53話 ソーセージ
豚の生レバー……
前にいた日本では危険だから避けていたが、今は躊躇なく食べる事ができる。
なぜか、それは俺の診察で寄生虫やら病原菌は把握し、包囲殲滅するからさ!!
フハハハハハッハ!! 大勝利!!
「いただきまーす!」
「うむ、ありがたくいただくとしよう」
まさにさっきまで生きていてくれていた肝臓をスライスする。
じわりとにじみ出る水気、パラパラと塩を振りかけてそのまま口へと放り込む。
舌に乗って、動かそうとすると体温と僅かな下の動きでどろりと溶け出すように口いっぱいに広がる。
「んぐ……はぁ~……」
言葉も出ない。
「……うまいな……」
トットの言うとおり。それしか無い。
濃厚なとろけるような、重厚で生命力を集めたような、それっぽいことは言えるが。
旨い。のだ。
「流石に全部は食べられないから一部は塩と練り込んでソーセージにしてある。
今保存用に燻製してるから旅のお供は万全だ」
「お前と一緒に来て本当に良かった!」
「そういう理由かい!」
「いやー、これは最高だろ! 村でもそうそうは味わえん……」
「しかし、商人に話をしたらすぐに人が増えると思ったけど、そうでもないんだね」
「まぁな、脛に傷有る人間。一度形成した場所を捨てるのは勇気がいるんだろ。
それでも俺達の村はもう隠れ村の規模ではないから、いずれ人も集まるさ」
そう、あの治療や村の発展を目指していた日々、途中訪れた商人に度肝を抜かれ、他の村や森へと入らねばならなくなった人に村のことを教えていいという話をして、俺はすぐにでも人が殺到すると思っていた。
結果は誰もこなかった。噂話として話が伝わって数カ月は立ったはずだ。
なのに0だ。
「おっし、いい感じで焼けたぞー。
くーーーいい匂いだ」
トットは火を起こしてソーセージを焼いている。
茹でてよし、焼いてよし、燻してよし。
ソーセージは最高だぜ!
「しかし、腸詰めとはよく言ったものだな。
本当に動物からの恵みには感謝しか無い……」
「野菜もそれなりに安定したけど、やっぱり狩猟は偉大だよね。
食事も皮も、牙も爪も、全て生活に役立ってくれる」
「そして、ングッングッ、旨い!!」
「そうだな、旨いな!」
塩と幾つかの香草と端肉をミンチにして、軟骨やら内臓の一部も全てみじん切りにして腸に詰める。
ただこれだけで、保存も効く食料が大量に確保できる。
これからの時期なら痛む速度も遅いし、いい土産になる。
「一応の知識はあったけど、この生活の中で実際に何頭も自分で解体して、改めて生命って凄いなって気持ちになったよ……」
俺は動物が大好きだ。
しかし、同時に獣医師としての冷徹な部分もある。
特に食肉に関しては一般の人よりも冷徹だと自覚している。
嫌いだなどという感情は一辺もない。食用の動物も好きだ。
この問題は難しいな、食用の動物なんてものはいないから。
俺達が生きていく犠牲になってもらってるだけだ。
だからこそ、全てを無駄なく感謝する。
傲慢にも生きている人間としての義務だと思っている。
植物から生命をいただき、動物からもいただく。
厳しい生活のもとでその気持が本当に強くなった。
きっと、日本に帰ったら……生きづらいんだろうなぁ……
「戻る、のか……?」
「ん? どうしたダイゴロー?」
「ああ、いや……なんでもないんだ。
お、これは子袋か、柔らかくて、さっぱりしているな、あータレが欲しくなる……」
「タレとはなんだ?」
「ソースみたいなもんだな、甘辛くて風味とコクが合って、ああ、思い出したら食べたくなる……」
「な、なんか凄そうだな! いつの日かタレを味わってみたいな!」
「流石に醤油やみりん、日本酒なんて作り方知らないからなぁ……」
「どれも聞いたことが無い……」
「だよねぇ……」
大豆が原料とか、米が原料とかそれくらいしか知らないんだよなぁ……
「しかし、生の肉は旨いなぁ。
俺は必ず火を通せと教わったが、ダイゴローのおかげでこんなに旨いものを知ってしまった。
村の奴らもお前が出ていくと知って本当に嘆いていたぞ」
「そこかい……」
「ブッハッハ! 冗談だ冗談! 冗談だよ……冗談に決まってるじゃないか……」
名残惜しそうに生肉食べている目が冗談とは思えない鈍い輝きを放っている。
「ほ、ほら。これとかめったに食べられないぞ。なんと舌の刺し身だ!
歯ごたえがたまらない! 軽く炙っても最高だ!!」
「どれどれ、おおおおおお、うんまいなぁ……!」
「こっちのハツも刺し身ではなかなか食べられないよぉ~」
「そっか……これからは生では……」
「ここねぇ! 希少部位! こめかみ! 美味しいよぉー!」
「おお! 旨いなぁ!」
忙しかった……
それでも腹一杯になれることは何よりも幸せなことだった。
隙間風対策も切り出して隙間なく板を貼って解決した。
よく考えれば、昨日やればよかった。
風が通らないだけで室内の保温能力は段違いだ。
「何から何まですまないなダイゴロー」
ほんとだよ、もっとちゃんと作っとけよと思ったけど流石に言わずにおいておいた。
満腹と暖かな寝床。こんなに幸せなことはない。
今日はフィーが胸の上で丸くなっている。
隙間風が入らなければバックよりも俺の上のほうが温かいらしい。現金な奴め。
そんなフィーを撫でていると、いつの間にか俺も眠りに落ちていた。
素晴らしい食事に質の高い睡眠は肉体にエネルギーを満たしてくれる。
目覚めは最高だ!
トットも同じようだ。まだ日が出始めた時間だが、身体が活動を欲しているのがわかる。
すぐに出立の準備を行い行動を始める。
昨日の川に出て軽く身を清める。
冬の気配を感じさせる水が身を清めて引き締めてくれるようだ。
木の実を粉にした小麦粉モドキによって作られたパンモドキを焼いて腸詰めを挟んで食べる。
「なんという旨さ……」
「最高だね……」
行儀は悪いが歩きながらも食べられる手軽さはありがたい。
それにしても、腸詰め一つで、正直あんまり美味しくないパンモドキもここまで美味しくいただけるのだ……改めて感謝する。
その後もう一箇所の休憩所も手直しをして泊まり。
順調に目的の村へと到着することが出来た。
最初のトットの村よりもだいぶ大きいが、同じような掘っ立て小屋が並ぶ、正直貧相な村に見える。
「なんか、自分のところに慣れたからか、こんな村だったかなぁって気分だ……」
「そうなんだ……」
「とりあえず、俺が話してくる。ちょっとだけ待ってくれ」
ちょうど日暮れ時で皆食事の準備でもしているのだろうか、村に人が見当たらない。
トットは村へ入り比較的立派、といってもベニヤみたいな板で作られた家にノックしている。
見ていると扉が開き誰かと話している。
ちょいちょいと手招きをされたので俺も荷物を担いでその家へと向かう。
ふと周りを見ると皆覗き窓のようなところからこっちを伺っている。
なるほど、あんまり歓迎はされていないようだな……
こうして、前途多難な俺の第二の旅は始まる。
焼肉……食べたい……




