3.母
自分があの死亡フラグ満載な信行なのかもしれない、と気がついてから気持ち悪い。
知っていることはこうだ。織田信長が家督を継いだ後なんか文句言って謀反するも鎮圧されるも母、土田御前の単眼で助命される。柴田勝家が守役だった関係で縁が深いが二度目の謀反では見放されぶっ殺される。
「冗談じゃないぞ……!」
よりにもよって織田信行。それ以外の可能性も考えたが、信長の一門に連なっているという時点でろくなイメージが湧かない。
そうこうしているうちに母のいる部屋についたようだ。
信長に次いで入り、母をどう呼べばいいのかわからなくて焦るが、口からは自然と
「かか様、ご心配をお掛けしました」
と声が出ていた。どうやら、自分の記憶以外にも、いままでの信行の記憶も存在しているらしい。そのことに気がついた。
「兄者、って」
小声のつもりだったがちゃんと声が出ていたらしく、信長が振り向いた。いままでの信行は信長のことを兄者と呼んでいたらしい。
軽く体調についてのことを話つつ、にこにこしている母を見ながら、違和感、というか奇妙なことに気がついた。
母は信長の方向を見ていない。何も居ないかのように扱っている。先程からの体調についても、何が食べたいか、武芸はどうだ、という話は全て僕に降り注いでいて、信長を居ないように扱っている。
不穏な雰囲気を感じつつ、信長の方をちらっと見ると意を汲んでくれたのかすっくと立ち上がった。
「坊丸。行くぞ」
その言葉に母は、「うつけ者め、吉法師。しゃんとしなさい」とつぶやいたが、「吉法師ではない元服済みぞ」と不機嫌そうに返しドタドタと音を立てながら歩いて行った。
母に一礼を忘れず、ゆっくりと襖を閉めてから、急いで追いかけた。