落ちていたのです 節分SS
『落ちていたのです』の節分SS。
音々、マイペースです。
朔視点。
「鬼は~そと。福は~うち。」
バラバラバラバラバラ。
オレ-永山朔≪ながやまさく≫-に向かって豆が飛んできた。
は?豆?
彼女-三谷音々≪みたにねね≫-は、さっきから「鬼は~そと、福は~うち」と言っては、手にしている枡から豆を取り出してはオレにぶつけるという作業を、それは楽しそうにやっている。
「なんでオレに豆を投げつける?」
地味に痛いぞ。
豆を投げつけられる意味も解らんし。
「えー?だって鬼って魔物の仲間でしょー?」
鬼か。あの、頭に角が生えてる、カラフルな魔物ね。
「まあな。」
否定はしない。和洋の差はあるが。
「じゃあ、大きな意味では『魔物』=『鬼』でしょ?」
「んー、間違ってはいない・・・か?」
「鬼が魔物だったら、魔物の朔も鬼ってことでしょー?」
「はああ?」
それは違う気がする。オレは魔物でも、鬼じゃなくてヴァンパイアだぞ?
でも勝手に自論を展開する音々は止まらない。
「と言う訳で、今日は節分だから鬼の朔に豆を投げつけているのです!」
ぴしっと人差し指を立てて言い切る音々。
鬼とヴァンパイアをいっしょくたにしてくれるな。オレ達にもアイデンティティーってものがあんだぞ。
そんなもの、音々には知ったこっちゃない。
そしてまた豆を投げる。
「地味~にいてえんだけど?」
「まあまあ。気にしないで!」
気にするのはオレだ。
「・・・って、あ、お終いだわ。じゃ、朔、豆回収して!」
なんてことなくオレに指令を出す音々。
おい待て、投げ散らかしたのは音々であって、オレは寧ろ被害者だぞ。
でも、オレにお構いなく音々は続ける。
「節分の豆ってね、年齢プラス一個豆を食べたら、一年間元気に過ごせるんだよー。早く回収して一緒に食べよ~!」
別の袋に入った豆を見せながら、にっこり笑う音々。
「やだよ。」って言葉は無念にもオレの口から出てこなかった。
「ホラ、早く!朔ならチチンプイプイって魔力で集めちゃえるでしょ?」
「・・・チチンプイプイなんて、誰が言うんだ・・・」
「いいからいいから!」
ご機嫌な音々に逆らえないオレって、どんだけ甘いの?
「しゃーねーなぁ。」
魔力を集中させて、音々の手元の枡に豆を引き寄せる。
こんなことに使うために魔力って存在するんだっけ・・・?不毛な疑問だな。
あっという間に豆は元に戻る。
「わぁ!!さっすが朔!もう掃除機要らないねぇ!!」
キャッキャと喜ぶ音々。オレは掃除機代わりに使われたのか!?
かる~くショックを覚えるオレを他所に、彼女は新しい豆を袋から取り出していた。
「えーと、16歳だから17個よね。朔も17個だよね?」
「あー、オレってさぁ、16歳じゃねーんだよ。」
まだ言ってなかった。
「え、うっそ?いくつなのよ?留年してたの?まさか浪人したとか?」
「そーじゃないし。魔物は普通の人間と違って寿命がなげーんだよ。オレでもまだ58だ。」
そう。魔物の寿命は長い。オレなんてまだまだ赤ん坊に毛が生えたくらいなんだが、普通の人間の音々からすると、
「ごっ・・・58ぃ?!・・・オッサンじゃん!おとーさんより年上だし!!」
ショッキングなようだ。
「オッサンゆーな!!魔物の平均寿命は600歳くらいだから、オレなんてまだまだ赤ちゃんみたいなもんだ!!」
「58の赤ちゃんなんていないよ・・・」
とりあえず、59個も豆食えねえから、音々と同じく17個食べた。
「つーかさぁ、鬼は外ってオレに豆投げつけたんだから、音々ってオレに出て行けって言ったも同然だよなぁ・・・あ~オレ、ショック~!」
仔犬演技で拗ねてみせるオレ。
「違うよー?掛け声は縁起ものみたいなもんだし?朔がいなくなっっちゃったら私どうすればいいのよ~?」
オレの演技なんて気にもせず、にっこり笑う音々。
ちょっと甘えてる?
ああ、またノックアウトだ
読んでくださってありがとうございました!
いつもよりラブラブ風味になりましたでしょうか?