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12話 諸悪の根源

 走りながら食事を摂る。

 お行儀が悪いけど、少しでも時間を短縮させる。

 敵にゾンビ的な魔物やボヤーッとした幽霊みたいな敵が混じり始めたのは30階を超えた頃だった。


「ゾンビはいいけど、こいつは当たらない!」


 最初は手こずったけど、思いっきり棍棒を振り回した風圧で霧散させると再生まで時間がかかるらしく、その隙に無視する方法を憶えた。

 風圧で実態のある敵も吹き飛んで、なんか範囲攻撃みたいに出来ることも知ったので敵の数が多いときはそれで対処することも憶えた。


 今までの記録であった38階層も全速力で駆け抜ける。

 そう言えば宝箱は無視している。

 一回開けたら部屋中が炎に包まれて髪の毛の先が焦げて酷い目にあった……

 棍棒旋風陣でなんとかしたけど、罠を解除したりは出来ないから仕方ない。


 49階層に踏み入ると明らかに瘴気が濃くなっている。


「お、嫌な感じだ……ここが原因か……」


 今までの階層とはダンジョンの造りが違う。

 今までが岩や土壁に囲まれた洞窟風な造りだったものが、石壁が組まれまるで人工的に作られた建造物のようだ。

 しかも地図に浮かび上がる道は直進、暫く進むと巨大なドーム状の広間に出る。


「これは広いな……野球場ぐらいある。そして……あれが……原因か……?」


 広場の奥にうず高く積まれた山、もの凄い瘴気がそこから発生している。

 何やら空中に穴みたいなものが開いていてそこから時折ガラガラと何かが落ちてきて、それが降り積もってこの山を作っているみたいだ。

 目を凝らしてみると、白く見えているものは……骨だ……

 嗅ぎたくはないが漂ってくる匂いからは、どうにも嗅いだことがあるような薬品などの匂いも混じっている……


「近づかないとわからないな……」


 俺が歩を進めようとするとその山がぶるりと震える。


「う、動いた!?」


 俺の大きな声に反応したように山が震えだす。

 

【こ”……こ”の”け”……は”い”……う”お”お”お”お”!!】


 何かの固まりが声を発する、その声はこの世のものとは思えないほどおどろどろしく憎しみが篭った怨嗟の声……


【べぐら”ーす”ぅ”ぅ”ぅ”ぅ”!!!!】


 いきなり襲い掛かってきた!

 ヘドロのような腕? が俺に襲いかかる。

 棍棒で打ち返すように振り抜くとヘドロと骨がドーム状の天井にはじけ飛ぶ。

 それでもお構いなしに次から次へと腕と言うか触手のように俺を執拗に追い回す。

 躱した地面はクレーターのように抉れて、さらにジュウジュウと音を立てて変色している。


【シ”ネ”シ”ネ”シ”ネ”シ”ネ”シ”ネ”シ”ネ”!!!!!!!】


 憎しみで空気が震えるほど、明確な敵意と殺意の固まりで襲ってくる。

 無数の骨が文字通り骨組みを作って、巨大な生き物の様に迫りくる。

 肉は腐っているように蠢き、時折ガスのようなものを吐き出している。


「ううん……これはベグラース絡みで……獣人が絡んでそうだな……」


 記憶を巡っても思い当たるフシはないが、どう考えてもべグラースの所業が絡んでいるのは間違いない。

 それでも、すでに魔物化して救いようがない以上、倒すことが救いになって欲しい。

 俺はそう覚悟を決めてその魔物と対峙する。


【こ”の”う”ら”み”は”ら”さ”でお”く”べき”か”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”!!!!】


 興奮すると身体からもボコボコとガスが発生する。

 あれは絶対に吸っていいものではない、この密封された空間であまり長引かせるとガスが充満してしまう……


「きっと、俺の身体の持ち主が何かしたんだろうけど、ごめんよ。謝るくらいしか出来ない。

 でも、倒されるわけにはいかない……!」


 この原因を解決して、皆を救い、笑顔を向けられたいんだ俺は!!


「行くぞ! 棍棒大旋風めちゃくちゃにふりまわす!!」


 力の限り思いっきり持っている巨大な棍棒を振り回す。

 空気を切り裂く棍棒が突風を生み出し、さらに高速・連続で振り回すことにより突風は束になって敵に襲いかかる!


