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アダルト・クリスマス

超久々のアルケニーです。

クリスマスには間に合わなかったけど勘弁してつかぁさい。

 カウンターに20代後半から30代位の赤い髪の美女がスツールに座って突っ伏している。

 この店――アルケニー洋裁店の常連でもある戦士のミリー・ハックマンさんだ。


「聞いてよシオリちゃん~ウチの人ったらね? 最近めっきり求めてこなくなっちゃってね……」


 子ども相手に何の相談をしてやがりますか。私は見掛けは13歳程度ですが、実年齢は1歳ちょっとですよ?

 どちらにせよその手の相談をするにはまだ早いのではないかと。

 ――まあ、精神年齢は25歳ですけども!


 いや、お久しぶりです。半人半魔獣の怪奇蜘蛛女アルケニーに転生した元日本人、新倉あらくら 志織しおり(25)であります。

 もしくはアルケニー洋裁店店主、シオリ・アルケニーと覚えて戴ければ光栄です。

 あんまり久々で忘れられてないか、ちょっと心配な今日この頃であります。


「せっかくあの人のためにさぁ、シェイプアップも努力してんだよ? ほらぁ」


 ぺろん、とミリーさんが服の裾をまくり上げておなかを晒します。

 そこに見えるのは見事な六分割された腹筋(シックスパック)


「どお!? キレてる? キレてる?」


 嬉しそうに筋肉を見せびらかすミリーさん。

 あ、ポージングまで始めました。


「そんでこれがっ! ラットスプレッド・フロントからのっ! サイドチェストぉ!」


 ……だれだ、ボディビルのポージングなんてこっちの世界(ファリーアス)に持ち込んだのは。

 ミリーさんが残念美人になってるやないかーい。


「いや、まあ……旦那様もお疲れなんじゃ無いですかね。ミリーさんのことが嫌いになった訳じゃ無いと思いますよ」

「そ、そうかな? そうかなっ?」


 実際、昨日はミリーさんの旦那様のリゾット・ハックマンさんからも夫婦仲について


「最近、妻がベッドの中でも筋肉を見せびらかして……ぽーじんぐ? とやらを始めるものだから中々そういう雰囲気にならなくってね……シオリちゃん、どうしたら良いと思う?」


