おかえり。
「しょーがないでしょ、出来なかったんだから!」
「いや、だって、俺らいなかったんだから、出来ただろ?いくらでもさ。」
旅行から帰ってくると、一希と、冴惠は早速喧嘩を始めた。
「もう止めなさい。恥ずかしい。」
母親は不満タラタラで言った。
「だって、一兄があ〜。」
冴惠は必死に泣きつこうとした。しかし、
「泣きつこうったってダメだぞ。お前だって1年後はこうして遊べるんだからな。」
と、希夢に言われてしまった。
「そうそう、冴惠にお土産があるの。」
突然母親は思い出したかのように言った。
「なあに?」
ちょっと期待を込めて冴惠は言った。
「湯呑よ。使ってちょうだい。」
冴惠の目の前にそれは置かれた。彼女は愕然とした。しかも、よく見ると熱海と書かれている。
「…おかーさん、これ、熱海って…」
しかし、母親は全く気づかないフリをしている。
「そんなに気にすることじゃない。俺からもやるよ。」
希夢は優しく言うと、おまんじゅうを一個、彼女に差し出した。彼女はそれを受け取って、その場で食べた。
「…美味しい。」
その様子を見て、希夢は笑った。
「…?」
冴惠は確認するように、一希を見た。
「何見てんだよ。何も出てこねーよ。期待すんじゃねー、バカ。」
一希は罵倒した。
「ふうん、そう。」
冴惠は顎を上に上げて、別にいいし、と言わんばかりの足取りでキッチンに立った。
「何を始める気なのさ?」
「別になんだっていいじゃない。貴方たちにはカンケーないわよ。」
冴惠は言った。すると、希夢は反論した。
「…はあ?!俺もかいな?」
冴惠は目をぱちくりした。
「…なぜ?なぜ疑うの?」
「何でって…、俺はちゃんとおまんじゅうあげたろう?」
冴惠は無表情で
「一兄が何も買ってこなかったから、共犯よ。」
と、言い放った。一希は笑った。希夢はまだ、釈然としなかった。彼女のわがままはいつも理不尽なことばかりだ。
「んで、何作るんだよ?」
一希はニヤニヤしながら、冴惠に聞いた。
「…そーね、何がいいかな?」
彼女は考える素振りをする。こういう時は何も考えていないということを、家族の誰もが知っている。なので、
「…何でもいいから、早く作れよ。」
と、一希は言った。
「分かった。じゃあ、生姜焼きにしよう。しょうがないから。」
「ああ、分かったよ。」
親父ギャグはスルーするのが一般的だ、と、彼は思った。冴惠は時々変な親父ギャグを言うことがあるのだ。
暫くして、冴惠特製の生姜焼きが出来上がった。
…
なぜか、みんな無言で食べている。彼女は美味しくないのかと、不安になったが、逆だったようだ。
「美味しいわよ、いいお嫁さんになれるわー!」
料理上手な母親が言った。