1話
繋がりにはいろいろある。
それは愛情で、友情で、血で、はたまた憎しみで……といろいろある。
だが、どれも強い思いでの繋がりは強く結びつき、大きな力となる。
「キャー!浩様ーーー!!」
多くの女子が群がる。
その中心にいる人こそこの学校の生徒会長にして、武芸、教養、魔法すべてにおいて完璧な男―
広瀬 浩だ。
そして、それを横目にテクテクと歩く俺が結月 縁寿だ。
「会長さんはいつも人気だね~」
俺の隣でのほほんとしながらニコニコとそう言った女の子は俺の幼馴染の強瀬 綾だ。
「そうだな」
「もーう、ゆー君が適当だよ~。しかも、年をとるごとに悪化してるよ~」
綾はしくしくと泣き始める。
まあ、演技だってのはわかってるんだが……周りからの視線の圧力と後からの面倒くささを考えて落ち着かせる。
「はあ、ほら綾行くぞ」
俺が手を差し伸べると、綾はめっちゃいい笑顔でそれをとる。
(マジ、殴りてー。)
と思うが、結局綾に甘い縁寿はいつも何もせずに、毎朝この茶番を繰り返している。
「ゆー君、明日の約束覚えてる?」
「あれだろ?お前が明日の学内戦で決勝戦まで行ったら俺が何でもひとつ言うこと聞くってやつ」
「そうそう。覚えててくれてよかったー」
「まあ、俺が覚えてないとしょっちゅうお前が何かしら忘れるからな!」
「いつもありがとうございます」
綾はきれいな動作で礼をしてまた進みだす。
俺は綾のいつもと違う雰囲気のしぐさに少しドキドキしていたが、すぐに綾の隣に並んで歩きだす。
「ゆー君、さっきどうしたの?」
綾が目ざとく遅れた理由を聞いてきた。
本当のことを言うとこいつが増徴するのでごまかすことにした。
「何でもねーよ」
「そう?うーん、なんか違う気がするんだけどな~」
意外なところ……というか、いつもいらないところで綾は鋭い。
(その鋭い感性を戦闘中にできるようになれば決勝選進出も簡単だと思うんだけどな……。)
授業は、もっぱら戦闘のことや、魔法、あとは魔物のことばかりだ。一般教養もやるにはやるが、習ってる時間は150年前ほどではないらしい。
この「150年前」というのは多くの意味を持つ。
150年前に大戦争が起こったのだ。そのため、兵器を作るため各国が科学に力を入れた。その過程でできた副産物が魔法だ。科学を追及しているときにたまたま見つかったらしい。
魔法は科学の最先端ではなくまったくの別物で、見つけたのは魔粒子……魔法を使ったときに出る微小な粒子のことだ。そこから、いろいろと実験や検証を繰り返しほんの70年ほど前に魔法が開発された。漫画や小説にあるような詠唱や魔方陣なるものは必要なく、形や、現象をイメージしてそれを体内に発見された魔素を使うだけで発動できる。
などという授業を聞き終え、着替えるために隣のクラスへと向かう。
なぜかというと、次の授業は外での戦闘訓練なのだ。
ちなみにこのクラスは女子が使う。
このように、別のクラスでも2つのクラスを使い男子と女子の着替える場所を分けているらしい。
戦闘訓練は8クラス合同なので一つの更衣室では足りないのだ。
外に行くと、もうすでにかなりの人数が集まっていた。
そんな中でも綾を即座に見つけれる俺の『綾レーダー』は今日も健在だった。
なぜだかわからんが綾のいる場所や、危ないときなどがなんとなくわかるのだ。
