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28話 先王 キンドゥ

「絶対に許さないニャ」


 ユキミはプンプンである。

 そりゃ、気絶させられて下着と洋服ダメにされる大恥をかかされたら許せないよね。

 あんなにショボーンとした先王は初めて見るって衛兵さんのつぶやきが聞こえた。


 まぁ、ものすごい大物の乱入で俺の裁判は一時休廷となっている。

 今は応接間的なところで話し合いが持たれている。

 話し合いと言っても、まぁ先王様の一人舞台だ。


「すでに俺の手のものが調べ上げている。カネスキ、それに領主ネルトン、何か申し開きはあるか?」


 机の上には大量の二人が行った悪事を調べ上げた書類。

 奴隷の不正売買、医療上の横領、貿易税の着服、セクハラ.etc.

まぁいろいろな悪いことやってるねこの二人。


「……ございません」


 二人共、床に正座してうつむいたままガタガタと震えている。


「衛兵、この二人を牢に突っ込んでおけ、後に裁判で沙汰を決めよ!」


「ハハッ!!」


 この国において英雄であるキンドゥの声で衛兵がキビキビと二人を連れて行く。

 あんなに偉そうにしていたカネスキが今ではすっかり小さくなっている。いい気味だ。


「さてと、ユキミ嬢本当にごめんね~。

 ちょっとあいつらにお灸を据えようと思ってさぁ~」


「ふん! 知らないニャ!」


「そんなぁ~~」


 威厳0だぜ先王様……


「ユキミ嬢とはあとで『最高級レストランでゆっくりと食事』でもしながら誤解を解くとしよう……」


 わざわざ強調するなよ小さい、先王、小さい!

 そして簡単にニッコニコになる猫、ちょろい! チョロイン!


