序章-終わりの始まり-
天気。それはいくら科学が発達しても人間が操ることは出来ない。しかし愚かにも人間は天気を予報するようになった。あくまで予報だ。いかにアメダスが優秀でデータが取れていようとも100パーセントとは言い切れない。人の心も同じではないだろうか。晴れているときもあれば曇りや雨がふることだってある。天気と人の心はやっぱり似ている。
秋の夕暮れ時のコンポタは格別に身体に浸み込む。コンポタ開発した人まじ神だと思う。もうなんだろ暖かさといい全身を包み込んでくれるこの感じ愛さえ感じるね!俺、天宮爽は感慨深く考えています。
ググッと飲み干すと川辺の草むらに寝転んだ。もうじき冬がやってこようとする。寝転んだ草むらも青々とした色ではなく、どこか寂しそうな黄土色。まるでどこかの誰かみたい。はい、俺の事です。目を閉じてもフラッシュバックする1時間前の出来事。言葉も表情も鮮明に蘇ってくる。
「ごめん。やっぱり付き合えない。」
あーあーあーこの1時間で何回頭で繰り返してんだ。軽く1000越えてんじゃね。
焼き付いて離れない。
気付けば辺りは夕暮れから夜。身体も冷えてきた所で帰り仕度。放り投げられた鞄を拾うと目の前に1人の女の子が立っていた。身長は150センチくらいで華奢な身体。髪の毛は肩くらい(ボブ?とかいう髪型)で、色は今時の高校生のような明るい色ではなく、清純そうな黒。男なら誰でも好きそうな幼い顔。
「そーくん、どこいってたのー!探してたんだよー!」
息を切らせ顔を赤らめながら問い詰めてくる。
よほど急いで来たのか髪とマフラーがぐっちゃぐちゃ。
「まぁ、その・・散歩てきな?」
即座に嘘がばれたのか頬をぷくっと膨らませてジロリと睨んでぷいとそっぽを見た。やっぱり、夏美には敵わない。こいつの前だと嘘をついてもすぐバレる。
東雲夏美は俺の幼馴染み。家が隣って事もありガキの頃からずっと一緒だ。さすがに高校は別々だと思っていたのに、どんな腐れ縁か同じ高校。それを知ったのも入学式の日。それまで何度聞いても「内緒だよん♩」の一点張りで通う高校の事は教えてくれなかった。まぁ俺も夏美がいてくれると安心だ。特に勉強面で。
川辺から家までは歩いて10分くらいの距離。お互い並んで同じ方向に歩く。
冬の気配がする町には冷たい風が吹き抜ける。未だに夏美はそっぽを向き続けご機嫌斜めだ。すれ違う車のヘッドライトの明かりが照らす度に、夏美の様子を伺っていると、パチッと目が合った。ご機嫌斜めのお嬢様をどうにかしようと言葉を選んでいると、夏美がそっと囁くように言葉を発した。
「知ってるよ。」
一瞬、俺の胸がドキッとする。
「えっ?何? 今日の晩御飯の話?」
すかさず戯けてみせる。
「知ってるよ。 今日クラスの友達から聞いた。・・・そーくん振られたって」
「あははは・・なんだ知ってたのかぁ。そう!ふられた!」
自分で言った途端また現実味が出てきた。なにこれ?俺泣きそうなんですけど。
「許せなーーーい!!」
おーい、ここ住宅街だよ。そんなに大きな声で叫んだらおまわりさん来ちゃうよ。
「そーくんを振るなんてありえない!こんなに優しくて頼りになっていざという時には守ってくれる最高の男なのにー!!」
そこまで褒められるとさすがに恥ずかしいよ!恥ずかし過ぎて顔からメラゾーマでちゃうよ!
「まぁ、合わなかったって事なんじゃないかな・・・」
「合わないって。そんなのってヒドイよ」
そう言ったきり、夏美は手をギュッと握りしめてただ真っ直ぐ下を見つめ黙り込んでいる。俺もなんて言えばいいのか分からず、家までの道を歩く。もうだいぶ時間が経っているはずなのにまだ着かない。居心地の悪さは時間を長くする。
ようやく家に着いた時には、夏美も顔を上げていた。
「じゃあな。」
「うん!また明日! 朝向かえに行くから寝坊しないでね、寝坊助さん!」
満面の笑みで手を振りながら家に入っていく夏美を見送り、俺も家に入る。
「気のせいだよな・・・」
先程、満面の笑みで帰っていった夏美の目には涙のような水分がキラキラしていた。まぁ確かに俺は振られた話をしたけど、夏美が泣くほどの事じゃない。ただの幼馴染みが振られただけで何も泣く必要がない。もしかして、夏美は俺の事が・・・。いやいやいや、そんな事あるはずがない。俺と夏美はただの幼馴染み。ガキの頃からずっと一緒にいる友達。いや親友みたいなもんだ。1度だって恋愛感情を抱いたことなんて・・・ないと言えば嘘になるけど。考えれば考えれるほど訳が分からん。よし、考えるのはヤメだ。そうだ、あれは雨だ。雨が局地的に降ったんだ。そう考えよう。へへ、我ながら頭をフル回転させて考えちゃったよ。
「おかあさーん!今週一週間は雨降らないみたいだから毎日洗濯やるねー!」
妹の馬鹿でかい声が家中に響き渡る。
あーあ。せっかく色々考えたのに。やっぱり天気予報はあてにならない。