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40話 努力の結晶

 どんな肉であれ、油で肉を炒めるという行為は副作用もあった。


「また来るぞ!」


 匂いに連れられて魔物が寄ってくるのだ。

 そのおかげで魔石回収が捗るとも言える。

 ミミズパワーなのか、骨折はすっかり回復した。

 2週間程度で骨折が治る訳がないが、魔力による自己治癒力の強化は伊達じゃない。

 もともと怪我とか治りやすかったんだけどね俺は。


「ふぅ、魔石も結構溜まってきたなぁ……帰れたら小金持ちだね」


「ダイゴロー、後ろにまたあいつがいるぞ」


 そっと後ろを伺うと離れたところにちょろちょろと長い影が動いている。

 助けてあげたフェレットさんだ。

 あれから一定の距離を取りながらどうやら着いてきている。

 ただ、あの動物がいたおかげで俺は確信している。

 この穴は地上か、もしくは地表近くまで伸びている。


「魔物は地下の空間に自然に生まれることは有るらしいが、あいつは魔物じゃない。

 どっかから落下してこの穴に迷い込んだと思うんだ」


 俺に希望を与えてくれたフェレット君にはお礼として定期的に食料を残して言ってあげている。

 まぁ、たぶん彼らは野生種なら虫とかも平気で食べるんだけど。

 一応油とかを使わずに下処理した肉を焼いただけなものをそっと残して進んでいる。

 不安な洞窟の中であんな小動物がチョロチョロしているのを見るだけでもオレの心はだいぶ癒される。

 ネズラースはずっと頭の中で寝てるから風呂ぐらいしか姿を見せてくれないし。

 そうそう、加熱調理と水があれば身体も拭ける。

 初めて温かなタオルで身体を拭いた日は、また泣いてしまった。

 今では腰にぶら下げた4個の袋で水を作り、両肩に照明を担いで戦うという、なんか変な修行をしている新興宗教みたいな状態になっている。


「……ネズラース……気のせいかな……? 風流れてない?」


 そんな感じで虫食や野草を食べて生き延びながら洞窟生活に順応した俺が、空気の流れを感じたのは最初の落下事故から一ヶ月半くらい経った頃だった。


「……ああ、流れている! 間違いない!!」


 ネズラースも興奮している。

 いくら食べなくてもいいとはいっても、一度知ってしまった食べ物の味は忘れられない。

 だいぶ精神的な方で限界が近づいてきていた。

 最近では道がクロスしたりすることも有るが、基本的には上りの道を選んでいる。もちろんグルっと回って同じところに出ることも少なくなかったが、とりあえず虱潰しに進み続けた。

 慎重に風が来る道を探りながら進んでいる。

 最近ではネズラースに言われなくても敵の気配や生物の気配を感じられるようになった。

 魔力のコントロールも呼吸をするように出来るようになった。

 闘いでは昔みたいな力は出せるが、肉体は昔の姿は見る影もないほど痩せてしまった。

 それでも、全ては地上に出るその瞬間のためにここまで生き続けて歩き続けてきたんだ。


「草の、草の匂いだ!! 苔じゃない!!」


 俺も興奮してしまう。

 そしてついにその瞬間が訪れる。


「明るくないか? あの先! 光ってないか!?」


 俺は照明への魔力供給を止める。

 すると正面の道にはうっすらと光が差している。


「やっと、やっとやっと……!!」


 俺は気がついたら駆け出していた!


 なだらかな上り坂を昇ると、陽の光が上から差し込んでいる!

 あそこで道が切れる!

 

「うおっと!!」


 洞窟の最期は崖になった部分にその口を開いている。

 数カ月ぶりに見る太陽は、照明よりも温かく、そして生命力に溢れていた。

 頬を涙が伝う……


「ついに、ついにたどり着いたぞ!」


 落ち着いてみると崖ではなく、谷の壁面に開口している。

 頭上方向10mくらい進めば地表に出られそうだ。

 もちろん落下すれば間違いなく死ぬ。底が見えない谷に真っ逆さまだ。

 それでも、ここを登れば夢にまで見た地上だ。

 俺に迷いはない。


「フィー来るか?」


 俺は振り返り小さな同行者に手を差し伸べる。

 少しづつ距離は縮まって今ではほんの少し離れたところで一緒に食事を取るようにまでなった。

 水浴びが好きな俺の相棒。勝手にフィーと呼んでいる。

 俺の手を駆け上がり、ネズラースと同じように頭の上に乗っかる。

 ホワン。と体が光る。

 こんなところまで律儀な呪いだこと。

 おれは妙におかしくなってしまう。


「よっと……」


 身体が軽くなっているのが幸いした。

 昔の筋肉ダルマのままだったら崩れていただろう。

 洞窟を生き抜くに当たって、必要な筋肉以外極限まで削ぎ落とされた。

 過去の自分の腕とは比べるべくもない細い腕が俺の視界に伸びている。

 それでも、しっかりと岩肌を頼もしく掴んでくれる。

 戦いにおいてもこの細い腕と身体が俺の命を救い続けてくれて来た。

 手と同じように足の指も利用してスルスルと谷の岩肌を登っていく。

 高ぶる気持ちを押さえて昇る。

 ここで焦ってミスを犯せばそれで全てが無駄になる。

 手を伸ばし掴む、体重をかけても問題ないかを確かめる。そっと体重を移動していき身体を持ち上げる。次の目標を掴む。この繰り返しだ。

 すぐ目の前にゴールが有るが、どんなに遠回りでもしっかりとした道を選んで一歩一歩上がっていく。

 俺の頭にはもう二人の命を乗せているんだ。

 手術でもそうだ、最期手術が終わって、動物が覚醒して、そして一週間後の抜糸に来て元気な姿を見るまで気を抜かずに何かあればすぐに対応する。

 最期が大事なんだ、全て終わって安心できるまで、安心してはいけない!


 慎重に、しっかりと、安全に、どれだけの時間逸る気持ちを押さえ続けただろうか……


 俺の指に草の感触が伝わる。

 胸が跳ね上がり、心拍数が跳ね上がる。

 それでも慎重にぐっと谷の終わりを掴み、身体を持ち上げる。

 草が生い茂る場所へ、身体を放り出し、匍うように谷から距離を取り、森の入口近くの木へ背中を預ける。

 足の先端から頭の天辺てっぺんまで、今まで感じた快感を全て凌駕するような、痺れるような感覚が翔け抜けた!


 ゾクリっ……


 身震いする。体を抱きしめる。やったんだ! 登りきったんだ!!


「やっ………………………ヤッタァァァァァァァァァァァァーーーーーーーー!!!!!」


 数カ月ぶりに腹の底から絶叫した。


 同時に、緊張の糸がぶつりと切れたように深い深い眠りに落ちてしまった。

 

 

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