛一本ムダにしないようにデータ化していく。

 普通に考えればそんな処置をいくら魔法があっても出来るはずがない、でもユキミが助けてくれる。


【任せるにゃ! ダイゴローはどんどん解析すればその情報は私が全部まとめるニャ!】


 途中からは意識世界に分体を作って処理速度を上げていく。

 それにしてもユキミは凄い、これだけの情報処理も何の問題もなく行ってくれる。


【うーん、まだまだ余裕ニャ。やろうとすればこの世界に存在する全ての生命体のデータだって処理できるニャ】


 おお、なんか凄い。頼れる相棒を持って幸せだ!

 後半になるほど『実験』内容は凄惨になっていく……

 それでも俺は目をそらさずにそこから得られるすべての情報を手に入れる。


 無限にも感じられた『実験』のデータ化もユキミの協力があり終わることが出来た。

 この世界で獣医師として治療をする時の大いなる武器になることは間違いない。

 現代社会でも遺伝子データを含めたここまで精細なビックデータは存在しないだろう。


「はぁ……ありがとうユキミ……」


「どういたしましてニャ」


 疲労困憊な俺に対してユキミはケロッとしている。

 もし、この瞬間を誰かが見ていたら、目をつぶった俺が急にぐったりと疲れ果てた様に見えただろう。

 『実験データ』に干渉している間はある意味、別空間にいるような物なので外の時間経過は殆どないのだ。


「これだけのサンプル数があれば、この村に隠れている異常を発見できるだろう」


 俺はこみ上げる吐き気に我慢をしながら整理されたデータに目を通す。

 疾患別、臓器別、血統、種族別、様々なアクセスが用意でまさに必要なものが必要な時に手に入る。


「凄いな、こんなデータベースそうそう作れるもんじゃない……」


「もっと褒めてもいいニャ!」


「ほんとにありがとう」


 優しくユキミを撫でる。

 その美しい見た目に勝るとも劣らない絹のような肌触り、素晴らしい毛並みだ極上だ!


「なんか、ダイゴローの方が嬉しそうなのは解せないにゃ……」


 それでも俺の膝に乗ってきてゴロゴロと撫でられるユキミ。

 ああ……猫と言葉をかわしながら撫で撫でできる日がくるとは……感無量である。


 コンコン


 そんな至福の時間を終えるチャイムがなる。

 これからはもう一つの戦闘が始まる。

 


 健康診断だ!!

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