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23話 緊急

 山賊の見張りっぽい奴らを倒して俺達は山道を駆け上がる。

 

『ストップ! そこに罠がある』


 戦いの後は俺が先行している。

 ワイヤートラップ、黒い紐が道に仕掛けてある。

 よく見ると左右に鳴子がぶら下がっている。

 知らずに突っ込めば大音響で山賊たちに知られてしまう。


『妙に見やすい糸だから……たぶん……』


 やっぱりだ、その影に細い糸で同じようなワイヤートラップがある。

 こっちが本命だろう。


『どうするニャ?』


『たぶん山賊しか知らない迂回路が有るんだろうけど、探している時間が惜しい、もうアジトの石もあそこに見えているから、跳ぼう!』


 俺はユキミを抱える。そして魔力を足に集中させて跳ぶ。

 強化された肉体は俺の身体を軽々と天高く飛ばす。


『見えたニャ、見張りは……4人ニャ、人間3人、犬型獣人1人ニャ』


『さすがに上からくるとは思ってないだろ、ユキミ風で目前に打ち出してくれ!

 あの3人は俺がやる、獣人を頼む!』


『わかったニャ! いっくニャ!』


 ユキミを空中でふわっと放る。そのまま背中に突風を受けて見張りの手前に結構なスピードで着地する。魔法で強化された肉体ならなんともないぜ!


「な、何が起きた!?」


 ちょうどよく砂煙で状況をよくわかってないみたいだ。

 そりゃそうだな、まさか『空から人が降ってくる』なんて想定しないよね!


「お、おい! どうし……」


 バタリと獣人が倒れる。しゅたっとユキミが着地する。

 魔法であっさりと意識を刈り取ったみたいだ。

 俺は二人目の無力化を終わらせ最期の一人に突っ込む。


「く、くそ! てっ、敵!?」


 抜刀されたが背後に回り込んで送り襟絞め、大声は出させない。

 こうして4人の見張りの無力化に成功する。


『アジトの近くには人の気配は無いニャ! それにしてもダイゴロー強いのニャ!

 驚いたニャ!』


『ま、漫画とかアニメ結構好きだから。

 自分が出来ない分そういうの見て真似したりしてみたり……』


 それでも思った以上に身体が動いてくれて助かる。

 同じように魔法でさらに眠らせて縛り上げておく。


 アジトの内部は天然の洞窟なのか結構大きな作りをしている。

 照明も松明でしっかりされており、魔法強化された視力と相まって、苦労せず歩ける。

 

『ダイゴロー、助けを求める声が大きくなってる。こっちニャ!』


 通路を罠に注意しながら進んでいく、幾つかの部屋を覗いたら昼寝をしている山賊がいて、さらにぐっすり眠っておいてもらった。


『この部屋ニャ!』


 部屋に聞き耳を立てると二人の男が話している。


「まったく、あのガキうるせーから一発殴ったら静かになったぜ!」


「おいおい、大丈夫かよ? 大切な商品だぞ?」


「へっ、骨の一本や二本で死にやしねーよ。

 しかし、ホントに静かだな、なんか呼吸も早いし……」


「おい……おいガキ!?」


「ヤベェ、反応ねぇぞ!」


「お、親方呼んでくるぞ!」


 ヤバそうだな、これは一刻を争う。


『入るぞ!』


 俺は扉を素早く、音を出さないように開く。


「うん? なんだ交代なら……」


 男二人は突然開いた扉に反応したが、パクパクと金魚みたいに口を動かしながら焦っている。


『サイレスニャ! ダイゴロー!』


 俺はすぐに二人の見張りの男の意識を刈り取る。

 急に声が出なくなって焦っていたので大した反撃を受けなかった。

 部屋の隅に転がしておいて、すぐに牢の中にいるであろう人物の姿を探す。

 一番奥の門で横たわり苦しそうにしているハムスターの子供がいる。

 あいつらが話していたように呼吸状態が悪い、すぐに診察を始める。


『まずい、肋骨が折れて肺を傷つけて気胸になっている!』


『ダイゴロー部屋の外に音は漏れないようにしたニャ!』


 俺はすぐにマジックバックから清潔な布を広げて少年を寝かせ、上半身の服を脱がせる。

 酷い青あざになっている、位置もここだ。

 

「ユキミ俺の指示通りに魔法を使ってくれ、今からやろうとすることのイメージは念話で送る」


「……わかったニャ!」


------------No5 ハムスター似の少年--------------


年齢 10代前半

人種 ハムスター型獣人?