 と相談を受けていますしね。

 ていうか、夫婦してこんな子どもにナニを相談しているんですか。現代日本ならセクハラですよ~。


「でもさあ~二人ともまだ若いのにさ、レスってのはまだ早いと思うのよね……子どもも欲しいしさぁ、夫婦として……」

「んー……そうですね……たまにはそういう旦那様への思いを形にして贈るって言うのはどうでしょうかね」

「……形にして?」

「異国の話なんですけど、年に一度、冬のある日に恋人達や夫婦がお互いにプレゼントを贈り合う風習があるらしいですよ。何でもクリスマス、とか言いましたっけ」

「く、くりすます、か……」

「それは恋人達の聖夜! ケーキや七面鳥を食べ、ちょっとお高いワインで乾杯。そして良い雰囲気になった所で、ほろ酔いのまま……」

「がっと押し倒す訳だな!!」

「……そこは『押し倒されて』下さい」


 リゾットさんはそれなりにレベルの高い魔術師ですが、流石にミリーさん相手では分が悪いです。そこは協力してあげて下さい。


「しかし性夜か……異国は進んでいるな……そんな風習が……」


 なんか微妙に誤解しているみたいですが、あえて訂正はしません。

 日本でのクリスマスと言えば大抵そんな感じでしたし。

 私は日本では独り身でしたので、リア充どもに爆発の呪いをかけるのみでしたが。


「それで、実は旦那様にぴったりのプレゼントがあるんですが……これさえあればもう、旦那様は野獣のように」

「そ、そそそんなのあるの!?」


 がばっと身を起こして私に詰め寄ってくるミリーさん。

 近い、近いよ。


「ぎ、銀貨10枚と、ちょっとお高いですけど効果は抜群ですよ」

「か、買ったぁぁぁぁ!」

「まいど~。ちょっと作成にお時間が掛かりますので、明後日にまた来て下さいね」

「明後日だね。分かった、楽しみに待ってるよ、シオリちゃん、んちゅう~」


 感極まったのか、去り際にハグ&ほっぺにチュウいただきました。

 だからそういうのは旦那様にして下さいってば。


          ※


「さて、そんなに時間が無いから急ぎますかね」


 お店が閉店時間となると同時に、私は作業室でプレゼントの作成に掛かることにした。

 実は旦那様のリゾットさんにも同様の話をして、すでにミリーさんへ渡すプレゼントの注文を受けている。

 つまりこれから二人分の製品を作らねばならないので、そんなに時間に余裕があるわけでは無いのだ。


「まずは人化を解除して、と」


 私がスキル『人化』を解除すると、下半身が巨大な蜘蛛へと変わり、額には6つの赤い宝玉が浮かび上がる。

 これは半人半蜘蛛アルケニーとしての眼であり、自前のものと合わせれば本当の蜘蛛と同様、全部で8個の眼があることになる。

 これがまた便利なんだ。

 視界は広いし望遠鏡並みに遠くまで見えるし、顕微鏡並みに微細な物まで認識出来るし。

 裁縫作業にも非常に役立っております。


「さーて、まずはミリーさんに用意する物から……と」


 スキル『魅了』を発動した状態で蜘蛛のお尻に力を込めます。

 すると、じわじわと透明な分泌液がお尻の先っちょににじみ出てきます。

 で、これを陶器の器に溜めて、と。

 この分泌液、何かと申しますとアルケニー特有の生態に由来する物なのであります。

 元々アルケニーは女性体しか居ない魔獣で、繁殖するには人間やエルフの男性の精を受ける必要があります。

 そのため、アルケニーは男性に対して催淫作用のある分泌液を出して誘惑するという訳ですね。

 ただ、このままだと効果が強すぎるので、オランの果汁を加えて20倍程に薄めます。

 更に体力不足の旦那様のためにクコの実から絞り出した滋養強壮剤を加え、防腐剤代わりのアルコールを足し、最後に魔力を流し込み品質を安定させて出来上がりです。

 これを小瓶に取り分けて……12本分出来ましたね。ちょうど1ダースです。


「これをラッピングして……完成っと」


 ラッピングしたドリンク剤……ええと仮に『アルビタンD』とでも呼びますか。

 それを商品保管庫に入れて次の作業に移ります。


 次はリゾットさんに渡す物……つまり最終的にミリーさんが使う物ですね。

 はい、まずは用意するのは紅竜の鱗と龍玉です。

 こちらをまずは私が(・・)美味しくいただきます。

 鱗は手のひら大の物を5枚ほど。

 龍玉は鱗よりもはるかに高価ですからちょびっと……ひとかじりだけいただきます。


「ん……鱗はおせんべみたいでイケますね。えびせんみたい」


 パリパリとした食感も良い感じです。

 もっとも普通の人が食べたら文字通り歯が立たないでしょう。腐ってもSランク魔獣。人間の歯どころか並みの剣じゃ傷も付きません。

 ちなみに龍玉の方は固めのグミキャンディみたいな食感でした。


「ごちそうさま、と」


 一通り食べたら体内の糸を作り出す器官――糸腺に紅竜のエキスを集中させます。

 するとこの段階で糸に色が付き、染色の手間が省けてしまうんですね~ううん、便利。

 さらにこの時、魔力とイメージを糸腺に込めると、ある程度糸の強度や性質を調整出来てしまいます。

 ちなみに以前は出した糸に後付で色を染めていましたが、この方法を編み出してからはもっぱら体内染色法で作っています。

 手間の他にも性能も良いですしね。


「よっし、準備万端。それでは作りますかね」


 シュルシュルとお尻から糸を吐き出し、直接服の形に生成していきます。

 今回は薄さが重要なので、吐き出す糸は極細です。

 編み込む時も最大限集中して薄く、薄ーく作っていきます。

 そして集中すること約30分。


「よっし、出来た~呪いと祝福を共存させるのには苦労したけど、それだけのことはあるねっ! うん、自画自賛しちゃうね」


 そう、「呪い」と「祝福」。

 それが今回の品のキモだったりする。

 上手くいってくれれば良いけど。


          ※


 そして納品当日。


「シオリちゃーん、あっけってぇ~」


 開店前からミリーさんのハイな声が辺りに響き渡ります。


「夫婦和合の秘薬! 受け取りに来たよぉ~」


 だから声が大きいですって。

 ほら~ご近所さんがニヨニヨしてこっちを見ているじゃないですか。ああ恥ずかしい。

 急いで店のドアを開けて、ミリーさんを店内に引っ張り込みます。


「もう、朝っぱらからご近所迷惑ですよ」

「あはは、ごめんごめん。つい浮かれちゃってさぁ~で、ブツは?」

