2話
俺の一回戦目の相手の名前は、さっきアナウンスで言ってた気がするが、覚え……聞こえなかった。
「さて、ささっとやりますか!」
『相手は「無能」の男!結月縁寿だー!』
(あれ~……俺の説明ひどくね?普通にいじめじゃね?)
などと内心思いながらも、笑顔で観客に手を振る。
『では、紹介が終わったところで試合を始めてもらいましょう。』
そう、アナウンスが流れると同時に相手は構える。
そして、すぐ試合開始のピストルがなった。
それと同時に、相手が俺に突っ込んでくる。
わかりやすく真正面からだ。
(それが、通じるのは動きを見切りきれない雑魚までだ!)
などと、格好つけながら真っ直ぐ突っ込んできた男の顔を蹴り上げる。
「おおう、人間って意外と飛ぶもんなんだな」
蹴り上げられた男は15メートルほど空中に飛んでから落ちてきた。
俺はそれを下で待ち構え横に脚を振り切る。
一撃目でほぼ気絶していた男はそのまま地面と平行に飛んでいき壁に激突して止まった。
『勝者「無能」!!』
(いやいや、司会の人よ。それはないんでない?)
勝ったのにいまいち盛り上がらずに、試合の舞台を降りる。
するとそこに、いかにも厳格そうな女子が立っていた。
「楽勝だったな。「無能」君」
俺はその皮肉に顔をしかめながらも挨拶を返す。
無視は失礼だしね。
「いえいえ、氷藤先輩もお疲れ様です。」
目の前の彼女は、この学園の生徒会副会長にして俺の予選の最後に当たる強敵だ。
今はこの学園ナンバー2と言われている。
「ふん。やはり貴様は気に食わん。なぜ、今もさっきもあそこまで馬鹿にされているのに反論しない。」
「あ、そんなことですか?そんなの、面倒だからですよ。そんな気にしてませんしね」
俺は、愛想笑いをしながらそう答える。
まあ、実際文句を言っても聞き入れてくれることはないので意味ないからなのだが……。そんなことを彼女に言ってしまうと大事になってしまうので、言う気はない。
「まあ、良い。貴様が気にしてないならな。だが!最後で待ってる、絶対勝ち上がれよ。」
(おおう、どうやら宣戦布告に来たようだ。)
こちらに人差し指を向けてキメているので、俺は「はい」とだけ言って礼をして観客席に戻った。
またまた『綾レーダー』が反応を示してくるのでそちらに目線を向けるとこちらに駆け寄ってくる綾の姿が見えた。
「お疲れ様。結局、『強化魔法』は使わなかったね。」
「いや、あれは使わんでも勝てるでしょ。」
そんな感じで、話しながらあいている席に座る。
俺の次はまた会長の試合だったらしく、広瀬生徒会長が舞台にあがってくる。
相手は、1年の中で一番強いと言われている男の本田家勝だ。
開始の合図であるピストルがなり試合が始まる。
本田は得意の槍で強化魔法を使いながら振るう。
それを避けて広瀬が魔法を放ち、剣を振るう。
互角に戦って見えるが、広瀬の方は全く本気を出していない。
それに、本田は息をきらしているが、広瀬の方は余裕の表情だ。
汗一つかいていないと言っても良いかもしれない。
「やっぱ、生徒会長は強いね。まあ、数秒しか持たなかった私より何倍ももたせてる本田君もさすがだけど」
綾はうんうん頷きながら、一所懸命に試合を見ている。
俺はと言うと……
「あ、間違った。ここは鶴翼の陣だった!?」
三国志をやっている。
これは、次の試合のイメージトレーニングだ。個人戦だが……。
などと、空き時間には三国志をして暇をつぶしながら副会長以外を倒したので決勝戦進出は果たした。
あとは、帰るだけだ。
と言うことで、ただ今下校中です。
綾はほかの人の試合を見て戦い方の勉強中なのでおいてきた。
今頃、残りの組み合わせの試合をしているころだろう。
もしかしたら、正に今俺が不戦敗になっているかもしれない。
そんなことを考えながら歩いていると携帯端末が震える。
流れている音楽を設定しているのは一人だ。
そう、俺の裏の仕事である掃除屋―ではなく、綾からだ。
俺は携帯を取り出し、通話ボタンを押す。
『あ、つながった。もしもし、ゆー君。先生がね―』
嫌な予感がしたので、すぐに切った。
そう、聞いたら悪いこと起こる気がしたのだ。
また、携帯が震える。
鳴っている音楽も同じだ。
俺は、携帯を取り出し電源を切る。
そのまま、歩き出そうとして足を止める。
「おい、何で電話の電源まで切るのかな?」
目の前には真っ赤な髪を腰まで伸ばし(ぼさぼさだが)、髪と同じ色の目をしたおば―
「おい、訂正しろよ。」
……にっこり笑みを向けて(脅してくる)くる、綺麗(だが恐ろしい)(自称)お嬢さんがいた。
「全然、訂正された雰囲気がないんだが……どういうことだ?あん?」
この人は、強瀬炎弥と言う名前で綾の実の姉だ。
そして、俺の通ってる学校の有名人にして、現理事の一人だ。
「炎弥ちゃんあんまり人を脅すようなことはいくないと俺思うですよ。」
「安心しろ、こんなことをしているのはあたしのフィアンセである縁寿くらいだ。」
このフィアンセって言うのは小さいときに俺が「結婚してやる!」とかほざいていたらしくてそのままずっと炎弥ちゃんは言い続けている。
いったい、いつ時効がくるのやら……。
「それで?何で決勝戦と、予選の一試合が残ってる縁寿がこんなとこにいるんだ?」
「は?そんなの帰る途中だからに決まってるでしょ」
「最後までやれ!」
「ういうい」
俺はこの姉妹には弱いのだ。
昔からそうだが、妹の方は潤んだ目で懇願してくるし、姉のほうは断るとその後が面倒になるのだ。
と言うことで、戻ってきましたマイスクール。
予選の一試合は相手の選手、つまり氷藤先輩が認めたため最後に延期されることとなり、俺待ち状態となっていた。
「んじゃ、縁寿頑張れよ~」
そういって、炎弥ちゃんは理事専用の特別席の方に行ってしまった。
俺も、観念して控え室へと向かう。
途中、周りから冷めた視線が多数送られてきたが、無視した。
やっとのことで控え室に着くと、そこにいた係員にすぐに舞台に上がれとせっつかれる。
しぶしぶ舞台に上がるとかなり不機嫌な氷藤先輩が……。
「遅かったな」
うーん。クール系でそんなしゃべる人ではなかったが、今日のというか今のクールはなんか違うな(汗)。
「すいません。下校していたもので」
「ほほう、下校していたのか?」
「ええ。そうなんですよ。HAHAHA」
「…………」
それっきり無言になる氷藤先輩と、会場。
(うーん。この雰囲気はとても居心地が悪い。)
「殺してやる」
……今、女の子から出てはいけないような低い声で最悪の言葉をいわれた気がする。
いきなり、開始のピストルが鳴らされる。
それと同時に多数の魔法が飛んでくる。
「おお!?これやばくね?」
そう言った直後俺は多数の魔法とその爆発に巻き込まれた。