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52話 大物

 薄ら寒い隙間風に震えながら無理やり睡眠を取ったが、早朝の厳しい冷え込みで目が覚めてしまった。

 まだ薄暗い日の出前だが、もう一度眠れる気がしない。

 トットは隣ですやすやと寝ているので自分で使っていたやつを壁に貼り付けて風よけにした。

 それからお湯を沸かしてお茶を作る。

 お湯を沸かしただけで室内が暖かくなった。

 動物の皮というものの保温性は素晴らしい。


 少し明るくなったので日課の狩りを行う。

 塩漬けの肉などは十分あるが、可能なら手土産代わりに村へ持っていくことも考えている。

 

「寒いから身体を動かしたいってのが本音だけどね……」


 フィーはカバンの中に専用の寝床で寝ているし、ネズラースは今だに頭の中で器用に休んでいる。

 首切り用の魔道具といくつかの解体用の道具、それに剣だけを持ってツリーハウスから飛び降りる。

 

「近くだとこの木の裏に直進してあたりにいるな」


「ありがとうネズラース」


 俺はネズラースの指示に従い、ツリーハウスが作られた大木を回り込むように裏手へ出て走り出す。

 近距離ならネズラースと同じぐらいか、ネズラース以上に気配探知出来るが、長距離となると雲泥の差がある。俺の魔力を利用して薄く広く網を張るように探査出来るそうだ。

 俺の探査は聴覚や空気の震え、気配を感じ取っているから、根本的に違う。


 頬に触れる森の空気は冷え込んでいるが気持ちが良い、吸い込む空気が身体を浄化してくれるような気持ちにさえなってしまう。

 早朝の森を疾走るのは楽しい。

 迫りくる木々を避けながら進行方向上の木々を剣で払いながら進む。

 剣技の鍛錬を積み、今では結構なスピードで鬱蒼と茂る森を走って進むことが出来るようになった。

 俺は風だ! 森を吹き抜ける風だ! 疾走れ風よ!!

 

「ダイゴロー少し速度を落とせ、近いぞ」


 おっと、森を疾走ることに集中して何のために走っているのかを忘れてしまっていた。

 ネズラースの言に従い速度を落とし慎重に前方を伺う。

 

「居た……キノコツチブタか! 大当たりだな!」


 小声でも力が入ってしまう。

 森で出会う動物の中でもファジア鳥と1,2を争う美味な動物だ。

 キノコを主食とする草食気味な雑食のイノシシによく似た動物で、性格は温厚だが、非常に力が強くいざ自分が危機になるとものすごい力を発揮する。狂ったようにまっすぐと猛スピードで走り去っていくため捕獲は入念な準備が必要だ。

 

「ふぅぅぅぅ……」


 俺は高ぶる気持ちを押さえるよに静かに深呼吸をする。

 肺に冷たい森の空気が流れ込み、身が引き締まる様な気がする。

 俺の狩りは相変わらずだ、威圧というか殺気を爆発させてぶち当てる、気絶かそれに近い状態になったらネズラースにトドメを刺してもらう。

 もう、なんのためにあるのかわからないほど弱くなってきた俺の呪いの弊害だ。

 強力な威圧を使うコツは、殺気を爆発させる寸前まで心を平穏に魔力を練って、一気に出来る限り近くで方向性を絞って打ち出すことに有ると思っている。

 出来ることなら気が付かれずに撃ち込みたい。


 気配を殺しツチブタの様子を伺う。

 一匹で一生懸命木の根元を掘り返している。

 きっと地中に素晴らしいキノコがあるのだろう。なんという幸運。

 そちらも掘り返していただこう。

 それに、キノコに夢中になっているツチブタは非常に集中している。

 

 俺は気配を消して飛び込めば届く場所まで移動する。

 足場を確かめる。問題ない。準備は完了した。

 俺は先程拾った小石を上空に指で弾く。

 キノコツチブタの少し先の木に当たるように狙いを定めた、石が落ちた瞬間、俺も動き出す!


 コツン、コロコロ……


 俺は飛び出す。石に反応していれば余計に背後からの奇襲は成功。

 反応しなければキノコに夢中になっているので、奇襲は成功する。

 このツチブタは後者だった。木に当たる石なんて木にもせず一心不乱に土を掘り返している。

 俺は飛び出してツチブタの背後へと躍り出ている!


