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15話 突然

 女性の姿のユキミに問題が有るわけではない。

 むしろ、その見た目は生前の俺なんかは接することもないほどの美人。

 スタイルも実際にこんなスタイルの人間(?)が現実に居るのかと目を疑ってしまうほど素晴らしい。

 少し気の強そうで、でも目の中の光は優しげな瞳。

 スッと通って顔の中心で全体の整った感じの要となっている鼻。

 女性らしく小さくも、可愛らしさと男をひきつける魅力とが混ざりあった唇。

 銀髪は光が当たると輝くようで、腰までまっすぐと伸び、白毛のユキミよりもさらに幻想的な美しさの髪。

 巨乳ではないが、十分過ぎる女性の魅力が体現している、まさに美乳、そこから腰、ヒップにかけての猫型獣人の卑怯な美しすぎる完璧なライン。

 手足もスルリと長く、真っ白できめ細やかな絹のような肌。

 

「……まるで、現世に生まれた芸術作品のようで、現代に生まれたゴリラの様な俺なんかが近くにいては行けないような気分になるから、気後れ感は半端がないのが問題なのである……」


 ふと気がつくと、ユキミさんが耳まで真っ赤になってうつむいている。


「……馬鹿ゴロー……褒めすぎなのニャ……」


「え……声出てました……?」


 黙ってコクリと頷く……


「う、う、うわぁぁぁぁぁぁ!!」


 俺はあまりの気恥ずかしさに部屋から飛び出す。

 何だなんだと皆の注目を浴びてしまうが、とにかく緑の風の皆が居るテーブルに戻って、残していたエールを一気にあおる。


「お、おかわりぃ!」


「はははは、どうしたんだいダイゴロー殿?

 まるでチェリーボーイが美女の裸を見たみたいに真っ赤じゃないか!」


 酒が進んで僧侶のバシーさんがシモネタを快調に飛ばしてくる。聖職者が性職者になっちゃってる。


 ガチャリ。

 二階の部屋の扉が開く。

 酒場にいた人達は何の気なしに軽くそちらに目線を流し、次の瞬間そこかしこからカチャーン、ガシャーンと食器を落としたりグラスを落とす音がする。


「だ、ダイゴロー殿! へ、部屋からとびっきりの美女が!!!???」


 俺は答えることも出来ずにうつむくしかない。

 おかわりを持ってきてくれた店長うからエールを受け取ると一気に喉に通してもう一杯おかわりをもらう。

 その美女が酒場全体の視線を独り占めしながらまっすぐと俺の居るテーブルに歩いてくる。


「お、おい、ダイゴロー! 誰だよ! 誰だよこの美女は???」


 ああ、マスタフさんそんなに揺らさないでください。

 いろいろなものがこみ上げてきてしまいます。


「ダイゴロー隣座っていいかニャ?」


「ニャ……?」


「……もしかして、ユキミ殿?」


「そうニャ。しばらくはこの姿で過ごすニャ」


 酒場全体にあ~~~~~。という声と雰囲気が広がる。


「なるほどなるほど、確かにユキミ殿ほどの美しい姿ならこの人化も納得ですよ」


 マスタフは最初の動揺もどこ吹く風、完全に納得している。


「可憐だ……」

 

 ラットンさんはデレデレになっている。

 バシーさんがチラチラユキミさんの胸元を見てカレナさんに叩かれている。


「いやー、ダイゴロー殿のペアはこんな素敵な獣人の方なんですねー。

 さらに神の使い! そりゃーダイゴロー殿の異常な強さも頷けますよ!」


「ありがとうニャ! そしたら私もいただくニャ!」


 ちらっと見ると美味しそうにエールをグビグビと飲んでいる。


「……プハー! 仕事の後の一杯はたまらないニャ!」


 満点の笑顔だ。こっちはすっかり酔が冷めてしまっている。


「いつまでうつむいてるんだニャ? さっきのことは心にしまっておいてあげるから、飲むニャ飲むニャ!」


 ユキミさんに背中をバンバンと叩かれる。

 いつまでもうじうじしてても仕方ない!


「おっしゃ! 今日は飲むぞー!」


 俺は立ち上がりエールのジョッキを一気に飲み干す!


「よっ! 街の救世主!! いい飲みっぷり!!」


「よっしゃー! 負けてらんねー店長こっちにもエール3,いや10杯持ってきて!!」


 また幸せに満たされた喧騒が店全体に広がる。

 俺が、その中央にいる。

 それは、日本では得られなかった時間。

 なんとも心地よく、楽しい時間だった。



「オロロロロロロロロロロロロロロロロr……」


 俺はとてもお見せ出来ないレインボースプラッシュを盛大に噴出していた。


「もー、調子に乗って飲み過ぎニャ……乗せた私も悪いけど……」


 ユキミさんが背中を擦ってくれる。

 おかしい、同じかそれ以上飲んでいるはずだ!