症状 呼吸促迫、血圧低下、右胸部皮下出血、及び肋骨骨折、外傷性ショック


--------------------------------


「とにかく呼吸の回復からだ! ユキミ?」


「大丈夫寝かせたニャ!」


 ユキミはそのまま胸部の体毛を除去してくれる。

 露わになった皮膚は人っぽい、仕方ないけど、ちょっとだけ、ほんの少しだけ躊躇する。

 それでも気合を入れて急いで消毒して肋骨間にメスを入れる。


 シューーと空気が漏れる。これだけでも呼吸状態は改善していく。

 骨折した骨片が肺を傷つけて空気が胸腔内に漏れてしまう。

 閉鎖された胸腔内に空気が漏れると肺が膨らむことを邪魔してしまい、呼吸困難に陥ってしまう。

 それが気胸だ。

 空気を抜いてあげるだけで肺は拡張する力を取り戻し呼吸状態は改善する。

 

「ユキミ、ここに!」


 魔法によるモニタリングで損傷位置は分かっている。

 そこにユキミが回復魔法をかける。

 これだけで肺損傷が治るんだから素晴らしい!

 次は骨片だ。少しだけ切開を広げて鉗子で骨片を拾う。

 普段なら大掛かりな開胸をしないと探れないが、魔法とのハイブリット治療だ。

 見えない場所の骨片を拾うことも、骨片を骨に合わせるのも造作ない。

 骨片を丁寧に肋骨に合わせる。


「今度はここで」


 同じように魔法で回復させる。

 こんなことは現代医療でも出来ないが、魔法バンザイだ。

 ショック性の低血圧も点滴と投薬で復帰してきている。

 見落としが無いことを確認して胸壁を合わせる。


「次ここ、このまま皮膚までやってくから」


 胸膜が回復魔法で治癒し、皮下組織、皮膚を順次治していく。

 普通に回復魔法をかけてもぐわっと治るけど丁寧に合わせたほうが綺麗に、そして瘢痕を残さない。

 結局患者の回復は早いし、痛みもない。

 よし、これで終了だ。

 ユキミによる思念伝達はとても助かる。

 情報を立体的に伝えられる。


「ありがとうユキミ。お陰で助かった」


 それにしても、開胸手術がこの時間で……あっという間だ。

 本当に魔法と合わせた治療は素晴らしい!

 苦しそうに悶ていた少年はすやすやと眠っている。

 

「しかし、動物の身体に変身するほど小さくなったらこんなに綺麗に治せなかったよ、間に合ってよかった……」


 極端に状態の悪くなった獣人は本来の動物の姿になってしまう。

 あの実験で得た、酷いが、大事な知識だ……


「……あれ?」


 俺はふと思う。

 ベグラースの記憶……奪われたよな?


「一部の記憶は私が順次再構築している」


 頭上からネグラースが答える。どうやらまた声になっていたらしい。


「それってどういう……」


「ダイゴロー! 誰か来る!」


 俺は息をひそめる。

 

『どうする、もう少し安静にさせたい……』


『わかったニャ、人数にもよるけど抵抗させないで無効化させるニャ。

 来る場所がわかっていれば、こっちが罠を張ってやるニャ!』


 ユキミは本当に頼りになる。かわいいし、最高の相棒だ!


『もう……あんまり褒めると手元が狂うニャ……』


 しまった。また声に出ていた。

 その時ガチャリと部屋の扉が開く。


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