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32話 お金がない!

「ダイゴロー!! ユキミ嬢に興味ないと言ってたじゃないか!!」


 夜に書類作業をしているとドスドスと周囲への配慮にかけた足跡が近づいてきて、ノックもなしに乱暴に扉が開かれ、同時に浴びせられた言葉だ。


「おかえりニャー、キンドゥ~。今日はもう夜ご飯食べちゃったニャー」


 ユキミが部屋のソファーで寝っ転がりながら教科書を見ている。


「な、おま、ちょ! ユキミ嬢なぜこいつの部屋に?」


「ん~一応私も医療の知識はこの先必要だなーって勉強してるにゃ。

 わからないことはダイゴローに聞きに来てたんニャけど、めんどくさいからここで勉強してるニャ」


「危ないですよユキミ嬢、こいつに襲われでもしたら!」


「ダイゴローはキンドゥーと違って紳士ニャ。

 それに別にイチャイチャしたい時はしてるしいいのニャ」


 ユキミがウインクしてくる。かわいい。

 最近なんていうか、ふつうの距離感で、それなりに彼氏彼女が出来ていて、正直俺にはこれぐらいがちょうどいい。あんまり凄いのは刺激が強すぎるのです。


「な、な、な、な、な……ダイゴロー!! 表に出ろ! 決闘だぁ!!」


 キンドゥが手袋を投げつけて来ようとするので、俺は秘密兵器を出す。


「キンドゥ『様』、この度は視察の旅お疲れ様でした。

 今回視察で一番最初に訪れた街の娘が検診に訪れ診察させていただきました。

 おめでとうございます。これで王位継承権第138号が生まれる日も近いですね」


「ほんとキンドゥは最低ニャ」


 キンドゥにべーーーっと舌を出している。


「……それで、母子は健康なのか?」


 この状況でもまず最初に母子の心配をする。真剣に。

 こういうところが彼を愛してやまない人達が周囲に自然と集まる理由なんだろう。

 俺も、そういう酔狂な人間の一人だ。


「はい、大丈夫です。やや栄養面で不足しがちだったのでこちらの判断で妊婦補助基金から定期補助制度の手続きはしておきましたがよろしいですか?」


「いや、ソレは止めていい。私の方から養育費として送金する」


「キンドゥ様、大変申し訳ありませんが、この調子で支出が増大していくと近いうちに資金が枯渇します。計画している大学計画はすでにギリギリの資金繰りになっています。来月の給金は払えない状態です」


「……よし、ダイゴロー、ユキミ嬢。あそこへ行こう」


「ダンジョンですか。わかりました。

 財政状況からそうなると思ってました」


「凄いニャ、ダイゴローの言ったとおりニャ」


「ぐぬぬ……」


「でも、キンドゥ様のそういう変なところちゃんとしてるところは好きですよ」


「そうニャ、ホントに見捨てたら二度と話さないつもりだったニャ」


「ユキミ嬢~、俺はちゃんとやる男ですよー」


「まぁ、確かにちゃんと『やる』みたいですね……」


「……おのれダイゴロー憶えておけよ!」


「いつから潜りますか?」


「3日後だ! 準備は怠るなよ!」


 すでに何度かキンドゥにはダンジョン攻略という名の金策に突き合わされている。

 俺も後輩的な医師たちが非常に優秀で、十分に職務を任せられるようになってきた。

 

『そろそろ戦いのための準備もした方がいい、世界全体がダイゴローが出来る範囲で生活は向上している。そろそろいつ連絡が来てもいいように戦いを見据えた方が良い』


 ネズラースもこう言っているので獣医師としての仕事の傍ら、冒険者、戦士としての実力も高める努力をしている。

 キンドゥは行動は問題も多いが、常に筋は通すし、それを慕う人間も大変多い。

 最近ともにダンジョン攻略に当たっているのはキンドゥ、俺、ユキミ、ハイレンジャーのルペル、ランサーのゴーザ、精霊師のマジ。この6人が攻略パーティになっている。

 すでにマズール山坑道ダンジョンはこのメンバーで攻略済みだ。

 ハイレンジャーのルペルは豹型獣人でダンジョントラップに関しての幅広い知識に加えて神業とも言える弓、それに短刀による近接戦もこなす。

 見た目はちょこーんとした少女みたいだが、実年齢は……一度この話題で半殺しにされたので止めておく。

 ランサーのゴーザはなんと現宮廷騎士団長の息子さん。

 宮廷騎士団長はキンドゥとパーティを組んでいたが、重職についたために離脱した。

 彼の息子は彼以上の使い手らしく、親衛隊からの凄まじいスカウト攻勢をかけられているが、キンドゥの側でその戦いを見たいと一緒に旅をしている。

 キンドゥ親衛隊隊長みたいなものだ。

 人間でありながらその身体能力は獣人を凌駕し、積み重ねられた鍛錬から繰り出される槍の業は神業に届くとまで言われている。

 事実、俺も彼と戦うとまるで子供扱いで4,5回に一度しか勝てない。

 精霊師というのはこの世界でも珍しい精霊を使役して様々な事をする種族に近い職業で、ヘビ型獣人であるマジは精霊師の始祖であり英霊として崇められているヤマティの再来と呼ばれているほどの使い手だ。

 各種精霊を使った精霊魔法や、召喚術、また彼女の凄いところは錫杖を用いた武術。

 相手の力を巧みに利用するその独特の技法はゴーザでも負け越すほどだ。

 ただ、撃破するというよりは制圧するのに適しており、攻めよりも守りが堅い。

 キンドゥは闘剣士として巨大な両手剣を軽々と扱い常に最前列で闘い続ける。

 年齢を一切感じさせない体力は流石としか言いようがない。

 戦っている時の彼は本当に王者だ。

 女癖がなぁ……、一回現国王に呼び出されてなんとか説得して欲しいと頼まれたけど、まぁ、無理だ。


 俺はいろんな武器を経験させてもらったけど、結局無手による戦闘が一番性に合っていた。

 手足による打撃、投げ、極め、通信学習でやったマーシャルアーツと空手とムエタイと総合、柔道、柔術、テコンドー、カポエラ、コマンドサンボなどを組み合わせた自己流の闘い方をしている。

 ユキミはハイプリースト兼ウォーロックという魔法職のスペシャリストだ。

 まぁ、前線に出ても十二分に強いんだけど……


 そんな感じのパーティを組みながらダンジョンをたまに攻略している。

 その資金を惜しみなくキンドゥ主体で行っている公共事業に投資しているために、俺の知識や技術が国に広がるのが早い。

 ダンジョン攻略も欠かせない功徳なんだ。


「準備はできたか?」


 全員無言で頷く、例え出発当日になってもどこへ行くか知らなくても準備に抜かりはない。


「それでは出発する! 目的地はパリトン東、大森林の奥に発見された大神殿ダンジョンだ」





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