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落葉の果て  作者: TIO2
8/10

8.火

 宴が終わり日もくれたころ、親父殿の私室にいた。

 一段畳が高いところに親父殿が、それに相対するように僕と信長が座る。


「お前たちを呼んだのは重要な話があるからだ。家中には他言無用、秘とせよ」


 険しい面持ちで話し始めた親父殿の雰囲気に、いつも伸ばしている背筋をさらに伸ばし、唇をキツく噛みながら話に集中する。

 信長は胡座をかいて、酒に酔っているのか顔は上気している。


「信長よ。お主は家督についてどう思っておる。お主は嫡男。このまま順当に行けば織田家を背負うことになる」


 その言葉に目をカッと開き、普段の歌舞いた態度とはうってかわって、


「親父。尾張は小さい。熱田等の財源を抑えたとしても小国。今川に比べるべくもない。俺に家督をやればもっと上手くやる」


 そう言い切った信長の眦は鬼のようで、背後には何かいるように見えた。それと同時に足先が微妙に震えているのも見えてしまった。


「歌舞いたな。では坊丸。お主が家督を継いだ場合はどうする。どう思う」


 親父殿の言った言葉がよくわからなかった。未来じゃ信長は本能寺で倒れるまでは順調とは行かないまでも心配することはなかった。

 しかし、それが未来のことを知っているからこそできる思考であって、今のいつ死んでしまうかわからない状況ならそういうことも想定しているのが当然だと思った。

 下手な答えを返すと、野心があると思われてしまうーー。自然と震えた唇に静まれと念じながら、


「兄者にもしもがあった場合、でしょうか。時期にもよるでしょうが一門衆の一員として、兄者の息子の後見をしたいと思います」


 そう言葉を吐いて沈黙が降りた。親父殿も信長も険しい表情をしてこちらを睨んできている。


「お主は家督が欲しいのではないのか? ここ半年で酷く変わったように思える。半年前は信長に対抗しようという危害が見て取れたが、今は信長に従おうとする意思しか感じ取れん。それこそ別人になったように、な」


 親父殿がボソリと呟いた言葉に信長は眉を上げ、続けて、


「吐け、坊丸。半年前から何があった」


 非常に身に覚えのあることを言われたが、本当のことを言ってしまうと気狂いと思われるだろう。自分が未来から来て信行に転生したなんてことを言ってしまうと、そもそも自分がいきなりここに来たのだから転生というのかと、そんなことが頭に駆け巡って思考が定まらず、


「見に覚えがありません」


 そう答えた瞬間、場が怒気を孕んだものになった。親父殿に胸ぐらをグッと掴まれ、思いっきり殴られた。


「――っ」


 右側の頬に鈍痛を感じつつ、視線を上に上げると、信長に至っては刀の柄に手をかけているのが見えてしまった。


「存念を申せ」


 次に嘘を吐いたら斬り殺す。そんな気概の信長の甲高い声が耳に飛び込み、


「実は未来から僕は来たのです!」


 坊丸、もとい信行がどんな人生になったのかを洗いざらい吐いてしまった。



 僕が洗いざらい話して、場は張り詰めたものになった。


「坊丸。気が狂ったわけでなく正気ならば儂の最後も、信長の最後も知っているということだな?」


「……はい」


「この後本来ならお主は元服後末森城に移り、信長と家督を争う仲となり、そして死ぬ、そしてそれが嫌なのだな?」


「……はい」


 はい、としかもう返す気力がない。あたりはもう真っ暗で、灯火もたち消えそうになっている。


「わかった。お主の言葉信じよう。だが、このことは他言無用。我ら以外に言ってはならん」


「わかりました」


 この場はやっと終わった、と思い立ち上がろうとしたが、親父殿は目で制し、続けて、


「坊丸。儂の最後はどのようなものなのだ? 儂はこの後どのように行動する?」


 たち消えそうな声で話した親父殿に、答えてよいか思い悩んでいると、信長がすっくと立ち上がって、


「親父。我の道は我が切り拓くものぞ」


 その言葉にフッと笑って、親父殿は眦を下げた。


「長くなってしまったが本題に入ろう。信長。嫁をとれ」


「美濃だな。わかった」


「婚儀は今年の秋に行う予定だ。中務丞(平手政秀)が取りまとめてくれた」


 簡単に会話が終わってしまったが信長が結婚か。相手は濃姫だろうけど、政略結婚ってなんか微妙な気分になる。


「そして坊丸。お主は元服後に中務丞と美濃に行け」


「……はい?」


「お主は信長に逆らう気はないように見える。稽古の様子も聞く限り座学に向いているようだ。中務丞と行動して見識を深めてこい」


「は、はい」


 見識を深めろ、と言っているし家から追放というわけでもなさそう。体の良い厄介払いなのだろうか。それで話は終わりのようで親父殿はあっちいけとばかりに手を振った。



 親父殿の部屋を出ると、信長が一言ついてこい、と言ってドカドカと歩いて行った。

 どうやら自分の部屋に行くらしい。まだ重い話が続くのかと思いつつついていく。


「坊丸。尾張をどう思う!」


 信長の部屋に入って開口一番に言われた。少し黙考してしまい眉を上げたのを見て急いで答える。


「困難は大きくとも、可能性のある場所だと思います」


「どう富ませる!」


「物流を生み、田畑からの収入を多くするのが良いと思います」


「ではその物流をどのように生むのだ」


「税の軽減と特産物や専売品を作る、のはどうでしょう」


 そう言うと険しい顔をして黙り込んだ。沈黙が痛い。黙りこんでいる間もこちらから一切視線を外さず、睨むように、そして怒気を孕んでいるような場をつくりだされると辛い。


「まずは尾張統一よ。美濃との同盟がなったら今川松平を抑えつつ織田大和守(清州城を支配している宗家)をどうにかしなければならぬ」


「使うのなら斯波(当時の尾張守護)でしょうな。ただ兵を貯め、準備を万全にしなければ――」


「兵、金、武具。これら全て万全ならば大国相手でも勝ち目は見える。この内武具は改良しているが、まだ足りぬ。何か意見を申せ」


 武具の改良、とは三間半槍のことだろう。他国の槍はこの当時長さが三間のものが主流だが、槍が短いと技能の低い足軽などでは不利だろうと信長が大規模に改良したものである。

 そんなことを思い出しつつ武具の改良といって思いついたのは、


「火縄銃、はどうでしょうか。まだ高いかもしれませんが、火薬だけでも手に入れば別の運用もできるかと」


 そう言うと、また黙り込んだ。

 しばらくして、すっくと立ち上がり、


「火縄で戦に勝てる程揃える財力は今はない。火薬の件は考えておこう。去れ」


 そう言って、部屋を立ち去らされた。相変わらず気難しいが信長も信長なりに考えているのだろう。


 これからどうなるのかはわからないし、早くも正史からずれてきたのかもしれない、自分の知っている歴史とは違うものになったのかもしれない。そう思いつつ僕は信長の部屋をでた。



文字数に悩み中。

一日だと2500字程度しか書く時間がない。

読み返してみると1-4話が短すぎますね。

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