(まあ、あいつは危なっかしいから助かっているんだけども……。)
先週も飛んでくる魔法に気づかずにのほほんとしていていたし、その前の日も……。
と、数えたらキリがないくらいにある。
「あ、ゆー君だ!やっほー!」
綾は、元気よき手を振ってくる。
それはいいのだが……正直目立つので周りからの怨嗟の視線がつらい。
それでなくとも、綾は可愛いので人気なのだから。
「ゆー君、顔が歪んでるけどどこか痛いの?」
綾が、俺を心配して、寄ってくる。そして、背中をさすってくる。
その優しさはうれしいのだが……さっきよりも周りの視線が痛い。
「綾、大丈夫だから……」
これ以上(俺の心的にも)酷くならないためにそういって綾から少し離れる。
「ゆー君の大丈夫は大丈夫だったためしがないんだけど?」
(……そうだったかなぁ。 確かにそうだったような、そうでないような……。)
確かに、怪我をした時や、体の調子が悪い時は綾に大丈夫といって心配させないようにしていた。
だけど、あれは綾に言うと慌てだしていらんことまでするからだ。
(そのせいで、一回死に掛けたからな。)
あれは、確か小一の時だ。前の日に雨が降り土砂降りの中を急いで帰ったため体が冷えて風邪を引いてしまったのだ。電話で休むから一人で行ってくれと伝えると、どういうわけか綾も学校を休んで看護しに着てくれたのだ。あの時はとてもうれしかった。そうその時までは……。恐怖の始まりは綾がおかゆを作ってくれると言ったとこからだ。まず食材が足りなかったらしく買い物に行った。そして帰ってきた綾はパンパンに膨れたビニールを4つほどもっていた。その時はまだ心配してくれているんだなと、微笑ましいぐらいですんでいたのだが……、おかゆを作っていると爆発音が聞こえ、出てきたおかゆは緑色。その後も、ねぎを首に巻けばいいというのを信じ、俺にねぎを巻きつけぎゅっと締めたため、息ができなくなり危うく窒息死しかけた。持ってきた氷嚢は買い物でもらった大きいビニール袋いっぱいに水と氷が入っている。etc……。
と、俺の顔は微笑ましいものを見る笑顔から、だんだん顔が青くなり、暗くなる。そして、苦笑いへと移行し最後には顔は笑っているが目が笑っていないというマジギレ寸前まで行った。
「本当に大丈夫だから。ほら、授業始まるぞ。」
「う、うん……。」
綾は納得してなかったが、授業が始まると聞き、仕方なしにあきらめてくれた。
その日の授業では綾は、集中できなかったのか先生に何回も怒られていた。
と言っても、いつもより何回か多いぐらいだが……。
次の日の朝は、願っていた大雨などはなく晴れ晴れするような快晴だった。俺にとっては恨めしいが。
「ゆー君、おはよう。晴れてよかったね」
「それは、お前だけだ。俺は、まったく良くない」
綾は今日の校内戦が楽しみなのかいつもよりウキウキしている。
ちなみに俺はいつも以上に気分が落ち込んでいる。
(まあ、朝はいつもだるいのだが……。)
ひとまず、今日は決勝トーナメントまで出れば成績は文句なしの最高値なので、そこまでやって後は棄権する予定だ。
というか、その後は相手もなかなかの手練ればかりなので、戦うと長引くし、攻撃が当たって痛いしで嫌なのだ。
「ゆー君は優勝狙いかな?」
(そんな純粋な目で見ないでー。こんな決勝戦が面倒とか言ってる心が汚れている俺を見ないで!)
