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緑の悪魔

久々のアルケニーです。

ホントは別作品で暖めていた内容だったのですが、アルケニーの方で作り直した方がまとまりが良かったので……


あと、今作との整合性を持たせる為に前話「セイレーン」の一部を修正いたしました。

 ご指摘くださった方々に感謝。

「ポワアァァァァァン!!」


 ものすごく気の抜ける雄叫びを上げて私に襲い掛かる、細長い緑色の魔物。

 これでもかなり高位の魔物らしく、地元では「緑棒グリーンポール悪魔デビル」なんて呼ばれて恐れられているらしい。

 その硬く、かつしなやかなボディは、受けた物理攻撃の60%を自らがたわむ・・・ことで吸収してしまう。

 レベルで言えば40~50台と私より低いし、特にやっかいな攻撃スキルも持っていないので、私にとっては脅威では無いのだが……その特性のせいで倒すのに時間が掛かってしまう。

 弱点の炎で攻撃できれば一発なんだけどなぁ……焦げちゃうと素材として使えなくなっちゃうし。


「ん~……くぅ……も、もどかしい……青竹の分際でっ!」


 そう、私の目の前でその長い体を振り回して暴れている魔物は正式名称「バンブーデビル」と言い――その姿は、まさしく「竹」だった……。



 お久しぶりです。 

 半人半蜘蛛のチート魔獣こと、アルケニーの新倉あらくら 志織しおり(25)です。

 こちらの世界ではアルケニー洋裁店店主、シオリ・アルケニー、というのが正しいのですが。

 ちなみに、ファリーアス(この世界)に転生して1年経ったので、自己紹介の年齢も+1してみました。

 四捨五入するとアラサーです。

 異世界年齢こっちではやっと1歳という事ですけども。





 で、なんで私がこんな竹の魔物と戦っているのかというと――

 ……いや、その……


 「耳かき」が欲しかったんです。

 それも日本で売っていたような竹製の耳かき。

 どうやらこの世界には耳掃除用の器具、という概念その物が無いらしく、しょうが無いので適当な木を削って作った自作の耳かきを使っていたのですが……どうもしっくり来ないのです。

 やっぱりあの、竹の独特のしなりが無いと……いまいち感触が硬くて。

 それで、お店に来るお客様方に竹を入手する伝手が無いか色々聞いてみたのですが……どうやらこの辺りでは流通していないようです。

 竹そのものは存在しているのですが、海を渡った東方にしか自生していないとの事でした。


 たかが耳かきの為だけに店を何日も開ける訳にはいかないし……どうしたものか、と思い悩んでいたところ、常連のお客様――魔術師のロニカさんから耳寄りな話を聞いたのです。


「竹そのものは自生してないけど――植物型の魔物の一種に竹の魔物がいるわよ? まあ、かなり強い上に、倒しても手に入るのが「竹」ってんで、冒険者は誰も相手にはしていないけど」


 詳しい場所を聞くと意外と近場の「樹王の森」という所で、ここならアルケニー形態で飛ばせば2日で往復できる事が分かり。

 これは行くしか無い! と、お店の定休日に合わせて出て来た訳です。


「ポワポワァァァァァンッ!!」


 ……それがまさか、こんな力の抜ける相手とは思ってなかったですけど。

 気の抜ける叫びを上げながら、手首ほどの太さのある枝を縦横無尽に振り回して攻撃してくるバンブーデビル。

 枝でそれですから、本体のサイズは推して知るべし。

 見上げてもてっぺんが見えないほどのサイズです。

 それをちょいちょい、と手刀で逸らして、私はバンブーデビルのふところに飛び込みます。

 もう面倒くさいので、多少素材が傷つくのは承知で大技を使うことにしました。


「あー、いい加減鬱陶しいぃ……4連撃っ!!」


 下半身の――大蜘蛛の体から伸びたかぎ爪が、空を裂く勢いでバンブーデビルの胴部分に殺到します。


 めきっ、めきゃきゃきゃっ!

