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55話 慣れとは恐ろしい物

 俺らが持ってきた食材でお祭り騒ぎ……になると思ってました。

 実際は……


「うう……本当に……ありがとう……」


「お母さん……こんなに美味しいものが世の中に有るんだね!」


「ああ、たんとお食べ。お母さんのぶんも食べていいからね……ああ、ダイゴロー様本当にありがとうございます……ありがとうございます……」


 皆、嬉し涙を浮かべながら静かに、ただ静かに食事を味わっている。

 囲まれて食事しているけど、いたたまれない気持ちになる。

 あんまり美味しくないと思っていた小麦粉モドキパンも美味しい美味しいと涙を流されている。

 結構食生活が安定して長かったので忘れていたけど……


「俺は自分を殴りたくなっておる」


「あ、俺もです……」


 俺たち二人は小さーくなって食事をしました。

 リヒトさんの部屋で寝させてもらった。当然隙間風が入る。

 なんか、いろいろと自分が情けなくなった……

 頑張ろう。この村のために明日から頑張ろう。


 日も上がらぬ薄明かり俺は目覚める。

 皆を起こさぬように昨日用意しておいた狩猟道具を身につける。

 周囲の気配を探る。近くにはいないか……


「少し距離があるな、あっちに2匹いるぞ」


 ネズラース様様である。

 指示通りに森に入る。まだ薄暗いがすっかり夜目が効くようになっている。

 ネズラースいわく魔力による強化の一種だそうだ。

 手早く枝払いをしながら進むと小さな水の流れる小川にぶつかる。

 とても細く魚などはとても住めそうにない。

 どうやらこの川沿いに反応はいるみたいだ。

 

「もう少しだな……」


 暫く進むとネズラースが反応を捕らえてくれたので慎重に進む、水音が聞こえてくる。


『ハイルシュだっけ……』


『そうだな、警戒心が強いから気をつけろ』


 念話で確認する。

 鹿によく似た動物だが、鹿よりも脚などはしっかりしていて蹴られたりすると大怪我をする。

 毛皮が非常に使えるけど、その肉も悪くない。独特の風味が有るので好き嫌いはある。


『気が付かれていないし、一気に行こう』


 いつもの手で行く。自分たちの反対側に石で音を立てて注意を引いて一気に接近して気絶させる。

 

 ひゅっ!


 石を投げる。高々と上がった石が木に当たりカツーンと高い音を立てる。

 ハイルシュ達はピクリと耳を立てて音の正体を探ろうと注意が完全に反対側の木へと向かう。

 こいつらは視界が非常に広く、ほぼ真後ろでないと視界に入ってしまう。

 狙ったとおり2頭が重なるように視線が一致している。

 気配を消して足音を消して一気に接近して、気合を爆発させる!


「はぁっ!!」


 水面がざわめき、木々が震える。

 木上にいた小動物は散らばるように逃げ出してしまう。

 ハイルシュの2頭は白い泡を吐いて気絶しその場に崩れる。

 そっと魔道具で命を刈りとってもらう。


 手を合わせ、すぐに近くの木々を利用して逆さに釣り上げる。

 

