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38話 暗闇の中

「ダイゴローすまないが、気配が近づいてくる」


 俺はネズラースの声で目を覚ます。

 肩の痛みはだいぶ改善している。

 骨折している足も寝る前に比べれば遥かに楽になっている。

 皮膚の怪我は出血も治まりかなり回復している。

 魔力による自己治癒力の強化は本当に頼りになる。


「いや、ネズラースありがとう。おかげで休めた」


 俺は身体を起こす。

 体調はお世辞にも良いとは言えない……

 微熱はありそうだ、身体も鉛のように重い。

 強化魔法を途切れさせたらその場に座り込んでしまうかもしれない……


「後ろは滝だし、来るとしたらこちらからだな……」


 俺は袋を背負い歩き始める。

 簡易的な松葉杖っぽいものを使いながら歩き出す。

 飛び込んだ横穴は3mくらいの穴で奥は完全な闇だ。

 一応滝の方も覗いてみたが、滝壺は見えないほど深く壁が一部ボヤーっと光っていて苔状の発光物質が有るみたいだった。

 魔力を通すとしばらくボヤーッと光ってくれる魔法繊維をライト代わりに奥に進んでいく。

 

「いくらなんでも、これは、無謀だよなぁ……」


 改めて自分の絶望的な状況を感じてしまう。

 どこかもわからない洞窟の中を、ペンライトよりも頼りない光源一つで脱出する。

 食料は限られており、飲水のストックも節約して、1週間といったところだ……


「それでも、じっとしているば確実に死ぬ……行くしか無い」


「ダイゴロー右の角、その先に気配が有る」


 ごくり、自分の喉の音がいつもより大きく聞こえる。

 満身創痍の状態で強力な魔物でも出たらどうするか……しかし、奥に進む道はこの一本……進むしか無いのだ。


 ぞるり、ぞるり。


 動く気配は大きなムカデだった。

 光を感じる器官がないのかぼんやりとした光で照らしてもしゃかしゃかと大量の足を動かしながらゆっくりと移動している。

 敵意は無いようで注意深く脇をすれ違う。

 無益な闘いをしている暇はない、余裕もない。


「はぁ……気持ち悪かった……」


 素直な感想を述べるが、同時にもう一つ別のことを考えていた。

 もし、食料が枯渇したら、ああいうものでも食べないといけない。

 昆虫食は世界中で見れば特に珍しいことではない、この世界でも幾つか見かけている。

 生きるためなら贅沢を言えない時が来る。

 

「それでも、出来る限り避けたいな……」


 俺は一本道の洞窟を進んでいく。

 足元も悪く、折れた足をしこたまぶつけて悶絶することも一度や二度ではなかった。

 

「なんか、ここ変じゃない?」


「うむ、そうだな。先程から魔物もおらず、ダンジョンの作られた生物でなく自然のまぁ虫しかおらんな……ダンジョンというよりは洞窟なのかもしれないな……」


 ネズラースがいてくれてよかった。

 暗く不安な道を歩いていても話し相手がいるだけで心は耐えられる。

 結局足の性もあってその日もたいして進むことができなかった。

 

「はぁ、真水が飲みたい……」


 ボソボソと美味しくない携行食を生理食塩水で流し込む。結構しょっぱい。

 水分が無いよりは遥かにマシなので贅沢は言ってられない。

 栄養的にある程度満たしたら、無理矢理に身体を休める。

 常時魔力を循環しているせいでだんだんとスムーズに循環をこなすことが出来るようになった。

 血液や組織を魔力が流れるようにイメージしておくと眠っている間も巡っている。

 これを利用して骨折を早いとこ治したい。

 鈍い痛みをごまかすように暗闇の中で目を閉じる。

 当たり前のように過ごしていた日常の幸せな思い出が襲い掛かってきて、その日の夜はかなり辛かった……


「ダイゴロー、また虫だとは思うが、動く気配がある」


 数時間目を閉じて身体を休めるとネズラースに起こされる。


「魔物だったらおしまいだからな、油断はしないよ……」


 眠気と微熱でボーっとする頭に活を入れる。

 洞窟を進む、ごちゅりぼきゅり…… なんとも言えない気色の悪い音がどんどん近くなる。


『虫じゃ……なさそうだな……』


『注意しろダイゴロー……』


 念話で会話する。

 曲がり角の先、注意深く覗き込む……

 暗闇に赤い光がふよふよと浮いている。

 魔物の瞳に浮かぶ狂気の赤い光だ。


『魔物だな……目の位置からすると結構でかいな……』


 戦闘になる。その緊張で思わず松葉杖代わりにしていた棒を落としてしまう。

 カラン……

 小さな音だが、洞窟内に反響してその魔物にも気が付かれる。


『仕方ない戦うぞ!』


 俺は魔法繊維に思いっきり魔力を通す。

 あんまりやると焼ききれてしまうが、発する光は強くなる。

 通路にバッと繊維を投げる。光が通路に広がり魔物を照らす。


『お友達か?』


『余裕があるようだな、来るぞ!』


 音の正体は巨大なネズミ、ジャイアントラットが魔物化した物だった。

 オオムカデを食っていたようだ。

 真っ暗闇の中、強い光を発した繊維を思いっきり見たラットは眩しそうに目をこする。

 俺のほうが幾分目が慣れている。

 片足で地面を蹴って一気に間合いを詰める。

 手加減している暇はないし、反撃を確実にいなせる自信もない。

 単純に力いっぱい強化した棒で殴る。

 

 グチャ


 一撃でマウスの頭部を粉砕する。


『ダイゴロー溶ける前に魔石を取り出せ!』


『分かってる!』


 魔物は死ぬとすぐ全身灰になって消えてしまう。

 その前に心臓に当たる部分にある宝石、魔石を剥ぎ取ると魔石だけは回収できる。

 抜手で乱暴に肋骨の隙間を撃ち抜く、心臓の位置に有る石を掴み力づくに引っ張り出す。

 乱暴だが、すぐに灰に変わってしまう。

 身体は灰になってしまったが、無事に魔石が回収できる。

 これを棒にくくりつける。

 そして、強化をかける。


「おお、光だ……」


 温かな光とやっと呼べるほどの強い光が周囲を照らす。

 これがどうしても魔石を手に入れたかった理由だ。

 魔力を通すと結構な明るさで光る。

 久しぶりに目にする光、眩しくて、温かい。

 いつの間にか俺の頬を涙が伝っていた。

 

 

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