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藤原くんと橘ちゃん

 ここは大和高校の文芸部の部室。所属しているのは2年生1人と1年生1人だけ。これはそんな僕たちのある日のお話。



「こんにちは、先輩」


  僕が本を読んでいると後輩の橘ちゃんがやってきた。今日もあいかわらずの無表情である。せっかくかわいい顔をしているのにもったいないと思う。


「やあ橘ちゃん、いらっしゃい」


「ここは先輩の家ではなく学校の部室なので先輩が主人顔で出迎えるのはおかしいのではないですか?」


「別にそれくらいいいじゃないか」


「まるで先輩のテリトリーに誘い込まれたようで不快です」


  橘ちゃんは毒舌だ。しかも僕には特にキツイ。それでも僕しか部員のいないこの文芸部に来るのだから、嫌われてる訳ではないだろう。


「なんですか、こっちを見ないでください。私はまだ先輩の子供を妊娠したくありません」


「いや、僕の視線に女の子を孕ませる力はないからね!?」


……嫌われてないといいなぁ……


「ところで先輩、大変不本意なのですが次の部誌のことで相談があるのですが」


「おや、橘ちゃんが僕に意見を求めてくるなんて珍しいね」


  彼女は大抵1人で作品を仕上げてしまう。


「今回は友達の頼みもあって恋愛ものを書こうと思ったのですが、残念ながら恋愛経験のない私には女の子がドキドキするポイントがよくわからないんです」


「橘ちゃんにも友達いたんだね」


「ええ、私は友達のいない先輩と違って社交的ですので」


「僕にも友達くらいいるからね!?」


  例えば、えっと……あれ?もしかして僕本当に友達いない?いやいやそんなまさか……あれ、なんだか涙が……


「……なんだか申し訳ありませんでした」


「やめて!同情しないで!よけい惨めな気持ちになるから!」


「では馬鹿にすればいいのですか、ボッチ先輩?」


「やめて、僕のHPはもう0よ!」


  こ、ここは話題を変えないと僕の精神がもたない!


「そ、それで恋愛ものだっけ?」


「ええ、彼女どころか友達すらいない先輩に聞く意味があるのかは分かりませんが、他に親しい男性もいませんので」


「そっか、僕はちゃんと親しいの範囲に入ってたのか」


「……私は親しくない異性と二人きりになるほど危機感が薄い訳ではありません」


「いやいや、嫌われていないようで安心したよ」


  ほっとして思わず笑みが浮かんだ。


「ん?橘ちゃん?」


  なぜか橘ちゃんはぼうっとしている。


「ほ、本題に入りましょう」


「顔赤いけど熱でもあるの?」


「だ、大丈夫です!……本題に入りましょう」


「本題といっても、僕もあまり女性向けの恋愛小説を読んだことないからよくわからないんだけど……」


「ええ。彼女いない歴イコール年齢の先輩に内容を考えてくれなどと無謀なことは頼みません」


「勝手に決めつけないでくれるかな!?……まあ確かに彼女なんてできたことないけどさ」


「ですから、いくつかのシチュエーションを実際に体験してみようと思うのです。その相手役を先輩にお願いしたいのです」


「え?そ、それはつまり僕と橘ちゃんとで恋愛小説に出てくるようなことをするってこと?」


「……私なんかでは嫌ですか?」


「そ、そんなことはないけど、少し恥ずかしいというか……」


 僕の返事を待つように、橘ちゃんがこちらを見つめてくる。心なしか目がウルウルしている。


 ……そんな顔をされたら断れないじゃないか。


「わかった、僕でいいならお相手を務めさせていただこう」


「ありがとうございます、先輩!」


 っ!めったに見せない橘ちゃんの満面の笑みを真正面から受けとめてしまった僕は、自分の心臓の鼓動が一気に速くなるのを実感した。


「で、では、最初のシチュエーションですが……」


 女の子がドキドキするシチュエーションか……恋人つなぎとか?


「あ、あすなろ抱きというのを……」


「あ、あすなろ抱き!?」


「あすなろ抱きというのはですね、私が座っている後ろから……」


「いや、一応聞いたことはあるし知ってるけどさ……」


 いきなりそれはハードル高くない!?