 なんでそんなにケロッとしているんだ?


「まぁ、状態異常には耐性があるニャ!」


「あれ、また口に出してた?」


 どうやら自分はあまりに一人で過ごす時間が長かったので、考えていることを無意識に声に出していることがあるみたいだ。気をつけよう……


 背中を擦りながら少し回復魔法もかけてもらってだいぶ楽になった。


「そう言えばユキミさん、こないだはすぐに次の場所へ移動になったのが、今回はゆっくりしていて平気なの? いや、すごい嬉しいんだけど……」


「大丈夫ニャ、切迫した問題は今のところもう無いニャ。

 こないだ廃棄場をお掃除した時に確かめてきたニャ!

 もちろん仕事自体はたくさんあるからこれからも頑張るニャ!」


「はい! 頑張ります!」


「さっきギルドの人が例の宝箱の件で一度話がしたいって言っていたから、明日教会へ来てほしいそうニャ」


「そっか、そしたら皆に挨拶して一回家に戻ろうか!」


「それがいいニャ!」


 それから皆に挨拶をして帰路へとつく。

 よく考えたらこの世界のお金を持っていなかったけど、街の皆からのおごりということで甘んじてみんなの気持ちを受け取らせていただいた。

 町外れでユキミが転移門を呼び出してくれる。

 起点となるべグラースの鏡との扉を開き、居間へと転移させる。


【……げ……】


「ん? ツキミさん何か言った?」


 館へ戻ってすぐ、何か声のようなものを感じた。


「いいや、なんにも言ってないニャ? どうしたニャ?」


 少し慣れたけど、二人きりでこんな美女といると焦る……


「いや、なんか声が聞こえたような……」


【……やく、……げろ……くる……】


 もっとちゃんと聞こえる。間違いない声がする……


「ユキミ、変な声がする……」


 酔も吹っ飛ぶ。それだけその声から感じる緊迫した雰囲気と、嫌な予感が湧き出る。


「何も聞こえないにゃ! 飲み過ぎじゃないのかニャ?」


 ユキミがおでこを俺のおでこに当てるというリア充爆発しろみたいなことをしようとしてくる。

 俺が焦って避けようとした瞬間、ソレに気がついた。


【早く逃げろ!! 奴が来る!】


 同時に叫び声が脳内……いや、直接魂に響いたような気がした!

 

 ソレは広がっている。

 俺は直感的にユキミにおでこを合わせて、まるでそれが出来ることを知っていたかのようにユキミに俺が見ている『ソレ』の情報と魂に聞こえた声の内容を送る。

 言葉を発する暇はない、俺はソレを見た瞬間に直感でそう理解していた!


 ユキミも俺の情報が伝わると同時に魔力を爆発させ鏡の中に俺ごと飛び込もうとする。

 まるで静止した時間の中で『ソレ』はどんどん広がっていく。

 隔絶した時間の流れの中で存在するはずのべグラースの館の一室に突然現れた『ソレ』は周囲を飲み込んでいく。

 『ソレ』は、黒いシミのようなものだ。

 空中のシミが周囲に広がり、触れたもの、その全てを『ソレ』にしていく。

 触手のように俺とユキミに迫る。

 俺にはわかる。『ソレ』は俺を狙っている。


【私を捨てろ! やつの目的は『私』だ、お前ではない!

 瞬きほどの時間を稼げる! 早くしろ!!】


 魂に叫ぶ声、『私』の声に『俺』が動く。

 『私』を凝集して放つ、『ソレ』が飲み込む方向に一瞬の指向性を持って『私』へと向かう。

 静止した時間の中のほんの一瞬、だが、俺とユキミにとってその一瞬が大事だ。

 鏡へとそのまま吹き飛ばされる!


『キャァァァァァ!!』


 額から伝わる思念にユキミの悲鳴が伝わる。

 その苦痛が、痛みが、苦しみが俺にも流れ込んでくる。

 『ソレ』の小さな小さな触手がユキミの髪に触れてしまう。

 それだけで『ソレ』は飲み込む、ユキミの全てを……


「ユキミを離せぇェェェ!!」


 声に出したか思ったかは分からないが、俺の魂はユキミの中の『ソレ』を弾き飛ばす。

 『ソレ』が絡みついたユキミは、今抱きしめているユキミから剥がされ、同時に俺とユキミは鏡へと完全に入る。

 その瞬間、鏡を、空間を、全力で破壊する!

 考えなくても身体が動いた。

 世界を閉じて、世界を飛ばす、『私』の最後の力で……


 俺の思考が戻った時。

 先程の町外れでユキミを抱きしめて……俺は空を見上げていた。

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