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ある一つ目小僧の嘆き

作者: 龍川歌凪

 俺は一つ目小僧。一応視遥(シヨウ)という名前があるが、俺達妖魔の類は、基本的に同種族間でしか名前を呼び合わない。

 だが俺にはそんな同種仲間はいない。

 いわゆる一匹狼というやつだ。またの名をぼっちとも言う。

 …要は一つ目小僧の友達がいないのだ。現在無期限で募集中だ。

 一つ目小僧と言えば、額もしくは顔の中央に大きな目が一つある子供、というのが世間一般の認識だろう。だが実際はそんな事はなく、見た目は片目隠しである事以外は人間とほぼ変わらない。年齢も幼児から十代後半くらいまでピンキリだ。

 …ん?この隠している右目はどうなっているか?…別に見せてもいいが、場合によっては……死ぬぞ?

 俺達一つ目小僧にもちゃんと両の目はある。だが一つ目小僧というのは人々に恐怖を与え、震撼させる妖怪だ。その為その瞳には凄まじい眼力が宿っているのだ。それを両目から発してしまえば、最悪相手をショック死させてしまうのだ。

 ゆえに俺達は左右どちらかの目を隠しているわけだ。それでもその辺のチンピラをひと睨みで黙らせる程度の力はあるがな。

 …ちなみにこの片目を隠す際、大抵の奴らは伸ばした前髪や包帯を使っている。俺はというと、眼帯を使用している。医療用のではなく、ファッション用の奴だ。また他の一つ目小僧達の服装は着物や小坊主の格好が一般的なのに対し、俺は黒を基調とした、いわゆるV系ファッション。前髪には赤メッシュも入っている。

 だがそれが同種の奴らの反感を買う事になり、俺は自然と仲間達と疎遠になっていった。

 よく周りから「バンドでも組んでいそうだ」と言われるが、残念ながらそんなメンバーは存在しない。絶賛ソロ活動中だ。

 畜生!一つ目小僧がシルバーのウォレットチェーンやチョーカーを付けてて何が悪いと言うんだ!イヤーカフは付けていてもピアスは付けていないんだぞ!?親から貰った大事な体に傷を付けるような真似はしていないんだぞ!!

 俺は基本的には孤独を好み、群れでいる事を嫌う男だ。だが、それでも割と寂しかったりするんだぞ…?

 ほら、よく飼い猫が普段はかまわれるのを嫌がるくせに、いざ放っておかれると急に飼い主の元にすり寄ってきたりするだろう…?あれと同じ感覚だ。

 また、俺は生来口数の多いほうではない。というか、はっきり言って極度の口下手だ。しかも先程も言った、相手を恐怖に陥れるこの眼力だ。人間社会に完全に溶け込んで生きていくというのも難しいのだ。

 生活用品を買いにスーパーやコンビニに行っただけで、客は狭い店内であろうともそそくさと道をあけ、店員は震える手でバーコードを読み取り、どもりながら応対する。

 ……毎日こんな生活を続けていたら流石に傷つくぞ!俺のハートはガラスどころか飴細工程度の強度しか持ち合わせていないんだぞ!?


 だがそんなある日、俺の人生は少しだけ変わった。

 この近辺に、訳あり妖魔の為の集会所があるという噂を耳にしたのだ。俺は早速そこに行ってみた。すると確かに、俺とは違う種族の妖魔が多数いた。毎日のように利用している者もいれば、ごくまれにしかやって来ない者もいるので、実際にどれだけの利用者がいるのかは不明だ。

 ここの主は【覚醒児(かくせいじ)】と呼ばれる、いわゆる隔世遺伝や先祖返りと呼ばれるものの吸血鬼だった。

 利用料として血をよこせと言ってきたので、俺はそれを丁重に断り、代わりにアルバイトとしてここの利用者達に料理を振る舞うことになった。

 俺達一つ目小僧は豆腐が大好物だ。3食全て豆腐でもなんら問題無い。飲み物?豆乳に決まっているだろうが!

 俺は豆腐の持つあらゆる可能性を追及する為、様々な調理方法を学び、会得していった。

 けれども俺はこれまで、作った物を全て一人で食べていた。色々な料理に挑戦しようにも、一人ではそれほど多くは食べきれない為、一度に沢山の物を作る事は出来なかった。

 だがここには俺が作った物を食べ、美味しいと言ってくれる者達がいる。俺はこの場所が気に入った。

 …しかし俺は相変わらずの口下手だし、群れる事を嫌っていた為、他の奴と交流する事はあまりなかった。だがここに来る奴らは何かしら訳ありの者達ばかりなので、俺が部屋の隅で無言で座っていたとしても特に気にされる事は無かった。

 俺は誰もいない所に独りぼっちでいるのは嫌だが、皆がわいわい楽しげにしているのを静かに眺めるのは好きなのだ。

 ただ先日、主と同じ【覚醒児】の翼猫がやってきた。翼猫というのは、その名の通り背中に翼の生えた猫の妖魔だ。そいつはまだ覚醒したばかりで人間としての部分が強かったからか、俺の眼力に酷く怖れおののいていた。

 …そんなにびびらせるつもりなんてなかったのに。結構ショックだった。俺わりと猫好きなのに…。

 いや、まあもしかしたら俺の言葉足らずなところも原因の一つだったのかもしれないけれど…。

 ともあれ俺の飴細工ハートの硬度は豆腐メンタルと呼べるまでに低下した。そんな食えない豆腐など俺は望んでいない…。


 …とまあ色々あったが、俺は今の生活をそれなりに楽しんではいるんだ。こんな俺だが、まあ、宜しく頼むな…?


* * *


 以上の話を、今日ペットショップで買ってきたシマヘビのロドリゲスに語るシヨウなのであった。

 いつか自分の妖気に当てられて妖怪化してくれないかなーと、淡い期待を抱きながら…。


<完>

余談:現在ロドリゲスは集会所のネズミ駆除に非常に貢献しているそうです。

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