「でしたらお願いします」










 そして現在あすなろ抱きを実行中です。こ、これは予想以上に照れる……。顔が熱い……。よく見れば橘ちゃんの耳も真っ赤になっている。


「そ、その……どう?」


「す、すごく恥ずかしいですが、確かにこれはいいものです。……先輩の胸の鼓動が聞こえて安心します」


「そ、そうなんだ……」


 なんだかこのままずっとこうしていたい気もするけど、今回の目的は橘ちゃんの小説作りの協力だ。そろそろ次にいかなくては。


「そ、そろそろ次にいこうか?」


「……そうですね」


 心なしか名残惜しそうな様子である。そんなに気に入ったのだろうか。


「……では次は壁ドンを……」


「それって今はやりの女の子を壁ぎわに追いつめて……ってやつだよね?」


「そうです。私と先輩の身長差ならちょうどいいかと」


 確かに小柄な橘ちゃん相手ならマンガとかで見るような少し上から見おろす形になるだろう。


「セリフも一応用意しているので、これを使ってください」


「どれどれ……。えっ、こんな恥ずかしいセリフ言うの!?」


「こ、これもいい作品を書くためです!」


「はぁ、仕方ない、頑張ってみるよ」












 さて、そうして僕は今橘ちゃんに壁ドンをしているわけだけれども……恥ずかしい。すごく恥ずかしい。さっきは後ろからだったから顔をあわせることはなかった。でも今回は真正面からである。当然僕も橘ちゃんも真っ赤な顔をつきあわせることになる。


「あ、あの、先輩?どうしてこんなことを?」


 どうやら演技はもう始まっているらしい。こうなったら僕も覚悟を決めなければ。


「わかってんだろ、橘。黙って俺の女になれよ」


 演技とはいえ、寒気がするセリフだ 。世の中のイケメンはこんなことを臆面もなく言えるのだろうか。


「………………はっ!あ、ありがとうございました。こ、これはなかなか破壊力がありますね……」


「ねぇ橘ちゃん、ひとつ聞いてもいいかな」


「な、なんでしょう?」


「女の子はこんな強引なセリフがうれしいの?」


「まあ女の子のあこがれのシチュエーションではありますね」


「ふむ、それならこんなことを恥ずかしがらずにできるようになればモテるようになるのかな?」


「そ、それはダメです!あくまでこういうことは好きな人にされるからいいのであって!そうじゃない人にされても怖いだけです!」


「えっ、じゃあさっきのは僕に頼まないほうがよかったんじゃ……」


「い、いえ、あの、その………………わ、私は先輩がよかったんです!」


「た、橘ちゃん?そ、それはその、つまり……」


「ええ、藤原先輩、あなたが好きです。恋愛ものに困っているというのも、その、先輩にいろいろしてほしいと思ってついた嘘なんです……」


「え、いや、あの、え?本当に?」


「女の子の一世一代の告白を疑うんですか?」


「いや、だって橘ちゃん、僕には結構毒舌だから……」


「それは父の教えなんです。好きな人ができたら毒舌をふるえ、それでもかないお男なら俺のところに連れてこいって」


「それはお父さんが娘を男にやりたくないってやつなんじゃないかな……」


「そ、そんな!お義父さんなんて気が早いです!」


「うん、そういうことじゃないから。橘ちゃんそういうこと言う娘じゃなかったよね?」


「こ、恋は女の子を変えるんです!……ぅぅ」


「恥ずかしいなら言わなくてもいいんじゃないかな」


「と、とにかく!その……返事はどうなんですか?」


「ええと、ぼ、僕でよければ、その、お願いします……」


「やった!じゃあとりあえず、今日から二人で帰りましょう!」


 そういって僕の手を取る彼女の顔には今まで見たなかで一番綺麗な笑顔だった。

初投稿作品なのですが、いかがだったでしょうか。


この作品はこんな青春を送ってみたかったという作者の妄想の産物です。妄想の垂れ流しなのであまり酷評を受けると辛いのですが、それでもよろしければ感想、批評などお願いいたします

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