「ダイゴロー、お主は何者だ?」


 キンドゥの眼がほのかに光る。魔眼の力が発動しているのだろう。

 俺は隠すこと無く今までのことを説明……

 しようと思ったら声が気に入らないってことで、ネズラースが手錠を外してもらって念話による代理会話をする。


「ふむ、ベグラースか……俺も何度か討伐しようとしたが……

 しかし、中身は違う。ふむ、すべてウソではない……

 教会からも神の名においてべグラースの脅威は排除されたと聞いておるから、すべて矛盾せぬな」


 ところどころでユキミに手を振ったり投げキッスをしてなければ威厳ある先王なんだけどね。

 ユキミは完全にレストランの食事が気になってニコニコしてるし……やれやれ……


「ちょうどいい、これを見てくれないか?」


 キンドゥは真面目な顔に戻り報告書のようなものを見せてくる。

 作りの良さそうな紙で出来ており、内容は……


「パリトンで急増している熱病……ですか……」


--------------No7 パリトンの人々--------


年齢 老若男女問わず

種族 多数の獣人と人間

症状 軽度な発熱、重症化すると頭痛、筋肉の痛み、腹痛、眼が赤くなるなど、更に重症化すると黄色病、血が止まらなくなる。場合により死亡……


----------------------------


「これだけ急速に広まって、しかも発生箇所が散見して、この症状……」


「まぁ、これだけではわからんだろうが」


「いえ、たぶんレプトスピラ症だと思います」


「もう、わかったのか?」


「多分ですがこの街には下水施設が発達してますよね?」


「ああ、地下に排水路をしいて下流の川に流している」


「追加で下流の川付近の街でも調査した方がいいですね。

 それに川や湖の水をそのまま飲んだり触れたりすることを止めさせないといけないですね……」


「そ、それでは生活が出来ないじゃないか!?」


「水を管理するシステムを作ればいいのです。

 飲水や生活用水を確保する上水道。

 排泄物や家庭排水を処理して川にもどす下水道。

 これらの整備をしないと、この病気を鎮静させるのは難しいです」


「そのレパトスパナとかいうものは何なのだ?」


「レプトスピラです。レプトスピラっていうのは人間にも動物や獣人にかかる細菌症です」


「細菌……報告は見ている。この世にある目には見えない小さな生物……だったな」


「そうです、先王もパンなどに黒くなったり緑になったりする物を見たことがありますでしょう?」


「ああ、あれを食すと酷いことになるから食べないように決まっておる」


「あれが、微生物という細菌のなかま、真菌、カビといいます」


 俺は紙に書いて説明する。

 俺は日本語で書いているつもりだが、どうやら読む人が理解できるように変わる魔法の字のようだ日本語は……


「現在重症例な人達にはすぐにこちらの薬を投薬すれば大丈夫だと思います。

 本当の重症例は直接血液に薬を入れなければいけないので、私がやります」


 この世界の細菌なら抗生剤に耐性を持っているものはほとんどいないだろう。

 軽症例にはドキシサイクリン、重症例にはペニシリン投与で改善するはずだ。


「つまり、尿なども全て集めて処理……浄化の魔道具……

 これは一大プロジェクトだな……そんな大金国庫を動員しても……」


 俺は想像通りに話が進んで顔がにやけてしまう。


「先王、未発見のダンジョンが有ると言ったらどうしますか?」


 先王の瞳に燃え上がる興味が湧いたことを見逃さない。


「マズール山に鉱石を出す坑道を掘っている時に発見したのです。

 まだ、誰も発見していないダンジョンを私とユキミは知っています。

 今は封印していますが、それだけでも経済効果は凄まじいものになるでしょう。

 その発見の懸賞金を全て衛生設備の構築に寄付しますよ!」


 じろりと俺の瞳を睨みつけるキンドゥ、その瞳は全てを見透かすかのようで吸い込まれそうだ。

 ニカッ! と笑顔になる。


「お主の言葉、一切の嘘はない。

 良かろう! じっさいにダンジョンを見なければ確約できないが、お主の策に乗ってやろう!

 それに、俺の権限で、お前を医者にする!」


 その言葉を発した瞬間、俺の身体がボワッと光る。


「うん? 何だ今の光は? んんんん?」


 急に先王が顔を近づけてくる。

 ライオンの顔が近づいてくるのは結構迫力が有りすぎる!


「なんじゃ、お主を見てイライラしなくなったぞ?」


「ほんとですか?」


「ああ、声も平気だ。何だったんじゃ?」


 たぶん、街の病気の解決の糸口の発見、それに医者として正式に働けることが獣人にとってプラスになるから……なのかな?

 なにはともあれ、おかげでパリトンの町の人には嫌なものを見るように扱われなくなっていた。


 裁判所から出ると山賊の仲間が駆けつけてきた。


「兄貴! 無事だったんですか? なにやら色々調べていたら、超大物が兄貴のことを嗅ぎ回っているって話を仕入れて心配してたんですよ!」


「ああ、先王だろ?」


「さすが兄貴!! なんでも知ってるんですね!」


「そして、俺らは先王の部下となってしばらく働くことになった。

 忙しくなるぞ!

 村からも数名応援によこしてくれるよう連絡をつけてくれ!」


 まだまだいろいろやらないといけないけど、まずは病院に入院する人達の治療だ。

 特に重症例は早く治療した方がいいので、その日から走り回った。

 抗生物質は効果てきめんだった。

 いままで良くなる兆しのなかった患者が次から次へと回復していき、もう誰も俺の治療を疑うものはいなくなっていた。


 医者たちは皆、熱心に俺の技術や知識を学ぼうとしてくれている。 

 大病院もトップは皆から疎まれていて腐っていたが、下の人達は熱心だった。

 勉強会には連日参加者希望で溢れ、キンドゥ主体で教科書のようなものも基礎から作り始めている。

 この世界の医療の常識を大きく俺は変えようとしている。


 ギルド証に一緒に医師としての資格も記載されることになり、俺は遅ればせながらこの世界で医者兼獣医師として認められることが出来たのだった!

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