ベツレヘムの星
12月24日。明日はクリスマスだからって、世間は浮かれてる。かく言う私も準備してるんだけど、やっぱりクリスマスと言えば何を置いてもツリーの飾り付けだよね。と言うことで只今絶賛飾り付け中!
「先輩。何してんすか」
「お、生意気な後輩1号君。よく来たね」
「は? 誰が生意気すか。絞めますよ」
後輩1号――1年生の小野田君は私の付けてあげたニックネームが不満なのか、中指を立てて見せる。いやでも、態度もさることながら1年生の分際で、2年生でなおかつ脚立の上に座ってる私よりも身長が高いのは生意気だよね。
「で? 仕事で呼ばれたはずの生徒会室で会長様(笑)は何やってんですか?」
……なんか呆れられてる感じで聞いてきた気がするけど、気付かなかったことにしてあげよう。かっこわらいとか言われたのも聞かなかったことにしてあげよう。
「ツリーの飾り付けだよ。見てわからない?」
そしてバカにされた仕返しをしてやるのだ。
「だからどうして生徒会室でやってんすか。バカなんですか?」
バカにし返された!
「い、良いでしょ! 私たち生徒会は終業式が終わっても学校に来なきゃいけないんだから、こういうことでもして楽しまないとやってられないのよ!」
「うわ、開き直ってるし。……てかリンダ先輩いないんすか」
生徒会副会長の不在に今更気付いたのか、林田ちゃんのニックネームを口にする小野田君。君は本当に鈍いやつだなぁ。
「林田ちゃんね、風邪だってさ。クリスマスに風邪なんて運悪いよねー。去年は一緒に飾り付けしたのにね。今年は彼氏もできたのにね」
話を聞いていた小野田君が何とも言えない表情をする。
「どしたの?」
「……いや、いっす。これ、手伝えばいいんすか?」
急に態度を変えて飾り付けを手伝おうとしてくるのが怖い。というか憐れみを持った目で見ている気がするのは気のせいだよね?
「あ、星は私がやるからダメだよ!」
足元の箱から乱雑にオーナメントを取り出そうとする小野田君に釘を刺す。
「あれ、会長クリスチャンですか」
「いやいや、私の名前は高寺真由だよ? そんなハイカラな名前じゃないよ?」
冗談を言って場を和ませてあげようとしたのに見下した目をされた。小野田君、ヤンキーみたいな口調なのに真面目だし、応用力無いんだよね。
「いや、わかってるよ? キリスト教者かって聞いたんでしょ? わかってるからその目はやめて?」
「早く終わらせようとしてんだろアホ会長」
……また罵られた。って、あ!
「ダメ! 小野田君、星は私に――うわぁ!」
無視をしてツリーに星を乗せようとする小野田君を妨害しようとして、脚立がグラついてしまった。
「何やってんすかあんたは」
バランスを取ろうと慌てたものの、すぐに小野田君に支えられた。というか、脇腹を両手で触られた……。
「この星はベツレヘムの星って言って、わかりやすく言えばキリストが生まれた象徴なんですよ」
動けないままでいる私を置いて、小野田君は説明しながら星を飾ってしまった。
「キリストの誕生を示した奇跡の星なんて言われてて、聖書にも出てくるんすよ」
そう話しながら、私に顔を見せない小野田君。もしかして……
「小野田君ってキリスト……」
「キリスト教者でもなけりゃキリスト本人でも、キリストの生まれ変わりでもないすよ? だいたい敬虔な信徒が今日こんな所にいるわけないでしょ」
私の言葉を聞いた瞬間に顔を見せた小野田君はいつも通り、人を見下した目で見る生意気な奴だった。いつもと違う雰囲気な話もしてたのに……心配して損した。
「さて、飾り付けできましたし、どっか行きましょうよ。こんな日に学校にずっといるのもイヤなんで。会長で良いんで、付きあってください」
「何その言い方……。先生に他の仕事聞いてから――」
「無いって言われました。さっき職員室行ったんで。てか新堂に会長が生徒会室に1人でいるはずだから連れて帰れって言われました。たぶんそれが仕事っす」
「……へ?」
「なんでも、別に来なくて良いのに毎日来るもんだと思ってるから相手してやれって」
そう言いながら私と自分の学生鞄を手に生徒会室を出ようとする小野田君。
「なんすか、脚立から降りれないとか言うんすか? 勘弁してくださいよ」
「降りられるよ!」
呆れながらもう1度近付いて来ようとする小野田君を牽制して、足を下ろしていく。
多分、まだ、触られるのは辛い。さっきのでまだ心臓がバクバク言ってるのに……。
「会長早くしてくださいよ。置いていきますよ」
ゆっくりしたいのに、急かす小野田君が憎い。同学年の子や、生徒会顧問の新堂先生でさえ名前で呼ぶのに、私だけ役職で呼ぶ小野田君が憎い。
……なんでこんな奴にときめいたんだろ。
腹いせに、お昼ご飯をおしゃれでもなんでもないラーメン屋にして困らせてやろうと思ったら、店を出たちょうどのところで男の子と歩く林田ちゃんと遭遇してしまった。どうしてこうも上手くいかないかな……。
【了】