「ハアアアァァァァッ!!!!!」


 裂帛の気合を乗せた威圧がツチブタを貫く。

 周囲の木々がザワザワと揺らぐ、木の上の方にいた鳥たちも一斉に飛び立ってしまう。

 しかし、至近距離で威圧の直撃を受けたツチブタは、ビクリっ、と身体を震わせ手足を硬直させバタリと倒れるしかなかった。


「ネズラース頼む」


 俺は魔道具を頚部に当ててネズラースを呼ぶ。

 ネズラースが魔道具を起動させると風の刃が事も無げにツチブタの首を落とす。

 解体用の道具からロープを取り出し、手早く木から逆さまに吊し上げて放血させる。

 この血も大切な栄養源なので用意していた袋へと可能な分は回収する。

 この作業を一人でやるのはお前ぐらいだと良く皆から言われるが、持ち上げて手頃な木に縄をかけて固定するだけなんだけどね?(注:このツチブタは150kgくらいあります)

 それからツチブタが必死になっていた地面を掘り返す。


「やっぱりツチシタダケか……かぁ~! 山の全てに感謝!」


 ツチシタダケ、文字通り地面に埋まって育つキノコで、栄養も味もキノコとは思えないほど重厚で旨味があふれる。

 なかなかお目にかかることはない。

 土からまれに頭が出てしまった物を偶然見つけるか、訓練した犬、そしてキノコツチブタぐらいしか見つけられないそうだ。

 食べる時は口いっぱいに広がる芳醇な香りがするのに、直接嗅ぐと完全に無臭としか思えない。

 何にせよ、超々高級品だ。

 ツチブタもいいサイズだ。大きすぎず小さすぎず。

 それなりの距離を移動してきたので帰り道を輸送するための道具を準備する。

 手頃な木を加工して放血が終わったツチブタをくくりつける。両肩に背負う形で引っ張る台車のような物を作る。立派なタイヤなんて作れないので、頑丈なローラーが後ろからついてくるような作りだ。


「よいっしょっと!」


 俺はトットが喜ぶ顔を思い浮かべながら中継拠点へと帰還する。


「ダイゴロー狩りはどうだったって、後ろの……ツチブタか!!

 凄いサイズだな! 流石ダイゴロー!」


「それにこれもだ!」


 俺は腰の袋からツチシタダケをちらつかせる。


「ま、まさかアレか!? で、でかいな、なんて立派なんだ……

 むしゃぶりつきたくなるな、そんな太いものならどれだけ濃厚か……たまらないな……」


「……なぜだろう……なんとも言えない気持ちになった……」


「それよりも、肉は寝かすとして、ナカはすぐ行くんだろ?」


「ああ、これからやる。排水し易い場所はどこかな?」


「ああ、もう少し進むと川がある。そこでやろう! すぐに準備する!

 楽しみだ! ああ楽しみだ!」


 狩った動物の肉はしばらく寝かしても問題ない、というか、寝かしたほうが旨い。

 しかし、内臓、ナカはそうはいかない。

 食べれて今日の夜まで、そう決めている。

 すぐに解体バラして、そしてそれは獲った人間しか味わえない特権なんだ。


 トットはよほど楽しみなのだろう必死に撤退の準備を済ませて川へと案内してくれる。

 幅は5mほどのしっかりとした川が結構近くにある。

 そりゃ中間拠点の近くに水の確保ができるのは当然だよね。

 俺は手早くツチブタの解体を始める。


 基本的な手順は、


 1,皮剥

 2,脂肪あぶら取り

 3,内臓ナカ出し

 4,枝肉わけ


 ツチブタの毛皮は非常に優れた防寒具になる。

 また皮下に蓄えた脂肪は、食用にも火をつける実用的な使い方にも利用できる。

 ツチブタはほとんど捨てる部分がない。

 すべての部分をいただくことが出来る。

 強化した包丁での作業は非常にスムーズに行うことが出来る。

 川のそばの手頃な木に吊るして、すべての作業を終えるのにだいたい2時間ぐらいだ。

 それから肉を塩漬けにしたり、ソーセージや内臓を調理したり、すべての作業が終了するとすでに日が傾き始めていた。


「今日もあの場所でもう一泊だな。ソーセージをつまみにゆっくり休んで、また明日から進もう」


 こうして、俺とトットは命を頂いて明日からの糧へとする。

 手土産としてはこれ以上無いほどの品物も手に入ったし、非常に得るものの大きい日だった。


 狩猟者達の特権を拠点へと持ち込み、これからがお楽しみだ。 

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