「なんかそういう言い方だと非合法品みたいですね……まあ、良いです。はい、ご注文の品はこちらになります」


 カウンターに『アルビタンD』1ダースケース入りをどんっと置きます。


「ん? これ……水薬ポーション?」

「いえ、どちらかというとドリンク剤ですね……1本銀貨1枚。12本入り。2本はサービスです」

「ほうほう……で、効能は?」

「滋養強壮、体力増幅、スタミナ増……そして女性に対しての性的興奮……1本飲めば2時間ほどは効果が続きます」

「おおおおおおお!」

「女性に対して、ですからね。ミリーさんにだけ興奮するって性質の物じゃ無いですから、夫婦二人だけで他に誰も居ない所で使って下さいね」

「うん、うん、ありがとーー!!」


 ミリーさんは銀貨10枚を支払うと、『アルビタンD』をそっと大事そうに抱えてスキップで帰っていった。

 ……大丈夫かな、旦那さん。

 一応興奮作用は控えめに、滋養強壮作用は強めに処方したつもりだけど。


「シオリちゃんシオリちゃん」

「おや、リゾットさん」


 噂をすれば影。

 ミリーさんと入れ替わるように入ってきたのは、ミリーさんの旦那さんで魔術師のリゾット・ハックマンさんだ。


「例のヤツ……出来てるかい?」

「ええ、奥様にお渡しした物とは違ってこちらは本職の領分ですからね」

「助かるよ。なんて言ったかな。べ、べびー……?」

「ベビードール、ですね。ナイティとかにも使われるセクシーランジェリーです。それに今回は筋力低下の呪い(カース)を付与してあります」

「うん、それは健康には問題ないんだね?」

「大丈夫です。着ている間だけの一時的な物ですし、全く動けなくなるほど強いものではないですから……数字で言うと力が20%減って感じですね」


 その代わりに紅竜による魅力の祝福を施してありますけどね。

 こちらは結構強力な祝福ですよ。


「助かる……その、彼女は抱きつき癖があるんだが……クライマックスの度に抱きしめられて……いつ実際に昇天してしまうかと気が気じゃ無かったんだ」


 だからそういう閨の話を子どもに聞かせるのはどうかと。

 ……まあ、ミリーさんですからね。

 森林熊フォレストベアーを逆にベアハッグで仕留めた、なんて伝説を持つ女傑ですし。

 インテリ職の魔術師であるリゾットさんにとっては夜のお相手は命がけだったんでしょうな。

 まあ、そういう話を事前に聞いていたので、『アルビタンD』には体力増強効果を強めに付与しておきましたので頑張って下さい。


「では、代金だ。受け取ってくれ」

「はい、金貨3枚確かに」

「……しかし本当に良いのか? こんな値段で」

「大丈夫です。材料を格安で入手出来ましたので」


 というか、ただですけどね。

 紅竜は自分で狩ってきたし、糸は自前だし。

 手数料と技術料のみと考えればこんなもんです。


「その代わり、ベビードール、宣伝して下さいね。付与効果の無いものならそれなりにお安く出来ますので」

「うむ。魔術師ギルドの妻帯者にそれとなく宣伝してみよう」


 真面目な顔で約束してくれるリゾットさん。

 ……いや、半分冗談ですからね。


          ※


 そして更に数日後

 思った以上の効果に夫婦そろってお礼に来てくれたハックマン夫妻を横目に、私は戦場と化した店内を忙しく飛び回っていた。


「シオリちゃん、ありがとっ! 旦那からのプレゼントもシオリちゃんところで用意したんだってね? もうね、これ着て迫ったら一発よ。まさに獣のように……きゃ♡」

「ん、んっ……まあ、その、そういう訳だ。妻から貰ったこのドリンク剤も非常に重宝した。まさかスタミナだけで無く防御力まで上昇するとはな……しかも従来の強化薬ブースターの倍近い効能だ。夜だけで無く時と場所を選べば戦闘でも比類無き効果を発揮するだろうな……妻からのベアハッ……抱擁を受けても問題なかった」


 うん、まあ上手く行って良かったよ。

 でもね、もうちょっと空気読もうか。

 今現在、店内は『アルビタンD』と『ベビードール』を求めるお客様でぎゅうぎゅう詰めとなっていた。

 言ってみれば元旦初売りのデパート状態。


「店主! この『アルビタンD』を5ケース頼む!」

「ああ、てめえ買い占めるな! こっちにもよこせ」

「シオリちゃん、こっちのピンクと黒のベビードール、どっちが似合うかなっ?」

「あ! 両方持ってかないでよ! こっちに一着よこしなさいよ!」

「だからアルビタンをっ……」

「いやね、殿方は。本来これは夫婦和合のお薬よ。と言うわけでこっちによこしなさいよ」

「てめえみてえなクソババア、薬を使っても旦那に見向きもされねえよ!」

「何ですってもう一度言ったんさい!!」

「どうしよう、このTバック一体型ベビードールだとちょっとセクシー過ぎるかなっ!?」


 等々。まさにカオス状態。

 店の外にまでかなり長い行列が出来ている。

 どうやらハックマン夫妻はよほどあちこちで吹聴したらしい。

 流行るのは嬉しいけど! 嬉しいけど!


 ううん、これは在庫が絶対足りませんね。注文だけ取って受け取りは後日って形にするしかないか。


「ミリー♡」

「旦那♡」


 はい、そこのリア充――

 用が終わったなら帰れ。爆発の呪いを掛けるぞ。





以下恒例の制作物ステータス。

今回はアルDとベビードールの二つですね。

――――――――――――――――――――――――――――――

アルビタンD

 アルケニーの体内から分泌される催淫物質を加工した物。

 1本で効果時間は約2時間。

 安全のために催淫効果は5%ほどに押さえられている。

 ただし、代わりに体力の著しい向上と防御力の増加が得られる。

 その効果は市販の強化薬を軽く上回る。

 

――――――――――――――――――――――――――――――


竜紅(ドラゴンピンク)のベビードール

 防御+19

 魔法防御+47

 炎耐性+55%

 基礎ステータスに魅力+30%

 基礎ステータスに力-20%。


 スケスケでセクシーなピンクのベビードール。

 主に旦那様の安全のために力-20%という呪いが付与された珍しい品。

 透けるほど薄いため、流石に防御力はそこまで無い(それでも硬革鎧並みはある)が紅竜素材を使っている為、炎にはめっぽう強い。

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