「二頭だと結構重いね」


 獲物を持って帰るための台車モドキをこの場で制作していく。

 簡単に言えば板を引きずって帰るソリみたいなものだ。

 血抜きを終えたら帰還する。

 帰り道でキノコ類や木の実、果実など出来る限り目についたものを回収していく。

 だいぶ食べられるもの食べられないものの見分けがつくようになった。

 そして、この森の豊富な植生に驚かされる。

 現代社会の日本くらいの気候のようで四季がはっきりしている。

 そして、各季節で豊富な山菜やキノコが存在する。

 似た姿で猛毒なキノコなども有るので注意が必要だけど、厳格な除外をすればリスクは減らせる。

 それらも書き留めてトットの村には置いてきてある。

 読み書き算盤も最低限は教えてきた。

 ウーズ村でもきっと必要になるだろう。がんばろう。


 村へと帰ってきた頃には太陽は姿を表し、冷え切った森の中を暖かく照らし始めていた。

 それでも、だいぶ肌寒い。

 建物の立て直しは急務だ。建物の防寒がしっかりすれば薪などの燃料の消費も抑えられる。

 まだ早朝なので人が起きる気配はない。

 解体は大量の水が必要になるので、ハイルシュ達は村の中においておこう。

 昨日周囲の木の切り出しは許可されているので、早速開始していく。

 帝国側はそのままに、森の奥の方へ切り進んでいく。

 最近は殆ど斧として使っている鉄剣で丸太に切り出して、皆を起こさないように受け止めてそっと下ろす。枝を払って板状に加工していく。

 とりあえず、皆が起きてくるまでは黙々と木材を作っていく。

 丸太も皮をはいで何本か支柱用に切り出す。

 サイズもきちんと揃えることで組み立てを簡単にする。

 統一規格は基本ですね。


 黙々と作業を続けていると声をかけられる。


「いないと思ったらもう作業してるのか……って、え?」


 トット絶句の図。

 そこにはうず高く積まれた大量の木材と切り開かれた空間が広がっていた……

 ちょっと、やりすぎたね。

 楽しくなってしまって。


「ちょっと、やりすぎたね。楽しくなってしまって……」


「あ、ああ。まぁ昨日話してあるから、でも……リヒトが目を覚ましたら腰を抜かすぞ……

 みんな久々の満腹にぐっすり眠っていたよ」


「ソレは良かった。じゃぁトット、少し手伝ってくれ」


「ああ、わかってるよ!」


 それから支柱を立てて、すっかり慣れたほぞ接ぎで木材を組み合わせていく。

 強化を通した支柱は土の中にぬるりっと入っていく。この感覚、嫌いじゃない。

 小刀と剣を大工道具のように使いドンドンと木材を作り出し、トットがヒーヒー言いながら組み合わせていく。加工が終われば俺も建築を手伝って建築スピードは飛躍的に加速する。

 二人で二時間ほどでログハウスを組み上げてしまう。


「窓の細工とかは後回しではめ殺しだけど、まぁ、今までの家よりは快適だろう」


「はぁはぁ、流石に……疲れた……少し、休憩させてくれ……」


「お疲れ様、そう言えば水場はどこにあるかな?

 解体したい獲物があるんだ……」


「ああ、川があっちの方にあるから、そこで出来るはずだ。なんだ、狩りまでやったのか!?

 ほんとお前は凄いやつだよ……」


 俺は休憩しているトットを置いて二頭のハイルシュを担いでトットに教わった方向に歩いて行く。

 村人が生活用水を組むために使っているだろう獣道がしっかりと残っている。

 それなりの距離を歩いて川に着く。

 これが毎日は大変だろうな……後で考えよう。

 まずはこれらの解体からだ。

 基本的には解体の流れは一緒だ。

 ただハイルシュの皮は様々なものに利用できるので毛を刈らずに皮剥を行う。

 強化された小刀は滑るように筋肉と皮を分離してくれる。

 傷一つ無く完璧な革が二組生まれる。

 

「我ながらうまくなったもんだ」


「見事な手並みになったな。これも獣医師と言うもののスキルなのか?」


 ネズラースも最初からの成長を褒めてくれる。素直に嬉しい。


「いやー、別に解体なんて習わないからね。

 もちろん解剖学は知っているけど。日々の積み重ねだと思う。

 もちろん解剖学的アプローチってのもあるとは思うけどね」


 関節構造を理解して枝肉に切り分けている時は、以前の知識は役に立っている。

 それでも実際に解体バラするのは勝手が大きく違った。

 何度も自然に教えてもらって、今の技術を手に入れたんだ。

 80キロ級と90キロ級とともにいいサイズだったので、それなりの量の肉を手に入れることができた。

 袋へ肉を戻し、内臓なども丁寧にしまう。

 こうしてまた村へと戻るのだ。

 日は完全に昇っている。きっと村の皆も目をさましている頃だろう。

 



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