1.冗談じゃない
「……ここは?」
目を覚ましたら知らない天井だった。そんな言葉がふさわしい状況だ。気がつけば和服のようなものを着ているし、ゴワゴワとした布団をかぶっていた。
「……?」
周りを見渡すと畳畳畳。6畳ほどのこじんまりとした部屋だが、我が家にそんなものなんてない。
自分は果たして死んでしまったのだろうか、と思って頬をつねるが痛い。痛覚はあるし夢ではないようだ。
「おかしい。僕はさっきまで弓を射ってて――」
心臓が痛くなった後どうしたか覚えていない。真っ暗になって、足元が全て泥になったような、おぼつかない感じがしただけだ。
「記憶はあるし――、倒れて病室にいるのならわかるけど和室って。まるで戦国時代とかそういうやつじゃないか」
自嘲すると、あることに気がついた。手のマメがない。
「――? おかしい、なんでだ?」
そう言いながら立ち上がると、いつもよりも地面が近く感じた。
「……手足が縮んでいるのか――?」
そんなバカな、という思考を振り払いたいが、自分の体がかつての自分の体でないと示す証拠が次々と出てくる。手が短い、足が短い、マメがない、股間が二回りほど大きくなっている。
最後の一つは嬉しい事だが、頭のなかにちらつく“まさか”という言葉に打ち消される。
「坊丸。起きたか?」
知らない美少年がふすまを開け、目の前まで来た。
「う、うん」
生返事を返すと「飯の時間だ。持ってくる」と言って去っていた。袖にはどこか見覚えのある紋が見えた。急いで自分の袖を確認すると同じものがあった。
「織田木瓜……!」
嘘だ、コスプレだ、ドッキリだ、という言葉が頭を渦巻くが、情況証拠は揃ってしまった。
「僕、転生かなんかしたのかもしれない――」
衝動に負けず、布団に倒れこんだ。
注:織田信行の幼名をかなり調べましたがどうも出なかったので知っている方がいらっしゃったら教えていただけると幸いです。津田信澄の幼名が坊丸であることから、坊丸を一子相伝の幼名と考えてこのような記述にしましたが、あっているかわからないです。