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落葉の果て  作者: TIO2
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5.竹千代

 転生してはや数ヶ月。稲穂が黄金の実を付けている頃。この時代のことも少しはわかってきた。今は天文十六年で、自分は十一才らしく、相変わらず飯がまずいが待遇は一門ということもあって悪くはない。このような暮らしがそのまま続けばな、と思うがそういうわけにもいかないだろう。流されるままでいると、史実のように信行は謀反の末死んでしまう。

 この数カ月の間、一度は織田家家臣の中でもいずれ信行派として謀反を起こす、柴田勝家、や佐久間信盛、津々木蔵人などと会話したが、まだそのような兆しはなかった。

 最初の首謀者は林一族なのだろうか。守役として接された思い出が体の中に存在し、それが重い鎖のようにまとわり付く感覚が離れない。

 信長を廃して自分が当主になろうとは思っていない。現段階では恨みもなければ傀儡になるつもりもない。

 “織田信行“の評価はここ数ヶ月変わっていないはずだ。理想は信長に対する謀反なんてしないで楽に暮らせればいいと思っている。元服もしていないし、大人の血なまぐさい戦いの話は聞けども、実際にその場所に出ることはまだない。


「坊丸! 行くぞ!」


 信長の声に逆らわず、乗るのに慣れた馬に乗って駆けていく。

 基本的に信長の行く場所はわからない。ある時はいきなり川に飛び込んだり、ある時は柿の木に登ったり、またある時は農民の艶事を覗いたりと本能のままに生きることを体現している。

 ここ最近は信長と一緒に人質の相手をするのが趣味だ。人質の名前は竹千代というらしく、後の徳川家康だ。似たような年齢の弟、仙千代を連れて戦の真似事をするのが趣味だ。

 竹千代は人質、四才程度でしかないから馬にも供回りの連中がのせてやらないといけない。仙千代も七才程度でしかないから僕が馬に乗せて一緒に遠乗りしている。

 今日は弓で的に見立てた木を射る遊びらしい。どこからか持ってきた弓を、信長の供回りの連中が渡してくれた。最近は僕も信長の一門かつ供回り的な立場として認識されているらしい。

 城にある弓道場でやればいいのに、と思いつつ中天の陽が照らす稲を眺める。


「兄者?」


 弓を持ってしばらくぼうっとしてしまったらしく、仙千代が無垢な目でこちらを覗きこんできた。実の弟、それも母親も父親も同じ弟なのに、ど うも美少年過ぎて男色が流行ってもしょうがないんだなという気持ちにさせられてしまってヤバイ。かく言う僕も前世とは違って信長似の顔になっているし、それなりには見れるはずだ。


 信長はすでに矢を射っていた。こと、戦に関連することでは自分を律しているのか以上に厳しい。常に洗浄の気分でいるのか命令と違うことをすればすぐに甲高い声で怒鳴ると同時にぶん殴ってくる。僕も何度もやられた。


「竹千代もやってみるかい?」


 まだ小さいのに弓矢を見る目はひどく真剣で、誰も寄せ付けないような顔をしている。普段は気が弱いがこういう時は本当に幼子とは思えない。


「いえ、某はまだみるだけで十分な故」


 言葉遣いが既に幼子じゃないな、と思いつつ何を重視してみているのか気になった。


「どこに注目してみているんだい?」


 出来る限り優しげな声で尋ねてみると、


「射方、矢一本一本の打ち方ではなくて時機をどうしているかですかな」


 そう言われてみてみると、信長の掛け声に合わせて供回りは矢を射っていた。八割方が番え終わったら射て! と声を張り上げていて、タイミングがずれた奴には肉体言語で話をしていた。

 軍を率いるものがどのような所に着目すればいいのか、竹千代は知っているのだろうか。なんだか自分の年齢の半分に満たない竹千代が、少し大きく見えた。


織田秀孝の幼名が出てこない。信長公記でも死に際しかないようなので仮に仙千代としました。


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