いつものことだが、俺はこの純粋な目で見てくる綾の視線が苦手だ。
だが、今日はさすがに頑張ることは……。
「まあ、所詮『強化魔法』しか使えない俺では決勝行くのがやっとだからな」
というのはよく使う俺の免罪符で、負けても仕様がない、勝ってもまぐれだといつも言っている。
実際俺は、ほかの人が最低でも片手の指以上の数の魔法を使えるのに対して、俺はあらゆるものを強化する『強化魔法』しか使えない。しかも、『強化魔法』が使えるようになったのも5年ほど前で、それまでは何もできない「無能」と呼ばれてた。
「でもゆー君、お師匠さんに勝ってたじゃん。」
「そうだよ、あの糞坊主!魔法使ってんのに、魔法使わない俺に負けたからって、いきなり破門しやがって」
「ははは、それはね。お師匠さんにもプライドがあるからね。入って半年の「無能」と呼ばれてる男の子に、魔法使って負けたとあればしょうがないと思うよ?」
などと、話しながら歩き学校に着くとすでに実に来た学生の親族などで込んでいた。
俺らはこれから、一旦グランドに集まり校長の長い話を聞きに行かなければならない。それが、終わるとやっと校内戦の予選が始まるのだ。
予選は前もってクラスで強い人を5人まで決めておき、その中から学年関係なしに5人で一つリーグに分けられる。その中で勝ち数が多い上位二人までが決勝に出られるのだ。
「どうだった?」
「おわた……」
綾は早くも真っ白になっていた。
燃え尽きていたとも言う。
あたるのは前回の第1位の現生徒会長の広瀬浩と前回5位で現生徒会書記の女、さらに俺たちと同じ1年の中で一番といわれている男、あと綾と同じぐらいの女といった具合だ。
まあ、決勝に行くのは厳しいだろう。
「ゆー君はどうだったの?」
対して、俺の方はというと、そこそこ強い人と一人前回3位だった現生徒会副会長の女ぐらいが強い奴で他は……まああれだ。
多分だが、あがることはできるだろう。副会長と戦うのは面倒だが……。
「うぅー、ゆー君変わってくれないかな?」
「いや、無理だから。」
「だよね~。うぅ、私の「ゆー君に買い物に一緒に来てもらって、奢らせよう」プランがぁ~」
どうやら綾は俺にたかりたかったようだ。
こいつは自分の金は節約してチビチビ使うくせにいざ人の財布から出るとなると豪遊しまくるのだ。
俺の財布事情的には大いにありがたい結果だった。
まあ、今まで頑張ってたこいつには少し同情したが。
綾の1回戦目は生徒会長だったらしく、うつろな目で「逝って来ます!」と笑顔で会場へと入っていった。
「いってくる」の行くが逝くに変換されているのは聞き間違いではないだろう。
数分後、試合開始のピストルがなり、数秒後にまたピストルの音がした。終わりの合図だ。
「1分持たなかったか……」
観客席から見ていた俺のもとに綾がふらふらと返ってきた。
「今帰還しました~」
「ご苦労さん」
「……、マジ強くね?瞬殺されたよ~?」
まあ、あの実力差じゃ当然っちゃ当然だな。相手の生徒会長は本気出してなかったが。
「くやしいよ~。ゆー君、私は今とても悔しく、悲しい気持ちです」
そういって、綾は頭をこっちに向けてくる。これは頭をなでろ、サインなのだが、いつもいつもやられると面倒なので無視をしておく。
「私は、今とても悔しくて、悲しい気持ちです!」
さらに綾が頭を近づけてくる。というか、むしろ押し込んでる……ねじ込んでる?
「ゆー君……私は今落ち込んでるんだよ?」
ついに綾が、潤んだ目でこちらを見つめてくる。
俺は少し、息を呑んだ。こっちを見る綾はいつもと雰囲気が違い大人びて見え(やってることは子供だが)、艶やかだったからだ。
「はあ、今回だけだぞ」
俺が、頭を優しくなでると綾の顔がふにゃっとなった。
そして、綾の髪はいつも触ってて気持ちいい。さらさらしていて、さらにいいにおいがするのだ。
「ありがとう、ゆー君」
「あ?おう」
「そろそろ、ゆー君の試合だよね?」
試合を見ると、俺の前の試合だった。しかももう終わりそうだ。
「ああ、そうだな」
「頑張ってね。応援してるから」
やっぱ、綾は可愛いと思う。
きらきらした、笑顔を見て改めて確信した俺は、それに片手を振って答え会場へと向かった。