【ぐお”お”お”ぉ”ぉ”ぉ”お”の”れ”お”の”れ”お”の”れ”お”の”れ”ゆ”る”さ”ん”ぞぉ”ぉ”ぉ”!!!】


 風が肉をなす謎の液体を吹き飛ばし壁面へと叩きつける。

 骨組みをなす骨も粉砕されそこらじゅうに飛び散り、壁や天井、床によって粉微塵になる。

 最期まで怨嗟の声を上げながら、それでも暴風によって最期の一辺までも灰となり霧散した。


「あとはあの穴だな……」


 アレが出てきた穴をどうにかしないと……

 とりあえず穴の中の様子を確かめる。


「……これは……」


 穴の内部はまるでゴミ捨て場のようだった……いや、俺は見た瞬間に理解した……


「俺のせいじゃん……」


 原因はこうだ。

 べグラースは異次元の館のゴミ捨て場として異次元空間を作り出してそこにまぁ、様々な物を適当に捨てていた。

 ……『実験』が終わった遺体も、べグラースにとってはそこに捨てるべきもの程度の認識だ……

 つまり、様々な魔術媒介や道具、それに獣人の遺体、その他もろもろが異次元空間に放置され、長い年月をかけてそれは異質な存在へと変貌した。瘴気を放ち、べグラースを恨む魔物へと変化した。

 そして異次元の壁までも破壊できるまでに成長したソレが外界に出たのが、偶然ダンジョンの最深部だったのだ。

 そして起きたのが今回の騒動……

 穴の内部にはまだいくらかの物が残っている、長い時間をかければまた同じような事件が起きる可能性がある。


「後でちゃんと供養するから……」


 俺はその空いた空間の穴を、手で掴んで潰す。

 こう、穴の縁を掴んでぐしゃっとやる。そうすればこのように穴は完全に閉じてくれた。

 後は館に戻ってあの異空間を浄化してしまえば解決だ。

 

 手を合わせて気持ちだけでも冥福を祈る。

 思いついてユキミからもらっていた笛を吹く。

 息苦しいが、心のなかで供養の文言を唱えながら力いっぱい吹き続ける。

 周囲に満たされた濃厚な瘴気が、俺から漏れ出す魔力によって少しづつ減少していく。

 正確には分からないが、ゾクゾクするような気持ちの悪さが無くなって、吸い込んで気持ちがいい空気になるまで俺は笛を吹き続けた。

 それが、せめてもの供養になるかのように……

 ドームからダンジョンへ俺の気持ちを載せた魔力が広がっていってくれたら嬉しいな……

 そんな思いで笛を吹き続けた。

 なんだかフワッと暖かいものが流れるような気がして周囲の空気を吸いこむ。


「ゾクゾクしない、ダンジョンの中で言うのもあれだけど、気持ちのいい空気だ!

 はぁー、そしたら後は帰ればいいのかな?」


 キョロキョロと周囲を見渡すと入ってきた入り口と反対側にも通路が続いている。

 とりあえずそちらへと進むことにする。


「50階かぁ……昇るのも時間かかりそうだなぁ……」


 ブツブツと独り言を言いながら歩いていると扉がある。

 何やら豪華な装飾のされた立派な扉だ。

 俺はそーっと中を覗きながら扉を開く。


「誰かいますかー……?」


 室内はいままで空間とまたガラッと雰囲気が変わって、天井から何からまるで神殿のように美しい大理石みたいな石で敷き詰められている。

 そして天井や壁が明るく光をともしているために、照明を使わなくても昼のように明るい。

 俺は腰につけている照明を消した。

 その美しい部屋の中央には凄く豪華な装飾をされた立派な宝箱が置かれている。


「これ……持ち上げても平気なら流石に持って帰って誰かに開けてほしいなぁ……」


 俺は恐る恐る宝箱を台から持ち上げる。


「……何も……起きない……? おお! それならこれごと持ち帰ろう!」


 マジックボックスにシュルンと宝箱が収納される。

 大きいものはシュルンと入るのでなんとなくその感覚が好きだった。


「他には無いかな……?」


 あたりを見回してみると、一番奥に大きな姿見鏡がある。


「お! もしかして……」


 期待を胸に鏡を覗き込むと、覗き込んだことに反応したのか小綺麗なゴリラから岩肌の通路に切り替わる。

 たぶんこれ入ってすぐの直線通路だよね……

 恐る恐る鏡の中へと顔を突っ込んで、出た場所を確認する。

 左手に壊れた鉄の扉、間違いない、最初の通路だ!


「良かったー! 帰りはワープがあるんだね」


 俺は揚々と鏡へと突入する。

 こうして俺のはじめてのダンジョン制覇は成功したのだった!

 

 

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