  

 バンブーデビルの物理ダメージカット能力も、かぎ爪の4連撃には流石に限界を迎えたらしく一気に裂け目が広がっていきます。


「ポォワァァァァ……」


 断末魔の悲鳴を上げて倒れるバンブーデビル。

 なんか悲壮感が全くないのは気のせいか。


「あー……最初からこうすれば良かった。考えてみれば必要なのは耳かきの材料なんだから……このサイズなら1%でも無傷の部分があれば十分だったのよね……」


 まあ、ある分には困りません。

 いざとなったら耳かきを初めとして竹製品を売り出しますか。

 竹ヘルメットに竹アーマー、竹シールド……

 普通の竹と違って、魔力も大量に内包しているみたいですから結構良い防具になりそうですし。

 ……あれ? バンブーデビルが残す素材はただの竹、と聞いていたのですが。おかしいですね。


「うーん……『触覚糸』(センサーウェブ)起動」


 何か聞いていたのよりずいぶん強かった気がしたので、一応『触覚糸』(センサーウェブ)で確認してみることにします。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

キングバンブー

LV85

HP  0(MAX4555)

MP  0(MAX300)


所持スキル

 物理耐性(大)

 鈍器耐性(小)

 乱撃

 光合成(HP自動回復小)


魔樹系亜種、バンブー類。

バンブーデビル達の王。

物理耐性(大)によって、物理攻撃のダメージを90%以上カットする為、物理的な打たれ強さ、という点では魔王すら凌駕する。

反面、魔法耐性は一切持っていないので、生まれたばかりの状態――タケノコ時には格下の炎牙猪フレイムボアに捕食されることも多い。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 ……あれ?


 バンブーデビル達の王(・・・)

 キングバンブー?


 ……ボス個体だったのね……物理攻撃ダメージを90%以上カットって。道理でしつこい訳だわ。

 ああ、もう……疲れた……。


          ※


 さて、無駄に上位素材をゲットした私は、気を取り直して夜の街道を全力疾走してお店にまで帰ってきました。

 ああ、ちゃんと街の近くで蜘蛛アルケニー形態は解除して入りましたよ?

 夜とは言え、街ではどこに目が有るか分かりませんからね。


「さーて、それでは早速制作に入りますかね」


 空間圧縮袋からキングバンブーの素材である覇王竹を取り出して、右手の爪で適当な大きさに輪切りにします。

 それを更に縦に割り、割り箸くらいのサイズにして……ここからはひたすら削るだけです。


 しょりしょり。

 しょりしょりしょり。

 しょりしょりしょりしょりしょり……


 胴部分は一面だけ平らにして持ちやすく。

 スプーン部分はなるたけ薄くすると掃除もしやすいですし、バネのようになって当たりが柔らかくなります。

 先端部分は特に気を遣って滑らかな曲線に仕上げます。直接敏感な肌に当たる部分ですからね。


 たかが耳かきとはいえ中々侮れないのですよ!

 結局、2本ほど失敗して、理想の形に削ることが出来たのは3本目でした。

 これに私の糸(アルケニーシルク)であの白いふわふわのぽんぽん部分――正式名称は梵天ぼんてんって言うらしいですけど――を作って接着糸で取り付けます。


 そして最後に。胴体部分に爪でカリカリと回復魔法のルーンを刻み、魔力を込めます。

 これは、この竹がただの竹ではなく、キングバンブーの素材である覇王竹であったから出来ることで……言わばこの耳かきは一種の魔道具として完成した訳です。


 ふっふっふ、これで耳かきし過ぎて耳の中を傷付けちゃったとしても無問題ですよ!


          ※


 翌日。

 完成した至高の耳かきを私は早速店のカウンターで使っていました。


「あぅ……く……これは……なかなか……」


 うーむ、予想以上に気持ちいい。

 やはり耳かきは竹製に限りますね。


「ん……んぅ……」

「シオリちゃん……何、色っぽい声出してんのよぅ」


 おや、いつの間にかお客さんが来ていたようですね。

 私が声のした方に目をやると、そこには栗色の髪の若い女性が立っています。

 お店の常連客の1人、魔術師のロニカさんです。

 つい耳かきに集中しすぎて気が付きませんでした。


「あ、ロニカさん。いらっしゃい。あは、失礼しました……」

「いや、別に良いけども……なに、それ?」

「ああ! ロニカさんにお礼言おうと思ってたんですよ! ロニカさんの情報のおかげで竹が手に入りまして」

「あー……なるほど、これ竹製なのか……何に使う道具なの?」


 不思議そうに耳かきを弄り回すロニカさん。


「これはですねー……耳の中を掃除する器具なんですよ」

「? 耳あかなんて指でかき出しゃ終わりでしょ?」

「指では届かない奥も掃除できるんです。気持ちいいですよ? やってみます?」

「えー……耳の中にその棒突っ込むの? なんか怖いよ、自分でやったら突き破りそう……」

「ふむん。それじゃ私がやって上げましょうか? こう、横になって私の腿に頭を乗っけてもらえれば……」

「え、それって……し、し、し……シオリたん、シオリちゃんの膝枕ってこと!?」


 急に真剣な顔になり頬を紅潮させながら聞いて来るロニカさん。

 ちょ、近い、顔が近いよ!


「う、うん、隣に上がり座敷があるからそこで良ければ……」

「良い良い! どこであろうとシオリちゃんに膝枕してもらえるなら! なんなら鼓膜の一枚や二枚突き破っても!」


 失礼な。そんなヘタはしませんよ。

 これでも前世の時は弟や妹の耳掃除をしてあげてましたからね。


「はい、じゃあここに頭をのせて……」

「はわぁ……シオリたんの膝枕……」

「ちょ、おかしな所なで回さないでください! 手元が狂います!」

「むしろ本望!」


 私の腰の後ろをなで回していたロニカさんの手を軽く叩いて落としてから、早速耳掃除に取りかかります。

 ……って。

 うっわぁ……引くわぁ……

 耳掃除の文化が無い事からある程度は分かっていたことだけどもこれはひどい。

 掃除のし甲斐がありますね。


光明ライト


 まずは耳かきの先端に光明ライトの魔法を付与します。

 これでだいぶ耳の中が確認しやすくなりました。

 そして更に粘着性の糸を耳かきに絡ませます。

 これでそぎ落とした耳垢が穴の奥に落ちるのを防ぐ訳です。

 これを使って慎重にロニカさんの耳の穴を綺麗にして行きます。


 カリカリ……


「ひゃうんっ!?」


 びくっとロニカさんの体が跳ね上がります。

 おおっと、危ない危ない……私の糸でこっそりロニカさんの体を軽く固定しておくことにします。


「危ないですから動かないよう我慢してくださいね~」

「う、うん……」


 これで自分の体が動かないのは、自分で我慢しているせいだと思い込んでくれるでしょう。

 さて、続き続き。


 こりこり


「はうっ!」


 かりこり


「ひぃんっ」


かりかりこりこり……


「あっ……ひっ……」


 あ、これ大物ですね。

 耳孔の形に耳あかが固まってますよ。

 耳かきにくっつけてそっと剥がします。

 ぺり……ぺりぺり。


「あひゃうんっ! まっ……まって……ちょっと待って……」

「待ちませーん♪ あ、ここにも大物。かりかり……」

「あー……あー……ひぃ……」


 それから約20分。

 両耳を私に蹂躙されたロニカさんは全身を紅潮させ、うっすらと汗をかき……息も絶え絶えとなっておりました。


 で、最後に仕上げ。


 耳かきのぽんぽんの部分……梵天を浅く耳孔に差し入れ、とんとんこすこす……

 すでに精根尽き果てた様子のロニカさんは声こそ上げることはありませんでしたが、幸せそうな顔で痙攣けいれんしていたから良しとしよう。うん。


          ※


 一ヶ月後


 アルケニー洋裁店の前には開店前にもかかわらず早朝から長蛇の列が出来ていた。

 あの後、度々(たびたび)ロニカさんが耳掃除をねだってくるものだから、そんなに好評なら、と当店のサービスとして正式採用してみたのだ。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

店主が心を込めて膝枕で耳掃除のサービスをいたします。

(銀貨1枚以上のお買い上げのお客様で先着5名様)

※サービスは毎週初めの三日間に行っております。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 ……という張り紙をしてみたところ……

 評判がロニカさんを通じてあっという間に広がり、日を追う毎に行列が長くなっていったのだった。

 ……というか勇者様とか王太子殿下とか元魔王とか一緒に並んでて良いものなのか?

 まあ、私としては売り上げが激増したので文句を言う筋合いでは無いのであるが。

  

 


以下恒例の制作物ステータス

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

耳かき「竹皇ちくおう

 形状:梵天付き耳かき

 攻撃力0

 基本器用度+1

 常時回復効果3%

 一日に5回『光よ我が身を清めよ(クリーンボディ)』を使用可能。

 使用した耳に癒やしの効果を与えることによって、副次的に低度の快感を感じる場合がある。

 

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